虚数 (文学の冒険シリーズ)

制作 : Stanislaw Lem  長谷見 一雄  西 成彦  沼野 充義 
  • 国書刊行会
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レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336035936

作品紹介・あらすじ

人体を透視することで人類を考察する「死の学問」の研究書『ネクロビア』バクテリアに英語を教えようとして、その予知能力を発見したアマチュア細菌学者が綴る「バクテリア未来学」の研究書『エルンティク』人間の手によらない文学作品「ビット文学」の研究書『ビット文学の歴史』未来を予測するコンピュータを使って執筆されている、「もっとも新しい」百科事典『ヴェストランド・エクステロペディア』の販売用パンフレット。人智を越えたコンピュータGOLEM 14による人類への講義を収めた『GOLEM 14』様々なジャンルにまたがるこれら5冊の「実在しない書物」の序文とギリシャ哲学から最新の宇宙物理学や遺伝子理論まで、人類の知のすべてを横断する『GOLEM 14』の2つの講義録を所収。架空の書評集『完全な真空』に続き、20世紀文学を代表する作家のひとりであるレムが、想像力の臨界を軽々と飛び越えて自在に描く「架空の書物」第2弾!知的仕掛けと諧謔に満ちた奇妙キテレツな作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 未来に出版されるはずの本への序文集――としての
    短編小説集というメタフィクショナルな一冊。
    「架空の本」の批評ではなく、
    この先“書かれるに違いない作品”について
    「序文」の形式で前以て概要を語ってしまおうという点が、
    ボルヘスと少し異なるが、

     > 長大な作品を物するのは、
     > 数分間で語りつくせる着想を
     > 五百ページにわたって展開するのは、
     > 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。
     > よりましな方法は、
     > それらの書物がすでに存在すると見せかけて、
     > 要約や注釈を差しだすことだ。

    というボルヘス『八岐の園』~「プロローグ」
    (岩波文庫『伝奇集』p.12)での《宣言》と、
    精神的に相通じる一冊。
    本書全体の序文を書いた
    梅草甚一(!)なる人物――肩書きは日本挨拶学協会会長――も、

     > たとえいい本であったとしても、
     > 量があまりに多くなれば、
     > それは単なる騒音となり、
     > 人は情報の大海に溺れてしまう。【略】
     > 本当なら分厚い本をもっといくらでも書けるのに、
     > そこをあえて自制して、
     > 最小限の形式の書評や序文で
     > 〈書くことへの欲望〉を
     > 処理したのではないだろうか。(p.2-3)

    と述べているとおり、
    SFからミステリから何から
    一通り書き尽くしてしまった碩学の作家が
    その後に着手したのは、
    大きな物語を圧縮する試みという体裁を取った
    「一つ上の次元」の著述だったのだろう。

    内容は、
    特殊な撮影方法による写真集に付された
    序文(という体裁のフィクション),
    アマチュア細菌学者の、
    培養基に入れたバクテリアに刺激を与え、
    モールス符号で文章を綴らせるという実験の記録,
    人の手を介さず、
    コンピュータが小説を綴るようになった時代、
    そうした作品は「ビット文学」と呼ばれた……
    ということで論述される「ビット文学史」。
    1970年代に、
    AIが小説を書き上げるようになった現代の状況を
    透視していた作者レムの「予見」の鋭さに戦慄。
    そして、
    未来の予測に基づいて記述された(!)項目から成る
    百科事典の宣伝パンフレット及び
    付録の本体見本ページという構成(=設定)の
    フィクション。
    ラストは「GOLEM XIV」。
    これは
    General Operatior,Longrange,Ethically Stabilized Multimodelling
    =「長期倫理的安定化マルチモデル汎用オペレータ」略称GOLEM
    と名付けられたコンピュータ・シリーズが
    ホワイトハウス附属機関の最高位に就任したり、
    陸海軍の最高司令官として指揮を執ったり、
    ヒトとは何かを論じた講義を行ったりして、
    バージョンアップの度に自我を肥大させていく様子を
    描いた作品。
    ゴーレム(golem)という語が、
    ユダヤ教の伝承に登場する自力で動く泥人形で、
    胎児の意であることを思い出すと、
    彼が好き放題に振る舞う歪んだ子供のように感じられる。
    しかし、彼を作った人物が
    命令文を少し書き換えれば元の土塊に戻るはずなのだ……
    と思ったものの、どうやら彼はその手を逃れ、
    ヤコブの梯子の彼方の宇宙へ遁走したらしい。

  • 知的生命体というものが神の計画によるものではなく、遺伝子の伝言ゲームによってもたらされた取るに足らないものであるということを強く思い知らされた。我々人間は知性を持っているという点で他の生物よりも優れていると思っているかもしれないが、そもそも知性とは植物などが持っている光合成のような優れた能力を失ってしまったことに対する代償にすぎないのです。

  • 架空の書物についての序文と講義が収められた作品集。「完全な真空」と対になっているようにも感じるけど、もっと突き抜けた印象も受けた。難解ではあるけど、今作もフィクションと現実の境目が曖昧になっているような感覚には惹かれる。

  • 〈実在しない書物〉の序文集と、人智を越えたコンピュータGOLEM 14による講義録を収めた作品集。
    前半の序文集も愉しいけど、後半のGOLEM 14の講義録が素晴らしすぎる。そこに込められた情報量や、「進化」や「知性」に対するドーキンス風の覚めた視線、想像力に圧倒される。そういえば前半に収録された架空の書物も進化、知性を主題にしたものが多かった気も……。

    冒頭に「日本語版への序文」を置くという”お約束”も素敵。誰だよ、”日本挨拶学会会長”梅草甚一ってw

  • 互いに認識しあうことも理解しあうこともない知性同士のコンタクト、っていうのはレムが何度も何度もしつこく書いてきたテーマな訳です。<BR>
    脳や言語、その他肉体的なもろもろの構造に制約された私たちヒトが持てる知性には独我論的ではない、種としての限界がどうしても生じるがために、ヒトの構造とは共通点がない構造から生じた知性との相互理解なんて無理だよね。という。<BR>
    <BR>
    そういう彼の考えは、まず「侵略か共存しかしないSFの異星人なんて笑っちゃうぜ!」という形で表れて「砂漠の惑星」「天の声」「ソラリス」等の作品の中核になり、<BR>
    人間に興味を持たない、というか他種の知的生命体として認識すらせずに、ただそこにいて自分達の知性を駆使して何らかの活動を営んでいるようなものたちを生み出してきたのだけれども(惑星ソラリスはちょっと例外的な行動を取るけれど)。<BR>
    その核となっている思想を、SF的な背景を極限まで削ぎ落として煮込みに煮込んだのが、この本。<BR>
    ある意味レムSFの集大成。<BR>
    <BR>
    この本の構造を大まかに言うと、四冊の架空の本のための序文を集めた前半部分と、人間の知能を超えたコンピューターの人間への講義録を収めた「GOLEM XIV」、という二部構成になっています。<BR>
    一応、前半部分は後半のテーマとなる部分をゆるーく取り扱うことで、準備運動としての機能も果たしているじゃないかと思いますけど、「GOLEM XIV」のあまりのぶちぎれっぷりに、それほどこういうジャンルに興味がない人だと前半だけ読んでお手上げーということも結構あるんじゃないかと。<BR>
    <BR>
    「意識」等、人工知能関係の核となるものの定義すらあやふやだし、そもそも人間的なものから離れた知性を具体的どころか漠然と想像することすら難しい今だと、やっぱり「GOLEM XVI」も所詮SF、夢物語に過ぎないのかもしれない。<BR>
    それでもそういうフィクションの場を作り出したレムの想像力、テーマの掘り下げ方の尋常じゃなさっていうのは常人からかけ離れていると思うのです。<BR>

  • ベストSF90年代年9位

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    【要約】


    【ノート】

  • 架空の書物の序文集。ものすごくエキサイティング。特に「GOLEM XIV」は圧巻。進化と言語に纏わる講義はまさに読みたかったテーマでした。これほどスケールの大きな話でありながら単なる法螺やファンタジーとは言わせない圧倒的知識と洞察力。レムの巨大さを改めて実感しました。

  • アイロニカルに「夢」を語る方法

    レムの「架空の書籍の書評」という方法は(ローティ的な意味で)「アイロニスト」的な表現手法だと思います。「公共的な科学言論」ではなく「私的なファンタジー」として科学に関する思想を書くことによって、争いを避けられるというわけです。

    おちゃらけ、というか、ユーモアを含んだ表現も、その意味では本書に必要不可欠な要素だと言えます。ふざけた表現でも、内容を理解して共感してくれる人にはちゃんと伝わるし、そうでない人にとっては「真面目に批判する気が起きない」ので争いにならないというわけです。つまり、前者にとっては「ユーモラスな表層の裏に、骨太な思想が隠れている」ように読めますし、後者にとっては「とるにたらない妄想」として読まれるわけです。

  • 『完全な真空』と対になる本作は、『架空の書物』の『序文』……という設定の短編集。
    『書評集』であった『完全な真空』とは異なり、褒めているんだか貶しているんだか判然としないシニカルさは薄いが、書かれることのない本編(?)を読んでみたくなるのは同じ。つい、勿体ないと感じてしまう……。
    本作で一番読みたいのは『ヴェストランド・エクステロペディア』。これしかないでしょう。百科事典が大好きな人間には垂涎もの。ああ、何故これが架空の書物なのか……。

    本作では『完全な真空』のメタフィクション的な部分がかなり増幅されている……という読後感。また、巻頭の『日本語版への序文』も、それに乗っかるような形になっている。こういう『遊び』の部分も含めて面白かった。

  • 人智を超えたコンピュータGOLEMによる人類への講義が目からウロコだった。人類外からの視点で人類を見るとこうなるのかとただ感心。

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著者プロフィール

1921年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領)に生まれる。クラクフのヤギェウォ大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始め、1950年に長篇『失われざる時』三部作を完成。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『砂漠の惑星』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF作品を発表し、SF作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティクスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70年には現代SFの全2冊の研究書『SFと未来学』を完成。70年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『泰平ヨンの現場検証』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006年に死去。

「2017年 『主の変容病院・挑発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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