与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

著者 :
  • 光文社
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レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334910426

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  • 『与楽』とは、仏が与えてくれる慈悲のこと。
    奈良時代、聖武天皇が発願し、東大寺に巨大な毘盧遮那仏が造立されることとなった。
    全国から役夫が集められ、作業にあたる。
    近江から招集された「真楯」は「造仏所」に配属となり、直接、大仏の鋳造にかかわることとなる。
    その、造仏所の「炊屋(かしきや)」(食堂のようなもの)には、やたら旨い飯を作る「宮麻呂」という男がいた。
    彼が大きな過去の秘密を抱えていることが、やがて明らかになる。

    「大仏」というもの。
    大量の費用と労力を費やしてつくる、いわば中が空洞の、ブッダの巨大なフィギュアである。
    「仏作って魂入れず」ということわざがあるけれど、このフィギュアが仏像になるためには、魂を入れる必要があるわけだ。
    仏教の儀式的には、開眼供養会を行って、魂が入ったことになるけれど…
    儀式とは別に、様々な人が大仏に寄せる様々な思いこそが、この巨大な像を、仏になさしめて行く。

    故郷に帰ることなく造物所で病に没した役夫の信仰。
    行基の元に集まる信者たちの信心。
    技術者たちの、匠としての矜持。
    真楯も、次第に、自分は世に残る大きなことに関わっているという誇りから、自ら作り上げてきた大仏に大きな愛着を持つようになる。
    大仏の空洞内は、そういった人たちの形の異なる思いや願いがたくさん詰まっているのだろう。

    作業所では、様々な事件も起きる。
    宮麻呂はなぜか仏教に大きな反発を抱き、「仏より、生きている人間が大事」という独特の考えを口にする。
    仕丁(全国から招集された役夫)にとって一番大切なのは、大仏を作り上げる事よりも、生きて故郷に帰ること、と彼は言う。
    徴兵された兵士に「一番大切なのは敵を殺すことより、自分が生き残ること」という考えと似ている。
    だから彼は、仕丁たちのために、手間を惜しまず、儲けを考えず、心をこめた食事を作り続けるのだ。
    それは、彼の贖罪でもある。
    「仏の業」という物もさまざまなのだ。

    奈良時代というと、あまりに昔過ぎて、知らない国のことのように思えるが、キャラクターたちの喜怒哀楽は生き生きと身近に感じられる。
    ただ、現代では良くわからない単語が出てきて難しかった。
    面白い小説だったが、かなり仏教・哲学を考えさせる内容でもある。

  • 「孤鷹の天」をすでに読んでいるので、この作家の古代の描写のうまさは折り紙付き。

    東大寺大仏建立事業に全国から労役に狩り出された男たちと、炊事係の男。食事はいかにもおいしそうなのだけど、表紙をみて、ふとこの時代の庶民には箸を使う習慣があったのだろうか、と考えてしまった。

    第一話だけはもの足りなかったが、第二話以降から、炊男をめぐる謎と、仕丁や奴婢のいざこざ、政治的対立、過去の因縁が明らかになっていく。

    東大寺大仏という国家事業なのに、賦役の男というよりも、その食事世話係にスポットをあてたのかと思ったのだが、実はただのグルメ話にあらず。

    根底にあるテーマは、『満つる月の如し』で定朝を描いたときと同じく、魂の救済とは何か、ということである。

    奈良の大仏を見物したとにとき、その造形やスケールに圧倒されはしても、その建立に関わった人々がどのような想いを抱いていたかに考え及ぶことなどなかった。

    帚木 蓬生の『国銅』とはまた違った趣をあたえた、奈良大仏建立記。最後はみんなが丸く収まるまとめ方。宗教がほんとうはこういう機能を果たしてほしいと願わざるを得ない。

  • ならのだいぶつさん。どないしてつくらはったんやろか。

    こんな物語が大仏建立にあったらいいなと思った話。

  • (借.新宿区立図書館)
    時代小説といっても奈良時代。しかも大仏建立の仕丁の炊屋での話がメインというのはなかなか面白い設定。さすが同志社大学大学院で古代史専攻というだけある。下級官吏の安都雄足や行基集団を絡ませ、時々佐伯今毛人など上級官人もちらっと姿を見せる話も、古代史を少しかじった者にはたまらない。(古代史ファン以外はちょっとなじみがないかも)
    引き続き『火定』も読んでみる。

    ただ、少々気になったのは聖武帝を「首天皇」と称することはあったのだろうか。たしかに首皇子が天皇になってはいるのだが。また葛井氏を「くずい」と読んでいるが一般的には「ふじい」ではないのか。同志社ではそのようになっているのだろうか?根拠が知りたい。

  • 「仏はどこにもおらず、またどこにでもいる融通無碍なる存在」
    真楯(またて)の濁りのない心で、何が良いことなのか自分で判断する姿に、いろんなこと気づかされました。

  • 奈良の大仏はやっぱりすごい。
    https://ameblo.jp/sunnyday-tomorrow/entry-12072296380.html

  • 著者・澤田瞳子は澤田ふじ子の娘で、肩書的には歴史学者(専門は奈良仏教史)の方が先に書かれていたりします。
    奈良の大仏鋳造をめぐる短編集。
    といっても帚木蓬生さんの『国銅』のように大仏鋳造工事そのものを描いた作品ではありません。作事場の炊所(かしきどころ;食堂)を主な舞台にして、主人公の真楯(またて)が新人仕丁(役夫)として作事場に連れて来られてから、1段毎に鋳造される大仏工事の進捗に沿って描かれる7つの連作短編です。
    最近、食事や料理屋を舞台にする時代小説が流行りですが、流石に奈良時代と言うのは無いですよね。しかもその時代を専門にする学者さんですから、見慣れない当時の様子がそこかしこに描かれ、なかなか面白いのです。ただし詳しい説明は少なく、どうもビジュアルが浮かばないし、ここまで読んでお判りかも知れませんが、用語や人名などの漢字はちょっと面倒です。
    ミステリー仕立ての話の内容はまあまあかな、ただし最後の「すべてが丸く収まった」終わり方にはかなり無理を感じますが。。。

  • 食事を通した人間模様?
    読み応えあり。雄足様はいい人になったのかな…

  • ブクログで知った本。
    舞台は奈良時代、東大寺の造仏をめぐるお話。日本各地から徴発された人々の悲喜こもごもを描く。
    大仏に救いを求める聖武天皇をはじめとした皇族や貴族。一方、汗水流して働く仕丁らは炊男の宮麻呂、行基らに生きた仏をみる。そして、各々が、その先にいるのかもしれない、観念的な仏に思いを馳せる。
    たくさんの個々人の願い・執念を呑み込んで積み上げていく大事業、というのは現代では果たしてあるのだろうか。建物の規模こそ大きくなったが、観念的なスケールのデカさ、そこに文字通りの命を、全身全霊を賭ける人々の思いの濃密な結晶は、これから先作られることはあるのだろうか……。いや、サグラダ・ファミリアがあるか?ううん……。

    世界はひらけた。便利になった。その分、小さく、ちっぽけになった。そんな気がした。

  • 2016.8 これを読んでから奈良の大仏様を見学に行っていたら、もっと感慨深いはず。こんどまた行こうと思う。

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著者プロフィール

澤田瞳子(さわだ・とうこ)
1977年京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院文学研究科博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。母は作家の澤田ふじ子。時代小説のアンソロジー編纂などを行い、2008年、第2回小説宝石新人賞最終候補。2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。2012年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞受賞。2015年『若冲』で第153回直木賞候補。2016年同作で第9回親鸞賞受賞。2017年『火定』(PHP研究所)で第158回直木賞候補。2019年『落花』(中央公論新社)で第32回山本周五郎賞候補および第161回直木賞候補に。

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