マンク

  • 国書刊行会
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (642ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336037473

感想・レビュー・書評

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  • クリストフ・バタイユの『ANNAM』を読んで敬虔な修道士が肉欲に溺れていくというもっと原始的な作品があったことを思い出した。

    最も『マンク』に登場するアンブロシオという僧院長は、『ANNAM』のそれとは違い、セクハラ、強姦、殺人、近親相姦(結果的に)、母親殺し、窃盗犯、と表の顔とは裏腹の極めて残忍な人物。

    『マンク』は、ゴシック建造物を舞台に恐怖怪奇を主題とする18世紀から19世紀はじめに書かれたゴシック小説で、なんとマシュー・グレゴリー・ルイスが18歳で完成させた作品である。

    サド、ホフマン、ブルトンなどに影響を与え、マンクとは破戒僧という意味を持つ。

    アンブロシオは非常に信仰が厚く、彼の説教を聞きにマドリッド中から教会に集まるという時代の寵児的存在であった。苦労して育ったが、今の成功を心から喜び、それを守り、神に仕えながら、民衆の信仰に導くため彼は努力をしていた。
    教会に彼の説教を聞きに集まった人々は彼の雄弁さに打たれ、聖者と崇めたりするのだった。

    僧院にはロザリオという若い見習い修道士がおり、アンブロシオによく仕えていた。
    ところがなんと、このロザリオは実は女性で、彼を慕って男に化けて僧院に入り込んだという。
    そのうえ、熱烈な愛の告白をし、アンブロシオは彼女と結ばれてしまう。

    ここまでだと、女を知らない僧が一度間違いを起こした。
    ということなのかもしれないが、このアンブロシオは、極悪人の素質十分で、ロザリオにもとっとと飽きて、次なる女性を抱くことで頭が一杯になる。

    悪への道へ転がるように堕ちてゆくアンブロシオだが、妖魔術やオカルトティックな色彩を帯びつつ、グロテスクな場面が次々と展開する。
    恋文がみつかったがために妊娠したまま幽閉された貴族の女性は、産み落とした嬰児が死んでしまい、腐敗のすすむわが子の亡骸を地下牢で抱き続ける。
    アンブロシオは自分の保身のために、人殺しをし、もうぐちゃぐちゃに悪徳の匂いを発散しつつ物語は続いてゆく。

    あまりに凄まじい背徳と残虐性のため発表当時激しい非難を浴びたと言われる。
    マシュー・グレゴリー・ルイスは、1775年に生まれ1818年に43歳で逝去。

    最高級の恐怖の鎮座は、この小説から写実的にその舞台となった建物やその部屋、地下牢などまざまざとゴシックのその時代のものが見えるようで、その上、悪徳の血飛沫までも飛び散ってきそうなリアリティがあることだ。

    サドの小説よりもエログロや性倒錯、非道や残忍さはマイルドに思えるが、ゴシック小説独特の恐怖から読者は容易に抜け出せないであろう。

  • 約20年ぶりに再読。清廉な高僧と崇められていた男が堕落して破滅していく物語にゾクゾクした記憶があったが、読み返してみると男装のマチルダにそそのかされる前から彼はすでに俗物根性を隠しもっていた。しかも堕ちた後は優柔不断で責任転嫁が多く、肉欲ばかりが先立つ最低男の本性が丸出しになる。
    元が本当に清廉な人格だったなら多少なりとも同情できたかもしれない。
    それにしても書かれた時代を考えるとよくぞこの内容を公開したものだと思う。そしてそれを書いたのが10代だというから恐れ入る。

    アンブロシオを主人公にしているならレイモンドの冒険譚はちと冗長なので一緒くたにしないほうがよかったように思う。
    もっとも、そのレイモンドとロレンゾがそれぞれハッピーエンドになるからこそアントニアの独り可哀想な悲劇が際立つんだけど。

  • (2012/12/8購入)

  • マンクってのは破戒僧のこと。
    ホフマンやサドなどが、この19歳の著者の書いた小説を
    絶賛していたということで興味が湧いた。

    話は、マドリッドの高僧が忠実だと思っていた男装の弟子に
    どんどんとはめられて、セックスしまくり、黒魔術や魔法を使い
    果ては、強姦、殺人、そしてとうとう宗教裁判にかけられ
    おそろしい拷問による尋問を受けるようになる転落人生。
    それが、3巻分まとめた分厚いこの単行本に細かい文字

  • ヴァンサン・カッセルの表紙が目に付いて手に取る。
    この厚さ!読めるだろうかと思ったものの、物語に引き込まれてしまい、たった2日で読み終えてしまった。
    内容はもちろん、紙の質感、余白、書体といった装丁も素晴らしく、物語へ誘うのに素晴らしい役割を果たしていると感じた。
    内容は、殺人、強姦、黒魔術と、なかなかにグロテスクで恐怖をそそる話なんだけど、展開もよく練られているし、悪魔の誘惑の台詞等もリアリティがあって素晴らしい。著者、マシュー・グレゴリー・ルイスは、19歳でこの作品を書き上げたというから凄く驚いた。
    それにこの作品が書かれたのは18世紀。
    とてつもなく古くて、更に驚いた。
    名作は色褪せないし、真理をついているんだと思う。

  • 洋の東西を問わず抑圧的な坊さんの箍が外れるとえらいことになるらしい。本作の御坊は自業自得っぽいけど。

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