踊る猫

著者 :
  • 光文社
3.64
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本棚登録 : 312
感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928537

作品紹介・あらすじ

夢か、うつつか、物の怪か。俳人・与謝蕪村が垣間見た妖しの世界。心にそっとあかりを灯す珠玉の連作短編。第3回小説宝石新人賞作家、待望のデビュー作(受賞作「梅と鴬」収録)。

感想・レビュー・書評

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  • 「わたしも人の親になってわかったりもしたんですけど、初めは心から可愛い、愛しいと思って抱きしめたり支えていたもんも、次第にその重みが、じわりとのしかかってくる。すると愛しいのには変わりがないけれども、その重みをちょっと負担に思ってくることもあるやないですか」

    淡々と語られるちょっと不思議なお話に戸惑いつつ読みすすめる。
    それが何時の間にかジンワリと染み込んできていた。
    堅物岩次郎さんの肩からふっと力が抜ける瞬間。
    厳しい環境に生きながらも真っ直ぐな新吉の視線。
    ゆきの初恋の息苦しさと切なさ。
    お駒の気丈さ。
    ただ、どれも最後はほんわかと暖かさが残る。
    お咲の話なんて読後にぼんやりしちゃった。
    つい読み直して時間をかけてしまった本。

    「梅と鶯」は色彩が鮮やかで、お話の悲しさが対象的。
    読後の余韻に今でも浸ってるところ。

  • 「好々爺蕪村が聴く不思議ばなし。」

    京の町で俳句を詠み絵筆を取っていた与謝蕪村が、遊女や職人、貸本屋など出会った人々から聴いた世にも不思議な物語。表題作「踊る猫」ほか「かわたろ」「月兎」「鉦叩き」「雪」「夜の鶴」「鳶と烏」「雨宿り」「梨の花」「梅と鶯」収録。

     「あと一冊、何かないかな」―図書館で、最後に借りようと手にした一冊は、踊る猫と無数の不思議な生き物たちがデザインされた意表を突く装丁だった。ノーマークで借りたこの一冊が読んでみたら思いの外良い。こういう、本との偶然の出会いは嬉しいものだ。

     俳人で画家である与謝蕪村が人生の酸いも甘いも味わった好々爺として登場し、縁あって話を聞く事になった人々の不可思議な体験が半ばファンタジックに語られていく。河童や雪女、狐などお馴染みの伝説のキャラクターが絡むものの他、いずれも人ならぬ何物か、スピリチュアルなものを語っているのだが、決して現実離れせず、時代小説らしく結末はほろりとさせられるような人情話としてまとまっている。実在の人物であった蕪村を定点に置き、彼の俳句や絵のエピソードなどが自然に織り込まれていることも効果を上げているように思う。

     お気に入りは表題作の「踊る猫」。幼いころから絵を描くことが好きだった呉服屋の職人・岩次郎の絵を描くことを通じての蕪村との邂逅を描く。生真面目でより写実的にかっちりものを描くことに拘る岩次郎に、心に余白を持って絵を描くことを伝えるため「猫を踊らせる」蕪村の人間の大きさに岩次郎ともども感じ入る。この岩次郎こそは、後に江戸時代を代表する絵師として幽霊画などで歴史に名を残すことになるアノひと―なんていうオチも楽しい。

     最終話「梅と鶯」は唯一蕪村は絡まない単独の小品。植木職人の宗七が人里離れた山奥で見かけた梅見を楽しむ若侍とその妻。一幅の画を思わせる美しく幸せなこの若夫婦を襲った悲劇。映画「ゴーストーニューヨークの幻」を思い出す。そのベタなせつなさには泣かされる。第三回小説宝石新人賞受賞作の名に恥じない逸品。

  • ジャケットに惹かれて、購入。
    しかも、続編『笑う狐』も一緒にー。私としては、久々な買い方。

    与謝蕪村を軸として、物の怪がすっと日常に忍び込む、連作短編集。
    面白い、けれど、ぐっと引き込まれるまでにもう一息の空気感が欲しいな、と思った。

    短編の一話一話は短くて、中でも「雪」と「梅と鶯」の二つにはぐっときた。
    人が人を想いながら、しかし、世界を隔たってしまった者の哀しさがとても上手く書けているなぁ。

    この作品がデビューということで、次作は更にこの世界観に磨きがかかっているだろうか、とワクワクしている。

  • 与謝蕪村が見聞きする不思議な出来事の数々。連作短編、和風、幻想奇譚、ということで、「家森綺譚」「蟲師」などが好きな人にもおすすめ。表紙のイラストがかわいい!

  • 俳人・蕪村が登場する連作短篇9作と、新人賞を受賞した短篇「梅と鶯(うぐいす)」で構成されています。歴史への造詣はサッパリな私ゆえ、最初は江戸の庶民である登場人物たちのあたたかいやり取りも傍観者的に楽しんでいただけですが、ページを進むごとにその魅力的な世界に引き込まれ、最後は完全にその中に入り込んでしまいました。
    物語は、人間ならぬモノノケがまだまだ生活のすぐ近くで跋扈(ばっこ)していた時代が舞台。各短篇では、河童やら、山の神やら、雪女やらが登場します。それと人間である蕪村や他の登場人物の触れ合いの、やさしくも面白いことといったらありません。読後感も、ほんわかとあたたかいものに包まれるような心地良さでした。特に最後に収録されている「梅と鶯」は、他と異なり蕪村が登場しない独立した作品なのですが、最後には思わず目頭が熱くなってしまいました。
    実はこの本、猫やムーミン的なモノがほのぼのと踊る表紙につられて手にしました。それが、これほと心に響く存在になろうとは。こんなめぐり合いがあるから、本はやめられません。余韻に浸りつつ、著者である折口真喜子の次回作も楽しみに待とうと思います。

  • 与謝蕪村を主人公に据えた短編と、作者デビュー作の幽霊の話(怪異譚というよりは。もっと良い言い方はないものか)の複合短編本。
    私の知識不足にて、蕪村がどんな人なのか、作品がどんなものかすらほとんど知らないのですが(ひねもすのたりの句くらいしか知らない…)話自体は知識がなくても大丈夫です。

    非常に雰囲気の良い本です。読んでいて気分が良い。
    おそらくは人の描き方なのではないでしょうか。
    決して幸せな話ばかりではないのですが、それでいてじめじめとしていない。
    からりとしている、というのとはまた違いますが。
    面白い本でした。

  • ジュンク堂(池袋)にて購入

    ああ、久しぶりに良い作品を読んだな~~。
    与謝蕪村がストーリーテーラーとして登場する。
    幻想的怪奇物・・・というには、柔らかで懐の深さを感じさせる作品。

    幻想的怪奇物というと、時代背景が中世を思い浮かべるが、これは近世。
    近世であるから、町人が生き生きと活動しているのが感じられる。
    連作の短編集であるが、どの話も実によくできていて
    しみじみと優しく、温かである。

    表紙がかわいらしく、好みだったので、楽しみに読まずにとっておいたもの。

    10冊ほどあった未読本も読了してしまって、とうとうこの本を手にとることに。
    一気に読み進めてしまうのが勿体ないので、途中 買い物へ行ったり
    調べものをしたりして、インターバルをおきながら読み進めたのだが
    やはり1日で読み終えてしまう。

    しみじみ、よかったなと思える本だったので
    本好きの知人に薦めようと思う。

  • 俳人・与謝蕪村が旅をし色々な情景を詠む連作短編。
    第3回小説宝石新人賞受賞作「梅と鴬」収録。

    本書がデビュー作だそうです。
    不思議なことも織り交ぜつつ静かに流れていく話。与謝蕪村が穏やかに受け止めているからかな。連作短編の中では「夜の鶴」が好き。
    一番良かったのは「梅と鴬」。展開が珍しいものではないけれど、すごく沁みた。

  • 何も知らないではじめの話を読んで、最後に蕪村って書かれているのを見て、ヤラレター、すごい❗️と思った。

    猫が蕪村にすり寄ってる感じがカワイイ。

    新吉のクリの話が泣ける。

    あの子は優しいから、あんな気持ちのいい晴れた昼間に逝ってしまったんですわ。

    お駒はこの絵を忘れないように、しっかりと目に焼きつけた。

    ぷーん、て飛ばしてやってん。こんなん毎日出るわ!

    梅と鶯、最後に嬉しくて爽やかでほっとした!

    全体的にほどほどに読みやすく、でもものあるたりないほどではなくて、丁寧に書かれていて、情景が目に浮かびやすい素敵な作家。
    特に動物系がかわいく思える?

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