- Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334928063
作品紹介・あらすじ
日本各地で猛威を振るう未知種のアゲート蜂。人間に寄生し、羽化する際に命を奪うことで人々に恐れられていた。瀬戸内海の小島でもアゲート蜂が発見され、病院で働く事務長の暁生は、娘・陽菜の体内にこの寄生蜂の幼虫が棲息していることを知る。幼虫を確実に殺す薬はない。未認可の新薬を扱っている本土の病院を教えられた暁生は、娘とともに新薬を求めて島を出ようとするが、目の前に大きな壁が立ちはだかる…。暁生親子の運命はいかに。
感想・レビュー・書評
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『華竜の宮』で私の心を鷲づかみにした上田早夕里さんの新刊。
『華竜~』は壮大なスケールの物語でしたが、この作品は規模の大きな事象を扱いつつもも身近な問題として深く考えさせられる、そんな作品でした。
人に寄生しやがては死に至らしめる毒蜂、「アゲート蜂」。
その蜂に刺されることで引き起こされる諸症状「蜂症」が蔓延した日本を舞台に、ある島で暮らす蜂症を発症した少女とその家族が新薬を求めて現実と戦う物語。
帯には「近未来バイオ・サスペンス」と書かれていますが、そういう趣はあまりありません。「蜂による感染の恐怖」よりも「人間の社会システムの脆さ」に焦点を当てているので、割と身近な問題を描いている作品だと思いました。
新種の蜂がもたらす人類絶滅の恐怖という大規模な話と、孤独死やホームレスの問題など、弱者が切り捨てられる社会の問題をうまく繋げて描いており、まるで今の現実が向かおうとしている未来への警鐘のように感じられます。
毒蜂の蔓延という割と突拍子もない設定ですが、とても現実味のある話でした。
蜂よりも、患者家族を非情な手段で追い詰めていく村綺という男の存在がとても恐ろしかったです。
村綺にも同情すべき過去があるのですが、それでもやっぱり彼のようなやり方には嫌悪感を抱きます。でも、自分もそういう立場になったら彼のような選択をしそうな気がして、そう考えるとすごくすごく怖いのです。
今こういう作品を読むと、どうしても昨年の大地震や今後起こるかもしれない大災害のことを考えてしまいます。
そういう非常事態に直面したとき、自分は果たしてどういう人間でいられるのか?そう問いかけられているような気がしました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人間に寄生し死に至らしめる新種の蜂が猛威を震うなか、娘の命を救うべく奔走する父親の姿を描いた長編小説。
虫が苦手な私、寄生虫に食い殺されるなんてもう耐え難い設定なのだが、読んでしまった。パニック要素で表面的に怖がらせるような、サスペンスホラーではなかったからだ。
未知の生物によって、次々と命が奪われていくことの恐怖と、それに伴う混乱、さらには生活の変化を余儀なくされ、やがて起こる差別、政府の暴走。危機に直面したときの世の中の脆弱な部分をあらわにし、醜さを浮き彫りにしたうえで、人間に何ができるのかを問うている。
主人公が敵対することになる相手を、一方的に悪者にせず背景を丁寧に描いているのもよかった。
それにしても、年末年始の長期休館前の図書館でまとめて借りた書籍のうちの一冊だったのだが、虫とウイルスという違いこそあれ、コロナ禍にある現実との共通点が多いことに驚いた。
コロナ第3波の真っ只中にあるこの世の中でも、人間が進むべく道を誤ることなく未知の敵を克服できる日が早く来ますように。 -
人間に刺し、体内で羽化し寄生すると言う恐ろしい鉢が日本はおろか世界にはびこり人類の危機に瀕する。刺された娘を助けるために物語が進んでいき、スリリングでホラーな展開が続くが、最後は少しあっさりした感じ。もう少し話が続いていてもよかったかも。それでも日本の医療業界や医薬品業界、政府の対応、人間の性格等の本質をついた部分が描かれていて、共感を覚える。蜂は嫌いだが、少しだけ生態に詳しくなった気がする。笑
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図書館でたまたま何か上田早夕里の本を読んでみようと手に取った作品。
何と今のコロナ禍と類似した世界を描いている事かとびっくり。
ウイルスでは無くハチではあるものの、生活様式が一変してしまう事、人間の心理、医療の問題等、現在を想起させる描写に驚くばかり。その意味でもSFとしての面目躍如、と思った。 -
いろいろと提示されるテーマにも、頷くばかり。背中がムズムズしながら楽しめました。
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サスペンス。SF。ホラー。
テンポの良いバイオサスペンス。
主人公と、AWS対策班のリーダー、二人が物語の中心。
他の登場人物もそれぞれ複雑な立場にあり、自分がこの人の立場だったら…、と考えさせられる。
今作では蜂が原因でしたが、この種のパニックは将来的な必ず発生するんでしょうね…。などと、想像が膨らむ一冊でした。 -
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65:上田さんの最新刊。蜂が人体に卵を産みつけ、その孵化に伴って産生される毒素によって人が死に、死体を食い破って新たな蜂が生まれる……という、虫が苦手な私は想像するだけで鳥肌がたつのですが、そんな「アゲート蜂」による災禍に見舞われている日本、という設定でした。蜂を殺虫剤で殺すことはできても、産み付けられた卵を殺すような薬もなく、毒素によって「蜂症」を発症することも止められず、という悲惨な状況下で、行政による有効な対策手段もないまま、日本は大混乱に陥ります。そんな中、アゲート蜂が見つかっていなかった瀬戸内の小島にも、蜂症で亡くなったと思われる人が現れ――。
アゲート蜂禍と戦う話ではなく、あくまで人と人との対立、立場の相違から来る意見のぶつかり合いを描いた骨太の物語でした。そのため、「蜂は見事に退治されました、めでたしめでたし」とすっきりした終わり方ではないのですが、「華竜の宮」のときもそうであったように、困難に立ち向かう人々の姿に胸を揺さぶられます。 -
パニックものかと思って読み始めたら、なんだよディストピア小説じゃないか。
たった一種類のハチによって人間社会が恐ろしく変貌している。
げに恐れるべきは人間。
逃げろよ逃げろ。
黒死病の流行った中世ヨーロッパもかくありなん。 -
人間を宿主とするようになり、急速に世界各地で大繁殖し始めた寄生蜂、アゲート蜂。体内で卵が孵化し体を食い破って羽化するまでの「蜂症」=AWSには有効な治療法がなく、確実に無惨な最期に至る。
医療施設も遺体を焼く施設もパンクし、蜂や患者による被害拡大を防ぐためなら射殺も合法とされる中、人々は蜂に怯え、発症を恐れることしか出来ない状況にあった。
離島ゆえにアゲート蜂の脅威から免れていた鰆見島で、ついに患者が確認される。
その中のひとりは、島内唯一の病院に勤務する暁生の愛娘だった。
治療のためには、島の封鎖にあたるAWS対策班の監視から逃れ、島を脱出し、本土の病院に辿り着かなければならない…
『華竜の宮』以来の大好きな作家、上田早夕里さん。
彼女の作品には、ヒトに害を為すものは悪という考え方とは対極にある、生あるものへの等しい愛情が流れていると感じる。
己が生きるために他者を食べる/殺す事を受け入れる。けれど、人間の愛情、弱さ、利害に囚われる事からも目を背けない。
ちょっと似た設定の物語はたくさんあるけれど、主役が圧倒的にいいヒトで、人類の勝利〜とか悪い為政者を倒した〜とか、そんな決着じゃないところが、良かった。