ルルドの群集

著者 : J.K.ユイスマンス 田辺保

• 国書刊行会 (1994年2月1日発売)

感想・レビュー・書評

[シシマル堂さんの感想 · 2016年1月18日]

透徹した観察眼に基づくルルドの描写が第一の趣旨です。病に犯された身体の悲惨さ、醜悪さ。建築には「悪魔の所業」と手厳しく、浅薄な便乗商売や物見遊山のツアー客にも批判的。しかし、不思議と人々を見る眼に温かみがあります。
太さ長さ其々の蝋燭が寄り添って燃えるさまに人々の祈りを重ね、身を投げ出して叫ぶ巡礼の姿に言葉を失くす。どんな状況でも希望を失わない看護人たちに惹かれる。いかに懐疑的な人間でも心を掴まれ、揺さぶられ、自分の方が間違っていたのだと思わされる。
そんな景色が本書の中にはあり、苦しみとともに生きることの真髄を考えさせます。