トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (451ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962425

感想・レビュー・書評

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  • 自己と他者の間にある絶対的な壁をどう乗り越えるかというのが、この作品の主題。

    人は相手を信用するよう初期設定されているというトゥルースデフォルト理論。人の感情は、表情に如実に現れるという透明性の嘘を暴く誤謬。飲酒によって目の前の経験が見えなくなる近視理論。行動と場所が密接に関連しているという結びつき理論。小難しい理論を並べたが、この本にはそれらのモデルとなるエピソードがそれぞれ挿まれるので、その話により理解できる。

    しかし本著が最もこだわった黒人女性のケース。この話からの学びは何だろう。サンドラ・ブランドは、車を運転中に方向指示器の合図を出さなかったとして警官に止められた。警官は車から出るように命じたが、彼女はそれを拒み、警官の対応はエスカレートする。

    黒人への偏見?挙動に対しての過剰反応?素直に車から出れば良い、と先ずは思う。彼女は身体や精神の問題を抱えながらも、生活を何とか立て直そうとしていたところ。新しい街に引っ越し、新しい仕事を始めるところだった。逮捕された彼女は取り乱して泣き続け、3日後に自殺した。

    アメリカの世論は彼女に対して同情的だ。確かに、警察はやり過ぎた。しかし、彼女が問題を抱えていたなんて、だから警官の指示に従わなくて良いなんて事があるだろうか。そして、自殺されても、そこまで感情移入してのケアはできない。それぞれの巡り合わせの悪さだ、と思うが。

    どんな理論を並べようと、私はあなたにはなれない。世論は、人ごと。同情も、人ごとだ。その人の精神や肉体の保有者ではないのだから、他者を知るなんて事は、部分的にしか出来ない。

  • 自分がよく知らない人と話すときに、どうすればよいかー。

    物語調に進んでいくこの本は、黒人女性が些細な理由(車線変更時にウィンカーを出さなかった)で違反切符を切られるところから始まる。
    女性は投獄され、獄中にて自殺した。

    この事実は、アメリカ中に拡がり、
    世間は黒人に対する差別だ、偏見に満ちた警察官だ、と声を荒げたが、事実はそれほどにも単純なことなのだろうかと、著者は問いかける。

    もっと根源的な、

    「知らない人に対するコミュニケーションの誤り」

    が、関わっているのではないか。これが改善されなければ、きっと再び同じ悲劇が起こるだろうと。

    さまざまな事例をもとに、知らない人に対しての人間のふるまいに触れていく。

    「デフォルトで相手を信用する」「その人のことを知れば知るほど判断を誤る」そして、「結びつき」。

    この事例から学ぶことは多い。

    私たちは、知らぬうちに相手を単純化して、顔を見れば全てがわかると思い込む。
    そして、悪いことが起こるのは、環境のせいではなく、そこにいる人間のせいである、と。


    先入観だったり、偏見だったりを、丸ごとひっくり返してくれる一冊でした。

    この本で学ぶべき大切なことは、ほんの数行で終わるかもしれません。

    しかし、この事実を咀嚼する為には、この分厚い本に立ち向かうべきだ、と思います。

    知ることと、それを理解することは、全く違います。
    同じことを再び繰り返さないためにも…。

  • エピソードはどれも興味深い。ただ登場人物の数が多くて一部消化不良に。「訳者あとがき」が、簡潔に内容を振り返ってくれていて助かった。

    アメリカのシットコム『フレンズ』をわかりやすいコミュニケーションの事例として取り上げ、実際、我々の生活で接する人たちの表情のわかりやすさとはかけ離れていると説く。非常に説得力のある説明だと思う。
    日常生活において、相手の気持ちが読めない、なんて冷たい態度なんだろう?と思うことは多々ある。そんなとき、この本を思い出すだろう。

    原書のタイトル:Talking to Strangers: What We Should Know About the People We Don’t Know by Malcolm Gladwell

    読み終えて一言。履歴書に写真を求める日本のやり方ってどうなの?写真の「イメージ」は細工できるのですよ。
    ちなみに、日本以外で、履歴書に写真を求められたことはありません。

  • 「相手が自分を知るよりも、自分のほうが相手のことをよりくわしく知っている」「自分にはより優れた洞察力があり、相手の本質を見抜くことができる(相手にそのような洞察力はない)」-このような確信によってわたしたちは、もっと相手の話を聞くべきときに自分から話をしようとする。さらに、「自分は誤解されている」「不当に判断されている」という確信について他者が話すとき、わたしたちはなかなか忍耐強く対応することができない。(p.61)

     私たち人間は、冷静沈着な科学者のように振る舞うわけではない。結論に達するまで、真実や偽りに関する証拠をゆっくり集めていくのではない。正反対だ。私たちはまず信じることから始める。説明がつかなくなるほど疑いや不安が高まるとやっと、私たちは信じることをやめる。(p.90)

     人間に備わった嘘発見器は、私たちが望むようには機能しないし、そもそも機能するはずがない。それが、レバインが導きだした単純な真実だ。映画の世界では、海千山千の刑事たちが犯人に向き合い、相手の嘘をいとも簡単に見破ってしまう。しかし現実世界では、疑いを打ち消すために必要な量の証拠を積み上げるためには時間がかかる。(p.104)

    「いちばん驚いたのは、何かを怖がる”恐怖”だと西洋社会で一般的に考えられる表情が、トロブリアンド諸島ではむしろ”脅迫”に近いものとして認識されたことです」とクリベッリは説明した。それがどんな表情かを私に示すために、彼は大きく眼を見開き、いわゆる「息を呑む表情」を作ってみせた。ムンクの有名な絵画『叫び』に描かれた人物のような表情だ。(p.190)

     見ず知らずの相手にたいしておかしやすい最初のふたつの過ち――デフォルトでの信用と透明性の幻想――によって、私たちは他人を個人として理解できなくなってしまう。それらの過ちにくわえ、見ず知らずの相手との問題をさらなる危機的状況へと駆り立てるもうひとつの過ちがある。私たちは、見ず知らずの相手の行動についての文脈の大切さを理解しようとしない。(p.333)

  • 著者は「なぜ、あの商品は急に売れ出したのか」「天才!」などの鋭い着眼点でベストセラー本を世に送り続けている人気作家です。
    そして、今回彼が選んだ題材は、今米国社会を分断する黒人と白人警官との分断の原因に迫ります。冒頭に出てくる2015年に起こった車線変更でのウィンカーの出し忘れという些細な交通違反から口論になり、あげくに逮捕され、3日後に彼女は独房で自殺という実際に起こった悲劇の原因とは一体なんだったのか?
    簡単に言えば、警察は大きな不正を暴こうと手当たり次第に職務質問する(警察マニュアルでは推奨されている)、(黒人だからという理由で)何も身に覚えがないのに威圧的な尋問、命令してくる警官に反感をもちそれが態度や言葉遣いに現れる、警官はふてぶてしい態度から何か車内によからぬものを持ち込んでいるのではないかと疑う・・という少しの意思疎通のずれがトンデモナイ事件になってしまうプロセスを解説しています。
    また、諜報機関のプロたちが、自国の諜報部員がスパイだったことをなぜ長年見破れなかったのか?や幼児虐待を告発した人間が「児童レイプを目撃したのにその場から逃げ去った臆病者」というレッテルが貼られてしまったのか?など取り扱われる素材はどれも面白い、がしかし、長すぎる、くどすぎる、詳しすぎる。事件の詳細や過程などを正確に伝えようとするあまり、本来語られるべき主張や結論になかなか到達しないし、挙句には結論めいたものさえも存在しない。いや、1つだけありました。
    他者をよく知らないのに、なぜかある程度の知識だけで判断しようとする、逆に自分に対しては繊細で複雑で謎だらけの存在なので軽々しい判断はしないにもかかわらず・・そこで、これだけは言いたい「あなたのよく知らない他者は決して単純ではない」(P62)
    本書は、素材はいいのに、残念な調理方法のため台無しになった料理の如きです。

  • すごく重く深い本でした。
    アメリカで白人警察官が黒人女性を路上で逮捕するという2015年に起きた事件を元に、数々の実在の犯罪や事件を取り上げて検証していきます。
    スパイやテロ犯罪など日本で普通に生きている私とかけ離れたことも多く、悲惨な事例もあり読み進めるのがつらかったりしましたが、それを取り上げることで最初にあげた事件の真実を考えることにつながるという納得の展開でした。

    「私たちの予想どおりに相手が行動しないこと」と思い込みから生まれる誤解や悲劇。
    日常生活にもあることだと思います。
    「見ず知らずの相手とコミュニケーションを取ることのむずかしさ」
    最近社会での他者への批判や誹謗中傷がひどくなっているようにみえますが、やはり原因はこのような、自分は正しい、相手がこうしないのはおかしいと思い込んでしまうことなのではないかなと感じました。

    「私たちは、見ず知らずの相手の心の内を読み解く能力に限界があることを受け容れなくてはいけない。」

    「われわれに必要なのは抑制と謙虚さだ。」

  • 別紙参照

  • 日本ではノンフィクション版の村上春樹と言われるベストセラー作家のマルコムグラッドウェル。
    多くの事例をもとに、なぜ人は他人を誤解したり、決めつけてしまったりなど、正しく理解できないのかを明快でわかりやすいストーリーテリングで示してくれた本。
    サンドラ・ブランドに起きた一つの悲劇を簡単な見方をするのではなく、多くの事例から他人に対する理解の難しさ複雑さをパズルが組み合わさっていくように、その深い洞察から示唆してくれるのは読んでいて非常に気持ち良いものであった。

  • 2022年5月・6月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00551703

  • よく知らない人と対峙するにあたっては、なまじ頻回に接触したり話し合いを重ねる方が、かえってその人の本質を見抜けなくなるという事象の謎に迫る本。

    連合国の首脳の中で唯一、ヒトラーと直接対面の経験のあるチェンバレンが、ヒトラーを見誤り信頼してしまったのはなぜか。確証を得ようと、被告人と丁寧な折衝を行った裁判官の方がデタラメな判決を下してしまったのはなぜか。ネタバレになるので多くは書きませんが、一つの鍵は「トゥルース・デフォルト理論」。

    イメージの湧きやすい事例を豊富に挙げながら、「よく知らない人」と対峙する際に留意すべき事項に触れていく内容は、読みやすく腹落ち感も高いです。

    私たちはなぜ他人の嘘を見抜くのがこれほど下手なのか? という万人が気になるテーマについて楽しく読むことができる一冊と思います。また、日常生活や仕事の場面でもこの知識は役立つはずです。自身の中に埋め込まれた本能的原理にさえ抗えれば…。

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著者プロフィール

1963年イギリス生まれ。
カナダ・トロント大学トリニティカレッジ卒。
『ワシントン・ポスト』紙のビジネス、サイエンス担当記者を経て、現在は雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライターとして活躍中。邦訳には『天才!』『ニューヨーカー傑作選』ほかがある。

ある製品やメッセージが突然、爆発的に売れたり広まったりする仕組みを膨大な調査とユニークなフレームワークによって解き明かした最初の著書『ティッピング・ポイント』(邦題『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』)、人間は、長時間考えてたどり着いた結論よりも、最初の直感やひらめきによって、物事の本質を見抜くという仮説を検証した2冊めの著書『ブリンク』(邦題『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』)は、いずれも世界で200万部を超える大ベストセラーになっている。

「2014年 『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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