オレンジだけが果物じゃない (文学の冒険シリーズ)

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336039620

作品紹介・あらすじ

たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった…。熱烈なキリスト教徒の母親から、伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれた少女ジャネット。幼いころから聖書に通じ、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた彼女だが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する…。『さくらんぼの性は』の著者が、現代に生きる女性の葛藤を、豊かな創造力と快活な諷刺を駆使して紡ぎ出した半自伝的作品。

感想・レビュー・書評

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  • ウィンターソンの処女作。自伝的な内容らしい。狂信的なセクトの母親とかって、なんかアメリカ的なもののように思っていたけど、イギリス。内容はちょっと辛い。でもそれがすごい作家を生み出すとなると……やっぱり辛い。
    主人公はあくまで何事にも傷ひとつ負わないかのように気丈なんだけど、合間に不意に挿入される寓話めいた創作童話が、傷の深さを語るよう。

  • 2対8の割合で元気づけられ心細くなる。ウィンターソンの作品は2冊目で、主人公の女の子は二人とも強い子だ。語られないことも多いのだろうけれど、腹の据わりかたが違う。この強さはどこから来るのだろう。本来の自分として生きるためなら人間は強くなれるはずなのか。

    物語にして消化するところ、たぶんそれをしないと先に進めないのはわかる。その一方で、自分の編集力を信じるにはどうすればよいのかとも思う。時間をかけることだろうか。

  • まなざしは、距離によって和らげることができる。奇妙な許しの物語。


    著者のデビュー作にして半自伝的作品であるが、そうと知らずに開いても想像力のはばたきに魅せられてしまう。芯から読んでよかったと思える、優れた作品と出会った。ジャネット・ウィンターソンという人は、本物の想像力を持った作家だ。

    孤児だったジャネットを引き取り育てたのは、狂信的なキリスト教に属するご夫婦だった。夫の影はひたすら薄く、主導権を握っているのは妻なのだが、この人、あまりにも強烈なキャラクターを発揮してくれる。
    自分の都合に合わせて小説の結末を変更するほど、一旦決めたことへの入れ込みようが半端じゃない。養女ジャネットの行く末も勝手に定め、いつでもどこでも一方通行で突っ走る姿が鬼気迫る。

    こういう激しい人は、遠くから眺める分には「いいキャラしてる」が、直撃を受けた人が「すごいよね」と笑ってみせるのは、並大抵のことではない。だが、それを可能にするのが文学の力だと信じられるようになったのが、本書から得た大きな収穫だった。著者は、自分の母親の脅威であっても切羽詰った調子にならず、距離を置いてまなざしを和らげるのに成功している。

    ある一件をきっかけに親子関係にひびが入り、娘は自立していくのだが、幾らでもどんよりと重たくすることができるであろうこの話を、独特の明るさで引き上げ、スパイシーに引き締める語りっぷりに魅了された。

    主人公のたくましさに慰められながら知らされるのは、想像の世界には常に自由があるということ。現実の痛みから目をそらさない強靭な精神力も欲しいけど、決定的なダメージを食らう前に、必要とあらば架空の世界に逃避する方法だって用意されているってこと。
    『オレンジだけが果物じゃない』は、ただ傷口をこじ開けて不幸自慢をするのではなく、亀裂に巧みに夢を織り込みながら、回復を図っていく。


     「わたしは生まれてこのかたずっと、世界というのはとても単純明快な理屈のうえに成り立っていて、ちょうど教会をそのまま大きくしたようなものなのだと信じていた。ところが、教会がいつもいつも正しいというわけではないことに、薄々気づいてしまった。これは大問題だった。もっとも、その問題と本当に向き合うことになるのは、まだ何年も先のことだった」

    数年後、この問題と真に向き合った彼女が手に入れた結論は、ファンタジーだった。

    「ひょっとしたら、わたしという人間はどこにもいなくて、無数のかけらたちが、選んだり選ばなかったりしたすべての可能性をそれぞれに生きて、折りにふれてどこかですれ違っているのかもしれない」


    彼女は母から離れて生きながら、同時に母のそばにいることが可能だったのだ。だから、母と娘は特に対立するわけではない。

    本当は、母親は何も変わっていない。ただ、時間が流れただけのこと。かつてはオレンジ一辺倒だったのが「オレンジだけが果物じゃない」と言うようになったのも、彼女の興味がパイナップルに移ったにすぎない。オレンジと言い出したらどこまでもオレンジであり、パイナップルと言い出したらどこまでもパイナップルに入れ込む激しさは不変だ。

    にもかかわらず、ふいに訪れる救い。


    この家のルールにのっとって結ばれた母娘の絆。まったく奇妙な許しの物語である。

  • 著者の自伝的要素を強くもった小説。
    印象にのこる文体、文章作法であった。突然挿入される、童話の形をとった、現実を映し出す鏡、心象を描いた物語。
    この『物語』部分がすこし取っ付きにくいため、星4つとした。内容だけあげるなら、星5つである。

    最初は奇異な感じがしたが、実に見事な描写の数々であったので、読み進めるうちに『この描写が暗喩する、母親への複雑な感情は何か』と楽しみになってきた。

    主人公の彼女だけが、この小説に登場するレズビアンではない、という点も興味深い。また、登場人物の彩が実に豊かである。
    彼女を守ろうとできるだけのことをしてやる人、公平にチャンスを与えようとする人、惹きつけられる人、心変わりを自分のせいではなく他所に求める人、名に反して徳の欠片も持ち合わせない人。
    こうした彩り豊かなサブ・キャラクターに支えられ、只の私小説ではない、一人のヒトのよろめきながらも歩く人生を描き出した小説が生まれたのだろう。

    性的少数者であることが、これほど糾弾される世界でなかったら、この小説は別の形で、ひょっとすると執筆される必要すらなかったかもしれない。
    評者は自分が性的少数者であるがゆえに、「レズビアン」にとどまらず、あらゆる少数派であることの生きづらさを想う。

    宗教カルトの体裁を取らずとも、この現代日本社会とて同じくらい、少数派には狭量なのだから。

  • ふむ

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/0000209270

  • 3.67/215
    『狂信的なキリスト教信者の母親と、母親から訣別し、本当の自分を探そうとする娘。イギリス北部の貧しい町を舞台に、娘の一人称で語られる黒い哄笑に満ちた物語。寓話や伝説のパロディもちりばめた自伝的小説。』(「国書刊行会」サイトより)


    冒頭
    『たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった。誰と戦うかは、問題ではなかった。とにもかくにも、自分がリングの白コーナーに立っている。それが大事なのだった。』


    原書名:『Oranges Are Not the Only Fruit』
    著者:ジャネット・ウィンターソン (Jeanette Winterson)
    訳者:岸本 佐知子
    出版社 ‏: ‎国書刊行会
    単行本 ‏: ‎285ページ

    メモ:
    死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」

  • 距離を置いてしか許せない人は確かにいるけど、それを許そうとする心がある分優しいなと思った

  • 2021.03.08 図書館

  • キリスト教の理解が足りなくて
    よく分かんないなーと思うことが多かったから
    挿入されてる聖書の話とか寓話も一応読んだけど
    心は 現実の話に早くたどり着きたい!って感じだった。 やっぱキリストだから 性描写は少ないのかな。
    関係ないけど この小説読見終えるまで 少しずつ読んでたんだけど オレンジとグレープフルーツ

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著者プロフィール

1959年、イギリス生まれ。福音伝道主義クリスチャンの家庭に養女として迎えられたが、女性との恋愛関係を理由に10代で家を出る。1985年に半自伝的小説『オレンジだけが果物じゃない』で作家デビュー。

「2022年 『フランキスシュタイン ある愛の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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