星雲組曲 (新しい台湾の文学)

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336045300

作品紹介・あらすじ

革命のたびに巨大化する銅像を崇拝する都市、精神状態の沈殿を再構成することで甦る絶世の美女、人間とロボットが逆転した世界、時間を貯める永遠時計…。ノンセンスな奇想と風刺と感傷が渾然一体となった台湾SF小説集。

感想・レビュー・書評

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  •  台湾の作家、張系国(チャン・シークオ、Chang Shi Kuo)のSF作品集。息詰まる熱気に満ちた都市・台湾の空気を濃密に感じさせながらも、独特の雰囲気をまとった奇想の作品集。

     不勉強で、アジアの文学というものにあまり触れた事が無かった。欧米の文学は山ほど翻訳されているが、そもそもアジア文学の邦訳自体の絶対数が少ないというのも原因だろう。
     そんな中で、本書は国書刊行会の叢書「新しい台湾の文学」の一冊として配本された。なかなか紹介されることのない台湾の作家をわが国に紹介しようという、この叢書自体がとてもチャレンジングな意義ある取り組みだと思う。とりあえず僕のように、SFというジャンルを通して台湾文学に触れた者もいるのだから。

     欧米文学と違い、やはりどこか独自の空気を持っている。台湾の歴史などに僕は疎いので何とも言えないのだが、恐らくこの土地の持つ歴史的な経緯などもその筆致を形成する上で影響しているのだろう。僕個人は、何と表現するのか…「感傷」のようなものを作品を通じて感じた。帯にも<ノンセンスな奇想と風刺と感傷が渾然一体となった>とコピーが記されている。何に対する感傷か、誰の感傷なのか、全然わかってないんだけど、そんな感情を感じた。
     もしかしたらそれは、本書に収録されたある作品の中でロボットがつぶやく台詞、「人間は情に苦しむか欲に操られるかのどちらかだし、生老病死の悲劇から逃れることはできない」なんて一節に表れているのかも知れない。この思想はなんだかとても東洋的、のような気がする。
     そしてもう一つ強く感じた特徴は、前記の帯の紹介文にもある通り「皮肉」である。きっとこの作者の特徴なのだろうが、人間に対する、国家に対するアイロニカルな視線は冷徹である。SF作品集なので未来を舞台にした作品も多数収録されているのだが、遠未来から振り返った人類の歴史の愚かさなど、非情なまでのタッチで描かれている。この視点もアジア独特のもののように思える。
     ちなみにある作品には「中華連邦」が登場する。2000年の政変で中国人民は一党独裁を放棄し、「民有・民治・民亨」の理想が実現した中華連邦が成立した、という。原書が刊行されたのは1980年のことだそうだが、台湾の文学者がこのように未来を描いているというのはとても興味深い。

     台湾のSFというと何となく偏見で、伝奇ものとかキワモノっぽいものを想像しちゃってたのだが、予想外に論理的でひねりの効いた、欧米のSFに引けをとらない作品群である。ある時は未来を舞台に、ある時は宇宙を舞台に、またある時はロボットを主人公に、様々な物語が紡がれていく。また作品同士つながっているものも何編かある。ちなみに作者の序文によると、手塚治虫などの影響も受けているそうだ。
     こんなにも近い台湾の文学をこれまでほとんど見逃していた事に気づき愕然とした。もっともっと面白い作品があるのではないだろうか。もっと台湾やアジアの文学を読んでみたいと思った。

     この本は、台湾で刊行された『星雲組曲』(1980年)と『夜曲』(1985年、本書では『星塵組曲』と改題)の2冊のSF短編集をカップリングしており、合わせて18編が収録されている。収録作は下記の通り。

    【星雲組曲】
    「帰還」(帰)
    「子どもの将来」(望子成龍)
    「理不尽な話」(豈有此理)
    「夢の切断者」(翦夢奇縁)
    「銅像都市」(銅像城)
    「青春の泉」(青春泉)
    「翻訳の傑作」(翻訳絶唱)
    「傾城の恋」(傾城之恋)
    「人形の家」(玩偶之家)
    「帰還」(帰)

    【星塵組曲(夜曲)】
    「夜曲」(夜曲)
    「シャングリラ」(香格里拉)
    「スター・ウォーズ勃発前夜」(星際大戦爆発以前)
    「陽羨書生」(陽羨書生)
    「虹色の妹」(虹彩妹妹)
    「最初の公務」(第一件差事)
    「落とし穴」(陥阱)
    「緑の猫」(緑猫)

  • 中華なSF・・・。

  • 台湾のSF作家の短編集。子どもに最高の遺伝子をあたえようと狂奔する夫婦のドタバタ劇(子供の将来)、ネット恋愛が大流行りの社会で反乱をくわだてる生き残りの文士たち(夢の切断者)、いっしょに転生をくりかえす5人組(青春の泉)、どんどん巨大化していく銅像を抱える街(銅像都市)、1万年を自由に使うために他人の時間を借りるタクシー運転手と出会った女(夜曲)・・・。アイデア勝負のSF短編に、いささか古典的なロマンスの味付けがされているものが多い。なんか懐かしい感じがするなあと思ったら、ちょっと星新一のSFを思い出させるところがあるんだね、これ。

  • SFと聞けば「三巨匠!」とかえってきたであろう時代を思わせる、台湾出身アメリカ在住の作家による短編集。SFのふりをした頓知話とSFの服を着た人情話。時間旅行や再生などをからめたゆるやかな宇宙年代記の体裁。胸毛を生やそうと漢詩を口ずさもうとロボットはやはりロボットでこちらの嗜虐心をかきたてるのだが、これはちとかわいそうだ。

  • SFというより、ホラーな印象。<br>
    一作一作のアイディアそのものは秀逸で、意外性もあるけど、SFにしては理詰めの所が甘い気がする。<br>
    むしろ、短編ホラーに区分した方がぴったりだと思います。<br>
    作者はアメリカ留学経験のある台湾の方ですが、中国人が空想物語を描けるのか、という興味にいい意味で応えてくれました。<br>
    中国の文学はどうも、私小説や過去実際にあった出来事を題材にした歴史小説がメインっぽいですしね。志怪小説にしても創作ではなく、そういうことがあったと信じられてたワケで。武侠小説にしても、過去を舞台ににしたチャンバラだし。<br><br>
    漢字表記の謎単語(蛇人とか呼回世界とか食砂族とか多数)が新鮮。

  • 革命のたびに巨大化する銅像を崇拝する都市、精神状態の沈殿を再構成することで甦る絶世の美女、人間とロボットが逆転した世界、時間を貯める永遠時計……。ノンセンスな奇想と風刺と感傷が渾然一体となった台湾SF小説集。

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