しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人

著者 :
  • 光文社
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感想 : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334915285

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  • 「あれだけ警戒しながら読んだのに完全に騙された。まさか、そうくるとは。」ーー有栖川有栖

      女名探偵の死宮遊歩は迷宮牢で目を覚ます。姿を見せないゲームマスターは「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人のみが解放される」と言うが、ここにいるのは七人の男女。全員が「自分は潔白だ」と言い張るなか、一人また一人と殺害されてゆく。生きてここを出られるのは誰なのか? そしてゲームマスターの目的は?

  • 2023/05/30読了

  •  ミステリーというジャンルは、殺人事件が発生するものが圧倒的多数である。ろくでもない人間が、ろくでもない理由で人を殺す。殺人という行為をあまりにも軽く描くきらいはあるし、少なくとも「良書」とは言えないよなあ。

     と、『殺人犯 対 殺人鬼』の感想に書いたのだが、早坂吝はまたまたろくでもない作品を世に送り出した。冒頭の殺人事件から胸糞が悪いし、下劣な犯人像が腹立たしい。早坂作品と承知していなければ、壁に投げつけただろう。

     場面は飛び、迷路牢で目覚めた女名探偵を含む7人。ゲームマスター曰く、6つの未解決事件の犯人が集められたという。殺し合って生き残った1人だけを開放するというのだが、誰一人自身の犯行を認めない。もちろん女名探偵も。

     さらっと書いているが、6つの未解決事件の内容が酷い。中には現実の事件を彷彿とさせるものもある。ゲーム的な設定といい、ふざけすぎだ。クローズド・サークルのお約束として、集められた面々がどんどん死んでいくのだが、展開が雑すぎる。6人+1の人物描写は薄っぺらいし、序盤は早坂吝の意図が読めない。

     残り人数が少なくなり、いよいよ解決編という段階に至っても、益々雑になっていくではないか。根拠としては弱すぎる。迷路牢の平面図を確認するのも面倒になってくる。そんな聞いてねえ情報を唐突に出しても、辻褄合わせになっていない。

     ところが、この雑さは、構成上計算された雑さであることが、最後の最後に明らかになる。本作は、いつもの早坂吝らしいふざけた作風ながら、緻密さも持ち合わせていたのだった。帯によれば、有栖川有栖氏さえも騙されたのだ。

     というか、犯人が実はそんな症状だったなんて、わかるわけないだろうがっ! あまりにご都合主義すぎる。だが、ご都合主義を楽しむのが早坂流ミステリーなのだ。本作はまさに、曲者作家・早坂吝の神髄が詰まった作品と言えるだろう。

     正直、賞賛するのが癪な早坂吝に敬意を表し、星5つを捧げよう。

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著者プロフィール

早坂 吝(はやさか・やぶさか)
1988年、大阪府生まれ。京都大学文学部卒業。京都大学推理小説研究会出身。
2014年に『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
同作で「ミステリが読みたい! 2015年版」(早川書房)新人賞を受賞。
他の著書に『虹の歯ブラシ 上木(かみき)らいち発散』『RPGスクール』『誰も僕を裁けない』
『探偵AI(アイ)のリアル・ディープラーニング』『メーラーデーモンの戦慄』などがある。




「2019年 『双蛇密室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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