「戦後憲法学」の群像

  • 弘文堂 (2021年6月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784335358180

作品紹介・あらすじ

「戦後憲法学」は複雑・多様で、実に豊饒であった──

 日本社会にもしのびよる「分断」とリベラル勢力の影響力の相対的低下のなかで、そのあり方が問われる「護憲」や「抵抗の憲法学」。それらとしばしば等置される「戦後憲法学」は、実際には多様な内容を含んだものであるにもかかわらず、時の経過とともに外部から見えにくいものとなっていました。そこで本書は、「戦後憲法学」の複雑さ・多様さについて、歴史を振り返りつつ紹介。「戦後憲法学」の誕生と日本国憲法の「定着」の過程の検証、その中にあって「保守」憲法学を構築した人々、「東大憲法学」および「京大憲法学」の系譜と憲法学の理論化の流れ、そして9条論争における憲法学者たちの多様な主張など、多面的な考察から、〈これからの憲法学/憲法学者〉を考える糸口となる一冊です。

感想・レビュー・書評

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  •  「憲法」に関する本を久しぶりに手に取った。
     大学時代、本書で〈戦後第二世代〉及び〈第三世代〉と呼称される学者の講義を聞き、著作や論文を結構な数読んだものだった。それから随分の時間が経ったが、昔懐かしい名前が多く取り上げられて興味を惹かれたことから、読んでみることにした。

     歴史学においては「戦後歴史学」と呼ばれるものがあるが、本書の題名に使われている「戦後憲法学」と言うワードは何を意味するのだろうか。字義通りには、日本国憲法の誕生以後の憲法学ということになるが、憲法を学んだことがある者ならば、一定のイメージを思い浮かべるのではないだろうか。占領軍により与えられた憲法という出自の特異性のため、その定着前から政治による改憲の圧力に晒された憲法について、いかなる立場、いかなる法的構成を取るのかから始まり、特に戦争放棄条項の憲法9条を巡る考え方・解釈における政府有権解釈との対立。こうしたことから、憲法学と言えば、"抵抗の憲法学"という念を抱くような気がする。

     もっとも本書では、「抵抗の憲法学」には回収されない学問的営みがあったことにも十分目配りを利かせ、多様な戦後憲法学の内実を丁寧に解き明かすよう試みている。
     第二章「日本国憲法の「定着」をめぐって」では、内閣に設置された「憲法調査会」と、それに対抗する「憲法問題研究会」の活動について述べられている。
     憲法調査会については正直、具体的な活動内容を知らなかったので、「押しつけ憲法」論の論拠を否定し、即時改憲論を鎮静化する作用を果たした歴史的役割について新たに学ぶことができた。
     第三章「「戦後憲法学」の多様化」では、〈抵抗の憲法学〉ではないと評価される学派として、憲法学会と比較憲法学会及びその中心メンバーについて紹介がされる。
     大学時代にこれらの学者の論を学んだ記憶はないが、仮に紹介されていても、おそらく少数説として簡単に触れられるに止まっていたのではないだろうか。どれだけの学問的意義があるのかは、本章を読んでもよく分からないが、その考え方そのものについてはある程度理解できた。

     第七章「「戦後憲法学」と平和主義」は、本書中の白眉と思った。
     憲法が定める平和主義の理想と主権国家が直面する国際政治の現実との鋭い緊張関係の中での、自衛隊その他の現実と憲法解釈との乖離。本章は、9条をめぐる憲法学の多様な言説の形成・展開・変遷の過程を、戦後政治史との関係にも注目しながら通時的・総合的に検証することを通じて、「戦後憲法学」の複雑な実態を把握するための見取り図を提供しようとする(225頁)ものとされる。
     「9条護憲論」が野放図な軍備拡充に歯止めとなってきた政治的効果は持ったものの、自衛隊が国民意識として定着する中で、憲法学、憲法解釈はいかに在るべきか。1980年代に出てきた橋本公亘の「憲法9条変遷論」、小林直樹の自衛隊「違憲・合法論」は、そうした乖離に対する一つの解答であった。
     これらの見解に接したとき、論理として見れば何か誤魔化しのような感を持ったことを覚えているが、その苦心、また実践的意義については、本章を読んで納得できた。

     第八章「「戦後憲法学」の死角」では、本来憲法の人権保障とは、少数者であってもその権利は保護されるべきであるというものであるのに、実は日本におけるマイノリティとも言うべき、沖縄、アイヌ、在日朝鮮人に関して大きな問題があったことが明らかにされる。

     憲法改正問題は、依然として政治のホットイシューである。また、憲法制定当時には顕在化していなかった多くの課題も生じてきている。こうした問題に憲法学はどのように対応していくのか。戦後憲法学を多面的に検証した本書は、これからを考える上でも大変参考になると思われる。
     

  •  「戦後憲法学」が主に「抵抗の憲法学」とのイメージで見られてきたこと自体は前提としつつ、そのイメージに留まらない多様な姿を紹介する論文集。執筆陣はほぼ1970〜80年代生まれであり、だからこそ「戦後憲法学」をある程度客観視できるのだろうか。
     「保守」憲法学、またその中でも更なる多様さ(西修と小林節と百地章の差異は何となく分かる)。権威主義を憎むとしながらも、他者からはまさに「権威主義」と見られた「東大学派」。また、「抵抗」は主に戦後第2世代のようだが、宮沢俊義ら第1世代にもその要素は見られたり、かと思えば宮沢は朝鮮戦争開戦時に警察予備隊の合憲性を明確に認めていたり。
     「主戦場」である9条を扱う論文は最も長い。「戦中派」戦後第2世代(戦時中は少年〜青年)の憲法学者ではやはり非武装平和主義、自衛隊違憲論が主流だったようだ。しかし、1970年代半ば以降は国民意識の変化もあってか、9条学説は広がりを見せ、同じ人物でも時代により変化するようになる。筆者は、柔軟な条文解釈に一定の評価を与えつつも、「憲法は融通無碍に読んでよい」という国民の憲法観には、憲法学の観点から問題意識を示している。

  • 東2法経図・6F開架:323.14A/Su96s//K

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著者プロフィール

北海道大学大学院法学研究科教授

「2023年 『憲法研究 第12号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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