- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336046376
作品紹介・あらすじ
悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領アナマソビアへと赴く。待ち受けるものは青い鉱石と化す鉱夫たち、奇怪な神を祀る聖教会、そして僻地の町でただひとり観相学を学ぶ美しい娘…世界幻想文学大賞受賞の話題作を山尾悠子の翻訳でおくる。
感想・レビュー・書評
-
壮大な物語の予感がするファンタジー三部作の第一部。
科学と魔法で人々を支配するマスター・ビロウの右腕である主人公クレイが、奇跡の白い果実の盗難事件を調査するために辺境の村へ赴く。
彼の肩書は観相官、つまり観相学を用いて顔立ちから人を判断するのだ。村人たちに直接会って調査を進めるのだけど、その選民意識というか他人を見下すような言動があまりにはっきりしていて、しかし辛辣すぎてねちっこくないからか、いっそ清々しいとすら感じる。
そうやって自信満々で調査しているはずが、段々と自分を見失っていき、ついには失敗して南の島へ。
硫黄採掘場で目の当たりにする自身の過去の仕事、楽園を探すビートンの記憶、それらを通じてクレイが変わっていくのが好ましい。
そうなるとシティに戻ってさあどうなる、とずっと飽きることなく面白かった。
この一冊だけで一区切りという感じなので、第二部、第三部はどんな物語なんだろうか。読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
世界幻想小説大賞受賞作。
世界観がモロ好みでした。訳者の山尾悠子の格調高い文章がかなり幻想的な雰囲気を盛り上げてくれる。
観相学が法律の全てという世界観。その他にも、理想形態都市、独裁者、美薬、青い鉱石、楽園ウイナウ、旅人、サイレンシオ、双子の番人、人狼…。世界観を色成す設定がセンスに溢れている!訳者のあとがきにも書かれていたが、ストーリーは女性に対する罪と贖罪への暗喩ともとれないこともない。独裁者ビロウと倒して終わりというところが普通すぎたのが少し気になるといえば気になったぐらいか。
3部作のウチの1作目。まだまだこの世界に浸れるのが楽しみだ。 -
「シャルビューク夫人の肖像」もそうだったけど身悶えしちゃうようなこのゾワゾワ感がこの人の特徴なんだなと読み進むうちにそのゾワゾワ感がいつの間にか消えて、切なく美しすぎるラストに感動。読むべし。
-
1997年世界幻想文学大賞受賞作。
20世紀の最後を飾る奇書とは訳者の弁。2004年8月発行。
翻訳は山尾悠子・金原端人・谷垣暁美の3人がかり。
古典を読むような文章にやや戸惑ったが、もとの味わいを出そうと苦心したらしい。
理想形態市(ウェルビルトシティ)は、独裁者ドラクトン・ビロウが築いたクリスタルとピンクの珊瑚で出来た街。
主人公のクレイは一級観相官。四輪馬車の迎えに乗り、北方の属領にある鉱山の町・アナマソビアへ出立する。
アナマソビアはブルースパイアの発掘が行われ、青い粉を吸い込んだ鉱夫はいずれ青く染まってブルースパイアと化す。
観相が異常に発達している時代で、幼女が人狼であることを見抜いた功績もあるクレイ。
「白い果実」の盗難をめぐって、アナマソビアへ派遣されたのは左遷に近い。美しい娘アーラに出会って助手とするが滞在中に一時知識を失い、美薬という麻薬中毒も相まってとんでもない事態を引き起こし、流刑へ。
旅人と呼ばれる人間ではないミイラの真実は?楽園とは?
カフカの城とか…いろいろ思い出します。
独裁と暴力と血と苦難と革命と…感情移入は出来ないが、架空世界を作りげたパワーは買います。 -
幻想的であり、そしてなにより寓話的である。カフカの小説を彷彿とさせないではいられない小説だと思う。例えば「流刑地にて」のような作品。本全体を、罪、という基調が覆っているように感じてしまう。
一方で、物語は後半に向けて勢いを増し、トールキンの「指輪物語」のような様相を呈してくる。と思ったら、ナントこれは三部作の第一部だという。なるほど、そういうエンターテイメントの香りがするなあと思っていたのは当然だったのだ。
しかし、やはりなんと言ってもカフカである。この寓話の箴言は何なのだろう、と考えずにはいられないのだ。自然を思いのままに作り変える(ことができていると信じる)人類への警鐘か。あるいはマネーという実態のないものに振り回されることへの意趣の表れか。単なるエンターテイメントを越えた何かが魔物のように言葉の裏に潜んでいるように思うのである。
人は何かを読み取られずにはいられない。村上春樹の新作を読んだ直後であったことも影響してか、そんなことを考えずにはいられないのである。例えば、タイトルにある「白い果実」。少なくともこの第一部ではそれは明らかにシンボルではあるけれども、何か象徴的な意味を明確に示すようではない。単純に言えば、それがよきものであるのか、あしきものであるのかすら、判然とはしない。あるいは、それは「指輪」のような存在なのかも知れない。もちろん、何かが隠されている気配は濃厚である。その寓意は第二部、三部を読まなければ見えてこないものなのだろうと思う。
この気配から感じ取ることのできる仕掛けのようなものは、トールキンを持ちだすまでもなく、例えば「スターウォーズ」にも共通するような王道であるように思う。つまり、この物語には語られていない過去がある。その予感はたっぷりとする。だとすると、それを読まずにはいられないと思い始めるのだけれど、この一部の読者に偏愛を生むような物語の完結編は、はたしてこの翻訳陣で再び翻訳されているのだろうか、それが気になる(と思ったら、やっぱり)。
-
シリーズものの1冊目。これからも世界は広がっていくのだろうけれど、私はここで挫折かも……。
-
幻想文学の長篇の醍醐味と感覚的な素晴らしさ。身も心も色彩豊かに浮かぶ画像に同化して固唾をのんで思い巡らせた。左手には拳骨。読み終えて半信半疑に開いた掌に緑が見える気になる。この先どうなるのと叫びたい。 -
97年に世界幻想文学大賞を取った名作ファンタジー。
独特な言い回しの英文を二人の訳者が翻訳し、その訳文を山尾悠子がシニカルな文章に仕立てるという二重訳。
理想的な都市の終焉と傲慢な主人公の成長が対照的に描かれている。
恒川光太郎作品が好きな方にお勧めできる作品である。
都市の支配者であるマスターが恒川光太郎作品のスタープレイヤーのように思えてならない。恒川とジェフリーフォードの世界が繋がっていると勝手に妄想しながら本作を楽しむのも悪くないだろう。