神様のケーキを頬ばるまで

著者 :
  • 光文社
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感想 : 167
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929282

感想・レビュー・書評

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  • 雑居ビルでつながった連作短編集。
    とりたてて大きな事は起きないけれど、登場人物それぞれの悩みや心の動きが丁寧に描かれており、好感が持てました。

    『光る背中』の女同士の友情(ウツボがしゃあ)に心をつかまれ、『塔は崩れ、食事は止まず』の主人公にも共感しました。

    そして何よりラストで出てくるパンケーキです。
    ここ一ヶ月くらい、すごくケーキが食べたい気分だったのですが、最近体重が増えてしまったので我慢していました。
    そんな時にこの本に出会ったので、もう速攻で読みました。

    美味しかったです。大満足です。ごちそうさまでした。

  • 錦糸町の雑居ビルを舞台に、マッサージ店を営むシングルマザー、喘息を患うチェーン系カフェの店長、古本屋でバイトするミュージシャン、エリートに恋するアプリ会社のOL、人気カフェの共同経営者とケンカ別れした無職の女性…心にいびつなものを抱えながら不器用に生きる日々を切り取った連作短編集。
    そこはさわられたくないと思う心の傷、多少なりとも誰でも抱えているのではないだろうか。いつも彩瀬さんは、そんなデリケートな部分を敢えて触れてくる。だけど触れられることによって、凝り固まった痛みは少しずつほぐれてくる。
    短編の主役達は、皆どこか頑なだ。向き合う相手に対する思いに、己のエゴ、或いは劣等感のようなものが絡まってがんじがらめになる。必死になればなるほど自らを追い詰め、うまくいかなくなる。そうやってもがき苦しみながら、自分なりに踏み出す一歩のタイミングを見定めて、悩みつつも結論を出す彼ら。読後はあたたかいものが胸に溢れてきた。
    各短編に必ず登場するのが、ウツミマコト監督の「深海魚」という映画。独特な作風のこの作品をそれぞれの登場人物がどう捉えるか…バロメーターのような役割をしているのが面白いなと思った。
    決して明るい話ではないけれど、どの短編も読みこむほどにじわじわと沁みてきて好きだ。でも敢えて選ぶなら、ネット発の若いミュージシャンに井伏鱒二の「山椒魚」のエピソードを絡めてきた「龍を見送る」、人気カフェの経営から外され、無気力な日々からの再生を描いた最終話「塔は崩れ、食事は止まず」がお気に入り。そして各短編に登場する、物語のキーとなる脇役達もそれぞれに魅力的。彼らにも、主役に負けず劣らずの様々な背景があるのだろう…そんな奥行きの深さが感じられる。いい意味で皆、一筋縄じゃいかないのだ。
    自分のみっともなさを認めてしまえば、曇っていた目に今まで気づかなかった風景が映る。傷はすっかり癒えなくても、いつかきっと笑えるようになる。彩瀬さんの作品は、いつもそんなことを信じさせてくれる。

  • この作家、彩瀬まるさん。懐がものすごく深い気がします。

    いろんな年代の、それも性別も違う登場人物が
    あたかも自分のいる隣のビルに本当にいそうに感じる不思議。
    なんでこんなに色々なことを知ってらっしゃるのか。
    彩瀬さんの人間力、どんどん好きになっていきます。

    東京の錦糸町にある雑居ビルと、ある人物に関係する人々の連作短編集。

    仕事場でのちょっとした知り合いや、もっと関係の深い友達。
    その人が見せてくるいつもこちらが見られている面を通り越し
    見ているようで見せてもらっていない、
    いや見たいとこちらが思っていないから、見られていない面に
    スポットをいつも当てている気がします。

    相手と一緒に時間を共有すれば、
    色々なものが変化して、相手との関係性も変化していく。
    いい方向でも、悪い方向でも、
    変化は毎日続き、接近してみたり、離れてみたり。

    時と共に同じ場所に留まれないから少しずつ先に進んでいく。

    他の人には鼻で笑われるような変化でも、自分で愛おしく思っていいんだ
    と思える一冊です。

    しおりさんの『ウツボのフィギュア』
    天音さんが作った『パンケーキ』
    どちらも、ものすごく欲しい~。
    絶対的なもの、私も探そうっと。

  • タイトルに惹かれて手に取った本。
    「神様のケーキ」という言葉からは何故か美味しそうなケーキは想像出来なくて、もっと抽象的な安らぎのようなものを思い浮かべた。
    毎日オンオフのスイッチを入れては切って、ゴムみたいにブチっと切れそうになりながらなんとか生きている。
    そんな人達の心の揺れを自分の身に置き換えながらどうして切れずにいられるのか。どうしてまた笑えるようになるのか。そんなことを考えていた。

    毎日毎日正解のない問いを投げかける。
    どうすべきだったのか?
    どうしたいのか?
    何を求められているのか?
    あの言葉の真意は?
    そして、全ての問に対して「分からない」と繰り返す。
    「分からない」と繰り返しながら、でもどうにかしなきゃと手を伸ばす。
    その手を握りかえしてくれる手を見つけたり、その手に何かを掴んだと思えた時に感じる喜びがもしかしたら「神様のケーキ」なのではなかろうか。
    その瞬間があるから生きていけるように思う。

  • 綾瀬まるさんの本は2冊目ですが、この本も良かった~!

    歌舞伎町のとある雑居ビルに関わる人々を描いた短編集。
    マッサージ店を営む女性。
    カフェの店長。
    古書店のアルバイト。
    アプリ開発会社の女性社員。
    雑居ビルの向かいに住む女性。
    それぞれが生き方に悩み、模索中。

    心に残る言葉がちりばめられている。
    「目にしていて、それでも見えないもの」
    「誰にも嫌われないのはいい作品じゃなくて、どうでもいい作品。強く主張するものが無くて、意識に残らないから嫌われない」
    「全部出し切った人の背中は、負けても光って見える」

    綾瀬まるさんの他の本も読んでみたい!

  • 『七番目の神様』と『光る背中』が好きな話し。
    全話、最後に少しずつ明るい兆しが見えるのが良かった。

  • 錦糸町の古い雑居ビル付近を中心に展開される短編集。
    「ウツミマコト」という作家の絵と映画作品がリンクしています。
    強く感じたのは同じものを見ても、受け止め方は人それぞれということ。
    自分のこだわりや、欠点だと思っているところも、
    ほんの少し見方を変えるだけで世界が変わることもある。

    些細なことにとらわれて、つい周りが見えなくなってしまいがちな私にはどのお話もツボでした。
    「たまには肩の力を抜いて自分を褒めてあげていいんだよ」
    って言ってくれてる気がしました。
    いつも褒めてる気もしますが…ふふっ。
    ものすごくパンケーキが食べたいです♪

    恥ずかしながら『山椒魚』自選全集の削除も論争も、
    全く知りませんでした。
    評価は分かれるようですが、井伏鱒二氏の慈悲に心がなごむ気がします。

  •  誰にでも経験があると思う。恋愛や友情、自分が大切にしてきたものを、突然失ってしまったり手放してしまわなければいけなかったり。
     そういう瞬間に、絶望感に打ちひしがれて空っぽになって、それからまた、希望というほど大したことはない動機で自然と立ち上がる。そんな物語の詰まった連作短編集。舞台は東京・錦糸町。

     最初の一話「泥雪」に出てくる、主人公が購入する絵画は、雪景色のような花吹雪のような白く抽象的な絵画で、その白い純潔なさまに心惹かれる人もいれば、殺風景で「暗い」と表現する人もいる。
     その作家がのちに撮った映画「人魚姫」が、連作通して随所で出てくるのだが、こちらも評価する人によって好悪がはっきりと分かれている。
     「泥雪」の主人公は、その映画を見たことをきっかけに、自分の購入した絵画へ自分が抱いていたイメージを一変させてしまう。一見は白く純潔な絵の下に、どす黒い世界が隠されているのかもしれない、と。
     しかし人間とはそんなもので、白い絵画のように表面上は何事もなく順当に幸福に生きているように見える他人も、もしかしたら見えないところでは誰もが日々の暮らしのなかで問題を抱えて、もがき苦しんでいるのかもしれない。その問題を解決する方法を模索しながら、あるいは、時間がゆっくりと解決してくれるのを待ちながら。
     だから、絶望感に囚われて、すべての人に嫌われているように思えて、居場所がなくて、生きづらいなと感じるときにも、自分を嫌う人がいるのと同じく、好いて必要としてくれる人がいるのだということを忘れないで、と。必ずどこかにあなたの居場所はあるから、と。
     この本はそうやって、日常のなかで立ち止まったときに一歩踏み出す小さな勇気を与えてくれる気がします。

  • それぞれの物語で、主人公は何かに悩み、努力して、それでも毎日は過ぎていき、少しでも前に進もうと心を決める。それがあるから、トーンの暗さだけで終わっていないと感じた。自分でもやってみよう、頑張ってみようと、そういうきっかけになるピースが見つかるかもしれない。

    登場するウツミマコトの絵画「泥雪」、映画「深海魚」が観たくなる。そして表題になっているケーキを食べたくなる。

  • 雑居ビルを舞台に仕事や恋や生活のこと、他者から見た自分のこと、サラッと流れるように核心をついてくる。でも嫌じゃなかった。
    どこかで人との繋がりがあり、出会いや経験が混ざり合って自分を作っていく。
    人々が抱く痛みがチクチクと胸を刺すけれど、思い込みで狭くなった視野を広げてくれ、身体にじんわりと温かさが復活するような短編集だった。
    もうちょっと読んでいたい気持ちが残る。人の数だけこういう物語があるのだと思うと人間は面白い。

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著者プロフィール

1986年生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞読者賞」を受賞しデビュー。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』(新潮社)『骨を彩る』(幻冬舎)『神様のケーキを頬ばるまで』(光文社)『桜の下で待っている』(実業之日本社)がある。自身が一人旅の途中で被災した東日本大震災時の混乱を描いたノンフィクション『暗い夜、星を数えて――3・11被災鉄道からの脱出――』を2012年に刊行。

「2021年 『OTOGIBANASHI』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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