ケルベロス第五の首 (未来の文学)

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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336045669

作品紹介・あらすじ

地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして人間として生き続けているという…。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中篇が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間-"もっとも重要なSF作家"ジーン・ウルフの最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • うーんこれは面白かった。穴だらけの土地を石づたいにぐるぐると飛び進むように読んでいくうちに、じわじわと世界が見えてくる/ひっくり返る。ゴシックな異世界で、自己同一性をめぐるリアルな三題を堪能した。なんだかえらく非情な新世界だったけれども。

  • 目次
    ・ケルベロス第五の首
    ・『ある物語』 ジョン・V・マーシュ作
    ・V・R・T

    中編三編が連作の体を取った長編小説と言えばいいのでしょうか。
    三編合わせて一つの世界をつくりあげていることはわかるのですが、まずは、一編ずつの感想を。

    表題作は普通におもしろかったです。
    最初はゴシック小説風に始まりますが、すぐにこれは通常の地球の話ではないことがわかります。
    巨大な館に住む二人の兄弟。
    父親はいますが(のちに叔母がいることもわかりますが)、基本的に放置されています。
    教育は専門のロボットになされますが、それはかなり偏ったものです。

    背の高い(ここ重要)女たちが大勢住み、夜になると男性たちをもてなす館。それが主人公・第五号たちの家。
    子どもの値段は安く、彼らの父も以前は人身売買に手を染めていたという。
    格闘用の奴隷が当たり前にいる世界。
    図書館の本棚はどこまでも高く、新しい本は上へ上へと積み上げられていくが、読む者はほとんどいないため通路に落ちた本はずっとそのまま放置されている。
    クローン。記憶装置。原住民の存在。

    彼らが住むのは地球から遠く離れた双子惑星のかたわれ・サント・クロエ。
    もう一つのサント・アンヌとともに、今では地球人の植民地となっている。
    原住民(アボ)は地球人に全滅させられた、とも、逆に自由に姿を変える能力を持つアボが地球人を全滅させて今は地球人になりすましている、とも言われている。

    やがて第五号は、自分が父のクローンにすぎず、しかしどうすれば父そのものになれるのか(記憶の移設)のために育てられていることを知る。
    同じ遺伝子を持っていても一卵性双子が別人のように、クローンも本人とは別人にすぎない。
    本人を本人たらしめるのは、本人のもつ個人的な記憶だから。
    ということで、父に記憶を吸い取られていく第五号…。

    めっちゃ面白くないですか?

    ところが『ある物語』が超難解で。
    一体私は何を読まされているのか、と、何度も何度も本を置いて考える。
    サント・アンヌの昔話というか、神話というか、伝承というか…だけど、ジョン・V・マーシュ作ってなってるんだよね。
    マーシュが集めた話ではなく、マーシュが作った話?
    創作?

    最後の『V・R・T』はまた面白かったけど、やっぱり難しい。
    先ほどのマーシュ博士が逮捕される。
    その記録や手記が時系列ばらばらに出て来るので、最初は何がなんだかわからない。
    次第に明らかになってくるのは、サント・アンヌの奥地に隠れ住んでいるというアボを探しに行ったマーシュが連れていたガイドの少年の死にまつわる不審な行為。
    ガイドの少年こそが実はアボなのか?
    マーシュが少年を殺したのか?
    少年がマーシュを殺して彼になりすましているのか?
    しかしマーシュが逮捕されたのは、じつは政治犯としてであって、殺人は関係ないのかもしれない。

    本人の記憶はマーシュのものだと思われる。
    しかし手記に書かれているのは、これはガイドの少年の物語ではないのか。
    自分が自分であることの証拠って、証明って、どうやってすればいいのだろう。
    記憶は移し替えることができるのか。

    最終的にはSFではなく哲学になってしまう。
    あれ?それってテッド・チャンの『息吹』の感想でも書いたな。

    全然違う話だけど、小学校の図書館にあった本で、今でも鮮明に覚えているのが、裏山にUFOが落ちた農夫の話。
    アメリカの小説だったと思うけど、最初は何が起こったのかわからなくて裏山が爆発したのかと驚くのだけど、近所の人たちの話ではUFOが落ちたらしい、宇宙人が逃げているらしいと聞いて、近所の人たちと山狩りをする。
    途中で自分の家の戸締りが気になって家に戻ると、家の鍵は開いていたけど特に変わったことは起きていなかった。
    みんなの元に戻ると、死体が発見されたと大騒ぎになっていて、「宇宙人の死体ってどんなのだ?」って聞くと、発見された死体は農夫のもの。
    「じゃあ、この俺は一体…?」大爆発が起きて、村が吹っ飛ぶ。
    こんな感じ。うろ覚えだけど。

    農夫は最後まで自分が農夫だと信じていたけど、実は…っていうのがすごく怖くて。
    『ケルベロス第五の首』を読んで、しきりにこの話が思い出されたのでした。
    タイトルも作者も忘れちゃったけど、こわくて面白かった。
    じつは小学生のころから好みが変わっていないのかもしれない。むむむ。

  • 3つの中編から成る本ですが、舞台となるのは一つの世界。一応、それぞれの作品を結びつけるキーワードや登場人物がいるんですが、その繋がりの希薄さたるや、もう相当なもんです。せいぜい、一人か二人ぐらいの人物と場所が共通するぐらいで、後はまったくかすりもせず。でも恐らく、作者としてはこの3部作をまとめて一つの舞台とすることで、訴えたいコンセプトがあるんだと思います。
    が、自分はそこまで到達するのは到底無理と感じました。難しいのと、「あ、何とかこの世界に入り込めたかな?」と思えた瞬間に、新たな謎や未知の事実が出てきちゃって、また一気に世界の外に弾き出されちゃう感じがするのとが、その理由。

    一読して理解しようと思うのは無謀でしょう。たぶん、人物相関図を描いて、世界観に関するメモを描いて、舞台のビジュアルが脳裏にきちんと描かれてからでないと、この作品を捕まえるのは無理なんだと思います。

    再読するかどうかとなると、ちょっと疑問だなー。とりあえず、ジーン・ウルフの別の作品も積ん読本棚に置いてあるので、そっちを読んでから改めて評価してみたいと思います。

  • 緻密で精巧なモザイク画のような感触。しかもちゃんとダイナミック。読むことが「快感」に感じたのは久しぶり。すばらしい。

  • 3つの中編

    1つ目は子供の目から見た家の話。兄弟がいるが、扱いが異なる。子供の語りなので、周囲の大人の行動の意味がわからない。が、大きくなるにつれて、自分なりに理解できること、想像できることが出てくる。
    ゴシックホラーのような、未来的なような雰囲気が面白い。

    2つ目は神話風。神話に肉付けして話を膨らましているようで読み応えがある。読んでいるうちに、これは1つ目の話の舞台になった地域の昔話と気がつく。
    本当にあった話なのか、ただの昔話なのか。

    3つ目は監獄にいる囚人の話。囚人は、2つ目の神話の真偽を調査していた学者である。
    その学者の記録を看守役の士官が読んでいる。
    なぜ捕まったのか、罪は何か。囚人からはわからないが、記録を読んでいくと見当がつくようにも思う。
    死んだのは誰なのか。
    生き残ったのは誰なのか。
    旅に現れた猫や、ハカアラシグマは本当にただの動物なのか。それとも何か知性のある生き物の別の姿なのか。神話は実話だったのかとも思わされる。幻想的でとても面白い。
    その囚人の記録の世界に夢中になっていると、急に看守役の士官の視点に戻されたり。そして、士官の勤務時間終了でお話も終わり。囚人は解放されることもなさそうなうえ、拘留理由もろくにない。途中で想像していた拘留理由も勘違いだった。不思議なものは不思議なままで終了。

    面白さを説明することも難しい。面白いのに。

  • 「ケルベロス 第五の首」(ジーン・ウルフ : 柳下毅一郎 訳)を読んだ。
    何なんだこれは⁈
    絡まり合う三つの中編どれもが少し難解でね、ちょっと降参かな。
    と、思ってしまった。
    『ヴェールの仮説』とか、ものすごく心惹かれるものは確かにあるんだけれどね。
    もう少し読み込まねばな。

  • 譬えて言うと、ジガバチの卵が孵って幼虫が自分が産み付けられた生き餌を喰みつつ自らと世界を理解していくような具合に、
    第一部の主人公「第五号」は自らの立場を双子の弟とともに「父」の与える過酷な教育の過程でゆっくりと知っていく。館の真の役割も。
     しかしこの件や何重にもなっている謎については英語の解明サイトが種々の見解を示しているそうで、読めない自分が知ったかぶりは出来ない。
    父が有性生殖の父でないことを理解すると、程なくある事件を起こす。それに至るまでに彼の住んでいた館の門前にはケルベロス(ギリシャ神話で地獄の入口に居る三つの頭を持つ魔犬)の像があり彼の兄弟デイヴィッドは「もう一つ、雌犬の首があるべき」と言った。館には♂3♀1、「中性」1が住み、訪問者多数。保護者は「父」で母は亡くなったと思い込んできたが
    第2部は一般名詞と固有名詞の区別がなく、相互浸入の世界。
    この惑星には奴隷市が立つが、奴隷の由来、供給源は第3部でうっすらわかる。

  • 約200年前、人類は先住民を絶滅させ双子惑星サント・アンヌ/クロアに入植した。昏い「犬の館」で少年時代を過ごした「わたし」の回想/人類学者が描く神話的物語/囚われた博士の研究日誌と尋問記録。これら3つの物語が重層的に絡み合い、ある「真実」を静かに暗示する。多義的な描写やつかみきれない多くの謎に目をこらしていると、不意に「自」「他」の位相がひっくり返り、宙吊りにされたような混乱を覚えた。プルーストとの関連や666番地など、尽きない企みに幾度も読み返したくなるし、読むほど複雑さが増幅してゆく。凄い(1972)

    あとこのボケ&ツッコミが好き

    「人が空からあらわれるまで、我らは名前を持っていなかった」老賢者は夢見るように言った。「我らはみなひょろ長く、木の根のあいだにある穴で暮らしていた」 「ぼくたちがそっちじゃなかったの」 「混乱した」と老賢者は認めた。(「ある物語」p.166-167)

  • wired・科学と創作・9位

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    【要約】


    【ノート】
    (wired)
    その魔術的語りは「最も重要なSF作家」の称号にふさわしい。人間に似た異星人の住む惑星の謎を描いた傑作中篇に、SF/ファンタジーの醍醐味を味わう。

  • ハードSFを期待したが文学を意識し過ぎな感じ

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著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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