カフカの父親 (文学の冒険)

  • 国書刊行会 (1996年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (260ページ) / ISBN・EAN: 9784336035912

感想・レビュー・書評

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  • 「なんだこれは」の連続だった。ちょっと頭のおかしい人たちの主張の垂れ流しというか、シュールなのに理屈っぽくてしつこい(ほめてる)。また、悲哀とユーモアが同居した感じなのもよい。特に気に入ったのはゴーゴリの妻が実は〇〇だった『ゴーゴリの妻』、オペラ歌手の歌声には重さだけでなく色や匂いもあって……の『通俗歌唱法教本より』だが、言葉についての物語『無限大体系対話』『騒ぎ立てる言葉たち』や、ダークファンタジーの『剣』『キス』も好き。「とりあえず逃げろよ」と突っ込みたくなる『ころころ』も結果的に面白かった。

  •  15編からなる短編集。
     その殆どが奇想天外なアイディアに基づいて書かれている。
     例えば、自分以外理解出来ない言葉で詩を創作してしまった男……、あのカフカの父親は実は……、声というものには重さや匂い、堅さなどを持つという報告……、ゴーゴリの妻はゴム人形だった?……、殺人を犯しておきながら堂々巡りの思考を繰り返し……、ある朝言葉が口から飛び出してきて「意味」の変更を要求する……などなど。
     ショート・ショートのようなオチがある話もあれば、正直よく判らない話もある。
     残酷な話もあれば、ユーモアたっぷりの愛嬌のある話もある。
     もしかしたら寓話的な意味合いが隠れていて、素直に面白がるだけではダメそうな話もある。
     ちょっと理屈っぽく感じるところがたまにきずなのだが、概して面白く読み進めることが出来た。

  • ハヤカワの異色作家アンソロジー『エソルド座の怪人/世界編』に収録されていた音痴の夫とその妻の話こと「ジョヴァンニとその妻」がなんとも言いがたい味だったので、こちらの短編集も読んでみました。なんだなんだこれは。以下いくつか感想。

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    「無限大体系対話」…不幸な偶然により、じぶんにすら分からない言葉で美しい詩を創作してしまった男の悲劇。
    世界中のだれひとり理解できない言語で書かれた美しい詩に意味はあるのか。森のなかの木の倒れる音、みたいな話だなあ。

    「泥棒」…まのわるい泥棒が家主のささやかな秘密を目撃する。ネジがゆるゆるの振る舞いながら、こういう感じ、わからなくもない。案外みんなひとりきりだと身に覚えがあったりして。

    「カフカの父親」…「扉あけたら巨大な虫がね、部屋の中に鎮座してたんだけど、」「あー(カフカか…)」「それがカフカの父親だったんだよ!」「えっあれっ」

    「『通俗歌唱法教本』より」…発声というのは重さや固さや匂いを持つものなので、声を出す方向、大きさ、声音にはじゅうぶん注意しなければなりません。おおまじめな顔で法螺を吹く。本書はオペラを通しての研究の記録です。

    「ゴーゴリの妻」…「ゴーゴリの奥さんというのは生涯秘密にされていたのだけど、」「はあ」「実はゴーゴリの奥さんはゴム人形だったんだよ!」「またかー」

    「幽霊」…幽霊のふりをして主人を散々こわがらせる友人の群れ。なんといういやなお客たち…しかし気付かない主人も主人。

    「ころころ」…分け入っても分け入っても出口のない精神的樹海をぐるぐるするうちに機をのがす。本人的にはしごくマトモな思考の流れとおもっていそうなところが危険信号。狂う、というのはこういうことかも。

    「騒ぎ立てる言葉たち」…突如あらわれ、じぶんの音の響きに似合う「意味」はむしろこっちじゃない? と口々に「意味」の変更を希望する言葉たち。もっさりした意味は言葉同士おしつけあい、オシャレな意味が争奪戦になっているところが笑える。これはドイツの言葉たちバージョンが読みたい。

  • そこそこ頭のいい人間が屁理屈をこねまくる、あるいは埒のない考えを展開しまくる、そんな感じの短編集。

    この世に存在するのか分からない言語で書いた詩を巡って展開される途方もない言語・芸術論が楽しい「無限大体系対話」、切羽詰まった状況で一つの決断を下そうとして逆に関係ないことにばかり意識がいってあれこれ考えているうちに手遅れになる男の話「ころころ」が特に気に入った。

    作者の暴走気味の世界に乗っかって行けばそれでよろし。

  • 2008/1/28購入

  • 昨年この作家の「月の石」に魅了されたが、びっくりのゴシックテイストからナンセンスまでの短編。表題の「カフカの父親」には「あっ!」

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著者プロフィール

1931年生まれ。國學院大學名誉教授。2006年没。訳書にカルヴィーノ『不在の騎士』『木のぼり男爵』(白水社)他。

「2018年 『カフカの父親』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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