夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)

  • 国書刊行会
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336040305

作品紹介・あらすじ

母親は井戸に飛びこみ、祖父は自分を殺そうとする。寒村に生きる少年の目に鮮やかに映しだされる、現実と未分化なもう一つの世界。ラテンアメリカの魔術的空間に、少年期の幻想と悲痛な叫びが炸裂する!『めくるめく世界』『夜になるまえに』のアレナスが、さまざまな手法を駆使して作りだした「ペンタゴニア(5つの苦悩)」の第1部。

感想・レビュー・書評

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  • 2013/02/22 ★★★★★ - ★5に評価上げ。この本は解釈するより感じるほうがずっと楽しいことがわかった。全体を考えず、常に目の前の文字だけを追うと、こどもの目を通したうつくしい未分化な世界を味わうことができる。このような世界を創造したアレナスは天才! しかも終盤では結構はっきり種明かししていて親切!

    何の話か分からない箇所も、一種の詩として読んでうっとりできる。再読するたびに新しい発見がありそうだ。今回は、主人公と母親のお互いに対する思いの強さにぐっときた。

    2013/01/27 ★★★ - 幼い子供の目に機能不全家庭とはこのように映るのだろうな、と児童虐待事件を追うルポを読む気分でページをめくった。何でそんな枠組みを通してしまったかって、子供が辛い目にあう話は苦手なんだ! あの、大好きだけど死んで欲しい感じとかリアル過ぎる。養われの身は辛いよって『レベルE』で誰かがぼやいてたけど、ほんとだよね…

    「僕」と「いとこのセレスティーノ」の関係は、酷い暮らしを生き延びるためのしくみであり、手放しにうっとりするわけにはいかない。けれど、それでも何か心を慰めるものを含んでいる。その完璧さにある予感を感じないわけにはいかないし、結末にはああやっぱり、となってしまうのだけど。

  • 強烈。当時のキューバで息の詰まる閉塞的な生活を強いられてきた様子がありありと伝わるが、二十歳でこれを書いてって、狂気すぎる。南米マジックリアリズムの幻想とかの枠の中では収まらないような。時代的には昔を描いたと思うが、少年?もっと幼いのかな、現実と幻想の狭間で揺れ動く日常。いとこのセレンティーノが詩を書くことで周囲の恥さらしとなっているが、リアル社会では、表現することを禁じられた作者の叫びなのかな。子供の想像力が余りに狂気に描かれていて不安がつのる。前衛芝居を見せられたような気まずさなんだよなあ。

  •  幻想と現実の境目があいまいな世界をつづった、長い散文詩のような作品。内容はグロテスクなのに、言葉が鮮烈で美しい。原文はもっとリズムのある言葉遊びがされているのではないか。
     「書きたい」という衝動にあふれ、まっすぐに伝わってくる。

     自伝である「夜になる前に」を読んでいたので、作品の背景・世界観が想像できたが、逆に知らないで読んでみたかった。

  •  文章が感傷的だからどうしたって泣けてしまう。ひたすら残酷で、ほとんど気が狂っているけれど、これは一つの真実だ、という感じがする。書いてあることはまったく理解を超えているけれど、何を書いているかは、わかったような気になれるでしょ? という。現実とか虚構とか、その境界とかを、意図的であるか無意識的であるかは別にして、いとも自然に越境して、そのすべてを包摂してしまっている、そんな小説だと思いました。

  • 田舎に住む少年を囲む現実と非現実の世界を、少年を語り手として描く。
    著者は自伝で、自分の幼少期の頃を「音に囲まれていた」と表現していたが、本書を読んでその意味がわかった。
    あとがきにもあるように、この本はリズムが非常に重要な役割を果たしていると思う。詩的でもあり、ただの騒音でもあり、とにかく読んでいて音がこちらに伝わってくるようなにぎやかさ。
    その他にも本書は、小説としてさまざまな挑戦的な試みに充ち溢れている。
    この作品に、彼の生き方を投影してさまざまなテーマを読み取ることは可能だと思うが、それよりもこの異様な文学空間を純粋に楽しむのが一番かもしれない。
    まさに「文学の冒険」というシリーズ名にふさわしい作品だと思う。

    ・・・ところで、この作品はとにかく「スゴい」作品だと思うが、手放しで「面白い」作品だと言い切るのは難しいと思う。少なくとも俺はそんな強がりはできない。

  • 初めて読むキューバ文学。レイナルド・アレナスは「夜になるまえに」を映画で見ただけだ(そして内容を覚えていない)
    すばらしい。描かれているのは寒村の貧困と飢餓に見舞われる厳しい生活、祖父母からの暴力や抑圧、シングルマザーの母、差別(セレスティーノの「詩」という文化的なものを封印され、後書きで同性愛の指摘もある)などシビアなものだが、それらを飛び越えた瑞々しいイマジネーションの奔流がある。大変美しく、この本自体が詩のようだ。これが若い作家の処女作というのはドラマチック。
    他の本も読んでみよう。

  • 難解で、痛みや怖れ、悲しみにあふれている。にも関わらず、感じるのは親しみと不思議な心地よさ。稀有な作品であり、天才の仕事だ。

  • キューバの作家、レイナルド・アレナスの長編小説。
    主人公の少年の目に映る世界は、古典的な物語のように起承転結の一貫した筋として認識されるのではなく、奇怪なイメージと虚構の出来事の継ぎ接ぎで捉えられます。
    頭が二つついたトカゲ、女性の顔をもった蜘蛛、井戸に飛び込んで無事でいるはずのない母親が何事もなかったかのように次のページではふるまっている…。
    この小説にあるのは、現実と幻想の世界の混淆などではなく、徹頭徹尾幻想の世界です。
    そして、主人公の家族たちは、いとこの詩人セレスティーノに害意を抱き、まるで詩人の想像力を斧(アチャ)で刈り取ろうとするかのよう。

    奔放なイメージの基調となっている大人たちの恐ろしい狂気の世界こそ私たちの生きる現実なのでしょう。

    しかし、これが処女小説とはアレナス、恐るべし。

  • 私には皆のようにこの文章をリズムをもって読むことはできなかった。全ての音もリズムも吸収してしまう濃密な気配を感じながら言葉の前後を行ったり来たり、かなり小説の中をさすらってしまった。閉塞的な空間が変化自在に膨張したり縮んだり、自我が分裂しては増殖していく、、、少年の強迫観念が生み出す幻想は絶望の中でこそ芽生える生への執着だ。斧を振り落とす音は頑強な壁に反響する破壊音ではなく ―アチャスの響きを吸い込んで吸い込んでいくらでも吸い込んで分解してカタチを変えて何度でも生き返れ― 自由を願う呪文となり逆襲する。

  • 2013/12/5購入

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著者プロフィール

レイナルド・アレナス
1943年、キューバの寒村に生まれる。作家・詩人。1965年、『夜明け前のセレスティーノ』が作家芸術家連盟のコンクールで入賞しデビュー。翌年の『めくるめく世界』も同様に入賞したものの出版許可はおりなかった。だが、秘密裏に持ち出された原稿の仏訳が1968年に仏メディシス賞を受賞し、海外での評価が急速に高まる。ただ、政府に無断で出版したことから、その後いっそうカストロ政権下での立場が悪化。そうした国内での政治的抑圧や性的不寛容から逃れるため、1980年、キューバを脱出しアメリカに亡命する。主な作品には『夜明け前のセレスティーノ』から続く5部作《ペンタゴニア》(『真っ白いスカンクどもの館』『ふたたび、海』『夏の色』『襲撃』)『ドアマン』『ハバナへの旅』、詩集『製糖工場』『意思表明をしながら生きる』、自伝『夜になるまえに』などがある。1990年、ニューヨークにて自死。

「2023年 『夜明け前のセレスティーノ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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