パラケルススの薔薇 (バベルの図書館 22)

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336030429

感想・レビュー・書評

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  • ボルヘスを館長として編纂された文学シリーズ、「バベルの図書館」の一冊。自分が好きな作家の好きな作品だけを集めた文学シリーズを出すとはなんと贅沢な読書家なのでしょう。
    イタリアから刊行されたシリーズですが、青を基調とした装丁が美しく、並べると美術館のようです。この「パラケルススの薔薇」には、ボルヘスの短編とインタビューが入っている。

  • 調べ物をしていて、ふと、この本にボルヘスの未読の小説が
    収録されていることを思い出したので
    古書を購入(良心的価格でした、ありがたや……)。
    ボルヘス自身の編纂による
    『バベルの図書館』叢書22.「パラケルススの薔薇」。
    先日読了したアンソロジー『ダブル/ダブル』に
    「権利の問題で採録できなかった」という
    「August 25」(1983年)は、
    こちらに入っていた(更にありがたや……)。

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    ■一九八三年八月二十五日

     深夜、宿泊するホテルに帰ったボルヘスは
     フロントで記帳を求められ、
     首を傾げつつページに目を落とすと、
     真新しいインクの跡が自らの名を綴っていた。
     部屋は19号室。
     宿の主は、よく似た別の客が既にいるが、
     あなたの方が若いようだと告げる……。

     語り手ボルヘス(1899/08/24-1986/06/14)が
     「きのうで六十一になった」(p.17)と述べているので、
     彼にとっての日付は1960年8月25日のはずだが、
     年老いた分身は
     「君はきのうで、八十四になったことになる」(同)
     と応じる、23歳上の先輩(笑)なのだった。

     忘れっぽいドゥルイ氏が
     繰り返しフロントで自身の部屋番号を訊ねるという、
     ブルトン『ナジャ』(1928年)
     終盤の挿話(白水uブックス,p.156-157)を想起。

     種村季弘曰く(『吸血鬼幻想』p.190)

     > たえず自分の住むべき部屋の番号を忘れ、
     > 同一性から排除されるドゥルイ氏は、
     > 同一性の追求に急なあまり窓から転落し、
     > 血まみれの「人間とは思えない」ような
     > (つまり吸血鬼そっくりの)姿で立ち戻ってくる。

     そう言えば、1960年の後輩ボルヘスも
     1983年の先輩ボルヘスも、
     二人ながら幽霊めいていないだろうか?

     ついでにもう一つ、部屋の番号から、
     幸福で、何もかも上手く回り過ぎているため、
     却って人生の主役である自分が
     その場に不要であるかのように錯覚し、
     異様な行動を取る主婦の物語、
     ドリス・レッシングの「十九号室へ」(1963年)を
     思い出したが、これは無関係か?

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    ■パラケルススの薔薇

     錬金術士パラケルススこと
     テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム(1493-1541)
     の許に弟子入り志願者がやって来たが……。

     薔薇は灰になり、灰から蘇る。

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    ■青い虎

     1904年末にガンジス川のデルタ地帯で
     青い虎が発見されたとのニュースを読んだ「私」は、
     更に、そこから離れた村にも
     青い虎の噂があると聞いて旅立ち、
     山に入って無数の小石を発見した。
     石は分裂し、増えたり減ったり。
     村人はそれを「子を産む石」と捉えて、
     無限に増殖する可能性を恐れていた……。

     この世の理が通用しない、言わば彼岸に存在する物質が
     我々の世界に顔を覗かせる恐怖は、
     「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」と
     共通するか。

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    ■疲れた男のユートピア(再読)

     『砂の本』で読んだはずだが、記憶になかった、
     何故だ(笑)。

     未来へタイムスリップした
     エウドロ・アセベド(70歳)は
     名前を持たない男と書物を巡る対話を交わす。
     言語は引用のシステムであり、我々には最早、
     引用しか残されていないのだった。

     そう言えば岡崎京子も
     『ジオラマボーイ★パノラマガール』あとがきで、

     > 今やわたくし達のつたない青春はすっかり
     > TVのブラウン管や雑誌のグラビアに吸収され、
     > つまらない再放送をくりかえしています。
     > そしてわたくし達の出来ることときたら
     > その再放送の再現かまねっこ程度のことです。

     と書いていたっけな。
     ブラウン管とは懐かしい(笑)。

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    ■等身大のボルヘス

     1973年4月に
     ブエノスアイレスの国会図書館で行われた
     作家マリア・エステル・バスケスによる
     ボルヘスへのインタビュー音源からの書き起こし。
     成育歴と作家としての信条について。

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    ■年譜・書誌

  • なんどでも繰り返して読む物語の一つです。
    幻想と現実をつなぐ道筋を示してくれるような気がします。

  • 短篇を汲む。ある一日の時間の中にあって、あまねく歳月の言葉の影が曳く詩に耳を清ませ、ボルヘス作品群の支柱となっている《世界の甦りに立ち会うこと》について、死者とともに魔の洞窟で岩陰に意識を通すように思考をさまよわせた。
    著者自身の困惑を、読者と分かち合うように語られた優しい短篇集で、殊に『青い虎』が深く記憶に刻み付けられた。先日読了した『詩という仕事について』のある箇所で、《書物というものは、詩に達するための単なるきっかけでしかありません。》と書かれていたので、言葉の影に潜んでいる詩に息吹を吹き込もうとした。

  • 表題作の洗練具合が大変素晴らしい。

  • 表題作を含めて4つの物語からなる短篇集。驚くことに、序文によればこれはボルヘス80歳の作品であるそうな。作家本人は『疲れた男のユートピア』を「最良の1作」としているらしいが、ボルヘスらしい味わいという点では、やはり表題作『パラケルススの薔薇』だろう。どこかゾロアスターの火を思わせるような物語なのだが、末尾の1文はまさに魔法そのものだ。また、巻頭に置かれた『1983年8月25日』は、一種、東洋的な夢幻の情趣に包まれるような物語。ドッペルゲンガーが描かれているが、恐怖感よりは惚けたような風情が感じられるのだ。

  • 好:「疲れた男のユートピア」「等身大のボルヘス」

  • [ 内容 ]


    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 「疲れた男のユートピア」がよかった。たとえそんな世界はどこにもないとしても。

    カントール、ラッセルの数学に興味があったようだ。

    度を超した虚栄心...巧妙に隠しているだけ。そんな素直さがいい。

  • 第22冊/全30冊

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J.L.ボルヘスの作品

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