避雷針の夏

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929411

感想・レビュー・書評

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  • 地方にある町。
    そこは、そこの住民だけで成立しているような町。
    一切、よそものを受け入れず、越して来た者を村八分状態にする。
    町の消防団員は、代々受け継がれていく家のものであり、寄り合いといっては、下世話なことを喋っては大酒をくらい、くだをまく。
    隣り近所が、親戚だらけで鍵もかけずに家に上がり込む。好き勝手にやりたい放題ではないか…。
    町のシンボル像が何者かに破壊されて以降、よからぬ噂に惑わされて、険悪な雰囲気に包まれていく町民。
    夏まつりの喧嘩神輿で人々が狂乱し、暴動が起こる。
    これは、一体いつの時代か…。

  • いまにも沈みそうな夕陽は、まるで灼熱でとろけた巨大なビー玉だ。(P.5)
    「ーたとえ見えていても、都合のわるいことは視界にも意識にも入らない、そんな便利な体質なんだものね」(P.258)
    空からは、すっかり橙の色みが消えた。紺と藍が空の端で微妙なグラデーションわ成し、やがてそれも漆黒に飲みこまれていく。(P.282)

  • 櫛木さん、今月3冊目か。ヘビーな読書月になった感がある。この後も手に取ってしまうのだろうか?

    今作も暗くて重くて不穏で息の詰まるような物語だった。小さな町の閉塞感が余すことなく伝わってくる。その土地だけで通用する常識。私の住んでいる場所も小さな町で、作中のような消防団はある。身内贔屓で何年住もうがよそ者はよそ者。同じ地域の人達と交流を持つのは良し悪し。そんな閉鎖空間の悪い面ばかりが怒涛の如く迫ってくる。私

    はそこまで地域密着型ではないが、近所ではなんと噂されているのだろうか。最後の祭りのシーンは鬼気迫る怒涛の描写。救いはあった。

  • 村八分の話。田舎特有のしきたり、〝よそ者〟の存在。猛暑の描写とともに悪感情が膨らみ、破裂する様はどことなく『サマー・オブ・サム』的。避雷針はスケープゴートであるという表現が逸品すぎた。混沌とした今の世では人間そのものが誰かの避雷針だ。

  • 鵜頭川村事件に続いて読んだので作者さんはよほど田舎に恨みを持つ者なのだな!と感心した
    最終的にほんのり爽やかに終わることが多い点、すき

  • 閉鎖された思考ほど怖いものはない、と思わせる小説。
    人間として生まれたからには、世界の広さを知っていたい。

  • 梅宮正樹は都会から崩壊寸前の一家四人で雪深い地方の町
    睦間町に移り住む。
    この町では、犯罪歴のある男が英雄視され
    〝よそもの〟の母子がいつまでも村八分にされる等
    歪んだルールに縛られていた。
    小さな町は悪意と狂気に満ちた閉塞的で粘着質な煉獄の地だった。
    ある日、町のシンボル像・ガーゴイルが破壊され
    犯人をめぐる様々な憶測がネット上を駆け回る。
    町は疑心暗鬼と悪意の満ちるねっとりした異様な空気に
    包まれるなかけんか神輿の夜を迎える…。


    睦間町では、長男を殺された源田直爾が復讐のため
    犯人の少年を殺害…その結果英雄視され強権を振るっている。
    また〝よそもの〟のくせにこの町出身の夫を殺したとして
    誤認逮捕された倉本郁枝とその子供達は今でも村八分。
    司法も行政もまともに機能していない
    この町では法律イコール正義ではない
    睦間町の者かよそものか
    その一点が全ての尺度において大きく影響する。
    閉鎖した町で、起こる徹底した村八分
    年寄り達が、ねちねち陰険でこの土地でしか通用しない
    常識を振りかざして生きている。
    強烈な男尊女卑・徹底した縦社会・時代錯誤で旧弊な習慣
    過干渉な人達。家の鍵を掛ける事も許されず、
    家には勝手に上がり込み冷蔵庫やタンスまで勝手に開ける…。
    雨が降れば、親切ぶって勝手に取り込み噂話のネタにする…。

    人間の業のいやらしさ・陰険さ・醜さを
    これでもか、これでもかって掻き集めたみたい。
    登場する人全てが嫌な人不愉快な人ばかり。
    酷過ぎるが、主人公の梅宮も最低最悪な男。
    酷い母親のせいで鬱病になった妻に
    要介護になった母を引き取り、妻と娘に介護全てをさせ、
    田舎の借家に押し込め、自分は匂いが嫌だ等と言い
    自宅へも帰らず、浮気をする。
    女のくせに…女なんて…と見下しまくり
    ー妻に甘えていたのだろうかー
    ー自分はそれ程酷い男だろうかー
    ーなにがいけなかったのだろうかー等と自問してる…。
    全てが駄目なんだよ(○`ω´○)
    最低最悪の男なんだよ(○`ω´○)
    もーーー腹が立って仕方なく、嫌悪感すら抱いてしまった。
    ラストは、もう一度チャンスを与えられる感じで終わってたけど、
    この人は、町を出て環境を変えても駄目だと思った。

    二人の少女の計画通り
    睦間町は隣の市に吸収合併され消えていく
    そのラストには気持ち良かった。

    こんな町、現在も存在してるのだろうか…。
    ゾッとした。こんな町絶対に住みたくない…。

  • すばる文学賞受賞した赤と白を読んで、不快感丸出しな作品を書く人が出てきたもんだと驚きましたが、今回もなかなか悪い。
    これまた小さな田舎町が舞台でよそものに対しての陰険で悪質な嫌がらせの数々、身内たちの素性の悪さっぷりは、逆に気持ちがよくなるほど! 不快感丸出しな描写もあちらこちらで出てきて、猫ラブさんには厳しかったり。
    村八分。どうしようもない父親を持った少女の秘めた闘い。目が離せなくなり夢中になります。
    でも前作のが衝撃ははるかにあったし、きちんとまとまっていた。今回はいろいろ点を散りばめたけれどもうまく線で繋ぎきれなかった感があるのが少し残念でした。
    個人的に今一番次回作が楽しみな作家さんです。(ホラー大賞読者賞受賞作はなんとなく好みでなさそうなので未読)

  • 人が狂っていく時って多分こんな感じなんだろうなと思わせる作品。
    最初からちょっとずつズレてる登場人物が、ゆっくりゆっくり狂っていく様がとてもよく描かれてて怖いしすき。

  • 「ひとごろしたち」
    帰宅せず泊まり込む。
    相談もせずに自分の都合で引っ越したというのに、何一つ手伝うことなくいるのは流石に我儘すぎないか。

    「ぼうふらおどり」
    壊れた先に残るのは。
    全て善意でやっていたとしても受け取る側が嫌な思いをしているのであれば、それはただの押しつけだろ。

    「けむりか火だねか」
    止まらない犯行の先。
    誰がやっているのか分からない恐怖はあるだろうが、勝手な噂話で犯人と決めつけ安心するのは違うだろ。

    「なつまつりの夜」
    後悔している出来事。
    外部には知られないよう上手く処理していただけで、その手続が出来なくなれば終わるのは早いだろうな。

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著者プロフィール

1972年新潟県生まれ。2012年『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞。同年、「赤と白」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、二冠を達成。著作には「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ、『侵蝕 壊される家族の記録』、『瑕死物件 209号室のアオイ』(角川ホラー文庫)、『虎を追う』(光文社文庫)、『死刑にいたる病』(ハヤカワ文庫JA)、『鵜頭川村事件』(文春文庫)、『虜囚の犬』(KADOKAWA)、『灰いろの鴉 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』(ハルキ文庫)など多数。

「2023年 『ホーンテッド・キャンパス 黒い影が揺れる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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