- 光文社 (2013年4月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (340ページ) / ISBN・EAN: 9784334928780
感想・レビュー・書評
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ただ文字を追うだけで、
こんなに歯をくいしばったり、
全身に力が入ったりするとは
思ってもみませんでした。
江戸から明治にかけての太地鯨組の物語。
小山とも思える大きな鯨に対峙するのは
一艘に十数人が乗る小さな船の船団。
総勢200~300名で行う捕鯨は
結束なくしては命にかかわる。
そこはまさに命と命がぶつかり合う死闘。
その上自然も読み間違えれば敵となる。
でも物語はそれだけではない。
女子供や年寄まで捕鯨の何かに携わっている地であり、
そこの生まれの人々だけでは手が足りず、
他所からの出稼者も受けて入れていく地でもある。
生活を保証するかわりに、
鉄壁の『掟』を守らねばならない。
大勢を束ねるときに必要な様々な掟に縛られた生活に
欲を出すもの、違和感を持つもの、普通にできないものたちは
太地にはいられなくなっていく。
覚悟がないと、生きていけない地。
その覚悟が色々な角度から突きつけられる6編で
最後まで気が抜けませんでした。
伊東潤さん、初めて読みました。
クジラ好きとしては…最期の絶叫など耳を塞ぎたくなるし
血生臭さまで伝わってくるし
体に力が入ってしまうほどの緊迫した文章に
たじろぎましたが…
ズシンと胸に響きました。
加工した肉を何の迷いもなく食べている時代に生まれつき
「いただきます」の意味が薄れてたなぁと。
何かの命で日々紡がれている私の命。
しっかり生きなきゃなぁと思い直す一冊です。 -
伊東潤さんの本はこれ以前にも直木賞候補になっていたけれど、伊東潤という作家を知らなかった。
新聞等で彼の名前を目にすることもあったけれど、歴史小説作家ということで完全にノーマークでした。
この本もタイトル、装丁ともに、全く感じるものがなかった…(失礼なことを言っていますね…、ごめんなさい!)
そんな私がこの本を手にしたきっかけは、日経新聞(国際版)の『プロムナード』に掲載されている伊東潤さんのエッセイを読んだこと。
そこで「巨鯨の海」が第1回高校生直木賞を受賞したことを知りました。
高校生直木賞は、第149回、150回直木賞候補12作品の中から、麻布高(東京)・盛岡四高(岩手)・磐田南高(静岡)・筑紫女学園高(福岡)の4校で行われた予選を通過した6作品の中から、各校2名の代表が議論し、決定したもの。
予選を通過した6作品は、【巨鯨の海】・【王になろうとした男】(伊東潤著)、【ジヴェルニーの食卓】(原田マハ著)、【望郷】(湊かなえ著)、【恋歌】(朝井まかて著)、【あとかた】(千早茜著)。
著者である伊東さん自身が「自分の作品は歴史小説ということもあって、五十代以上じゃないと楽しめないと思ってきた。」
「昭和の小説の臭いを濃厚に漂わせた大人向けの作品が高校生に評価されるとは思ってもみなかった」と。
フランスで最も権威のある文学賞「ゴングール賞」を高校生に選ばせたらどうなる?という発想から生まれた「高校生ゴングール賞」
フランスではテレビで生放送されるぐらいの人気だとか。
高校生直木賞はその「高校生ゴングール賞」を参考にして開催された。
そんなことを知ると、この高校生直木賞受賞作を読んでみたくなるというもの~(笑)
で、読んでみたら、面白い!!
舞台は江戸中期から明治にかけての和歌山県太地。
捕鯨によって生きている村。
鯨をしとめるために生まれた組織捕鯨。
それは捕鯨で生きる人々の命を守るためである一方、どんなときにも揺るがない掟をも生み出した。
その掟の下、命をかけて鯨と向き合う男たち。
そんな村に寄せる時代の波…
伊東潤さんの他の作品も読んでみたい!!-
面白い本を紹介してもらえました。有難うございます。azu-azumyの言われるように伊藤潤さんの他の作品も読んでみたいと思いました。これから...面白い本を紹介してもらえました。有難うございます。azu-azumyの言われるように伊藤潤さんの他の作品も読んでみたいと思いました。これからも面白い本を教えて下さい。2014/10/12 -
フッタさん、コメントありがとうございます♪
伊東潤さんの本は初めてだったのですが、面白かったです!
こちらこそ、また面白い本を教えてくだ...フッタさん、コメントありがとうございます♪
伊東潤さんの本は初めてだったのですが、面白かったです!
こちらこそ、また面白い本を教えてくださいね。2014/10/30
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ご縁をいただき、講演会の講師をお願いすることになったため、その前に著作を呼んでおこうと思い手に取りました。
第一印象は、とても緻密な物語だ、と感じました。
綿密な取材や調査を行って書かれているのだと思いますが、鯨を獲るまでの漁の流れや、それぞれの場面で、各々の立場からどのように鯨にアプローチをするのか、またその時の感情はどのようなものなのか、というところがとてもリアルにえがかれているように感じます。
和歌山県太地で行われていた捕鯨(網掛けと銛打ちによる古式捕鯨)を題材とした小説ですが、「鯨を獲る」ということが、金儲けだけではなく(もちろんその要素は多分にありますが)、自然・鯨という大きな脅威に対して正々堂々と立ち向かうことや、その仕事に村を上げて従事することへの誇りなども感じられ、捕鯨がひとつの「文化」であるということが著者のメッセージなのかな、とも思います。
捕鯨が生活の中心である太地という場所で、鯨とのかかわり方(沖合でクジラ漁をするか/内池で獲った鯨の処理にあたるか,銛打ちをする船に乗っているか/網打ちや補給のための船に乗るか,銛を打つ「刃刺」かどうか…)で発言力や地位が固定化し、その階級にしばられながら過ごす太地の人々。
本作はそれぞれ時代が異なる6つの中編から成る作品です。
「鯨」という大自然を象徴する「敵」と相対することで自覚させられる人間の矮小さを自覚させられつつも、自らの置かれた環境の中で真摯に、ひたむきに生きようとする主人公たちの姿に、「ロマン」を感じる小説だったと思います。 -
久しぶりにしっかり読める小説を読んだ気がします。短編と言えないほどそれぞれの物語が濃く、それぞれ読後感が残ります。ダイナミックな捕鯨の様子、目の前の海面から鯨が飛び出してきそうな迫力、とても読み応えがあります。
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母からの借り物。
2013年度上半期、直木賞候補作。
江戸時代、一種治外法権的な扱いを受けるほど富を得ていた太地という漁村の、古式捕鯨にまつわる短編集。
鯨の持つ知恵と身体、そして人間の持つ知恵と身体がぶつかり合う様はダイナミックで、生々しい。
捕るものと、捕られるものという対比関係にありながら、両者が拠り所とするのは家族という情であることに変わりない。
その情を絶たれた時、鯨も人も荒れ狂い、尋常ならざる力で場を乱すのだと感じた。
また、組織捕鯨の見事さと危うさもよく描かれている。良くも悪くも、男臭が隅々まで滲んでいる作品である。 -
和歌山県の太地古式捕鯨を描いた短篇集。
6話の短編はそれぞれ独立していて連作短編ではないのが今どきの短篇集としてはかえって新鮮な一冊。
太地の古式捕鯨は、船一艘一艘にそれぞれ役目が有りそのチームワークで鯨に挑む命がけの猟法。
捕鯨から解体までの職種の一つを取り上げ一冊読むと太地古式捕鯨の全貌を描く。
「大背美流れ」を描いた最終話は衝撃的だが、冒頭とは予想外の展開をする「決別の時」が良かった。 -
う〜ん。なぜ直木賞を逃したのかが解らない。ぼくは本作の方が数段楽しめた。治外法権的閉鎖社会の厳しい掟のなかで生きる人々の、強く、勇ましく、悲しい話。巨鯨と荒れ狂う海での命がけの攻防。海で戦う男たちを支える、裏方の男たちの複雑な気持ち、息子、夫、恋人に寄せる女たちのさまざまな思い、時代とともに変化する生活環境。この一冊に込められたメッセージはあまりにも多義にわたり、強烈に心を揺さぶりました。重厚で骨太な小説です。
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怠さん、はじめまして。なにぬねのんと申します。
レビューの内容が正にその通り!と思ってしまい、思わずコメントさせていただきました。本を...怠さん、はじめまして。なにぬねのんと申します。
レビューの内容が正にその通り!と思ってしまい、思わずコメントさせていただきました。本を読んでこんなに肩が凝るほど力が入ったのは、すごく久しぶりです。
それと、この本とは関係ありませんが…
怠さんのプロフィールが
私の現状と全く一緒だったもので…
フォローさせていただきます。
これからもなぜか順番悪く、
自分に割当が来るときが読み切れない程
複数となってしまうタイミング最悪!
の図書館予約本と格闘しながら、
面白いレビューで良本を教えてください。
宜しくお願い致します。2014/04/19
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鯨取り
短編 -
江戸から明治にかけて熊野の太地で厳しい掟の中、捕鯨に命をかける男たちを描いた6編。
辛いお話が多かった。 -
武士ではなく、漁師が主役の時代小説というのもなかなか面白かったです。人間たちの葛藤はもちろんですが、鯨の方のからの視点も伝わってくる作者の構想力と筆力は感服しました。
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古式捕鯨の話。状況描写/心理描写とも分かりやすい。クジラが可哀想なので捕鯨反対という意見はごもっとも、と思えるようになる。
敢えて読むべき本かというとそこまでではないかな。。 -
江戸時代から明治時代まで続いた日本の古式捕鯨。紀伊の国太地を舞台、6編の短編が綴られる。第149回直木三十五賞(2013.07.17発表)候補作品。残念ながら受賞とはならなかった。
「和を乱せば、死。江戸時代、究極の職業集団「鯨組」が辿る狂おしき運命!
仲間との信頼関係が崩れると即、死が待ち受ける危険な漁法、組織捕鯨。それゆえ、村には厳しい掟が存在した──。
流れ者、己の生き方に苦悩する者、異端者など、江戸から明治へ、漁村で繰り広げられる劇的な人生を描いた圧巻の物語。」
<目次>
旅刃刺の仁吉
恨み鯨
物言わぬ海
比丘尼殺し
訣別の時
弥惣平の鐘
<古式捕鯨>
刃刺(はざし):鯨に銛(もり)を打ち込む勢子船の頭
刺水主:刃刺の補助役、銛を渡す。
水主:水夫。8人体制
艫押(ともおし):舵である艫艪(ともろ)を受け持つ
取付:雑用係り。脇艪を受け持つ。
炊夫(かしき):炊事係
勢子船:捕鯨船のこと
持双船
樽船
補助船
総勢200−300人になる。
<内容>
旅刃刺の仁吉
恨み鯨
物言わぬ海:子ども5人が漂流する話
比丘尼殺し
訣別の時
弥惣平の鐘:幕末よりアメリカ船の捕鯨が盛んになり、鯨が採れにくくなっていた。明治時代になり、鯨を深追いし、黒潮に流され135人が亡くなった。太地の鯨漁が取りやめになった。
2013.08.11 読書開始
2013.08.15 読了 -
和歌山県太地町を舞台に、古式捕鯨で生計を立てる漁師や漁村の人々を描いた作品。読み進めていくうちに、古式捕鯨の世界観に取り込まれてしまった。伝統的な古式捕鯨は明治を最後に途絶えたみたいだけど、今に伝わる捕鯨もこの本に書かれたような村総出で行う鯨組があったからこその伝統かと思う。
この本を読むと、日本の小さな村に外国の人が押し寄せて、捕鯨についてあーだこーだ言うのはいいが、無理やりやめさせられる筋合いや権利はないんじゃないかと思ってしまう。
短編6編が収められそれぞれに時代、登場人物が違う。 -
すごい。興味が出てくる。最初は読むのがきついが、なれるとかなり面白い。これこそ小説!
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2017.05.12
初めての著者。山本一力さんの本を思い出しながら読んだ。生々しさや厳しさ、そして鯨への感謝が強く描かれている感じがした。またこの著者の本を読んでみよう。 -
2014年の作品。発刊当時、本の雑誌で目黒考二が絶賛していたのを覚えていて、いつか読みたい本のリストに入っていた一冊。たまたま図書館で見つけたので読了。江戸時代〜明治初期、船と銛で文字通り命を賭けて鯨をとった太地の人々を描いた短篇集。
命懸けの漁を行うために厳格な掟を持った閉鎖社会に生きる人々の悲哀が、迫力満点に描かれる古式捕鯨の様子とあいまって描かれており、一気に読ませる。なかでも最終話「弥惣平の鐘」は、短篇冒険小説としても優れた一篇で、ラストも印象的。 -
国芳の鯨の絵に惹かれて。鯨漁の町、太地で生きる男たちの短編集。辛い話、きつい話が多く、短いのにどの話もずしんとくる。命懸けの鯨漁。藩主も見て見ぬ振りをする太地の厳しい掟が恐ろしい。続編も読みたい。
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短編夫々の主人公のその後が知りたくなる。重厚かつ熱い短編集。
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捕鯨の町の人々を描く。捕鯨だけでなく、捕鯨の仕事や暮らしまでリアルに描かれている。
著者プロフィール
伊東潤の作品

鯨との戦い、生活する人々の人間模様、時代の移り変わりを重層的に描写していて、読み応えがありますよね...
鯨との戦い、生活する人々の人間模様、時代の移り変わりを重層的に描写していて、読み応えがありますよね。
なにぬねのんさんは、クジラが好きなようですから、尚更のめり込んだことでしょうね。
国際状況や現代的価値観では受け入れられないことなのだろうけれど、文化を保護するという意味において、無理してクジラ漁を禁止しなくても良いのでは、と思ってしまった。まあ、賑々しく漁に出る必要もないのだろうけれど。