ヴァテック (バベルの図書館 23)

  • 1990年9月20日発売
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336030436

感想・レビュー・書評

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  • 【正篇】狂王(暴君)ヴァテックの狂乱の半生・・欲望の果てしなさ(悪業)その狂乱ぶりが厚塗りの筆致で描かれている。物語の舞台は絢爛と豪奢に彩られて黄金の光満ちているが、他方地獄的でもある。語り口はアラビアンナイトのそれに似ている(後年の魔術的リアリズムも連想)。悪魔的なオリエンタル物語世界に惹きこまれた・・どっぷり堪能した。主人公は怪物的だが(母カラティスも毒婦)、他の登場人物もみな異様。後半に登場する美少女ヌロニハールの蠱惑(奔放・淫佚・驕慢)は精彩があった。ヴァテックを手玉に取る小悪魔ぶりに惹かれた。
    【挿話篇】ヴァテックたちが地獄で遭遇した人物たちの物語・・どんな経緯で地獄に堕ちたのか語られる。『アラーシー王子とフィルーズカー王女』の物語では王女(王子)の人物造形・・小悪魔(わがまま美少年)ぶりは秀逸。それ以上に王子の婚約者ロンダーバー王女の凛々しさは際立っていた。『バルキアローフ王子の物語』の主人公王子(?)はどうしようもない猜疑心の強いヒネクレた人物(タダの嫌なヤツ)だが、ニンゲンの裏表が巧く描かれてもいて出色の人物造形かも。また人間のために奔走する妖精ホマユーナーの慈愛と献身にも惹かれた。

  • ボルヘスを館長として編纂された文学シリーズ、「バベルの図書館」の一冊。イタリアから刊行されたシリーズですが、青を基調とした装丁が美しく、並べると美術館のようです。

    ===
    アラブのカリフヴァテックは、魔術師から示された栄光の場所に辿り着くために、不徳と残虐の限りを尽くす。だが辿り着いたその場所とは地獄のことだった…。
    「正編」は、元となるヴァテックの物語で、「挿話編」ではやはり地獄の裁きを待つ者達の放蕩と転落を描く。「地獄」を示したゴシック的幻想文学。
    ===

    作者ベックフォードについては澁澤竜彦「異端の肖像」で書かれていました。イギリス大貴族の家に生まれ、魔術的なものへの傾倒、スキャンダル、そして後半生は個人的美学に拘った僧院と塔での隠遁生活。階級社会によって金も権力もある人物が自分の趣味を徹底的に追及すると、後世からみると心理学的にも興味深いものが表現できるんだなと思った。

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