神様のケーキを頬ばるまで

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929282

感想・レビュー・書評

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  • 最初、なにかケーキ屋さんとか美味しいものにまつわるお話なのかなと思ってたの。
    そしたら全然違って。
    人が自分で意識したり認めたりしたくない嫌な部分と向き合って苦しんでもがいて、それでもなんとかやっていくっていうか。
    上手く言えないけど蓋をして見ないままにはできないんだよなって思った。
    よく自分にご褒美って聞くけど、私にはその感覚がよく分からなくて。
    どこまでがんばったら自分にご褒美あげていいんだろうって。
    でもこの本読んだら案外小さな事でも自分ががんばったと思うなら、その時自分にご褒美あげてもいいんだなってそんな事に気付いた一冊でした。
    今日はチョコレートでも買ってこようかな。
    ココアも飲みたいな。

  • 錦糸町の雑居ビルを舞台に、マッサージ店を営むシングルマザー、喘息を患うチェーン系カフェの店長、古本屋でバイトするミュージシャン、エリートに恋するアプリ会社のOL、人気カフェの共同経営者とケンカ別れした無職の女性…心にいびつなものを抱えながら不器用に生きる日々を切り取った連作短編集。
    そこはさわられたくないと思う心の傷、多少なりとも誰でも抱えているのではないだろうか。いつも彩瀬さんは、そんなデリケートな部分を敢えて触れてくる。だけど触れられることによって、凝り固まった痛みは少しずつほぐれてくる。
    短編の主役達は、皆どこか頑なだ。向き合う相手に対する思いに、己のエゴ、或いは劣等感のようなものが絡まってがんじがらめになる。必死になればなるほど自らを追い詰め、うまくいかなくなる。そうやってもがき苦しみながら、自分なりに踏み出す一歩のタイミングを見定めて、悩みつつも結論を出す彼ら。読後はあたたかいものが胸に溢れてきた。
    各短編に必ず登場するのが、ウツミマコト監督の「深海魚」という映画。独特な作風のこの作品をそれぞれの登場人物がどう捉えるか…バロメーターのような役割をしているのが面白いなと思った。
    決して明るい話ではないけれど、どの短編も読みこむほどにじわじわと沁みてきて好きだ。でも敢えて選ぶなら、ネット発の若いミュージシャンに井伏鱒二の「山椒魚」のエピソードを絡めてきた「龍を見送る」、人気カフェの経営から外され、無気力な日々からの再生を描いた最終話「塔は崩れ、食事は止まず」がお気に入り。そして各短編に登場する、物語のキーとなる脇役達もそれぞれに魅力的。彼らにも、主役に負けず劣らずの様々な背景があるのだろう…そんな奥行きの深さが感じられる。いい意味で皆、一筋縄じゃいかないのだ。
    自分のみっともなさを認めてしまえば、曇っていた目に今まで気づかなかった風景が映る。傷はすっかり癒えなくても、いつかきっと笑えるようになる。彩瀬さんの作品は、いつもそんなことを信じさせてくれる。

  • この作家、彩瀬まるさん。懐がものすごく深い気がします。

    いろんな年代の、それも性別も違う登場人物が
    あたかも自分のいる隣のビルに本当にいそうに感じる不思議。
    なんでこんなに色々なことを知ってらっしゃるのか。
    彩瀬さんの人間力、どんどん好きになっていきます。

    東京の錦糸町にある雑居ビルと、ある人物に関係する人々の連作短編集。

    仕事場でのちょっとした知り合いや、もっと関係の深い友達。
    その人が見せてくるいつもこちらが見られている面を通り越し
    見ているようで見せてもらっていない、
    いや見たいとこちらが思っていないから、見られていない面に
    スポットをいつも当てている気がします。

    相手と一緒に時間を共有すれば、
    色々なものが変化して、相手との関係性も変化していく。
    いい方向でも、悪い方向でも、
    変化は毎日続き、接近してみたり、離れてみたり。

    時と共に同じ場所に留まれないから少しずつ先に進んでいく。

    他の人には鼻で笑われるような変化でも、自分で愛おしく思っていいんだ
    と思える一冊です。

    しおりさんの『ウツボのフィギュア』
    天音さんが作った『パンケーキ』
    どちらも、ものすごく欲しい~。
    絶対的なもの、私も探そうっと。

  • タイトルに惹かれて手に取った本。
    「神様のケーキ」という言葉からは何故か美味しそうなケーキは想像出来なくて、もっと抽象的な安らぎのようなものを思い浮かべた。
    毎日オンオフのスイッチを入れては切って、ゴムみたいにブチっと切れそうになりながらなんとか生きている。
    そんな人達の心の揺れを自分の身に置き換えながらどうして切れずにいられるのか。どうしてまた笑えるようになるのか。そんなことを考えていた。

    毎日毎日正解のない問いを投げかける。
    どうすべきだったのか?
    どうしたいのか?
    何を求められているのか?
    あの言葉の真意は?
    そして、全ての問に対して「分からない」と繰り返す。
    「分からない」と繰り返しながら、でもどうにかしなきゃと手を伸ばす。
    その手を握りかえしてくれる手を見つけたり、その手に何かを掴んだと思えた時に感じる喜びがもしかしたら「神様のケーキ」なのではなかろうか。
    その瞬間があるから生きていけるように思う。

  • 『七番目の神様』と『光る背中』が好きな話し。
    全話、最後に少しずつ明るい兆しが見えるのが良かった。

  • 綾瀬まるさんの本は2冊目ですが、この本も良かった~!

    歌舞伎町のとある雑居ビルに関わる人々を描いた短編集。
    マッサージ店を営む女性。
    カフェの店長。
    古書店のアルバイト。
    アプリ開発会社の女性社員。
    雑居ビルの向かいに住む女性。
    それぞれが生き方に悩み、模索中。

    心に残る言葉がちりばめられている。
    「目にしていて、それでも見えないもの」
    「誰にも嫌われないのはいい作品じゃなくて、どうでもいい作品。強く主張するものが無くて、意識に残らないから嫌われない」
    「全部出し切った人の背中は、負けても光って見える」

    綾瀬まるさんの他の本も読んでみたい!

  • 彩瀬まるさんを読んだのは2作目。前回読んだ『骨を彩る』より好きだったかも。
    ほんのりと登場人物が繋がった優しい気持ちになれる連作短編集。タイトルにも繋がる、『塔は崩れ、食事は止まず』が1番好きだったけど、万年かけっこビリだった私には『七番目の神様』も結構心にくるものがありました。みんな人それぞれ自分の生活とか仕事に「なんだかなぁ」って気持ちは抱えているけど、たまには自分のことを認めてあげて、甘い美味しいケーキを食べたっていいよね。って、思えるお話でした。

    • れにさん
      これ、読みました~!ちなみに「骨を彩る」も読みました笑 彩瀬まるさんの連作短編集なら「新しい星」もまぁまぁ良かったですよー。ちなみに自分好み...
      これ、読みました~!ちなみに「骨を彩る」も読みました笑 彩瀬まるさんの連作短編集なら「新しい星」もまぁまぁ良かったですよー。ちなみに自分好みのドロドロの連作短編集でいえば花房観音さんの「わたつみ」が結構好きでした!甘い美味しいケーキやお菓子は心の栄養ですよねっ(*´∀`*)
      2023/09/06
    • おもちさん
      >れにさん
      彩瀬まるさんのお話はほっと一息つきたい時にちょうどいいですよね!他の作品も気になったのでそれも読みたいリストに入れておきます♪
      >れにさん
      彩瀬まるさんのお話はほっと一息つきたい時にちょうどいいですよね!他の作品も気になったのでそれも読みたいリストに入れておきます♪
      2023/09/06
  • 錦糸町の古い雑居ビル付近を中心に展開される短編集。
    「ウツミマコト」という作家の絵と映画作品がリンクしています。
    強く感じたのは同じものを見ても、受け止め方は人それぞれということ。
    自分のこだわりや、欠点だと思っているところも、
    ほんの少し見方を変えるだけで世界が変わることもある。

    些細なことにとらわれて、つい周りが見えなくなってしまいがちな私にはどのお話もツボでした。
    「たまには肩の力を抜いて自分を褒めてあげていいんだよ」
    って言ってくれてる気がしました。
    いつも褒めてる気もしますが…ふふっ。
    ものすごくパンケーキが食べたいです♪

    恥ずかしながら『山椒魚』自選全集の削除も論争も、
    全く知りませんでした。
    評価は分かれるようですが、井伏鱒二氏の慈悲に心がなごむ気がします。

  • 日常のしんどさ、挫折から少し踏み出す、みんないろいろあるけど生きているんだと思える5話の短編集。

    辛い現状を変えるのは少しの勇気と行動なのはわかっているけど、難しいもので。
    でもきっと、きっかけは身近に転がっていて、周りはそんなに敵だらけじゃないかもしれないと思えた。

    落ち込んだら、おいしいものをお腹いっぱい食べよう。
    心が荒んだら、部屋を掃除しよう。苦手だけど。
    じっとしているのがいちばんだめだ。
    そうして頑張ったら、たまにはご褒美にケーキを食べよう。

  • 背伸びもしない、等身大の小説。
    行き詰まり感も、悩みも。
    等身大だからこそ、最後に少し明るい方向に視界が開ける感じが、嬉しい。
    普通って、こんなもんよ。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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