アウト・ゼア 未解決事件ファイルの迷宮 (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334778606

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  • 前川裕『アウト ゼア 未解決事件ファイルの迷宮』光文社文庫。

    元新聞記者の小説家である成瀬幹夫が5つの未解決事件を描くという設定のノン・フィクション風、フィクション短編集。

    タイトルは『out there = 未解決で、(犯人等が)捕まっていない 変な、君の悪い(口語)』という意味のようだ。

    本作を読んで、マスコミや警察が公表する事件の真相やストーリーはイヤに整然としているが、実際には事件の裏にもう1つの事件が隠れていたり、真相はもっと複雑なのではないかと考えた。短編集全体がそれだけリアリティを感じるような構成になっているところが非常に面白い。しかし、いずれの短編も嫌な後味を残す。

    『しりょうのふね』。解決済、未解決を問わず事件の真相というのは結局はこんなものではないのだろうか。真実と思えたことが実は虚偽であったり、その逆もある。物事は時代と共により複雑になり、なかなか真実が見えなくなってきている。今の世が欺瞞に満ちているというのはそういうことなのだろう。

    『偽装者の顔』。複雑に入り組んだ人間関係が論理的な思考を阻害し、事件の本質を見えなくすることはよくあること。この短編はこうした見えない事件の本質を見事に描いているように思える。事件の裏には実はもう1つの事件が隠れている……

    『たそがれの通り魔』。通り魔事件がいつどこで起こってもおかしくない昨今。『人権』というパワーワードの元、多くのアブない奴等やオカシイ奴等が社会に放置されているのではないだろうか。駅のホームで笑みを浮かべながら踊るように傘の柄を突く男、奇声を発しながらくるくると回り続けている男、怖い顔をして人を押し退けながら突き進む女……怖い。昔はオカシイことを指摘し、周りに注意喚起を促しても『人権』問題にはならなかったと思う。『人権』というパワーワードが席巻する限り、思い切った発言ができず、再び悲劇は起こるのだ。

    『みちゆきの夜』。事件の関係者が身内ということで、何とも言えない嫌な後味が残る。しかも、男女関係のこととなると尚更だ。今の世の中、いつどこで事件に巻き込まれるか解らない。いや、知らぬ間に既に事件に巻き込まれているのかも知れない。

    『冤罪の条件』。やはり、事件の裏にはもう1つの事件が隠れているのだ。不思議なことに犯罪というのは様々な形で連鎖し、悲劇を増幅させるのだろう。

    本体価格660円
    ★★★★★

  • 元新聞記者が未解決事件の真相を小説の形式で追及。見出だされた光景に戦慄する、異常と陰惨に満ちた短編集。
    帯に書かれた『すべての事件は未解決事件である。』が本書のメッセージであるだけでなく、現実に起こる事件の本質でもある。世論を正常化するため、国民に納得感を与えるため、あるいは国家(警察組織)として面目を保つために、無理矢理に解決させた事件があるのかもしれない。

  • 事件を取材した作家が、その裏側にある真相を描く、という設定の短編集。
    作家の独白や、新聞記事が挟み込まれることによって、徐々にこれは実際に起こった事なのではないかと思えてくる。
    短編なので読みやすいが、基本的に根底にあるのがどろっとしたものなので、あーおもしろかった!という感じではなく、そのどろっとしたものが心に残る感じ。でも、その暗い感じが好みだった。

  • 一瞬、読み出してから、この事件は、本当の事件だったのだろうか?と、思わずにいられないくらいの、詳しい内容である。

    この題名が、「アウトゼア」で、OUT THERE、未解決で、捕まっていない変な気味の悪いと、最初のページに記されている。
    小説では、ファイル5迄あり、主人公は新聞記者で、小説家になり、未解決事件を調査していく姿を現している。

    先日も、児童が、行方不明の事件が、脳裏に浮かびながら、子供が犠牲になる事件は辛い。
    この事件には、冤罪の事件でもある。
    犯罪心理学の先生よりも、元ゼミ学生の方が、主婦に心理をよく読んでいる事も、この本では、少し意外性も。

    兄弟の優劣の違いというか、身内の評価で、人生が、間違った方向へとベクトルが、動く。
    ストカーまがいも、別件逮捕も、人生の道をはみ出すようになっていく。
    事件とは、このように、歪んだ過程で、起こるものなのだと・・・怖くなる。

    ファイルno3などは、この作者の知的な英語の解釈が、読みごたえがある。
    帰国子女だからと、言って、英語が堪能ではない。
    それは、日本では、英文法が、基本とされた英語だからであろう。

    ファイルNo4も、姉弟の家での待遇差、勉学の差。
    お嬢さんである姉が、辿る青春時代が、悲しい。
    自分で逝きしてしまうのに、そして、弟は、姉の懇願といえ、手を科すことに、一生の汚点であろう。
    いくら、事件が解決しても、自分の脳に刻み込まれてものは、一生消えない。
    怖い内容でもある。

    最後のファイルNo5は、本当に、未解決で、終わってしまっている。
    冤罪で、罪を清算して出所しても、本当は、別の事件で、殺人を犯していたのだろうから、どう弁護する?
    そして、病気で、亡くなってしまったら、この事件は、引き継ぐのは、無理になって行く。

    最初は、アメリカのドラマのような、コールドケースを思い浮かべながら、本を手にしたのだが、なかなか、人間関係の複雑さと、事件に、又他の事件が絡む小説で、読み終えてから、頭の整理が、なかなか出来ないぐら解決の糸がこんがらがっていた。

  • 隣家の門灯の薄明かりがぼうっと浮かんでる ペドフィリア(小児性愛的性向) 前言を翻し 私は言葉の接ぎ穂を失って 言下に否定するのは危険だった 馬脚を露わすとはこのことだね 離婚話は沙汰止みになった 風聞以上のことを知っていたわけではない 芝居の台詞を棒読みするように言った 私は彼女の直感力は病的だと感じていた。少なくともそれは普通の人間の想像力の範囲を逸脱している。 薄闇がゆっくりと忍び寄っていた 腎臓の腫瘤 ぎけい義兄 次第に遠景に退き 赤い百日紅さるすべり 静謐にも似た諦念か滲み出ているように見えた 近隣で有名な吝嗇家として知られていた その語尾を補った 太股が僅かに覗いていた かんざんじ舘山寺温泉近辺の浜名湖にでも飛び込めば


  • 世間を騒がす児童行方不明事件に、ある大学教授が偶然関わることとなった。場外馬券売り場でいつも見かける男が容疑者に浮上したが、週刊誌の記者に報道とは異なる事実を伝えたからだ。予期せぬ殺意が近付きつつあることも知らず…。(「しりょうのふね」)元新聞記者が未解決事件の真相を小説の形式で追及。見出された光景にあなたは戦慄する。異常と陰惨に満ちた短編集。

  • 陰惨で異常な短編5話。いつもの気味悪さはないが、裏をかかれる快感は味わえる。

  • 「しりょうのふね」の意味するゾクッとする不気味さと「みちゆきの夜」の昭和の田舎の猥雑な雰囲気と秘めた後暗さは人の心の闇を覗き見た恐怖があってなかなかよかったけれど、未解決事件ファイルだけに当事者や関係者が亡くなって推理や憶測で終わる短編パターンはどこかスッキリしない。
    収録短編いずれも、相変わらず女性の扇情的な描写と受難が続く印象でそこは辟易。女性の太ももの魅力が全然分からないのは、自分が女だからなんだろうなw

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著者プロフィール

現在、関西学院大学理学部准教授・宗教主事。2010 年より日本聖公会京都教区ウイリアムス神学館非常勤講師。
著書『新約聖書解釈の手引き』(共著、日本キリスト教団出版局、2016 年)、『新約聖書の奇跡物語』(共著、リトン、2022 年)訳書E. ギューティング『新約聖書の「本文」とは何か』(新教出版社、2012 年)、R.カイザー『ヨハネ福音書入門―その象徴と孤高の思想』(教文館、2018 年)など。

「2023年 『今さら聞けない⁉︎キリスト教 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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