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- Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336032362
感想・レビュー・書評
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梅の木に梅の花咲くことわりをまことに知るはたは易【やす】からず
岡本かの子
「作家論」という文学研究のジャンルがある。作家の強烈な個性や独特の経歴、交友関係などが、その作家の文学観の核に重なることを論ずるものだ。実際さまざまな〈伝説〉をもつ作家も多く、また、その伝説を作家同士が生むこともある。
たとえば、円地文子が岡本かの子について書いた「かの子変相」は、筆の鋭さに思わず緊張も走る名編だ。
まず、かの子の相貌がなまなましくスケッチされている。「きめの荒い艶【つや】のない皮膚に濃く白粉【おしろい】を塗り、異様に大きくみひらいた眼が未開な情熱を湛【たた】えて」いる姿。だが、そのようなかの子を「美しいとは私は一度も思ったことがない」と断言。
けれども、かの子が文学の上で「美女に化けようとし、その化け方は晩年には堂に入ったものになった」と、読者を魅了した妖艶なロマンチシズムを冷静に分析している。
また、他人の心を強いて自分に引きつけたかの子の「孤独の深さ」を、円地文子は見通していた。それは、孤独の深さを知る作家同士のいたわりだったかもしれない。
かの子の創作活動は短歌から始まり、晩年の3年間は、憑かれたように小説を量産した。その小説が、実は長歌的であることも円地文子は指摘している。
夫は画家の岡本一平、息子は芸術家の岡本太郎。多くの男性に支えられた50年の生涯だった。掲出歌、「ことわり」=理を追究するのはまこと易からぬもの。
(2012年4月15日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示