火星に住むつもりかい?

著者 :
  • 光文社
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本棚登録 : 3071
レビュー : 449
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929893

感想・レビュー・書評

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  • この本は面白いというより、上手い本だと思う。
    物語を書いたり書き方について考えたりするような人にとっては
    展開や伏線など唸らされるところはあると思う。
    それが他の伊坂作品と比べてどうかという話になると
    この物語が一番優れているというわけではないと自分は思う。

    伊坂作品は小気味良いものとかなり重めのものとがあるが
    この作品については後者である。
    タイトルからはそれが予想できず、気を晴らそうと手にとったので
    ちょっと予想外な展開に読んでいて気が滅入ってしまった。
    あとがきにも勘違いさせたらごめんというような趣旨があったので
    ちょっと笑ってしまった。


    ネタバレあり。


    いつかこんな時代が来ないとも言い切れない不気味さに、
    本当に読んでいて底冷えするような恐怖を感じた。

    ゼミがトラップというのも読んでいて本当に辛かったし、
    ヒーローが所謂意味でのヒーローではなかったことも
    がっかりというと少し違うような気もするがショックを覚えた。

    特定の登場人物に思わず肩入れしてしまうような
    特別に魅力を感じるキャラクターはいなかったように思う。
    ラストもすっきりとしているとは言いがたく
    読者に解釈を委ねられた終わり方になっている。
    淡々と描かれているからこそ、どこにでも起こり得るようにも思えるのかもしれない。

    こうして物語として書き起こされ、いろんな立場の人からの視点で書かれていると
    わからない一般市民が異常なように見えるが
    実際渦中にいれば徐々に慣れてしまい異常さに気がつけず、
    冤罪という重大な可能性にも目を伏せて、
    犯罪を犯しそうもない人物が犯罪をしたのだと言われてそれを疑うのではなく
    あの人は危険人物だったのだと納得してしまうということは
    現実にありえることであり現実に起こっていることでもあり
    空恐ろしい内容となっている。

    火星に住むつもりはなくこの地球で、日本で住むしかない
    その中で一体自分には何が出来るのだろうか。
    自分が彼らの立場になったら、何が出来るか。しようとするのか。

    動物の本能として、安心できる情報より危険な情報、恐ろしい情報に反応するというのは
    確かに尤もである。
    実際大昔のこととは言え魔女狩りは存在したのだから。
    他人事だと思っていたことが突然自分の身に振りかかる。
    この恐怖は、平和警察などの突飛な設定がなくとも
    現実に起こりうることだ。

    犬や音楽などいつもの伊坂作品にお馴染みのものも登場しつつ
    郵便配達員も序盤から何度も織り込まれている。

    すべての人を救わないことは偽善というあたりは読んでいて胸に痛かった。
    個人的に、ボランティア活動をしていても同じような目にはよく合う。
    全員を助けることは難しい。だがそれをしないなら偽善だと後ろ指をさされ
    何故かひとりも救っていない人が偉そうに人を否定し、
    正しいことというのがよくわからなくなってくる。

    やはり一番興味深かったのは武器となる磁石のくだりで
    磁石を束ねる時S極とN極を揃えると磁力は強くなるが
    向きを揃えない方が安定するというのは大変印象的だった。

  • 物騒な話。
    正義だと言われても、その組織が1番の力を持つと「なんでもあり」になってしまうのね。
    平和警察と名乗っておきながら、全然平和じゃないもん。
    連行したら容疑者に仕立て上げるだけ。こわー。
    自分たちの娯楽のようになってしまっているんだもんなぁ。
    どこか、一箇所に力が集中してしまうのは、全体からみると歪みができてしまうということ。これじゃ、バランスがとれるわけがない。

  • うーん。
    面白かった。面白かったよ。けどね……。

    まあ、設定自体近未来フィクションだから
    ありえないっていえばありえないオンパレードなんだけど。
    細かいところ。
    爆死したはずの捜査官が生きていた、って
    死体を持ち込んで爆死したように見せかけた?
    そりゃないでしょう!
    どうやって死体を持ち込むのか。(一人で?)
    家に落ちていた毛髪でDNA鑑定、ってことは
    死体の毛髪を置きに家に帰ったのか。
    顔もよくわからない、って、警察に入るときに
    顔写真撮らないのか。

    などなど。
    細かいイレギュラーが気になって気になって
    正直、入り込めなかった。

    ギロチンとか密告とか、まあ暗喩としては
    なかなかスパイスが効いていてよかったけども。
    なので、☆2に限りなく近い☆3で。

  • なるほど。見事な伊坂ワールド。
    「正義」「理不尽」「偽善」、これらの意味があやふやになり、自分の立つ足元がゆらぐ。
    「平和警察」が支配する世界は恐ろしいが、それに慣れていく人間も恐ろしい。
    犯人も、それを追う刑事も、どこか憎めないキャラ設定なのも伊坂作品ならではで、ほっこりするのではあるが、著者のミステリーの中でも本作のように「全ての伏線が最後にはピタリとひとつのピースに当てはまる系のやつ」を最近他にも数冊読んでしまったからか、どうにも全てのピースがあまりにも上手く収束し過ぎてしまうのに味気なさを感じてしまうのは私だけだろうか…。
    いやなんか、あまりにもお見事というか、出来すぎというか、全てが伏線と思って身構えちゃうというか、読んでて気が抜けないというか(笑)
    2018/08

  • 一時、伊坂さんの作品は好きで読みまくったけど、気に入らない内容が増えて離れていた。この作品は・・展開は初期作品に通じるじけど、設定が・・風刺と割り切るには冷酷過ぎる。ラストで中和しようとしても、後味の悪さは消えない。正直、やり過ぎでしょう。少々の優しさでは拭えません。名前の誤魔化し、社会の理不尽さ、人の身勝手さは戯画化でも現実に通じるが・・ギロチンはいけません(^^;
    前の、ふと感じるほのぼのが好きだったんだけどなぁ~

  • 平和警察による危険人物の取り締まりと称し、情報操作、密告、拷問、公開処刑が公然と行われるようになった日本。そこに謎の正義の味方が出現し、弱者を救っていくのだが…。

    序盤の拷問や、サディスティックな描写、悪意には気持ちがずんと重くなる。徹底的な悪を描かないと、そのあとの正義を正当化できないから、仕方がないのだろうが、寝る前に読むと寝付きが悪くなった。

    市民と警察の視点が複数入り交じって語られるうち、主要人物が絞られてきて、徐々に全体図が見えるようになる。
    ときどき前のほうのページを見直して、伏線を確認し直しながら読んでいくが、ミスリードされてさらに足元をすくわれる。いつもながら、よく練られたしかけで楽しませてくれた。

    仮想の日本ではあるけれど、監視カメラやネットでの情報操作、そして危険なものをいち早く排除することで平和を守ろうとする人々の姿は、決して現実とかけ離れたものではない。
    悪者をでっち上げ、吊し上げることで捌け口を作り、恐怖政治を行う。そんな日本にはならないでほしいと、切に願う。

  • ゴールデンスランバーのような感じ。
    世界の経済のパワーバランスの移行、テロ、正義などなど
    今の世界情勢も学べるような内容。
    著者の言いたいことが伝わってくるような感じもする。
    読んでいる間、これからの日本がどうなっていくのか想像してしまう。
    テロが起こる理由もわからなくもない。生まれた時から階級制度のように、運命は覆すことができないのなら、この資本主義社会を、格差社会をいったんぶっ壊して更地にしてしまおう。という考え方はあるんじゃないかなと。
    しかもスピードの増したインターネット社会のおかげで、もはや国という集団を個人でも壊すことはできなくはない。
    これからどうなるのか。遠くの国で起こっている戦争はもはや身近なことになっている。

  • 系譜としては『モダンタイムス』のような監視社会が舞台。タイトルからSF作品かなと思っていたら違った。残酷な描写を軽い表現で書いているけれど、実際にあったら怖いことばかりだよなぁと思う。最近の伊坂幸太郎は当たりはずれが大きいなぁ。

  • 偽善行為、自己満足、自己犠牲など、なんとなく触れて欲しくない部分が事件を通してさらされる。
    政情が良くなった様でそれは振り子がどちらかへ振れたに過ぎない。
    そこから逃れたかったら“火星に住む”しかない。割とストレートな伊坂ワールド。

  • 伊坂幸太郎自身も後書きで書いていたけど、すごく読むのが辛かった。

    夜の国のクーパーでも、自分が恐いと感じたことを書いて安心すると語っていたけど…なんでこんなに恐いことを書くのだろう…と思った。

    恐い内容に対して、それを乗り越える部分が私にとっては比率的に少なくて、なんというか、人間の恐ろしさに目を向けさせる小説なのかな…という印象で終わった作品でした。

著者プロフィール

伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれの作家。東北大学法学部卒業後、SEとして働きながら文学賞応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞受賞、デビュー作となる。その後作家専業となり、宮城県仙台市に在住しながら執筆を続けている。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門、2006年平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門、2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。同作で直木賞の選考対象となることを辞退したことも話題になった。上記受賞作のほか、『重力ピエロ』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』など話題となる作品は多い。代表作も殆どが映画化されている。最新作に『フーガはユーガ』。

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