天才の世界 (知恵の森文庫 t ゆ 1-1)

著者 :
  • 光文社
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334785208

感想・レビュー・書評

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  • 「天才とはなにか」について考えているときに、この本に出会った。敬愛する湯川先生が、天才について論じている本があるとは知らなかった。とはいえ、これは湯川秀樹の著作ではない。湯川秀樹が4人の天才を選び、その一人一人を俎上に載せて、市川亀久彌という人が湯川秀樹から発言を引き出すという形を取っている。この市川亀久彌という人は創造性について研究していたらしく、「等価変換理論」という謎の理論を編み出したようだが、詳細はよく分からない。

    この本で俎上に載せられている4人の天才とは、弘法大師(空海)、石川啄木、ゴーゴリ、そしてニュートンである。一見すると、ニュートンを除いては、やや意外なラインナップに思えるかもしれない。しかし、そうではないのだ。

    石川啄木など、中学生の頃はこれっぽっちも共感できなかった。でも今であれば、やはり彼は天才だったのだと思う。啄木は26歳の若さで夭逝している。20 年ちょっとという人生は、何かを成し遂げるには短すぎる。にもかかわらず、彼がこういう歌を遺していることに、感動を覚えずにはいられない。

     いのちなき砂のかなしさよ
     さらさらと
     握れば指のあひだより落つ

    この4人の天才は、啄木ーゴーゴリ、空海ーニュートンという具合に対を成している。空海とニュートンは、どちらも万能型の天才だった。万有引力と微積分法を発見したニュートンは、工作も得意で、望遠鏡を作ったり、装置を自作して精密な光学の実験を行ったりしている。また晩年は、造幣局で実務家としての才能も発揮したという。そして、錬金術や聖書の年代記的考察など、今日の科学から見ればなんの価値もないような研究も行い、膨大な著作を遺している。ニュートンといえば、近代科学を作り上げた人というイメージで認識されているけれども、神秘主義的なものを引きずっていて、中世最後の大学者という側面も併せ持っていたという。「プリンピキア」はニュートンにとって、数学ということばで記した聖書だった。彼が考えていたのは、神の存在をも含む全自然学だったのである。

    ニュートン力学はあまりにも完成されすぎていたため、力学に関しては、その後200年間はほとんど何も付け足すことがなかった。物理学史上のもう一人のスーパースター、アインシュタインもまた、一人で一般相対論というとてつもなく立派なものこしらえてしまった。そうすると、結局それを研究する人は少なくなる。これは、量子力学の世界では、ボーアに始まり、ハイゼンベルク、シュレーディンガーなどの物理学者が綺羅星のように現れたのと好対照をなしている。

    そして湯川秀樹は、アインシュタインは空海に、ボーアは最澄に似ていることを指摘している。比叡山からは法然、親鸞、道元、日蓮など偉い人が続々と出た。一方、空海は、一人で全部やってしまったから、後の人は、空海がこしらえた体系を後生大事に守っていくことしかできなかった。天才とは、孤独な存在なのだ。

    これら4人の天才には、多かれ少なかれ共通点があって、それは「内的葛藤・社会的矛盾・自己顕示欲」という風にまとめられている。このまとめも大変に面白い。でも実は、本書の主眼は、ケーススタディを通じて天才とは何かを定義することではない。それは、湯川秀樹に「天才」について語らせることを通じて、湯川秀樹という5人目の天才について語ることなのだ。実はこの本は、メタ的な構造をもっているのである。

    この対談が行われたのは、1971〜72年である。物理学者のみならず、文学者としても深い素養をもつ湯川先生の偉大なる知性を前に、私はただひれ伏すばかりである。還暦を過ぎた湯川先生の、穏やかな京ことばの語り口も心地よい。名著だと思う。

    • marutomさん
      是非読んで見ます。
      天才がいかにして天才となりえたか、
      その環境にも興味がわきました。
      是非読んで見ます。
      天才がいかにして天才となりえたか、
      その環境にも興味がわきました。
      2013/01/14
  • 20190727 中央図書館
    湯川秀樹は、理論物理学の日本でのヒーローに違いないが、学者一家の血か育った環境のためか、文学、哲学、歴史の分野にも幅広い教養を持ち続けていたらしい。功成り名遂げた大学者であったために、いろいろな出版編集者が、湯川の雑談やエッセイをまとめてくれたおかげで、湯川の死後数十年を経た今でも、湯川のリラックスした教養談義を読むことができるのは幸せだ。
    この『天才の世界』では、空海、啄木、ゴーリキー、ニュートンを取り上げていいる。啄木、ゴーリキーは21世紀の現代では「天才」として取り上げられるには違和感を感じる。このあたりが湯川の趣味なのだろう。

  • 天才の世界、天才論、というより、あくまで深くて広いヒューマニズムの本として読まれるべきだと思いました。啄木のところを、再読してみたが、湯川先生が、啄木を西行以上の天才(誰にでもわかり、誰もが好きな歌を持っている。)、と語っていて、芭蕉もすごいがやはり、第一人者として歌が「完成」してしまっている、というところが、西行・業平、そして、啄木よりも、一点劣る点だと。確かに私としても、啄木の歌は、西行・業平に勝るとも劣らない、と再実感されたが、さすが慧眼の湯川さん、という感じである。文学は、「恋愛」が源泉、自己顕示欲の強い人である場合が、多いなど、示唆に富む内容であった。下手な文学評論家などより、よっぽどまともな着眼点であると思う。湯川さんが、人生というものは、一つことが片付くと、また新たな何かが出てきて、ということの繰り返しだ、と述べられているところでは、思わず膝を打った。また、た、ところどころつまみ読みしなおして、の感想です。そしてこの本のすばらしさに驚愕しています。今まで読んだ中でも、1,2を争う
    素晴らしさです。「天才」がテーマですが、あくまで、よく使われる「頭の良さ」とか「キレの良さ」というよりは、もっと広い意味での、人間性の豊かさ、道徳心、人を憐れむ心など、情感豊かな人達を扱っている書籍と感じました。湯川さんの発言は、とてもとても素晴らしく、もうノーベル物理学賞を取ったとかそういう存在としては忘れられていくかもしれませんが、本書の価値は、永遠に滅びない、と言えるほどのすばらしさです。読書家と言われる方は多々いますが、ここまで人間存在の本質に迫った書は、類を見ない、とさえいえると思います。4人の選択も絶妙だし、ゴーゴリのようなそこまで有名ではない作家をとりあげているのも、「外套」という作品の概要(貧しい下級官吏で、浄書を仕事にして、浄書がうまくいったら喜んでいるような主人公が、迷いに迷って、買わなければならん外套を買ったら、おいはぎにとられてしまう、という話)を聞いてみれば、膝を打ちます。またニュートンも、単なる近代科学の創始者的な視点ではなく、それまでの古代・中世的な世界の集大成的役割も果たされた、という視点があり、その元ネタとして、ケインズの名が出てくるなど、とても読みがいがあります。ニュートンが、いじめっ子が何かをやっつけた経験が転機になっているという話も興味深かった。空海についても、湯川さんの博識ぶりに驚かされれるばかりです。宗教や仏教、日本史について、こんな詳しい物理学者というのはいらっしゃるものなのでしょうか?空海あらゆることに多芸多才で、若い頃は、いろんな山にこもったりして修業したり、中国に行って、密教の一番偉い人に教わったり、経典に限らずさまざまな文化を持って帰ってきたり、書道の開祖でもあり、東寺という官立大の総長を務めたり、綜芸種智院という私立総合大学的なのものを作っていたり、高野山に自分の理想となるお寺を開いたり、土木事業、ため池を作ったり、橋をかけたり、している。ライバルとして語られる最澄も、空海よりは、質の劣る密教を持って帰ってきたとか、奈良仏教と激しく対立してたとか、知らないことが沢山出てきました。空海が嵯峨天皇をパトロンとしてた、とも。ともかく、勉強になり、心が慰められ、とても素晴らしい書です。「天才」がどうのこうの、なんて、どうでもいい、とさえ思わせてくれる一冊だったと思います。空海の魅力なんて、大人にならなわからん、とか、平泉中尊寺にスーパー美人の仏像がある、とか興味深かった!実際、見てみたら、そこまで美人か、というと難しいところだったがw湯川さんが、月へ行ったとか、ああいうのも、別にどってことない、とおっしゃってるのが面白かった。湯川さんがインタビュアーに変に気を遣わず、自分の考えは、自分の考え、と率直に発言なさっているのが好ましい。

  • 「天才の神格化」や「天才狂気説」などとは論外の話

    外的なという意味での環境・時代性や、人間の内的な感受性など、創造性というものを広く考えた時に見えてくる普遍的な問題の話

  • 才能について考える本としておすすめされてたので手に取った。

    湯川秀樹という天才に天才を語らせることで、当人の天才性を炙り出そうっていうメタ的な本のコンセプトが面白くて勉強になった。
    ただ結構インタビューの主観が多かったり噛み合ってないのでは?というところがあったりして読みにくかった。

    また興味が出たら読んでみよ。

  • 天才を天才として異質な側面をあげつらうことを自ら揶揄しつつも、湯川氏と市川氏の軽妙な語り口で主観的な面も十分にありつつ独特の視点で4人の天才を掘り下げていて、読む前の期待を良い意味で裏切ってくれた。最後は「精神的ヴァイタリティ」という言葉で結論づけている。一貫した視点で様々な角度から論じているのが読んでて気持ちいい。

  • 自分が天才でない事だけよく理解した

  • 湯川秀樹博士が、市川亀久彌を聞き手に、四人の天才(空海・啄木・ゴーゴリ・ニュートン)を語り明かして行く。 天才故に持つ、それぞれの孤独さ、強靭な集中力・精神力と、危ういバランス感覚に成り立つそれらが、掘り下げられていく。 同じ科学者であるニュートンよりも、空海・啄木と言った、文系天才達への造詣と理解、愛情の深さを感じた。

  • 湯川秀樹に市川亀久彌がインタビューをするという形で、天才について議論されている。

    物理学者のニュートンだけではなく、弘法大師や石川啄木、ゴーゴリなど様々な分野の天才が題材にされており、対談内容からも湯川秀樹の文化的素養の広さがうかがえる。

    特に石川啄木の章が素晴らしかったように思う

  • 天才自らが天才性の謎に迫る。

    弘法大師、石川啄木、ゴーゴリ、ニュートン- 一言では片付けられないけど、ひとつの問題を徹底的に考え抜く持続的思考力はこの4人に限らず共通しているように思う。

    こうした共通項を見出すと、天才と呼ばれる人たちは、他の人たちから断絶した存在ではない、という見方に落ち着くのだろう。

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著者プロフィール

1907年東京生まれ。京都帝大理学部物理学科卒業。39年、京都帝大教授となり翌年、学士院恩賜賞を受賞。43年文化勲章を受章。東京帝大教授も兼任。35年に「中間子理論」を発表した業績により49年、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。様々な分野で多大な業績を残す。81年没。

「2017年 『創造的人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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