絶叫

著者 :
  • 光文社
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レビュー : 181
  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929732

感想・レビュー・書評

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  • 鈴木陽子の生育歴のパートを読んでいて、萩尾望都さんの「イグアナの娘」を思い出した。本人にはまったく自覚がないまま、子どもをくっきり差別して育てる母親。差別してますよなんて言われようものなら、烈火のごとく怒って反論してくるであろう母親。子どものころの陽子は次第に母親の本質に気づく。しかし、おとなになってからの陽子の生き方を読んでいると、そんな母親にそっくりになっている。自分に都合の悪いことからは徹底的に目をそらす。
    保険業界に入って仕事を始めたときも、上司と不倫関係に陥ったあとも、何度だって立ち止まって考えるチャンスはあった。それでも、どうしてもこんなふうになってしまうんだよなあ。このあたりを読んでいるときは、やるせなく、虚しく、哀しい気持ちになった。

    金魚の幽霊は、純の姿を借りた、陽子の本質部分だったのかもしれない。彼女が不幸のどん底から浮かび上がってくるきっかけが「自然現象」だったというのは興味深い。人間の生き死にもすべて自然現象、という考え方は私にはしっくりくる。

    「見えざる棄民」という言葉が胸に残った。
    暴力団の追放や、ホームレスの排除、障害者やニートの存在のことを考える時にいつも思うのだ。
    汚いもの、悪いもの、都合の悪いものを排除したいと思うのはわかる。でもゴミのように焼却できるわけじゃないのだから、街から排除したって、そういう人たちはどこかに存在する。追放して、排除して、その先どうしようというのだろう。
    ヤクザや貧困業者がなくならないのは、結局そういう人たちの行き着く先になっているからなんじゃないのか。
    生活保護の基準を厳しくすることが、どうしてちゃんとした社会になっていくことにつながるのだろう。みんな働けばいいのだ、というけれども、現実には、一部の頑健な人と同じようには働けない人だってたくさんいるのに。
    神代がやっていたことはおぞましいことかもしれないが、それは一般社会がオブラートにくるんで捨てたものの中身をむき出しにしてさらけ出しただけのことなんじゃないのか。
    殺されたからかわいそうと言うが、殺される前には見向きもしないのが一般社会なのだ。
    終盤での「あなたは」という語りかけのパートでの一文には鳥肌がたった。そうか、そういうことか、と腑に落ちる感覚。彼女の絶叫に打ちのめされた。そうくるのか、と。なんだかひどく納得してしまった。

    女性刑事の話ももうちょっと読みたかったな。スピンオフで書いてくれないかしら。
    私は作者は男性だと知って読んでいたつもりだったのだが、途中で「あれ?女性だったかな」と思った。それくらい、女性心理や女性の生理がリアルに描かれていたから。でもやっぱり男性なんだよね。なんであんなこと知ってるんだろう。

  • 久しぶりにすごいミステリーを読みました。生活保護や性風俗など、社会の暗部をこれでもかと抉り出し、ドキュメンタリーかと思わせる圧倒的な文章力。それでいて、緻密な伏線やラストに待っている衝撃などミステリーとしての構成力も抜群です。夕飯抜きで読み切り、大満足でした。(twitter)

  • あなたとわたし。本来はあり得ない主観と客観をうまく織り交ぜ、事実と心情を破綻することなく融合させている。でもそれすらもすでに騙されてる。
    あらすじを呼んで、どん底の女が、どん底の最期を迎える話だと全522ページ中の471ページまで信じてた。もしや、これはどんでん系なのか?
    しかしまだ甘い。505ページで彼女の名前を見るまで真相には気づけず。間違いなく読み終わったあと、ページを遡ることになる。

    すべては必然であり、己で選びとれることなんかひとつもない。分岐のない一本の線の上を転がっていくだけ。でもそれを俯瞰して見通すことなんかできない。何もわからない。その事実の本質はつまり自由だということ。「あの時ああしていれば」はない。今と過去は一直線、今と未来も一直線。当たり前と言えば当たり前。ぷちぷちと笑う悟りを開いた金魚の対極にいるのが素敵な選taxi竹野内豊ですね。分かります。

    物語の軸の両端にある綾乃と陽子の視点が、物語の終着であり真実でもある中心に向かって歩み寄ってゆく構成。核心にせまるにつれてその切り替わりが早くなってゆくのも、こちらの焦りや高まりを煽り、ページを捲る指が止まらない。

  • 日本推理作家協会賞候補。序盤は宮部みゆき『火車』を彷彿。読み進めると、桐野夏生、角田光代、吉田修一がテーマにしそうな闇が広がる。重たいのに、先が気になって気になってしょうがなかった。ラストはなんとなく予測できたが、それでも衝撃的だった。タイトルの『絶叫』は、後半の二度の決断の場面からだろうか。読み終えてから、少し放心状態になり、色んな社会問題を考えさせる作品

  • はじめは、三文週刊誌の記事みたいな出来ごとのあれこれに違和感を感じつつも、次第に共感をもってしまう。良質なサスペンスになっているのは、鈴木陽子をはじめ、登場人物たちの心理描写がグイっと心に入ってくるから

    主人公、鈴木陽子の人生、母親に愛されないところからはじまって、ゴロゴロ落ちては膨らんでいく、不幸の雪だるまっぷりがすさまじい。
    正直読んでいてげんなりする場面も少なくなかった。それでも読み進めるうちに、堕ち方と反比例するように、なんだか分からない力強さを感じるようになってきて、明らかに転落しているのに、何故かアカンことと分かっていても喝采をおくりたくなる。
    ラストは「おぉ、よう頑張った」とエールを送ってしまい、なんだか元気と勇気をもらってしまうような。倫理や道徳的なこと考えたら、絶対アカンことだけど、明日自分が陥いるかもしれない社会の闇の中で、洗濯機のごとく翻弄されつつも生き抜いていくしたたかさに、俺の陰や負な部分がジンジン刺激されてページ繰る手が止まらなくなる。

    宮部みゆきの「理由」「火車」あたりを思い出すような作風。
    残念ながら、さすがに(当時の)宮部超えまでに至らないと思うが、これは十分に傑作。

    余談。新刊帯には「ラスト4行目に驚愕」ってなことを書いてあったらしいが、帯がなくて良かった。読んでたら☆の数減らしたいぐらい陳腐な煽りだと思うぞ。

  • よくできている。
    よく練られていて確かに面白かったのだけれど…なんとなく予想していた結末だったのと、女ならではの苦しみや暗部のようなものをさもわかったように男性が描いているという印象が拭えず、どうにも居心地が悪くて、一歩引いてしまっている自分がいた。そのせいで目一杯楽しめなかった。
    どう、女ってこうだろ?わかってるだろ?的にどうしても見えてしまって…。

    実際の時代の流れや社会の出来事などを絡めているので舞台の臨場感はあるのだか、それが余計に、主人公の嘘臭さ、想像で描かれた作りモノっぽさを際立たせていたように思えた。
    ごめんなさい、単純に好みの問題です。

  • 「すごいな、」と思った綾乃の感情と一緒。
    まさかそうきたか感が、読んで良かったと思わせました。
    内容的には、ある不幸な女性の人生なんだけど、
    こういうのがあるから、ミステリー小説は止められないんです。

  • TBSラジオのsession22で紹介されているのを聴き、手にとりました。これを読むために早く退社するほど、結末が気になってしょうがなかった!!
    始まりは、マンションの一室で女性の変死体が発見されるところから。近年増加している孤独死かと思われたが、その真実は…。女性の貧困、日本のセーフティネットのザルさ、といった社会問題が織り込まれている物語にはリアリティがあり、より恐怖を覚える。ノンフィクションといわれても信じるかもしれない…。併せて「最貧困女子」を読んだのもよかった。最後はハッピーエンドなのか、そうでないのか、意見が分かれそう。わたしはハッピーエンド派…

  • 初めて読んだ作者の本。
    期待せずに読んでいたら意外にも面白く、惹きつけられてあっという間に読み終えてしまった。

    この物語の主人公は二人の女性。
    一人は自宅アパートの一室で自殺した女性。
    もう一人はそれが自殺なのか他殺なのかを探る女刑事。
    自殺した女性の話は彼女の生い立ちーつまり過去から、刑事の話は現在から彼女の過去を探っていくという形で時間をさかのぼって描かれている。
    そして、その二つの話が彼女の死の真相をもってつながるという形式になっている。
    二人の女性は過去に失敗した経験があり、それがトラウマになっている。
    特に、亡くなった女性は失敗つづきで人生ずっと下降線をたどっている。

    人間の最初に躓くと中々そこから這い上がる事は難しい。
    生まれて最初の人間関係はほとんどの人は家族だと思うけど、その家族とうまくいかないという記憶はその後の人生に大きく影響する。
    そして、成長する中で自分を変えられるような人と出会わなければずっとそれが尾を引いてしまう。
    亡くなった女性は最初はどこにでもいるような平凡な少女だったのに、家庭環境から彼女の人生は狂ってしまう。
    その後に出会った人間も彼女を利用する人間ばかりで、彼女を傷つけるばかり。

    この本のタイトルは「絶叫」だけど、読んでいて思ったのは、この自殺した女性はほとんど声をあげていないという事。
    理不尽な事をされて怒りを覚えてもそれを口に出して言う事がほとんどない。
    だから、彼女の心の中には絶叫が常にこだましていたんだろうと思う。
    私も言いたい事が言えず、やりたい放題やられる方だからよく分かる。
    でも、私の場合はどこかで堪忍袋の緒がブチッとキレて相手にぶつけて、そして全てから逃げたり、切ったりして失う。
    そこが、この女性とは違う。
    彼女は自分が手にしたものを何とか失わまいと必死で生きている。

    この話は自殺女性の過去を語る話は「私は」でも「陽子は」でもなく、「あなたは」と語られている。
    それを見て、「ああ、この女性に自分自身を重ねて見よという事かな」と思って読んでいたら、そうでない真相が隠されていた。
    それはこの話の最後の最後に分かる事で「ああ、それで・・・」と思った。

    結末としては人によって取り方が分かれると思う。
    人によって希望を感じる人がいるかもしれないけど、私はどうにも明るい未来や希望を感じられなかった。
    自分で未来を切り開いたとも言えるかもしれないけど、ここから人間変われるだろうか・・・と思う。

  • アパートで猫に食べられた変死体として見つかった鈴木陽子。
    彼女の死に疑問を感じた女刑事綾乃は、陽子の周囲を調べ始めた。

    陽子の壮絶な人生の話だけで終わることなく、びっくりするような事件が隠されていました。

    保険金殺人、生活保護受給者からの搾取、風俗嬢の暮らしなど、闇の世界が目白押し。
    先が気になり、ページをめくる手を止めるのが難しかったです。

    不幸な人生を、彼女の選択で幸せなものに転じようとした陽子。
    陽子のその後に気付かず、他の方のレビューで知りました。
    面白かったです。

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著者プロフィール

1976年東京都生まれ。2009年、児童向け小説『ライバル』で角川学芸児童文学賞優秀賞受賞。2011年より「週刊少年サンデー」連載漫画『犬部!ボクらのしっぽ戦記』にてシナリオ協力。2012年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、ミステリー作家としてデビュー。『絶叫』が第36回、『コクーン』が第38回吉川英治文学新人賞候補となる。

「2018年 『ブラック・ドッグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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