重力の虹 2 (文学の冒険シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336030580

作品紹介・あらすじ

混沌と破壊の支配するヨーロッパの荒野をひとりゆく、われらがタイローン・スロースロップ。あるときは亡命船アヌビス号で乱交パーティに加わったり、またあるときは闇商人の一味と共に旧ロケット基地を急襲したり、海辺の町では豚の英雄プレハヅンガに扮して大暴れ。元天才映画監督にして神出鬼没の闇商人、淫らな銀幕の女王グレタ・エルトマンとその娘ビアンカ、アフリカ・ヘレロ族のを率いるエンツィアーン、彼を追いかけるロシア人の異母兄弟チチェーリンとそのまた後を追うブロッケンの魔女ゲリー、各地で彼と出会い、通り過ぎてゆくさまざまな人々。ロケットと自分自身の謎を追い求めるロースロップの偏歴は続く。一方、ロンドンではに対するが結成され、抱腹絶倒奇妙奇天烈な反撃が開始された。いくつもの挿話を積み重ね、過去へ未来へよろめきながら、物語は究極のゼロ・アワーへと進んでいく。発表以来、轟々たる賛辞と非難の嵐をまきおこし、いまだ20世紀アメリカ文学の極北に屹立し続ける謎の天才作家トマス・ピンチョンの全米図書賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦末期、ロンドンは連日ナチス・ドイツのV2号ロケットによる<報復攻撃>を受けていた。そんな時節ではあったが、ロンドン駐留中のアメリカ軍協力将校タイローン・スロースロップ中尉は、女の子と寝るたびに、その場所と日時を市街地図に色別の星印をつけることにしていたが、不思議なことに、その星印とV2ロケットの着弾点はぴったりと一致しているのだった。スロースロップの超能力なのか、それとも原因は別にあるのか。パブロフ派の科学者ポインツマンをはじめとする関係諸機関は、スロースロップの調査を開始する。

    パブロフの犬なら知っている。食事を与える際にベルを鳴らす条件付けをすると、ベルの音だけで唾液が出てくるという、あれだ。どうやら、タイローンには幼児期にラスロ・ヤンフという化学者によってある種の条件付けがなされた過去があるらしい。イミポレックスGという芳香性プラスティックの刺激によって勃起が起こるのだ。スロースロップは、その秘密を探るため、リヴィエラ、ジュネーブ、ドイツの占領地区と、果てしのない彷徨を続ける。それを追って、ナチス・ドイツ、ロシア、イギリス、アメリカの軍人、科学者、その他の人間が騒動を巻き起こす。

    例によって例のごとく、数学、工学、化学、実験心理学その他の数式、化学式、科学史上に名を残す先人たちの名前、薬品等の固有名詞が続出する。それだけでも素人は手を焼くのだが、実在の人物と作者が勝手に創りだした人物が混在しているものだから、全くの法螺話と読み捨てるわけにいかないのがピンチョンなのだ。さらに、サイコキネシスや霊界と交信ができる超能力者の集団の登場に加えて、タロット占いやマンドラゴラ等のオカルトへの耽溺。これでもかと繰り出すSM、小児性愛、獣姦、スカトロジー等性倒錯者たちの狂宴、ドイツ表現主義映画やハリウッド映画へのオマージュ、そしてピンチョンお得意の歌曲の数々、とどこをとってもこってこてのピンチョン世界。

    映画を思わせる動きや会話で読ませる手法に慣れれば、七十以上の場面転換もとうてい覚えきれない数の登場人物も、まあ、なんとかやり過ごすことはできる。主人公であるスロースロップに焦点が当たっている場面は、連続冒険活劇を見るような、手に汗握る感じで読めるのだが、脱線に継ぐ脱線の果てに話があちこちに飛び散り、断片化していくと、もういけない。後を追うのに疲れ果てる。まさにパラノイアの世界なのだ。

    エロ・グロ・ナンセンスに徹した作品世界の裏に、今日のアメリカの軍産共同体による形振り構わぬ資本活動に対するアンチテーゼを見ることはたやすい。また、どのような状況におかれていても、美しさを失わない女性や、恋人たち、ドラッグ浸けの不良軍人や海賊、密輸業者といった国家や軍隊の統制を受けない者たちへの偏愛もまた、ピンチョンならでは。ゲロやら反吐まみれの文章のなかに、時折り紛れ込む可憐なイメージ(例えば修行中の魔女ゲリーと乗りこむ気球の旅)もまた、一服の清涼剤の役割を果たし、この類稀な読書経験の印象を際立たせる。

    ただ、訳は首をひねるところが多々ある。名曲『シボネー』が『シボニー』となっているのがその例だが、それほど特別なものでもない固有名詞が、通常の表記とは異なる名で記されている。思うに、ピンチョンを訳すには、ただ英語ができるだけでは務まらない。専門用語は別として、映画やコミック、ポップミュージックといったサブカルチャーに詳しいスタッフが監修をつとめる必要がある。そういう意味では、佐藤氏の新訳が待たれる。もうそろそろ出てもいい頃だと思うのだが。(Ⅰも含む)

  •  約4ヶ月かかって、やっと読み終わりました。とは言え、流して読んだだけで内容を理解できてるか全く自信はありませんが。嘘か真か英語圏の文学作品で最も研究されている一冊だということで(Wikipedia調べ)、それも納得の難解さ。

     とりあえず、第2次世界大戦末期のヨーロッパが舞台で、特異体質を持った主人公が自身の出生に隠された秘密を追い求めて放浪する、というストーリーを軸として登場人物が百人以上は出てくる群像劇なのですが…。描かれるのは暴力とセックスのイメージで埋め尽くされた混沌の世界。数十本のエピソードが語られますが、ストーリーはどう考えても行き当たりばったりで徹底的にデタラメで支離滅裂、おまけにえらく下品な話が多かったりします(子供じみた下ネタ多数)。更に読者を騙しにかかっているとしか思えない大量のエセ科学知識が満載で、歴史的にもかなりの嘘が仕込まれてます(もちろん知識がなければ嘘はツケないわけですが)。

     40年近く前に書かれた小説だというのに、現在でもここまで前衛的な小説は、まずないでしょう。とにかく何もかもがやりすぎで、そのやりすぎぶりに価値がある小説なのではないかと。読んでる間、ホントに頭を抱えながらも楽しませてもらいました。

  • ピンチョン既刊分、一番最後に読んだのがこの作品で良かった……評価としては――「逆光」と似てるなあといったところ。別の訳でもう一度読んでみたいけど、うーん、とにかく険しい山なのは間違いなさそう。

  • ようやく終わった。
    本当に今までで最も読むのに時間がかかった本。
    何ヵ月読んだんだろ。
    文学と言われるような本はあまり読まないので、「重力の虹」は途方もない山登りみたいだった。

    おそらく内容の10分の1も理解できてない、難解すぎて。
    だからあえて評価は無しにしておく。

  • 上巻参照

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