海賊女王(上)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928926

感想・レビュー・書評

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  • 「幸せな、光と影の幸せな主従関係 」

    16世紀末のアイルランド。族長が割拠するこの地はイングランドより派遣された総督によって支配され、事実上その属国となっていた。オマリーの族長の娘として生まれた男勝りで奔放なグローニャは、海を征してクランを守りゲーリック・アイリッシュの誇りを貫くべく、男たちを率いて闘う。

     女海賊とよばれたグラニュエル・オマリー、通称グローニャの15歳から60歳越えまでの文字通り波乱の生涯が描かれるのだか、一人の女の人生の物語というよりは、やはりハードボイルド海洋時代劇といったほうが合っているかもしれない。そんな本書の読みどころは、支配されるアイルランドの女海賊グローニャと、彼女と同い年で支配する側であったイングランドのエリザベス、2人の女王の対比だろう。

     赤毛をなびかせ、日焼けした肌、男同様のなりで、話す言葉も男そのもの、目的のためには時として妖艶な美しさを見せる自身の「女」さえ武器とすることを厭わないグローニャ。海で鍛えられ女にしてはマッチョなボディの持主でもあったらしい。

     対する皆川さんの描くエリザベスが強烈だ。晩年の肖像画そのままに、ひびも入らんかというほど異常に白く塗られた顔。鬘と豪華なドレスの中身は髪も歯も抜けた「萎びたババア」。だがイングランド女王の地位故に、若く美しい愛人たちを抱え齢60を越えてその閨房が寂れることはない。権謀術数渦巻く宮廷で独り女を引きずって生きる老女は、滑稽で時に痛ましくさえある。

     だが、2人のもっとも大きな違いは信頼するに足る主従関係に恵まれたかどうかである。この物語は15歳のグローニャの従者として召し抱えられることになったアランという男の視点から語られていく。彼は自身も弟・ロイの失踪という謎を抱えながら、常にグローニャの側にあって、さながら光に対する影のごとく彼女を見守り、支えていく。彼女が嫁ごうが、母になろうが、何人の男に抱かれようが、アランにとってはその全てをひっくるめてがグローニャなのであり、人生をかけて守るべき人となった。例えるなら「ベルサイユのばら」のオスカルとアンドレの関係にちょっと似てるかな。

     自分のことを深く理解してくれる人がそばに居てくれるというのは、どんなにか心強いことだろう。なおそこに信頼関係があれば、怖いものなど無いのではないか。家族を捨てても共に再び還ることのない最後の闘いへ向かったアランとグローニャの後ろ姿に、幸福な主従関係を見た。それは、幾人の愛人をベッドに迎えても、もう一人の女王が決して手に入れられなかったものであったに違いない。

  • 先日はじめて皆川博子を知り、その直後に読んだ、栩木伸明さんのアイルランド本にこの本についての言及があったので読んでみた。
    皆川さんの文、まだあまり慣れないのだけど、ケレン味や飾り気がなくて読みやすい。
    あまりに話がスパスパ進むのでちょっと驚く。
    感情についての説明はさらっとしていて、情緒にうったえすぎたりせず、読者に思いを増加させるスペース(溜め)もないので、おおごとが起こるけど、なんだか冷静に読めるタイプの書き方。

    本書はアイルランドに実在した海賊の女首領と、エリザベス女王との対決の話。2人は奇しくも同じ年齢。
    上巻は海賊女王のグローニャが少女のころから始まる。
    謎の経緯で従者になったアラン青年の目を通して描かれる。
    なんか青年誌のマンガを小説にしたようなかんじ。
    とにかく登場人物が多くて、ストーリーもこまかいので、必死についていくしかない。
    こまかく、長く、ドラマもりもりで、大河ドラマのようでもある。
    とはいえ、上巻の中盤まではけっこう退屈で読み進むのがきつかったが、だんだん面白くなってきた。

    以下は上巻を読み終わった時点での感想&ネタバレですが、
    まず、弟の存在。
    上巻の中盤でアッサリ死んでいるとわかって驚く。
    その状況は確かに可哀想なんだけど、死体もないし、本当に死んでるのかな。最後の最後に敵として出てくるような展開を期待してしまった。
    下巻に期待。

    ハードカバーの505ページ。これ名前間違ってないか。
    クールミーンじゃなくて、ガルでしょ。
    クールミーンはオウエンを護衛して帰っていったから、ここにいないんじゃないの。

    役に立つようで立たない男、うまく書くなあと笑った。
    この作品でいえばブローナン。

    オシーンが私のアイドル。
    たぶんスキンヘッドのイカついオッサンなのだけど、頼りになるし、頭もいい。下巻で彼が死んだらすごく辛いと思う。
    しかし、オシーンもアランも、オシーンの娘も、グローニャの結婚に従って住む場所も移動してずっとそこにいるんだなー。大変だ。当たり前といえばそうだけど、主従関係はけっこう縛りが大きい。
    特にオシーンの娘は故郷とも、主人とも父親とも離れて、1人、乳母業のために他国に残るのがかわいそう。
    彼女が自分の人生を諦めて乳母をやることになる、と明言されているのがまだしも救いだが。

    グローニャもまた、妊娠や出産を抱えつつのハードな海賊業、好きでもない夫を一応たてて、姑と侍女に育児は任せっきりなのでその負い目も常に抱えている。
    こんな時代にも、こんなパワフルな女性でも、やはり女性であることで面倒がいっぱいあって心底泣けてくる。はあー。
    下巻のラストには、グローニャのブローナンへの態度が完全に昔の男(うざい)になっていて笑った。
    ハウのやってることは、アンパンマンに新キャラが出たときのバイキンマンを彷彿とさせるし。

    ところで、皆川さん、主従萌えが強すぎんか。

  • 2014.09.スコットランドの高地民のアランとロイの兄妹は戦士としてアイルランドに雇われた.アランは賭けに負けグローニャの従者となり,ロイはドナルの元へ行った.グローニャは,ドナルと結婚することになるが,グローニャは海でアラン達とともに海で狩りにいそしみ,ドナルは近隣のクランであるジョイスと陸で戦っていた.ロイは,ドナルと従者のダーモットに残忍に殺されたことが分かり,アランがダーモットを殺す.イングランドのハウがやってきて,マクナリーとコンロイの2つのクランをまとめるが,ドゥダラとグローニャのオマリーは拒否する.やがて,ハウが裏切りイングランドが攻めてきた.イングランドとの戦いの中でアランとドナルがロイの件で戦うことになるが,アランが敵にやられていると勘違いし,グローニャがドナルへ矢を撃ち殺してしまう.面白いが,何しろ長いし登場人物も多いので時々分からなくなる.

  •  タイトルから「海賊☆王女☆胸キュン」な展開を想像してはいけない。ごめんなさい。私だけかもしれないけど、想像以上に少女マンガじゃなかった。
     しかし面白い。
     いわゆる私掠船の時代のお話。

     エリザベス女王の時代や、ゲール萌えなら読んだほうがよい。

     ……でもこれ、上巻でコレでしょ? 下巻どうなるんだろ。

  • 下巻にまとめて。

  • エリザベス一世時代のイギリス・アイルランドを舞台に繰り広げられる、壮大な物語。実在した「海賊女王」グラニュエル・オマリーとその従者・アランの生涯が描かれます。
    グローニャ、とにかくかっこいいったら! でも彼女を信頼・尊敬して従う「グローニャの男たち」の姿もかっこいい。戦場の戦闘シーンの描写も生々しく、情景が目に浮かびます。まさしく血沸き肉躍る冒険活劇。
    一方で、それぞれの人間関係の描写の濃密さも読みどころです。登場人物がなかなかに膨大ではあったけれど、その繋がりも読み進めるうちに把握できてくるし。人と人との愛情や憎しみ、騙しあいや思いやり、そして出会いや別れ。はらはらしたりどきどきしたり、あるいは切なさに胸を打たれたり。どの人物も、印象に残ります。
    そして最後はやけにあっさりとした印象があるけれど。だからこそすっきりとした読後感なのかも。

  • 紀伊國屋書店のサイン会でサインしてもらった!
    美しい世界を紡ぐに違わぬ素敵な方でした。
    初めてお会いするのに舞い上がっちゃってさ、言葉交わすのにドキドキしちゃってさ、握手してもらうのにキュンってなっちゃってさ、これって恋じゃない?

  • 「海賊女王」という字面だけ見て、思わず別のSF作品の二人を思い出してしまったけれど、本の厚さから読み応えを期待する。
     上巻を読み終えて一番気になった登場人物がロバート・セシルという、初代ソールズベリー伯の生涯のほうが気になってから物語が始まったので、なんだか申し訳ない。
     面白いは面白い。

  • アイルランドの海賊女王グラニュエル・オマリーのお話。
    彼女の従者アラン・ジョスリンからみた彼女のお話かな。
    小さなお転婆少女グローニャが、魅力的な海賊女王になっていく。
    初めのほうはイングランド女王エリザベスのお話。
    下巻では二人が会うのかどうなるのか…。

    最近将国のアルタイルにはまっているからか、グローニャがニキちゃんのイメージ。

  • 海賊女王(上)

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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