天の声・枯草熱 (スタニスワフ・レム コレクション)

  • 国書刊行会
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感想 : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336045034

作品紹介・あらすじ

偶然捉えられた地球外からの信号を解読するために一流科学者たちのチームが結成された。しかし、信号のわずかな部分の情報からコロイド状の物質はつくり出すものの、事実を解明できぬまま、やがて計画全体が政治家の思惑に翻弄されていく…。大物数学者の遺稿というスタイルで人間の認識の限界をもあぶりだす長篇『天の声』と、ナポリで起きた中年男の連続怪死事件をめぐって、捜査の依頼を受けた「枯草熱」(花粉症のようなアレルギー)の元宇宙飛行士が、男たちの足跡をたどるうちに自ら予想外の出来事に巻き込まれていく確率論的ミステリをカップリング。かつてサンリオSF文庫に収録された後期レムを代表する二つの長篇をまとめて復刊。

感想・レビュー・書評

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  • 2021/8/29購入

  • 殆ど会話も事件も起きず論考だけが描かれているにも関わらずSFのセンスオヴワンダーもあるしチョコレート的なミステリの興奮もある。後半は偶然のミステリ。ここでも圧倒的な知と描写力がリアリズムを生んでいる。

  • 系推薦図書 総合教育院
    【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 989.83||LE
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=186559

  •  レム睡眠という言葉を知る前からレムは知っていたし、ピクルスがどういう食べ物か知る前から宇宙飛行士ピルクスを知っていた。レム・コレクションもかなり買っているのだが、例によって積ん読状態。『サンリオSF文庫総解説』で思い出して、同文庫に収録されていた二長編の再録された本書を読む。
     深見弾、吉上昭三、いずれの訳者も物故者であり、沼野充義が古い訳語を直すなど若干の手を入れている。

     まずは『天の声』。宇宙からのニュートリノ波が観測され、ある規則性が見出され,何らかのメッセージであろうということになる。このメッセージを解読する「マスターズ・ヴォイス計画」略してMAVO計画がアメリカ合衆国政府によって立ち上げられる。この計画に参加した数学者ホガースの手記という形をとっている。
     ポーランド語の題名は「天の声」とも「主の声」とも訳せるようだが、蓄音機に耳を傾ける犬のHis Master's Voiceを意識した題名のようである。件の犬は彼の飼い主の声と認知したのだろうか、認知したとしてもその内容を理解はしていないであろう。この宇宙からの「手紙」の一部から「蛙の卵」「蠅の王」と名付けられた有機物質が合成されるが、それが何だかわからず、結局人類は蓄音機に耳を傾ける犬のようにその内容を理解できない。
     とにかく何も起きない。何もわからない。

     『枯草熱』の原題は「カタル」であるが、この言葉はオランダ語から日本に入って、かつては鼻カタルだとか胃カタルなどと使われたもので、滲出性の炎症のことである。「枯草熱」も古い言葉で花粉症のことである。
     「わたし」はアメリカの予備役の宇宙飛行士である。枯草熱のために予備役に回されてしまったのである。「わたし」はナポリからローマに移動するのだが、「最後の日は、いつになく、やけに長い一日だった。特に神経がとがっていたせいでもない。また恐れていたわけでもなかった」という冒頭の含意がわからぬまま、読者は自動車旅行に付き合わねばならない。
     『枯草熱』はある種の推理小説である。「事件」は三分の一くらい過ぎたあたりでようやく開示される。ナポリで何人もの男が不審死していることに気づかれる。共通の特徴があるようなないような。温泉に逗留していた外国人の独り者の中年男性、アレルギー疾患を持っている。禿げている者が多いが全員ではない。死に方は幻覚を見たり錯乱状態になって死ぬか自殺するか助かる。ナポリから無事帰った者の中にも同じ特徴を持った者がいるので、その特徴が意味あるものかもわからない。
     警察の捜査は行き詰まって打ち切られ、納得いかない遺族のひとりが資金を出して探偵社に調査を依頼するが、目立った成果は上がらない。同じ状況を作って何か起こらないかやってみるということになって、「わたし」が「被害者」と同じ行動をとってみることになったというわけだ。
     しかし何も起こらぬまま、ローマの空港で「わたし」は偶然、日本人の自爆テロリストの巻き添えになりかかる。日本人のテロリストなんて今やまるでリアリティがないが、本書刊行時(1976年)にはまだ日本赤軍の活動が華やかだったのだ(と遠い目になる)。パリで「わたし」は犯罪捜査のためのコンピュータ・プログラムを開発中のバルト博士に相談に行くのだが……

     『天の声』ではニュートリノ波の規則性が偶然なのかメッセージなのかわからないのである。『枯草熱』では一連の事件の関連性と見える諸々が偶然なのか真犯人を示しているかわからないのである。かたやSFという形式で、かたや推理小説でレムはわれわれを不可知の中に放り出すのである。

  • 『スタニスワフ・レム・コレクション』の1冊。暫く品切れだったが、『短篇ベスト10』の刊行が決まって重版された。
    『天の声』は『ソラリス』などに代表されるファースト・コンタクトもの。既存の作品と同様、コンタクトは失敗を運命づけられているが、本作を特徴づけているのは、『果たしてこれは本当に「コンタクト」なのか?』という根本的な部分に関する疑問だろう。レムのファースト・コンタクトものの中で、『ディスコミュニケーション』というテーマに最も近い1作。
    『枯草熱』はサスペンス風の長編。但し、ミステリだと思って読み始めると、解決編でぶっ飛ぶことになるw 寧ろこれは現代社会に対する思考実験を繰り返した結果なのでは? 因みに原題を直訳すると『花粉症』になってしまうらしい。一気に身近になってしまうから不思議w

  • なるほど。レムがミステリを書くと、こうなるわけだ。読みづらいけど、これはこれで…。

  • 「天の声」はp40まで我慢して読めばそこからかなり面白い。
    〈かりに今われわれが十億分の一の早さで、十億倍も長く生きるとすれば、その場合の一秒はまるまる一世紀に相当し、大陸が激しく変化していく様子を目のあたりに見て、てっきりそれが変動の過程にあると思いこむにちがいない。つまり、大陸がまるで滝か潮流のように目の前で動くからだ。逆に〉
    というような固定観念をとっぱらうくだりに遭遇するとドキドキしてしまう。しかし、物語中では偏見をとりはらうことで逆に混沌とした状態に陥る。実際に宇宙から信号がおくられてきたとしたらこういうことだよなと納得してしまう傑作。
    「枯草熱」はコウソウネツと読むのだそうで花粉症のようなアレルギーのことらしい。これは連続怪死事件をめぐるミステリーで、ちゃんと最後に答えは用意されているけれどミステリー好きにはキョトンとしてしまうような真相かもしれない。しかし、0と1をランダムに表示していくと何兆個表示する間には0が何万個続く区間もあるということを考えればこれは実は世界をリアルに表した小説かもしれない。

  • [ 内容 ]
    偶然捉えられた地球外からの信号を解読するために一流科学者たちのチームが結成された。
    しかし、信号のわずかな部分の情報からコロイド状の物質はつくり出すものの、事実を解明できぬまま、やがて計画全体が政治家の思惑に翻弄されていく…。
    大物数学者の遺稿というスタイルで人間の認識の限界をもあぶりだす長篇『天の声』と、ナポリで起きた中年男の連続怪死事件をめぐって、捜査の依頼を受けた「枯草熱」(花粉症のようなアレルギー)の元宇宙飛行士が、男たちの足跡をたどるうちに自ら予想外の出来事に巻き込まれていく確率論的ミステリをカップリング。
    かつてサンリオSF文庫に収録された後期レムを代表する二つの長篇をまとめて復刊。

    [ 目次 ]


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    [ 参考となる書評 ]

  • 積読中。未読のため、★5つ。

  • この話には、相互理解の出来る異星人はいない。侵略も征服も無い。異形は我々とは全く違う作法でただそこに横たわり、人間は自らの肉体に起因する「理解できる限界」に気付き愕然とするだけ。限界を超えた物を、我々は語り得ない。出来る事は沈黙だけ。ひたすらみっちりとメタ学問をする超地味系超ハードSF天の声。素敵です。

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著者プロフィール

1921 年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領リヴィウ)に生まれる。クラクフのヤギェロン大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始める。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『インヴィンシブル』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF 作品を発表し、SF 作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティックスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70 年には現代SF の全2 冊の研究書『SF と未来学』を完成。70 年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『泰平ヨンの現場検証』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006 年に死去。

「2021年 『地球の平和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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