オレンジだけが果物じゃない (文学の冒険シリーズ)

制作 : Jeanette Winterson  岸本 佐知子 
  • 国書刊行会
3.68
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本棚登録 : 196
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336039620

作品紹介・あらすじ

たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった…。熱烈なキリスト教徒の母親から、伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれた少女ジャネット。幼いころから聖書に通じ、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた彼女だが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する…。『さくらんぼの性は』の著者が、現代に生きる女性の葛藤を、豊かな創造力と快活な諷刺を駆使して紡ぎ出した半自伝的作品。

感想・レビュー・書評

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  • 2対8の割合で元気づけられ心細くなる。ウィンターソンの作品は2冊目で、主人公の女の子は二人とも強い子だ。語られないことも多いのだろうけれど、腹の据わりかたが違う。この強さはどこから来るのだろう。本来の自分として生きるためなら人間は強くなれるはずなのか。

    物語にして消化するところ、たぶんそれをしないと先に進めないのはわかる。その一方で、自分の編集力を信じるにはどうすればよいのかとも思う。時間をかけることだろうか。

  • ウィンターソンの処女作。自伝的な内容らしい。狂信的なセクトの母親とかって、なんかアメリカ的なもののように思っていたけど、イギリス。内容はちょっと辛い。でもそれがすごい作家を生み出すとなると……やっぱり辛い。
    主人公はあくまで何事にも傷ひとつ負わないかのように気丈なんだけど、合間に不意に挿入される寓話めいた創作童話が、傷の深さを語るよう。

  • 著者の自伝的要素を強くもった小説。
    印象にのこる文体、文章作法であった。突然挿入される、童話の形をとった、現実を映し出す鏡、心象を描いた物語。
    この『物語』部分がすこし取っ付きにくいため、星4つとした。内容だけあげるなら、星5つである。

    最初は奇異な感じがしたが、実に見事な描写の数々であったので、読み進めるうちに『この描写が暗喩する、母親への複雑な感情は何か』と楽しみになってきた。

    主人公の彼女だけが、この小説に登場するレズビアンではない、という点も興味深い。また、登場人物の彩が実に豊かである。
    彼女を守ろうとできるだけのことをしてやる人、公平にチャンスを与えようとする人、惹きつけられる人、心変わりを自分のせいではなく他所に求める人、名に反して徳の欠片も持ち合わせない人。
    こうした彩り豊かなサブ・キャラクターに支えられ、只の私小説ではない、一人のヒトのよろめきながらも歩く人生を描き出した小説が生まれたのだろう。

    性的少数者であることが、これほど糾弾される世界でなかったら、この小説は別の形で、ひょっとすると執筆される必要すらなかったかもしれない。
    評者は自分が性的少数者であるがゆえに、「レズビアン」にとどまらず、あらゆる少数派であることの生きづらさを想う。

    宗教カルトの体裁を取らずとも、この現代日本社会とて同じくらい、少数派には狭量なのだから。

  • キリスト教の理解が足りなくて
    よく分かんないなーと思うことが多かったから
    挿入されてる聖書の話とか寓話も一応読んだけど
    心は 現実の話に早くたどり着きたい!って感じだった。 やっぱキリストだから 性描写は少ないのかな。
    関係ないけど この小説読見終えるまで 少しずつ読んでたんだけど オレンジとグレープフルーツ

  • 図書館で。
    キリスト教も色々な宗派があるんだなぁと改めて実感。今、改宗すると讃美歌と聖書が付いてきますってのは中々面白いな。そして結構女性が実権を握っていた組織っぽいのも面白い。確かに…こういう人達に囲まれていたら頼りない男性よりは女性の方に惹かれるかも…とか思ってしまいました。

    それにしてもこんな厳格(そう)な宗教団体なのに結構手軽に?危険な恋のお相手が見つかるものだなぁとびっくりでした。そして実際近くに居たら大変だろうけれども完全に他人事として本で読むにはお母さまは物凄いキャラクターだと思った。日曜日(安息日!)にお盛んなお隣を制するためにオルガンをかき鳴らして讃美歌を合唱する辺りでは大笑いしました。

    全てがお話、というような形で距離を置いた視点で書かれているので読みやすいのとこの人の意見は共感できるなぁと思いながら読みました。それにしても数奇な人生送ってる人っているものなんだなぁ…

  • まなざしは、距離によって和らげることができる。奇妙な許しの物語。

    著者のデビュー作にして半自伝的作品であるが、そうと知らずに開いても想像力のはばたきに魅せられてしまう。芯から読んでよかったと思える、優れた作品と出会った。ジャネット・ウィンターソンという人は、本物の想像力を持った作家だ。

    孤児だったジャネットを引き取り育てたのは、狂信的なキリスト教に属するご夫婦だった。夫の影はひたすら薄く、主導権を握っているのは妻なのだが、この人、あまりにも強烈なキャラクターを発揮してくれる。
    自分の都合に合わせて小説の結末を変更するほど、一旦決めたことへの入れ込みようが半端じゃない。養女ジャネットの行く末も勝手に定め、いつでもどこでも一方通行で突っ走る姿が鬼気迫る。

    こういう激しい人は、遠くから眺める分には「いいキャラしてる」が、直撃を受けた人が「すごいよね」と笑ってみせるのは、並大抵のことではない。だが、それを可能にするのが文学の力だと信じられるようになったのが、本書から得た大きな収穫だった。著者は、自分の母親の脅威であっても切羽詰った調子にならず、距離を置いてまなざしを和らげるのに成功している。

    ある一件をきっかけに親子関係にひびが入り、娘は自立していくのだが、幾らでもどんよりと重たくすることができるであろうこの話を、独特の明るさで引き上げ、スパイシーに引き締める語りっぷりに魅了された。

    主人公のたくましさに慰められながら知らされるのは、想像の世界には常に自由があるということ。現実の痛みから目をそらさない強靭な精神力も欲しいけど、決定的なダメージを食らう前に、必要とあらば架空の世界に逃避する方法だって用意されているってこと。
    『オレンジだけが果物じゃない』は、ただ傷口をこじ開けて不幸自慢をするのではなく、亀裂に巧みに夢を織り込みながら、回復を図っていく。


     「わたしは生まれてこのかたずっと、世界というのはとても単純明快な理屈のうえに成り立っていて、ちょうど教会をそのまま大きくしたようなものなのだと信じていた。ところが、教会がいつもいつも正しいというわけではないことに、薄々気づいてしまった。これは大問題だった。もっとも、その問題と本当に向き合うことになるのは、まだ何年も先のことだった」

    数年後、この問題と真に向き合った彼女が手に入れた結論は、ファンタジーだった。

    「ひょっとしたら、わたしという人間はどこにもいなくて、無数のかけらたちが、選んだり選ばなかったりしたすべての可能性をそれぞれに生きて、折りにふれてどこかですれ違っているのかもしれない」


    彼女は母から離れて生きながら、同時に母のそばにいることが可能だったのだ。だから、母と娘は特に対立するわけではない。

    本当は、母親は何も変わっていない。ただ、時間が流れただけのこと。かつてはオレンジ一辺倒だったのが「オレンジだけが果物じゃない」と言うようになったのも、彼女の興味がパイナップルに移ったにすぎない。オレンジと言い出したらどこまでもオレンジであり、パイナップルと言い出したらどこまでもパイナップルに入れ込む激しさは不変だ。

    にもかかわらず、ふいに訪れる救い。


    この家のルールにのっとって結ばれた母娘の絆。まったく奇妙な許しの物語である。

  • 図書館でタイトルを見て、気になっていて、「返却本」コーアーにあったので三回目にして初めて借りたけれど、挫折。
    文芸ものは嫌いではないけれど、宗教色が強くて入りきれない。
    出だしも面白かったのにな…。

  • 私の場合、海外小説って作品それぞれで好き嫌いがパックリ分かれるんですが、これは好きです。会話が面白い。

    ジャネットの葛藤がすごく心にズーンッと来る。似たようなものに悩んだ過去。自分の過去に自然と向き合える感じ。こういう白でも黒でもない灰色の本っていいね。悩んでるのに、穏やかに感じるのは如何してかなぁ…
    オレンジ食べたい(笑)

    母への期待みたいなのが、崩れ去っていった経験ってあると思うんです。誰よりも賢く物知りな両親(特に母親)。でも、気づいてしまう。そこまで、賢くないし、偉くもない。だからって嫌いになんてならないし、軽蔑だってしない。ただ偉くないだけ。自分と同じってこと。特別じゃない。
    そう思ってしまった過去が蘇ってきた小説です。

    暗い話ではない。

  • 毒になる親は世界共通で同じ傾向や思想を持つということが分かった。自分の人生から排除するのが一番良い方法。

  • そこここにユーモアが光るのに読み終わった後の苦味といったら!「さくらんぼの性」があまり好きでなかっただけに驚きだった。「running with scissors」にも似ているけれど、幻想と現実の境界の上に立ってる感じ。

  • カルト宗教の母親と、閉鎖された空間での成長、これが自伝的な物語と知って納得。このリアリティのある現実とアーサー王伝説やジェーンエア、魔法使いの弟子の女の子のお話などなどが響き合って、不思議な味わいのある小説になっている。壁を突き破って飛び出したジャネットがまた母親のところに戻ったりするのが、少し残念。

  • 狂信的な母親に育てられたジャネット。伝道師に育て上げる為、世界は神と聖書しかない世界で生きてきた少女時代。だが、女の子を愛してしまう事により自分自身の世界に疑問を持ち始める。作者の自伝的小説。自分の本心を隠して壁の内側に留まるか、心を守り壁を打ち壊して外の世界に出るか、結局外の世界に出て母親から自立した様に見えたが、結局は母親との絆や愛情は断ち切れないのか。それが不可解

  • [ 内容 ]
    たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。
    父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった…。
    熱烈なキリスト教徒の母親から、伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれた少女ジャネット。
    幼いころから聖書に通じ、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた彼女だが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する…。
    『さくらんぼの性は』の著者が、現代に生きる女性の葛藤を、豊かな創造力と快活な諷刺を駆使して紡ぎ出した半自伝的作品。

    [ 目次 ]


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    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  「寓話や幻想の断片が、主人公ジャネットの心が血を流すたびにあらわれる」――個人的に秀逸だと思った、訳者あとがきのなかの一節。フィクションがひとを救うのはなぜなのだろうというところに、改めて興味が湧きました。荒唐無稽で意味がなくて事実でもない物語が、ただそこに「ある」というだけのことに、わたしはとてもこころが軽くなるのを感じます。とりわけわたし自身が切実な状況にあるとき、それこそ「心が血を流す」ようなときには。それってどうしてなのだろう、と思うのだけれど、わからないから物語が好きなのかもしれません。わからないものがわからないまま、それでもそこにあること、わからないけどそこに「あってもいいよ」と根拠なく許すこと。物語だからそれができるのでは、ないかしらと思うのです。

  • 作者の自伝的な物語だそうですが、なかなか面白かったです。キリスト教のカルト宗派に属する継母に引き取られた女の子の成長過程が描かれている。環境によって当たり前のことは違うのだけれど、それが本当にどうかという基準を自分の中で確立していく物語といったところでしょうか。工作で聖書になぞらえたいろいろな作品を懸命につくるのだけれど周囲に認められないあたりなど結構楽しい。

  • 伝道師になるべくひきとられ、「神の子」としてキリスト教英才教育を受け育てられた少女ジャネット。
    母親が飼育場と呼ぶ小学校で浮きまくる少女には、母親のいうことと教会だけが世界のすべてだった。
    そんな彼女がひとりの女性に恋したことで、彼女は「清い」ことがすべての価値観である世界から飛び出る。

    ジャネット・ウィンターソンの自伝的小説。
    閉鎖的な環境でまるで調教と呼べるような偏った教育を施された少女が、自我を獲得し母親の呪縛から逃れ、自分の意思で人生を切り開いてくサマに勇気をもらいました。
    風刺が効いていて笑えるところもありました。
    カルト的な信仰心をもつ母親、邪悪な人ではないけど、やっぱりどこか異常だなぁ。お隣さんの姦淫と戦ってたのが面白かった。

  • 久し振りに単行本の翻訳作品を読んだ気がします。

    ホイットブレッド賞を受賞し、BBCでドラマ化もされた本作品。
    奇抜でユーモアに満ちていながら、読者に愛や家族や信仰について考えさせてくれるとっておきの1冊です。

    「ジャネットの心が血を流すたびにあらわれる」不思議な寓話が面白い。輪ゴムでできあがった宮殿に住むテトラヘドロン(四面体)という王様の話と、「完璧」にこだわる王子様のお話が特にお気に入り。

    宗教にどっぷり居れ込むお母さんや初恋相手のメラニーなど、ジャネットの生きる世界は大変個性的で、これが自伝的な作品だというのだからおどろきです。

    文庫化したら、もう1度読み直してみたいな☆

  • 暗い内容なのだけど、合間に挟まれる御伽噺や寓話、シニカルなユーモアで重みを感じさせなかった。
    その分、主人公の悲しみや苦しさが伝わってくる感じがした。

  • 著者・ウィンターソンの自伝的小説。
    主人公は狂信的なキリスト教徒の両親のもとで幼少期より宗教的な英才教育を受けて育つ。年を経るごとに周囲との相違に苛まれて、自分を囲む環境から出奔する。

    主人公は少女ジャネットであり、年を経るごとに周囲の世界と自分のいる世界の相違に対する考え方が変わっていくさまが描かれるが、キャラクターとして圧倒的に目立つのは母親。基本的には善意だが暴力的、自分の正義を信じて疑わない姿勢は好き嫌いはともかく強烈な印象を残す。
    こんな親の下で育ったら、そりゃまともには育たんて。

    自伝なのにもかかわらず、突拍子もない幼少期を送っただけに、話としても十分面白いのがいい。事実は小説より奇なり?

  • カルト的なキリスト教信者である母親に育てられた少女の半生を描く、ジャネットウィンターソンの
    自伝的小説。

    少女の全宇宙は教会と聖書だ。

    母にほどほどということがない。
    敵か味方か二つにひとつ。
    清いか清くないか二つにひとつ。

    教会的ものさしで世界を二つに分類する母という生き物。

    そしてその母によって徹底的な聖書的英才教育を授けられ
    母のくれたそのものさしを盲目的に信じる娘という生き物。

    二つの生き物は、教会にだけいられるのならそれでよかったのだ。


    しかし娘はやがて教会が全宇宙でないことを知る。
    外と内のかいりに苦悩する小さな心。

    学校に行けば答えがみつかるかも。
    でも自分はみんなと全然違うのだ

    聖書のせりふを唱えてはみんなを怖がらせる。
    教会的作文で先生を怒らせる。
    母に喜ばれそうな聖書のせりふを刺繍しても先生は苦い顔。
    なぜなら『ママへ愛を込めて』と一般的普通の子どもは刺繍するからだ。

    少女にはなにがいけないのかわからない。
    でもきっとなにかがいけないのだ。
    学校ではひとりぼっち。
    でも自分は正しいのだから悲しくなんかない。

    一度だけ学校でどんな目にあっているか母に話したことがある。
    母は言った。
    『選ばれしものは孤独なんだよ』

    やがて母に支配された小さな世界を飛び出しそうと決意する少女…。

    ウィンターソン流の乾いた皮肉の精神が彼女の人生を耐え難い苦難から救っているのかもしれない
    ・・・と思う。
    これほどまでの境遇にも関わらず 少女は一貫してさばさばと強い。
    そしてあきらめにも似た落ち着きさえ感じさせるのだ。

    断ち切ろうとしても決して断ち切ることはできない糸。
    家を出ようが街を出ようが国を出ようが
    糸は見えないところで母と娘をしっかりと繋いでいる。

    本物の家族
    つまり
    椅子とテーブル
    人数分そろったティーカップ

    ただそんなものを夢みても
    ただそれだけを持つことなどできはしない。

    母と娘は見えない糸に繋がれているのだから

    帰ろうと思ったことはないの?。
    愚かな問いだ。
    帰ることならいつも考えている。

    世の中には 食べないケーキは取っておけると思っている人もいる。
    でも取っておいたケーキは腐り それを食べれば命取りになる。

    故郷に帰ることとは腐ったケーキを食べること?
    こちらは変わってゆくのにあちらは変わらない。

    それでも ジャネットは母へのクリスマスプレゼントを手に 腐ったケーキを食べにゆく。

    母への反発と母への愛情に引き裂かれながらも
    罵倒することなく穏やかに
    批判しながらもいたわりをこめて

    母を見つめるその姿勢は
    どうしようもなく引き受けなければならない運命との
    より幸せな付き合い方を私たちに示してくれているような気がする。

    • baronpoupeeさん
      私も今日、この作品を読みました。
      とても共感できる、けれど私には言葉で表現することのできなかったことがまとめられた素敵なレビューでした。
      あ...
      私も今日、この作品を読みました。
      とても共感できる、けれど私には言葉で表現することのできなかったことがまとめられた素敵なレビューでした。
      あまり素敵だったので、思わずコメントしてしまいました☆
      2009/11/08
  • ちょっと、これ超面白いんですけど。おかげさまで夜を徹して読んでしまいました。オヌヌメ!

  • 翻訳の岸本女史の力も大きいと思うけれども、私は好きな作品です。それにしてもイギリス人作家って変わってる…

  • 作者の自伝的小説。20代半ばくらいに書かれた物語だが、深遠な哲学的思考が随所に見受けられる。

  • 厳格な母親のせいでキリスト教とプロレスの区別がつかなくなったトゲトゲな女性の一代記。こういう作品ばっかり読まされているせいか、イギリスってのは変態の集まりだと確信しています。

  • お母さん、悪い印象ではないのだけど・・自分の親なら嫌。

  • 倫理観の廃棄と回帰の物語。私はこれを読んで泣きました!(おすぎの物真似で)

  • 「さくらんぼの性は」という、現代と歴史、現実と夢、が入り交じったような小節を読んだ後で、同じ作家の「オレンジだけが果物じゃない」を読むと、その穏やか語り口に、少しだけ、驚かされる。穏やか、と言ったけれど、語られている内容は穏やかとはほど遠く、さらにこの本が作家の自伝的小説であると知って、その驚きは大きくなる。翻訳者の岸本佐知子が「ウィンターソンという作家のいちばんの魅力は"からかいの精神"ではないかと思う」と、あとがきで書いているが、確かにそんなニュアンスに溢れている。しかしこの小説の視点は、からかい、をはるかに通り越して、警鐘を打ち鳴らすかのような響きがあると思う。そのことが、勝手に期待していたウィンターソンの風味と違うので驚くのだ。

    からかいの対象となっているのは、単純に言えば「白黒つけたがる精神」である。白黒つけたがる、というのは、結局、自分は正しい立場にいる、という気持ちがどこかにあるからで、例えその判断が、公平な立場から述べているんですよ、と強調されたとしても、白黒をつけられてしまう側にとっては何の違いもありはしない。そのことは、ウィンターソンがやや自虐的にすら聞こえる調子で強調していることではないだろうか。

    白黒をつけたくない、というのが、読み手である自分の目下の信条のようなものなので、この作家の気分は、たちまちのうちに伝染する。ウィンターソンの小説に、とくに岸本佐知子が翻訳者であることから、期待していた内容とは、実際のところややずれているので、読み出す前の気分からすれば、期待外れであったにも拘わらず、この本は思いの他面白かった。面白かったな、とは思うのだけれど、一方で、感化されるということが、実は、白黒付ける、ということの始まりにも繋がっていることに気づいて、はっと、させられもしている。読後の気分では、ウィンターソンに完全になびいており、彼女が言いそうになっている「白黒をつけることは間違っていることです」という言明に頷いている。しかし、その文言自体が逆説的にではあるけれど白黒をつけている精神に、しっかり絡みついているものだ。そして、その精神が、よくよく考えれば小説の中で画かれている、悪魔払い、の精神に繋がっていることに気づかされて、だめだなあ、頭を冷やさなければいけないなあ、という気分になる。

    お話の中に別なお話しが急に挿入され幻惑的な効果を持つ、というのはウィンターソンの特徴だと思うけれど、この本でもとても効果的に使われていると思う。さらに挿入された話が主人公の感情をうまく表現する役割を果たしてもいるのだ。この「オレンジだけが果物じゃない」の中では、アーサー王の時代と思しき時代の架空の話が挿入されている。完璧を追い求める王子、妖術使いの弟子の少女、アーサー王に使える騎士、と3つくらいの話が断片的なお話として挿入される。ウィンターソンはイギリスの作家で、念頭におかれている読者もイギリス人だろうから、この挿入話による主人公の感情の起伏は、より鮮明なのだろうと想像する。もっとも、この辺りの作家と読者の呼吸は、残念ながら文化的背景の異なる島国に暮らす者には想像するしかないわけだけれど。

    しかし、この小説の後味はそれ程よくない。良くないのは何故か。恐らくお話しの裏に見え隠れする私憤が感じられるからではないかと思う。ウィンターソンらしい奇想天外な話の展開で一気に後半まで読んでしまうのだが、最後に、喧嘩別れした筈の母親のもとへ戻ってくるエピソードに至って、おやっ、と感じてしまうのだ。このエピソード自体はとても平和な雰囲気があり、憑き物が落ちたように静かな大人の女性が描かれているのだが、そのことが反って前半の恨みの深さを強調することにもなっている。そして、どちらかといえば、奇想天外な空想のお話、のように読めてしまう筈だった物語が、この妙に日常的なエピソードをもってして現実味を帯びてしまい、そこに作家の私憤のようなものが透けて見える気がしてしまうのだ。ということで、面白いことは面白かったのだが、全速力で壁にぶつかった後のようなじいんとした感覚も覚えている。

    ウィンターソンの2冊の本とも、あり得そうにない逸話に粉飾されてはいるものの、実は彼女自身の来し方を割と率直に書き表しているものなのかも知れない。そう気づくと、急にウィンターソンの無気味さに身が震える思いに駆られる。女の執念というやつだろうか。おーこわ。

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