平場の月

著者 :
  • 光文社
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本棚登録 : 346
レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334912567

作品紹介・あらすじ

第32回山本周五郎賞受賞作!

朝霞、新座、志木。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとり。元女子須藤とは病院で再会した。50歳になった男と女の、心のすき間を、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く大人の恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「胸を張れよ、青砥」
    須藤が青砥にかけた激励の言葉がいつまでも耳から離れない。
    青砥と須藤、共に50歳。
    同窓生の男女の静かな恋愛は、若い頃のような燃え上がるものには遠く及ばないけれど、よりリアルにゆっくりと迫ってくる。
    イタい経験も多々積んだ二人は、ただ寄り添いとりとめのない会話で日常の煩わしさをやり過ごす。
    この年齢になると寄り添う相手も、誰でもいい訳にいかず選んでしまうもの。
    この二人の距離感がとても心地好く、そんな相手に出逢えた二人が羨ましい。

    「ちょうどよくしわあせなんだ」
    現状に不満がある訳でもなく多くを求めないごく平凡な平場で、ずっと二人一緒にいたいだけだったのに。

    この本に出逢ったのが、もっと若い頃や年齢を重ねた後ならピンと来なかったかもしれない。
    今、同じ年頃のタイミングでこの本が読めて共感できて良かった。

    「おれ、おまえと一生いくと決めたんだわ。おれはおまえがだいぶ好きなんだよ。どんなおまえでも、おまえだったら、それでいいんだよ」
    「須藤はこの世にひとりしかいない。須藤以外の須藤など、いるはずがない」
    好きな人からこんな風に思ってもらえる須藤がほんと羨ましい。
    そして最後まで学生時代のまま、互いを名字で呼び合う二人。こういう不器用さも好き。

  • 泣いた。「ちょうどよくしあわせなんだ」という言葉が胸に響いて、切ない。生きることの重み、人を大切にすることの甘さ、辛さ、哀しさ、たくさん詰まっていて、余韻が苦しいくらい胸に広がってる。

  • 奥様おすすめ本。
    デパートとかの平場の話かと思って読み始めた。
    平場とは、ごく一般の人々のいる場所のこと。
    タイトルは、その場所から見上げる月ということか。
    太陽じゃなくて。
    この物語を「一般人の恋の話」と言い切ると浅薄すぎるだろうが、いずれにしろ、かなり感情移入して読んだ。
    最初にこの恋の結末が書かれているので、そこに至る細かな記述のいろいろすべてと、次第に「終末」に向かっていく感じが悲しい。
    出てくる事象や登場人物の考え方、感情の揺れが、この歳だからこその真実味を感じさせてくれる。

    須藤の言う「ちょうどいい幸せ」っていう言葉が心に残る。
    私自身とは正反対の「太い」須藤。こんなふうであれればと思うけれど、こんなふうにはなれない。
    読み終えて表紙の挿画を見ると、一層切ない。

    20年近く前、「センセイの鞄」を読んだときの気持ちに通じた。

    あと蛇足。
    須藤の語り口は、ややぶっきらぼうで文字だけ読むと、男か女かわからない。そこがリアル。

    p110
    須藤の周りに「いいひと」がいると嬉しい。

    p146
    「青砥には十分助けてもらってるよ。青とは甘やかしてくれる。この歳で甘やかしてくれるひとに合えるなんて、もはやすでに僥倖だ」

  • あぁ、こういう小説が好きなんだよ私、としみじみ思う。
    たとえば、描かれている登場人物の年齢に違和感を感じる小説ってのはよくあって。これはどうみてももっと若いだろう、とか、この年齢でこれは無理よ、とか。
    でもこの小説において、青砥も須藤もちゃんと50歳なのだ。
    もうすでに若くはないけれど、それでも人生の残りはまだまだある…という年齢。
    その年齢で再会した幼馴染み。木綿のシャツがゆっくりと肌になじんでいくような、そんなペースでお互いの距離が近づく快感。
    こうやって穏やかにこころ静かに幸せになっていく、そんな二人を見守っていきたい、きっと誰もがそう思う。
    なのに…
    後半の二人の葛藤や焦りや「想い」ゆえの怒りが自分の中にくすぶる。
    これはオトナにしかできない恋の物語であり、オトナにしか楽しめない小説なのかもしれない。

  • 元中学の好きだった同級生に,50近くになってばったり出会う.それから始まる友情以上恋人未満的な関係が,癌という重荷とともに一年ほど続く.生きていくこと,愛しく思うことが切なく心に染み入る.恋愛小説ではあるのだが,もっと友情を昇華させたような味わいの物語だ.最後涙が止まらなかった.

  • 50代の男女が再会して、ガンが見つかってからの2人の日々。特別な何かはなくても2人で笑えることのよろこびがある。平穏だけどそれが積み重なっていくことで幸せも感じ2人も強くなっていく。身の丈にあった幸せ「ちょうどよくしあわせなんだ」といえることの奇跡のような瞬間。とても素敵な恋愛小説。

  • 病院の売店で再開した、中学時代の同級生だった青砥と須藤。
    互いに半世紀を生き、さまざまな人生の山谷を経験したのちに相見えたふたりが過ごした日々を描いた物語だ。

    須藤が死んだことを青砥が知るところから、物語は始まる。
    そこから時間が巻き戻り、青砥と須藤が再会し、ふたりの日々が積み重なっていく様が描かれる。

    読み進めていくうちに、須藤の死という冒頭に明かされた結末に向けて物語が進んでいく事がどうにも切なく、やりきれないような気持ちになる。

    タイトルにある、平場、というのは、普通の場、ということで、青砥も須藤も、世間によくいる、普通の人たちだ。
    それぞれに人生の酸い甘いを知り、清濁をくぐり抜けてきたとしても、平凡な、ヒーローやヒロインなどには成りえない人生だと、自分たちでもわかっている。描かれているのはそんな地味な日々なのに、読んでいて引き込まれる。

    私たちの人生の多くは、ドラマティックなロマンスや胸躍る冒険とは関係なく、煌々と灯りのついたコンビニや、ちょっと高いけどいいものを売っているスーパーや、噂好きな女性のいる職場や、値引きされた惣菜や、排泄や、老化や、愚痴や、そういった他愛のない、つまらないと言ってもいいようなものたちで出来ているのだということを思い知る。
    そして、そんなつまらないようなものたちで出来ているからといって、決して平場の人間たちの人生がつまらないものではないということも。

    たぶん若い時に読んだらおもしろいとは思わない物語だったろうと思う。日常を積み重ねて生きている、と思える年齢になったからこそ、胸にしみた。

  • 中学時代の同級生、振ったり振られたり、淡い恋愛のようなものを経て、再開した二人。
    50歳になっている、再開した場所も病院と急に身につまされるような現実。
    お互いその後、結婚に失敗したり、交際相手に手酷い目にあわされたり、それなりの経験を積んでの再会で、経験を積んだうえでのお互いを思う気持ちを再認識しあう、という状況になったわけだが、若いころのようにはいかず、また違う弊害がでてくる。
    50歳にもなってこの生活環境に納得がいかない。
    というかそんな生活ぶりに甘んじているのが納得できない。
    50歳にして、お互いを上の名前を呼び捨てにして呼ぶ、違和感がぬぐえない。
    ゆえに、これは女性だったか?男性だったか?としばしば読んでる途中で考える。
    登場人物が誰一人、頭の中で具体的に浮かび上がらない、人物像がつかめない。
    よって物語の中に引き込まれない。
    結末も、あまり感動がなく、アッそうだんたんだ。って。
    なかなか評判のよさそうな本だったんだけど。

  • 須藤と青砥の会話が知的に軽妙で魅力的なのだが、
    ボーっと読んでいるとわけがわからなくなる。
    特に読み始めは、慣れるまで戸惑ってしまった(個人の感想です)。
    登場人物も多いので、読み手の力量が少々問われる作品。

    幸せは気の持ちよう、とも思えるが、描かれている「幸せ」と「辛さ」の分量比率に差があり過ぎて、結果とても寂しい物語になっていると思う。

  • 中年男女の恋愛を描いた小説。

    出会い方などは世間の傾向を参考にしたそうだが、よく練られた構成と慎重に選択された表現で繊細なテーマについて書かれている。

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著者プロフィール

朝倉かすみ(あさくら かすみ)
1960年、北海道小樽市生まれ。小さい頃から読書に親しむ。短大卒業後はパートから契約社員になり、余暇で夏目漱石や森鴎外などを愛読。30歳で小説を書こうと思い立ち、文学の道に至る。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を、2004年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し、40歳を過ぎてデビュー。2009年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を、22019年『平場の月』で第32回山本周五郎賞を受賞。

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