限りなき夏 (未来の文学)

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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336047403

感想・レビュー・書評

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  • 著者のプリーストさんが2月2日に亡くなってしまったのは残念です。近年は純文学寄りになってきてましたが、SF色の強いデビュー作含む日本オリジナル短編集です。SFといってもハードなものはなく基本的にテーマは恋愛。幻想的な雰囲気の中で切ない感じの恋愛は著者の持ち味かと思います。愛というよりもどちらかというと恋比率高め。なかでも夢幻群島という架空の島々を舞台にしたシリーズ短編が4編おさめられていますがとても面白い。登場人物もテーマも共通したものは舞台以外にはなく、ホラーだったりすれ違う恋だったり同性愛だったりとバリエーション豊か。3000年以上も戦争状態にある島々なのに派手な場面はまったくなく、不穏な背景と美しい島や海の風景や、じみな日常生活との対比に気持ちが揺さぶられ、ねじれたオチに留めをさされます。バラードのバーミリオン・サンズのシリーズともまた違った魅力です。幾重にも意味を持たせた言葉による認識のずれというか深みを増していく手法はここでも発揮されており短編ながら現実崩壊感は抜群。このシリーズだけの作品集を翻訳してくれないものだろうか。

  •  プリースト初の日本版短編集。

     えええ、プリーストって今まで日本で短編集出てなかったんかいと、あらためて驚いた。

     70年代のイギリスSFを代表する作家として、ベイリー、ワトスン、プリーストと並べて名前が出ることが多いけれど、ワトスンとかベイリーの短編集はずいぶん前に出てるのにねって、これはどちらも早川からで、プリーストはSF方面では早川から冷遇されていたことにも気付く。プリーストの(SF)長編は、サンリオと創元だからなぁ。
     それにしてもサンリオの『逆転世界』カバーには、続刊予定として『昏れゆく島へのフーガ』川本三郎訳、が告知されてて、あと少しがんばってくれればなぁと…。

     で、実は僕もあんまりプリーストは好きでなかったのだった。ベイリーやワトスンに比して、アイデアが世界を律するという傾向が強くなく、この人が書きたいのはSFとはちょっと違うんではないかなぁという偏見があったのだ。誰か、ワトスンとプリーストの間で行われた「アイデア」×「スタイル」論争をまとめてください。
     ま、プリーストのやっかいなところは、にもかかわらずアイデア自体は非常にSF的大技として魅力があるものだったりするということなんだけど。

     で、これまで刊行されるや即買いだった『未来の文学』の中では例外的にだらだらと引き延ばしたあげく購入。表題作は時間SF。『20世紀SF 70年代篇』で既読だった。でも大丈夫、すっかり忘れていたので。

     これ『時の娘』とかに収録されてたら、やっぱりプリーストは違うねぇと絶賛していたかもしれないな。SF的なガジェットはあるんだが、そんなことはお構いなしに失われた恋人の周辺をひたすらウロウロするだけの主人公がなんとなくバラード。ただ、バラードは女の尻を追いかけてるだけでもSFになるんだが、プリーストはなんだか違うんだよなぁという気もしないでもない。

    「青ざめた逍遥」はやはり時間SFで、単体で読むといい作品のはずなんだけど、表題作から続けて読むとややもたれる。

    「逃走」はデビュー作。収録作品の中では、圧倒的に早い時期の作品。時代の雰囲気の影響を受けてる感じだ。

    「リアルタイム・ワールド」は非常にストレートなSFで好感。既訳のある長編とかとどこか似たテーストがあって居心地がいい。


     ここからは「ドリーム・アーキペラゴ」連作。
     冒頭の「赤道の時」の世界描写が鮮やかで、これは〈夢幻群島〉の舞台を素描したものであり、ストーリーはまったくないのだけれど、上空からの視点で情景を書くプリーストの筆がのっている。
     読んでる最中から「誰に絵を描かせるか」とか、そんなことを考えてた。集中一番好き。

    「火葬」は、うーん、ホラーだよ。「奇跡の石塚」は世評が高いのだが、なんとなくピンと来なかった。あわただしく読んでしまったかもしれない。プリーストはそういう読み方をする作家ではないのだ。あと、このタイトルは田中啓文がなんかやりそうだなという気がした。

    「ディスチャージ」は軍を脱走した兵士が、群島に散らばる娼婦たちのネットワークの助けを借りながら、芸術家としての自分を取り戻していくという筋で、終盤のややサスペンスじみた展開は蛇足だと思うが、非常に面白かった。

     んー、こういうの読むと、やはり「ドリーム・アーキペラゴ」で一冊にまとめて欲しくなるよね。


     さて、本書の中でもっとも印象に残ったのは、古沢嘉通氏の訳者あとがきの安田均の翻訳SFへの貢献を確認する文章だったかもしれない。当初、プリーストを訳していたのは安田均だったし、ベイリーの日本における紹介を先導したのも彼だったと言っていいだろう。
     両者を読んだことがある人なら、この二人に同時にアンテナを立てることは難しいということが分かるはずだ。
     僕が中学生くらいの時にはすでに安田氏は「ゲームの人」だったわけで、遡行して海外SFについて調べ始めてから、SFに残した足跡の大きさに気付いたわけである。そのときにまいた種は、古沢氏の言うとおり、今になって芽吹いているとも言える。とはいえ、またSFの仕事もして欲しいなと思うわけだ。

  • 文章は端正で表現は明快で、読むことが困難では全く無いが、そこから受ける情報量が豊富な所為かなかなかページが進まなかった。だが、とても面白い。デビュー作からして質が高い… ドリームアーキペラゴの連作はその幻想的エロスにクラクラするも、ミステリーのような謎と衝撃も盛り込まれ、読者をも島々への旅へ引き込む。集中しすぎて本から顔を上げると、ここがどこなのか一瞬わからなくなるほど。他の作品も読みたい。

  • 『夢幻諸島から』に比べるとこちらに収録の〈ドリーム・アーキペラゴ〉ものは官能的なイメージが強いかな。『夢幻諸島から』で感じたモヤモヤは解消されるどころか、ますます深まったのだがそれが心地よい。お気に入りは「火葬」かな。

  • ふむ

  • 2008年に出たプリーストの新旧作品を集めた短編集。表題作の切ない雰囲気が良い「限りなき夏」、何が起きてるのか分かるにつれ恐ろしくなってくる「リアルタイム・ワールド」「火葬」が特に印象的だった。
    翻訳者・古沢氏によるあとがきも読みごたえがあって楽しい。確かにプリーストは平易な文章だし登場人物たちも複雑なメンタリティというわけではないけど、いつもふわふわとした印象を受け何が起きてるのかなかなかはっきりしないところが、魅力でもあり難しい印象を与える理由なのかも。それにしても傑作だという「The Affirmation」読んでみたいものだ。ぜひ翻訳されてほしい。」

  • 瀬名秀明氏の書評を見て。「火葬」など雰囲気のある作品もあったが、今ひとつ面白さがわからない。

  • デビュー作の「逃走」(1966)や<夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)>もの4編ほか、計8編を収めた日本オリジナル短篇集。美しく痛切な表題作(1976)と続く「青ざめた逍遥」(1979)が素晴らしい。抑制の効いた筆致によってロマンティシズムがいっそう引きたつ。そして「火葬」は絶叫もの。最悪の悪夢を見るようなおぞましさ。夢幻諸島シリーズ、島名索引がほしいところです(1966-2004)

  • てっきり短編集の文庫本も出てるものだとばかりと思って、探してしまったよ~(/_;)
    短編でもミスリードされてしまうのが悔しいやら、嬉しいやらなグラマー

  • 2017/5/2購入

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