逃避行

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334924157

感想・レビュー・書評

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  • 主婦と愛犬の逃避行。

  • 2022.3.16-501

  • 犬も家族

  • 『自分の子供が罪を犯したとして、あっさり引き渡して殺させる母親がどこにいるだろう。』

    主人公は五十過ぎの主婦。無関心で冷たい夫と、自分の事しか考えていない二人の娘、
    何十年も尽くしてきた母親を気遣うこともなく、勝手な行動と言動を取るだけの家族の中で
    ゴールデンレトリーバーのポポだけが味方だった。だが、ポポは人を傷つけ死なせてしまった。
    罪を犯した犬に対し世論はヒートアップし、誰もが処分を望むが、保健所になんて渡せない。
    夫でも娘でもなく彼女が最後に信じたものは…。家族とは、幸せとは?

    人を死なせてしまった動物に対し、処分を求める意見が出るのは当然の流れだろうと思う。
    そこに至るまでの過程なんて、誰も聞いてくれない。狂暴な犬、躾の出来ない駄目な飼い主。
    それが普通の反応だろう。犬好きとしては悲しくやりきれなくもどかしかった…。
    緊張感を伴うスピーディーな展開、犬好きのツボをくすぐる切なさ。流されているようで確かに変わってゆく彼女等に驚かされる。
    後半は鬼気迫るものがあり、一気読みでした。

  • 隣の子どもを噛み殺してしまったレトリバーと主婦が家族を捨てて逃げるお話。
    追いつめられて行く感じでどんどん読み進めてしまう篠田さんの安定の文章力。
    いつもながら、色んな物事の裏と表を考えさせられるストーリーとなっています。
    私は動物は大好きだけれど、ストーリーとは関係なく、この先ペットを飼うという事はもうしないと思います。

  • こんな本のタイトルだと、若い恋人たちが二人だけの世界へ逃げていくように思うのだが、この作品は、恋人ならぬ、一匹の犬と中年主婦が世間から逃げだす話だった。

    隣の家の子供にいたずらされて、その子に跳びかかり、殺してしまったゴールデンレトリバーの「ポポ」。事件の原因は子供がいたずらをしてきたことにあるのだが、その子は死んでしまっている。当然のことながら、世間の目は「子殺しの犬」には冷たくなる。保健所へ渡すか、犬を処罰するか。
    ポポを我が子のようにかわいがる主婦妙子は、どうしてもポポを手離せなかった。

    子供たちも成長し、心が通わなくなっていた家族と話し合ってもらちがあかない。妙子の寂しさを癒してくれるポポとどうして別れることができるだだろうか。一大決心をした妙子は、真夜中に犬を連れて夫名義の預金通帳と印鑑を持ち家出をする。季節は11月の終わり。夜は冷え込んでくる。犬連れでは電車にも乗れず、寒さに震えながら走っていると、運よく荷物を運送するトラックに乗せてもらえた。テレビなどでもニュースは放映されていたため、おたずね者の「犬」はすぐにわかるが、それでも心あるドライバーたちのおかげで、妙子とポポは、東京と神奈川の県境から兵庫まで行くことができた。

    しつこいマスコミの追跡や田舎の人々の興味津津の眼にさらされながらも、一人と一匹は、誰も来たがらない関西の山奥の家を借りることができた。自給自足をしながら、ひっそりと暮らし始めたのだが・・・。

    ペットロスという言葉もあるが、この作品にはペットについての問題点が多く書かれていた。
    ペットショップで売れ残る成長した子犬たち。大型犬の扱いになれずにいたすらをしかける悪がき。
    ペットとして扱われる犬たちの背景には、自分に都合のいいように犬の一生を支配しようとする人間の姿が見え隠れする。

    命がけで飼い犬を守ろうとした妙子は、世間一般の目からみれば、「なんという飼い主だ。飼い主が悪い」ということになるのだろう。
    人間中心の社会では、犬の忠義心も道徳心も通らない。
    ペット問題も難しいなと思った。

  • ペット全盛時代に人ごとではなさそうな話です。やや現実離れしているかも知れませんが、身につまされる思いで読みました。隣の子供を殺してしまった大型ペット犬ゴールデンレトリバー・ポポを連れて、ヒッチハイクで八王子から関西へ逃げた50歳の主婦妙子。夫・長女・次女がポポを見捨てようとしたことに対し、ポポに家族の温もりを一番感じる主人公。八王子からの逃避行で出会う人たちがトラック運転手の島崎、そして娘と同年代の運転手ダイ、篠山の別荘で出会う中年の生涯孤独を主張する堤たちとの心の通い合いが暖かさを与え、この小説を救いのあるものにしてくれます。ポポと妙子が都会の普通の生活では経験できない生活を通して、次第に逞しく?変身していく姿に、現代文明への批判も感じました。しかし、ペットと共に逃避というのはやはり一寸無理があるかも知れません。ラスト近くの堤とポポの心の通い合いは美しいです。

  • さびしい。
    ハッピーエンドで終わってほしかった。

  •  ゴールデンレトリバーの愛犬・ポポが、隣の家の男の子を噛み殺してしまった。再三注意していたにも関わらず庭に忍び込みイタズラを繰り返し、ポポの鼻先で爆竹を鳴らした故の出来事だったので刑事責任は問われなかったのだが、マスコミの報道や世間では悪者はあくまでも犬と飼い主だった。夫や娘達も誰も味方になってかばってくれない、このままではポポは処分されてしまうと悟った主婦・妙子はポポを連れて逃げることを決める。

     主人公がポポを処分できない気持ちはもちろんわかる。しかしそこで、50を過ぎた仕事も無いただの主婦が旦那のヘソクリを持って犬と逃避行というのはあまりにも現実的でない。それでうまくいくなんてやはり小説か・・・と最初は思っていたのだが、そんな甘い話では決してなかった。行く先々でニュースを知る人々に追われるのは当たり前にせよ、ポポの野生化(野獣化?)に拍車がかかって悩まされる妙子。ポポの描写ではそれこそ鳥肌が立つようなショッキングなシーンもあってびっくり。本当に犬がここまで変貌するものなのか?わからないが、ポポが完全に”善”の立場で物語が進まないところが著者らしいなぁと思った。どういう着地点におさまるのかと思ったが、そこにも少し意外性あり。まさか○○○○○○○○○なんて。切ないだけでなく、現実も思い知らされるリアルな話。

  • 飼っていたゴールデンレトリバーのポポが、隣の家の子供を噛み殺した。

    以前からその子供にポポは、悪戯を受けていた、しかし、子供殺しの犬はマスコミの標的にされる。

    家族からも世間からも、ポポを守るために、妙子はどこまでも、逃げた。

    まず犬ネタにたじろいた。個人的に、まだぽちが死んだ傷が癒えていないんです私は。だから最初犬ネタと知ったとか読むのためらった。

    次に妙子が自分の親とだいたい同じくらいの年齢の人に尻込みした。

    いろいろ、やられた。
    いろいろ、読むのがつらかったが、純粋に切なくておもしろかった)^o^(

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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