夢みる葦笛

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911218

感想・レビュー・書評

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  • SF=好奇心×想像力×創造力
    そんな式が頭をよぎった。上田さんの描く小説を読んでいると、思考はどこまでも羽ばたいていけると感じる。
    一種の浮遊感すら覚えるような、不思議な感覚。
    正直、読んでいて怖くさえなる。

    まだ見ぬ何かに想いを馳せる。
    それはこんなにも自由なものかと。
    人間の、地球の未来は、どう考えたって明るくない。
    滅びに向かって歩んでいるようにしか見えない。
    それでも、どこかに希望があると信じていたい。それを随所から感じる。

    上田さんの描く生き物たちもすごく興味深い。
    興味深いけれど、どれも怖い。どれとも遭遇したくない。
    こんな世界を頭に描きながら、現実世界でも生きていけるものなのだろうか。そんな風に思ってしまうくらい、幅広く現実味のある物語ばかりで、圧倒された。

    どれもよいけれど、「滑車の地」が一番好きかな。
    この世界の、他の物語も読んでみたい。

  • /一〇編のSF&幻想譚。
    /主に、自分たちとはハナからありようが異なると思われる存在との遭遇により人間とは、意識とはなどを考察しているようにも見えます。
    /ですが、物語的には情緒的でせつない感じ。

    ■メモ
    ・歌うイソギンチャク。
    ・予知能力? のある眼神と不愉快ななにか。
    ・不完全な脳を機械脳が補助する世界で脳を集める者。
    ・繭から生まれた石を食べると。
    ・人工知能と、人間性を組み込まれた人工知性。
    ・危険な泥の海の世界で道具として作られた少女。
    ・とある惑星を一生飛翔する生物とのリンク。
    ・脳内デバイスによる人工幽霊。
    ・歴史改変もの。戦争と科学者。他作品と趣が異なる。
    ・人工知性体と身体感覚。

    【アカウント】《インターネット上のアカウントは、当人が生きている間は家(ホーム)だが、亡くなればそのまま墓になる。》p.206
    【意識】《人間の意識は脳だけが作っているわけじゃない。身体機能と連動している。人間は脳みそだけで思考しているわけじゃないからね。》p.87。《意識は絶え間なく連続しているわけじゃないし、固定されたものでもないから。意識っていうのは、身体反応や脳の働きを調整するときだけに生じる一時的な存在なの。》p.216
    【異生物】《得られるデータを人間の喜怒哀楽と関連付けないこと。これが宇宙生物学における基本概念だった。》p.183
    【イソア】《この曲は、人間の精神を削り取っている。》p.9。《私は耳と心をイソアに奪われた……》p.28
    【宇宙生物学者】《本当の意味で宇宙生物学者になるためには、科学者としての常識どころか、『人間であること』すら、捨てねばならない瞬間があるのかもしれない。》p.199
    【共生】《私たち人類には、君とのコミュニケーションはまだ難しいようだ。だが、コミュニケーションの可・不可と、共生の可・不可は関係ない。生き物は、内面をわかり合えなくても共生できる存在だ。相手の存在を認めさえすれば、共に暮らす手段が見つかる》p.197
    【恐怖】《ところが不思議なことに、人間が感じる恐怖には必ず好奇心が同居しているのだ。》p.108
    【芸術】《人間というのは不自由な生き物です。幾らよりよく生きようとしても、愚かで下劣な部分が必ず足を引っぱる。しかし、そんな生き物であっても、その内側には信じられないほどの〈美〉を生み出す能力が隠されている。皮肉なことに、芸術は人間にしか作れないのです。》p.17。《でも、現実には存在しない何かを作りあげることを芸術と呼ぶのであれば、これは広瀬にとって、まぎれもなく芸術そのものだった》p.114
    【心】《人間の心というのは、人間が人間の姿をしているから生じるの》p.215
    【差異】《物の見方が公平だからではない。生き物の差異に、あまり興味がないせいだと思う。僕はどうかすると、自分が人間であることすら忘れかねないタイプなのだ。》p.292
    【しあわせ】《でも、一番しあわせな瞬間は、面白い話をしながら、お腹を抱えて笑っているときかな》p.209
    【社会】《人間の社会はややこしい。私たちと違って〈個〉の有限性にとても神経質なのだ。》p.109
    【呪術】《呪術に必要なものは手順です。》p.56。《呪術とは、科学とは別の形で、世界の理を知ろうとする試みです。》p.65
    【生態系】《この惑星とプテロスが、連動するひとつの存在であると考えてみよう。星に棲む一個の生物が行動しているというよりも、その行動を含めたすべてがひとつの世界であり、自分たちは、その全体像を外部から眺めているだけだと。》p.189
    【世界】《世界はいつだって悪い冗談で満ちている。でも、だからって、そこに生きる価値がないわけじゃない》p.29
    【第二の意識】《〈私〉と〈あなた〉の間に揮発性のデータ領域――それは〈第二の意識〉と呼べるかも。〈私〉と〈あなた〉の個性を殺さないまま、お互いが思考を共有する、特殊な領域を作り出すわけね》p.234
    【多様性】《もしかしたら人類は、体の形――つまり、形態の変化による多様性ではなく、精神の多様性――知性の多様性を獲得する方向へ進化した生物なんじゃないかしら。》p.232
    【知性】《人間と知性の性質が似通っている生物だけを知的存在と呼ぶのは、狭量で不適切な発想だ。生物には個々の環境に適した知性の形があり、これは地球上の生物でも同じである。》p.184
    【ホラー】《闇を愛でるためにあるジャンルさ。》p.130
    【本質】《むしろ、余分なデータを削ぎ落とした分、あなたは広瀬氏の本質に近づいているのではないでしょうか。あなたは広瀬氏の劣化コピーではなく、純度という点では、広瀬氏にとても近い存在なのでは》p.136
    【眼神/まながみ】《マナガミ様の眼は、外側の世界ではなく自分の内側を向いている。そこには時間や空間に束縛されない宇宙が広がっていて、人が取るべき行動がすべて見えるんだ。》p.50
    【喜び】《もし何かを喜べと言われたら、私たちは自分がただの機械であり、理不尽な感情の揺れや生殖や同胞との係争から解放された自由な存在であることを喜んでいる――と答えるだろう。》p.110
    【私】《私たちには〈私〉という固定された意思があるわけじゃない。〈私〉=〈意識〉は体の行動を追認しているだけ。自分ひとりの内部ですらそうならば、他人を容易に理解できないのも当たり前よね。》p.232

  • 「夢みる葦笛」「眼神」「完全なる脳髄」良作怪奇譚。「氷波」土星C環を舞台にした話。その他の作品も平均点以上の良作揃い。その中でも一番は「滑車の地」。ダイナミックな世界をこのページ数で書き出す力量に驚く。

  • 魚舟・獣舟からこの方「いま、ここに地球環境に不可逆なターニングポイントがあり、世界の形がガラリと変わる」という主題の変奏。いつもの上田さん。

  • SFだったりホラーだったりファンタジーだったり、上田氏の短編10作品を収録した本。人間とは何かを奥深くまで追究している作品群である。表題作の「夢見る葦笛」はイソアという歌を歌う異形の生物。これが人間を魅了し、人間がどんどんイソアになっていく。人間は葦だが、イソアは葦笛ということだろう。「上海フランス租界祁斉路三二〇号」は歴史小説かと思いきや、途中から一気に並行宇宙のSFになる。「アステロイド・ツリーの彼方へ」は既読作品。猫型ロボットの人工知性と人間が通わせる友情のようなものが胸を打つ。

  • アマチュア音楽家の亜紀が街中で遭遇した人型の白いモノ。イソギンチャクのような頭を持つ奇妙な生物の正体とは!? 日本SF大賞受賞作家の真骨頂! 人工知性、地下都市、パラレルワールド、人の夢―― あなたの想像を超える全10編を収録!

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    日本SF大賞受賞作家、上田早夕里の真骨頂!妖しくも宝石のごとく魅力を放つ珠玉の傑作短編集!!人工知性、地下都市、パラレルワールド、人の夢―あなたの想像を超える全10編を収録!!

  • 世界観に飲まれた。詳しい説明はない。その辺り、躯体上の翼と同じような感覚だったな。長編が読んでみたいと思わせる短編集だった。面白かった!

  • 29:同人誌を書いたり読んだりしていたせいで久しぶりに商業SFを読んだけど、これだ……!って腑に落ちた感がありました。水みたいに身体に馴染んでいく、読みたかったSF。
    人造の知性をはじめ、人間以外の知性に関する視点は、私ももっと広く深く持たねばといい意味でものすごく衝撃的だったし、プロってすごい、と改めて思い知らされました。
    読書の楽しみを味わえました……!

  • 『破滅の王』が直木賞候補作になった上田早夕里の短編集。
    白いイソギンチャクのような生き物が歌を歌い人々を巻き込む「夢みる葦笛」
    人間になりたい警察のシムが生体脳を10個つなげ逃亡する「完全なる脳髄」
    遠い宇宙に行く人工知性の猫がた外部出力のバニラを通して私たちがどう感じるか考えてさせられる、「アステロイド・ツリーの彼方へ」
    など、宇宙、人間の脳、歴史改変とバラエティーに富んだ一冊。コミュニケーションとは、自我とはなにかあらゆるテーマで書いてあります。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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