日本幻想文学集成 (26) 円地文子―猫の草子

著者 :
制作 : 須永朝彦 
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336032362

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  • 梅の木に梅の花咲くことわりをまことに知るはたは易【やす】からず
      岡本かの子

     「作家論」という文学研究のジャンルがある。作家の強烈な個性や独特の経歴、交友関係などが、その作家の文学観の核に重なることを論ずるものだ。実際さまざまな〈伝説〉をもつ作家も多く、また、その伝説を作家同士が生むこともある。
     たとえば、円地文子が岡本かの子について書いた「かの子変相」は、筆の鋭さに思わず緊張も走る名編だ。
     まず、かの子の相貌がなまなましくスケッチされている。「きめの荒い艶【つや】のない皮膚に濃く白粉【おしろい】を塗り、異様に大きくみひらいた眼が未開な情熱を湛【たた】えて」いる姿。だが、そのようなかの子を「美しいとは私は一度も思ったことがない」と断言。
     けれども、かの子が文学の上で「美女に化けようとし、その化け方は晩年には堂に入ったものになった」と、読者を魅了した妖艶なロマンチシズムを冷静に分析している。
     また、他人の心を強いて自分に引きつけたかの子の「孤独の深さ」を、円地文子は見通していた。それは、孤独の深さを知る作家同士のいたわりだったかもしれない。
     かの子の創作活動は短歌から始まり、晩年の3年間は、憑かれたように小説を量産した。その小説が、実は長歌的であることも円地文子は指摘している。 
     夫は画家の岡本一平、息子は芸術家の岡本太郎。多くの男性に支えられた50年の生涯だった。掲出歌、「ことわり」=理を追究するのはまこと易からぬもの。

    (2012年4月15日掲載)

著者プロフィール

円地文子

一九〇五(明治三十八)年東京生まれ。小説家、劇作家。国語学者・上田万年の次女。日本女子大附属高等女学校中退。豊かな古典の教養をもとに女性の執念や業を描いた。主な作品に『女坂』(野間文芸賞)、自伝的三部作『朱を奪うもの』『傷ある翼』『虹と修羅』(谷崎潤一郎賞)、『なまみこ物語』(女流文学賞)、『遊魂』(日本文学大賞)など。また『源氏物語』の現代語訳でも知られる。八五(昭和六十)年文化勲章受章。八六年没。

「2022年 『食卓のない家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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