南風(みなみ)吹く

著者 :
  • 光文社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911775

感想・レビュー・書評

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  • この本の表紙は、正直いって、いい年したオヤジが通勤電車で読むには恥ずかしすぎる。あらぬ誤解をされぬよう細心の注意が必要(笑)。私は即、カバーを付けました。

    恐らくこの本は、高校生かその前後の年代の対象読者を想定しているのだろう。あるいは「俳句甲子園」への出場経験がある学生だとか、これから挑戦してみようとか考えている学生を意識しているかもしれない。

    対象から外れた本を無理して読む必要もないのだが、俳句の世界の扉の内側を少々覗いてみたいという者にとっては、とても入りやすいシチュエーションで、しかも内容も非常に興味深い。当然、俳句の鑑賞シーンが出てくるだろうから。

    小説としてもよい本だったと感じる。表現される描写も丁寧で、四国の島の分校に通う学生を取り巻くその島の生活や自然の情景が目の前に映像として浮かんできた。

    著者は取材もしっかりされたようで、ストーリーもよく練られていて全く飽きなかったというのが読後の正直な感想だ。

    そもそもTVでプレバトを見ていても、どちらかというと夏井先生と梅沢富雄の毒舌合戦をお笑い番組としてみていた自分だが、俳句というものの中身を少々知ってみたいと思ったのが、本書を読んでみようと思った動機だ。

    「俳句なんかは短すぎて何も思いを表現できない」と、俳句に対して拒絶ベースの来島京を、どうしてもチームのメンバーに加えたいと願うチームの発起人の河野日向子が、「五七五のたった十七音でも思いは伝えきることができる」と主張し、実際にやってみて、相手を納得させるシーンは、ある意味俳句の世界の扉を開いてみたいと思う者のなんとなくボヤ~と存在する疑問点を溶かしてくれるシーンでもある。

    たった十七音にあらゆることを表現できるというのは改めてスゴイと感じる。宇宙を動かす物理法則が、非常にシンプルな公式で表現されてしまうことと似ていると誰かが言われていたような気がする。

    本書を読んで、実際にYou Tubeで「俳句甲子園」の映像を見てみたが、一句には、様々な要素が凝縮されているという驚きもさることながら、その一句が様々な解釈を生み出すというのもまた新鮮な驚きだった。

    表紙の恥ずかしさに懲りず読了した報酬として、新しく得られたものは多いと思う。

  • 前作の『春や春』(http://amegasuki3.blog.fc2.com/blog-entry-350.html←ブログに感想を書いています)は、東京の女子高生が「俳句甲子園」を目指した物語だったのに対し、今回は地元愛媛県の離島の高校生たちが活躍する。
    主人公・航太はバスケット部に所属するばりばりのスポーツ男子だったのだが、同級生・日向子(ひなこ)に強引に誘われ、メンバー集めに協力し始める。航太も俳句を作るようになり俳句に目覚めていく。主人公を部長の日向子でなく、ずぶの素人である航太にしたのが効いている。結果、航太が、俳句を知らない読者層に替わり疑問や質問を投げかけながら、俳句の世界に導いていってくれた。
    俳句だけでなく、部員の高校生5人が過疎化する故郷・島の将来を案じる想いが胸に刻まれます。
    日向子が短歌一辺倒の来島京をメンバーに引っ張り込もうと、京の短歌を俳句で表現し、内容が同じく伝わったら入って欲しいと挑む件に引き込まれました。
    というのは、私自身が友人の影響で少々短歌をかじったのですが、短歌は字数が多い分俳句に比べ言い訳がましく感じられるようになっていたから。

    迷う日々涙してたちすくむ日々すべて愛しき日々年終はる

    迷ふ泣く立ちすくむまた日記買ふ

    納得です。やはり俳句は潔い!

    他のメンバー恵一・和彦も個性豊かなキャラクターでした。それを取り巻く島の大人たちも温かい眼差しで彼らを見守る様子が微笑ましく描かれていました。
    ほっこりとした読後感に包まれます。

  • 俳句甲子園を目指す小さな島の分校の話。学生達の日々が島の暮らしと共にしっかり書き分けられて、俳句の面白さも伝わってきて、気が付いたら五七五と指を折っている私がいた。

  •  俳句甲子園を舞台とした、高校生たちの青春物語。
     同著者の「春や春」を既読なら、両登場人物たちのニアミスやクロスオーバーも楽しめるだろう。
     今作は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島の分校に通う生徒たちが、仲間を集い、俳句甲子園出場を目指す内容で、構成自体は前述の先行作品と同型と言える。
     しかしながら、各々が入部に至る経緯の説得力や、『俳人』としての個性、メンバー間の微妙な齟齬と団結、青春物としての熱量や疾走感などは、「春や春」の方が鮮烈な吸引力があった。
     正直なところ、終盤までは、そうした格落ち感が拭えなかったが、俳句甲子園の本大会、それも敗北してからの展開が一気に熱くなるという、嬉しい誤算が起きる。
     単に前作の裏側の描写に留まらず、勝敗のもう1つの側面、サポートへの情熱に(前作以上に)スポットを当てることで、漸く、この作品が拠って立つ意義が明確になる。
     誰かを喜ばせること、他人の役に立つこと、その熱意や遣り甲斐、誇らしさ。
     それもまた、素晴らしい生き方なのだと、彼らの真っ直ぐな姿勢が示している。
     将来の夢や家族との擦れ違いに悩む少年少女たちが、未来への光を見出し、しっかりと歩んでゆくであろう姿を温かく見守りたい。

  •  俳句甲子園という素晴らしい青春部活小説の場所。
     次の作品の季節は、秋か。

  • この作者は多才かつ多彩だなあ、と思いました。
    紫式部って、源氏物語の中の和歌、作ったんだなあ、と過去にしみじみ思ったことがあったのですが、「春や春」でも今作でも、高校生たちの俳句、全部作ってるんだなあ、って思ったら、それ一つですごいことだと感じました。
    「加藤東子」の名前を見つけて、とにかくワクワク、「春や春」と同じ大会だから当然かもしれないけど、ところどころに懐かしい光景が出てくるだけどワクワクしました。
    読み始めは前作と同じように感じられたのですが、だんだんとそれぞれの団体、それぞれの登場人物にはそれぞれのストーリーがあるということが分かってきて、ページを繰るスピードが速くなりました。
    そうか、あの句の作者はこうだったんだ、という驚き。
    終末の多くのエピソードのたたみ方。
    なんだか、とてもうれしい本です。
    いらないことですが、表紙に載っている6人の高校生は誰が誰なんだろう?などと考えました。
    繰り返しになりますが、読み終えてとても嬉しい気持ちになる本です。世の中の人みんなに、なんだかエールを送りたくなるような本です。

  • 短歌青春小説。

    「春や春」のサイドストーリーというか、別の学校の話。

    俳句に情熱をかける高校生の話。

    今回は廃校寸前の小さな高校の高校生が俳句甲子園に臨むという青春と情熱の話。

    さわやかで心あらわれます

  • 離島で育った子たちが俳句甲子園を目指してそれぞれが自分に向き合うお話。とても読み易くて読後感が良い小説だと思った。中高生におすすめできる本かなと。
    恋愛要素がちょいちょい入ってくるのが邪魔に思ってしまったけれど、リアルな高校生の姿ではあるよな、と後から思い返して恋愛を邪魔扱いした自分に苦笑い。
    他の方の感想を見ていると同作者の「春や春」も俳句甲子園のお話らしいので、読んでみようと思う。

  • 文庫本もあります。https://booklog.jp/item/1/4334790518

  • 今 流行りの俳句 
    TVの力は絶大だ そう言う関係の本を手に取って読み始めた
    青くさいけど 大好きな青春物
    楽しく完読 
    俳句についてもちょびっと知識を得られました。

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著者プロフィール

1969年静岡県生まれ。日本画家・屏風作家。筑波大学大学院芸術研究科美術専攻日本画分野修了。渦巻きをモチーフにした屏風制作を行う傍ら、神社、寺院,協会への奉納絵画をライフワークとして続ける。 主な奉納・収蔵作品大徳寺聚光院伊東別院 墨筆による「千利休座像」軸一幅/駿河総社静岡浅間神社四曲一双屏風「神富士と山桜」。主な出版物 絵本『おかあさんはね、』(ポプラ社)/絵本『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)/絵本『サクラの絵本』(農文協)/詩画集『国褒めの歌巻一』(牧羊舎) 
自身の日本画制作に加え、寺社奉納絵画、絵本制作、コラム等の執筆、講演会等を行う。人と人、人と自然、人と宇宙が穏やかに調和する日本文化の特質を生かし、新しい世界に向けたパラダイムシフトを呼びかけている。静岡ユネスコ協会常任理事。

「2020年 『ジャポニスム ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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