神様のケーキを頬ばるまで

著者 :
  • 光文社
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本棚登録 : 934
レビュー : 132
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929282

感想・レビュー・書評

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  • 錦糸町の雑居ビルを舞台に、マッサージ店を営むシングルマザー、喘息を患うチェーン系カフェの店長、古本屋でバイトするミュージシャン、エリートに恋するアプリ会社のOL、人気カフェの共同経営者とケンカ別れした無職の女性…心にいびつなものを抱えながら不器用に生きる日々を切り取った連作短編集。
    そこはさわられたくないと思う心の傷、多少なりとも誰でも抱えているのではないだろうか。いつも彩瀬さんは、そんなデリケートな部分を敢えて触れてくる。だけど触れられることによって、凝り固まった痛みは少しずつほぐれてくる。
    短編の主役達は、皆どこか頑なだ。向き合う相手に対する思いに、己のエゴ、或いは劣等感のようなものが絡まってがんじがらめになる。必死になればなるほど自らを追い詰め、うまくいかなくなる。そうやってもがき苦しみながら、自分なりに踏み出す一歩のタイミングを見定めて、悩みつつも結論を出す彼ら。読後はあたたかいものが胸に溢れてきた。
    各短編に必ず登場するのが、ウツミマコト監督の「深海魚」という映画。独特な作風のこの作品をそれぞれの登場人物がどう捉えるか…バロメーターのような役割をしているのが面白いなと思った。
    決して明るい話ではないけれど、どの短編も読みこむほどにじわじわと沁みてきて好きだ。でも敢えて選ぶなら、ネット発の若いミュージシャンに井伏鱒二の「山椒魚」のエピソードを絡めてきた「龍を見送る」、人気カフェの経営から外され、無気力な日々からの再生を描いた最終話「塔は崩れ、食事は止まず」がお気に入り。そして各短編に登場する、物語のキーとなる脇役達もそれぞれに魅力的。彼らにも、主役に負けず劣らずの様々な背景があるのだろう…そんな奥行きの深さが感じられる。いい意味で皆、一筋縄じゃいかないのだ。
    自分のみっともなさを認めてしまえば、曇っていた目に今まで気づかなかった風景が映る。傷はすっかり癒えなくても、いつかきっと笑えるようになる。彩瀬さんの作品は、いつもそんなことを信じさせてくれる。

  • この作家、彩瀬まるさん。懐がものすごく深い気がします。

    いろんな年代の、それも性別も違う登場人物が
    あたかも自分のいる隣のビルに本当にいそうに感じる不思議。
    なんでこんなに色々なことを知ってらっしゃるのか。
    彩瀬さんの人間力、どんどん好きになっていきます。

    東京の錦糸町にある雑居ビルと、ある人物に関係する人々の連作短編集。

    仕事場でのちょっとした知り合いや、もっと関係の深い友達。
    その人が見せてくるいつもこちらが見られている面を通り越し
    見ているようで見せてもらっていない、
    いや見たいとこちらが思っていないから、見られていない面に
    スポットをいつも当てている気がします。

    相手と一緒に時間を共有すれば、
    色々なものが変化して、相手との関係性も変化していく。
    いい方向でも、悪い方向でも、
    変化は毎日続き、接近してみたり、離れてみたり。

    時と共に同じ場所に留まれないから少しずつ先に進んでいく。

    他の人には鼻で笑われるような変化でも、自分で愛おしく思っていいんだ
    と思える一冊です。

    しおりさんの『ウツボのフィギュア』
    天音さんが作った『パンケーキ』
    どちらも、ものすごく欲しい~。
    絶対的なもの、私も探そうっと。

  • 綾瀬まるさんの本は2冊目ですが、この本も良かった~!

    歌舞伎町のとある雑居ビルに関わる人々を描いた短編集。
    マッサージ店を営む女性。
    カフェの店長。
    古書店のアルバイト。
    アプリ開発会社の女性社員。
    雑居ビルの向かいに住む女性。
    それぞれが生き方に悩み、模索中。

    心に残る言葉がちりばめられている。
    「目にしていて、それでも見えないもの」
    「誰にも嫌われないのはいい作品じゃなくて、どうでもいい作品。強く主張するものが無くて、意識に残らないから嫌われない」
    「全部出し切った人の背中は、負けても光って見える」

    綾瀬まるさんの他の本も読んでみたい!

  • タイトルに惹かれて手に取った本。
    「神様のケーキ」という言葉からは何故か美味しそうなケーキは想像出来なくて、もっと抽象的な安らぎのようなものを思い浮かべた。
    毎日オンオフのスイッチを入れては切って、ゴムみたいにブチっと切れそうになりながらなんとか生きている。
    そんな人達の心の揺れを自分の身に置き換えながらどうして切れずにいられるのか。どうしてまた笑えるようになるのか。そんなことを考えていた。

    毎日毎日正解のない問いを投げかける。
    どうすべきだったのか?
    どうしたいのか?
    何を求められているのか?
    あの言葉の真意は?
    そして、全ての問に対して「分からない」と繰り返す。
    「分からない」と繰り返しながら、でもどうにかしなきゃと手を伸ばす。
    その手を握りかえしてくれる手を見つけたり、その手に何かを掴んだと思えた時に感じる喜びがもしかしたら「神様のケーキ」なのではなかろうか。
    その瞬間があるから生きていけるように思う。

  •  誰にでも経験があると思う。恋愛や友情、自分が大切にしてきたものを、突然失ってしまったり手放してしまわなければいけなかったり。
     そういう瞬間に、絶望感に打ちひしがれて空っぽになって、それからまた、希望というほど大したことはない動機で自然と立ち上がる。そんな物語の詰まった連作短編集。舞台は東京・錦糸町。

     最初の一話「泥雪」に出てくる、主人公が購入する絵画は、雪景色のような花吹雪のような白く抽象的な絵画で、その白い純潔なさまに心惹かれる人もいれば、殺風景で「暗い」と表現する人もいる。
     その作家がのちに撮った映画「人魚姫」が、連作通して随所で出てくるのだが、こちらも評価する人によって好悪がはっきりと分かれている。
     「泥雪」の主人公は、その映画を見たことをきっかけに、自分の購入した絵画へ自分が抱いていたイメージを一変させてしまう。一見は白く純潔な絵の下に、どす黒い世界が隠されているのかもしれない、と。
     しかし人間とはそんなもので、白い絵画のように表面上は何事もなく順当に幸福に生きているように見える他人も、もしかしたら見えないところでは誰もが日々の暮らしのなかで問題を抱えて、もがき苦しんでいるのかもしれない。その問題を解決する方法を模索しながら、あるいは、時間がゆっくりと解決してくれるのを待ちながら。
     だから、絶望感に囚われて、すべての人に嫌われているように思えて、居場所がなくて、生きづらいなと感じるときにも、自分を嫌う人がいるのと同じく、好いて必要としてくれる人がいるのだということを忘れないで、と。必ずどこかにあなたの居場所はあるから、と。
     この本はそうやって、日常のなかで立ち止まったときに一歩踏み出す小さな勇気を与えてくれる気がします。

  • 錦糸町の古い雑居ビル付近を中心に展開される短編集。
    「ウツミマコト」という作家の絵と映画作品がリンクしています。
    強く感じたのは同じものを見ても、受け止め方は人それぞれということ。
    自分のこだわりや、欠点だと思っているところも、
    ほんの少し見方を変えるだけで世界が変わることもある。

    些細なことにとらわれて、つい周りが見えなくなってしまいがちな私にはどのお話もツボでした。
    「たまには肩の力を抜いて自分を褒めてあげていいんだよ」
    って言ってくれてる気がしました。
    いつも褒めてる気もしますが…ふふっ。
    ものすごくパンケーキが食べたいです♪

    恥ずかしながら『山椒魚』自選全集の削除も論争も、
    全く知りませんでした。
    評価は分かれるようですが、井伏鱒二氏の慈悲に心がなごむ気がします。

  • 会社の社報に紹介されていたので、図書館で借りました。

    雑居ビルを取り巻く人々のオムニバス短編集。

    「泥雪」
    「七番目の神様」
    「龍を見送る」
    「光る背中」
    「塔は崩れ、食事は止まず」

    他の章の登場人物が違う章にちらっと出てくるのがまたいい。

    あと、人々を繋ぐキーワードは「ウツミマコト」

    こういった話は、最終的にウツミマコトの隠された謎(笑)が現れて~て、なると思うのですが、ウツミマコトの存在がチラリズム過ぎる(笑)
    そして、受けとめ方も「名作だ!」「理解出来ない」と極端なのがまたいい。

    何処にでもいる人々の中に、自分自身を垣間見た、そんな作品集です。

    特に「塔は崩れ、食事は止まず」は、仲間割れした相手が不幸になったりして、それを聞いて主役が…な、展開になりがちですが、そうはならないのが良かった。
    あくまでも、相手は関係なく今の自分の現状を受け入れながら、前に進んでいこうとするところに作者の愛を感じた。

  • 5つの短編からなる作品。『骨を彩る』がよかった!と思って本書を手に取ったのだが、3つ目の話を読み終わった時点では物足りなく感じた。その理由は「終わりのあっけなさ」である。僕が『骨を彩る』を読んで良いなあと感じたのは、読みながら、そして読み終えてから「じわじわと」込み上げる感動、あったかさだった。それを読者にもたらしてくれるのが彩瀬まるの文章の魅力だと思った。しかし本書の3つ目の短編までは、その魅力が失われている。「え、ここで終わるの?」という物足りなさを感じる。あったかさで心が満たされないのが残念で堪らない。
    ところがである。
    4つ目の短編で僕のそれまでの評価が一気に覆る。話の締め方に対する不満もあったが、それと同じぐらい僕の心をモヤモヤさせていたものがある。それは「ウツミマコト」という映画監督の処女作『深海魚』が全ての話に登場する意味だ。この映画は、王道のラブロマンスなのだが、主人公のシンクロナイズドスイミングの振り付け師が恋人である女性アスリートに究極の演技を求める。そのストーリーが暴力的でエロチックな為、評価は真っ二つに割れる、という作品である。3つ目の話を読んだ時点で、「ああ、究極を求めると精神もなにもかも壊れるから、ほどほどでいいのよ、ほどほどで」というまるで近所のおばちゃんがよく口にするような言葉しか思い浮かばなかった。彩瀬さんが伝えたいメッセージはそれなのかと思った。
    全く見当違いである。
    彩瀬さんは近所のおばちゃんではなかった(こう言ってるが僕は近所のおばちゃんを侮辱していない)。
    話が前後して申し訳ないが、僕が感動した4つ目の話のあらすじはこうだ。
    主人公はIT会社で事務員をしている28歳の女性、十和子(とわこ)。合コンで知り合った一流会社勤めで34歳の上条に惹かれる。十和子の趣味は「プロレス」なのだが、彩瀬さんの趣味もプロレスなため、プロレスを語る十和子が彩瀬さんに実写化されしまうのは僕だけではないはずだ。それはまあいいとして、何回か食事に誘われるのだが、お洒落をして、話す内容は食べ物とか旅行とか職場の中の変わった人の話で、自分の趣味が「プロレス」とは言えない。上条が自分を好きなのかどうか、自分は上条のどこが好きなのかと悩み、職場のトイレに籠もっては新着メールの問い合わせボタンを連打する(想像するとおもしろい)、上条から食事に誘われれば嬉しくなってついていく、というようなことを繰り返していた。
    しかし、あるときに「芦原しおり」というイラストレーターとふとしたきっかけで(これには「ウツボ」が関係している)友人になる。
    しおりと飲みに行ったときに、ウツミマコトの『深海魚』の話になり、映画を観てない十和子にしおりがストーリーを説明するが、反応は良くない。しかし、しおりはこう述べる。

    「(・・・)そのまま出してくれてるんです。みじめな部分も、どろどろの汚い部分も、ごまかしたり取り繕ったりしないで。それって、もの凄く勇気や胆力のいることだと思います」

    僕はこの箇所を読んだとき、はっとした。これまでの話の主人公はみな相手に合わせているひとたちばかりだと。十和子もそうだと。プロレス好きだと言えないで、上条に好かれようと、行動している。上条に溺れて「本当の自分」を見失っているのだ。後日、十和子は上条に自分の想いを打ち明けるが...さてどうなる?
    5つ目の短編だけが他の4つと毛色が少し違うと僕は感じました。なので、4つ目の話でそれまでの3つの話で著者が言わんとしていることをしおりに語らせたのではないかと僕は思うのです。
    しおりだけではありません。十和子はなぜプロレスが好きなのかをこう述べています。

    「ぜんぶ出し切った人の背中は、負けても光って見えるんです。」

    脱線するが、ソチオリンピックのスケート競技のショートプログラムで浅田真央選手がそれまでしたこともないようなミスを連発し、メダル獲得が危ぶまれる、というようなことでメディアが騒ぎ、世界中のファンが動揺を隠せないでいた。僕は「あらまあ、大変なことになったねえ」とこれまた近所のおばちゃんがテレビを前に誰にともなくつぶやくようなセリフをつぶやいていた。しかし、翌日のフリースケーティングで浅田選手は自己最高得点をマークする。最終結果は6位入賞とメダルには届かなかったものの、浅田選手は演技に満足しているようであったし、彼女の演技、涙は世界中のファンを感動させた。
    僕が本書を読み終わって思い出したのは浅田選手の演技終了後の姿だった。美しく、輝いていた。十和子のセリフが心に沁みた。でも、僕は浅田選手は負けてはいないと思う。メダルを獲得できなかった=負け、ではないからだ。それは別の問題だろう。彼女は勝ったのだ。1日で気持ちを立て直し、チャレンジし続けてきたトリプルアクセルを見事に決めて!
    ...まあ結局何が言いたいのかというと、彩瀬さんの伝えたいことは4つ目の話に凝縮されてるなあと僕は感じました。もちろん読み手によって好きな話は違うだろうし、それはそれでいいんですが、僕は4つ目の話「光る背中」を読む前に、本書を投げ出さないでほしいと思います。4つ目いいですよ。僕と同じように感じる人、4つ目まで頑張りましょう。

  • 錦糸町の古い雑居ビルと、ウツミマコトという映画監督で繋がった人達の連作短編。

    主人公達は、皆なにかに思い悩み足踏みをしている。
    小さなきっかけから、立ち上がり前を向き進むようになる展開が良い読後感を呼びます。

    マッサージ師と患者理保の「泥雪」
    喘息持ちの雇われカフェ店主の「七番目の神様」
    駆け出しミュージシャンの「龍を見送る」
    都合いい女を演じるレスリング好きOLの「光る背中」
    共同経営者と仲違いした元カフェオーナーの「塔は崩れ、食事は止まず」

    「龍を見送る」と「光る背中」が好き。

  • 錦糸町の雑居ビルで働く人たちの生活を描いた短編連作。
    マッサージ屋、カフェの店長、古本屋のアルバイト、IT企業のOL、ビルの向かいのマンションに住む元カフェのオーナー。それぞれが、それぞれの悩みをかかえながら生きている。

    『光る背中』に出てきた言葉が強く残っている。
    「いえ、誰にも嫌われないのはいい作品じゃなくて、どうでもいい作品ってことです。強く主張するものが無くて、意識に残らないから嫌われない」

    <収録作品>
    泥雪/七番目の神様/龍を見送る/光る背中/塔は崩れ、食事は止まず

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プロフィール

彩瀬まる(あやせ・まる)
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒業。小売会社勤務を経て、2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。2016年『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補。2017年『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補。

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