新編 真ク・リトル・リトル神話大系〈2〉

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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336049643

感想・レビュー・書評

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  •  クトゥルフ神話はラヴクラフトが創始者ですが、彼一人で作り上げたものではありませんでした。様々な作家がこの「遊び」に参加し、自由に創造の翼を広げてこの世界を開拓していきました。
     2集はラヴクラフトやロングなど5人の作家によるリレー小説『彼方よりの挑戦』など13編を収録。以下、少々ネタバレありの各話感想。
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    『納骨堂綺談』(ダーレス&スコラー/1947)
     ロンズディル家の三男が、当主である次男の屋敷の中で失踪する。屋敷の地下深くには納骨堂があり、彼はそこに財宝が隠されていると思い込んで、密かにそこに向かったらしい。次男が追い、続いて長男らが向かうとそこには――。
    (所謂吸血鬼ものだが神話要素は薄い。発表年は1947年だが執筆時期は1931年頃と早期。「屋敷に隠された秘密」という要素はダーレスのお気に入りになったようで、後の作品に何度も使用されている。)

    『魔道士の挽歌』(C.A.スミス/1932)
     邪神崇拝の科で追われる身となったエイボンは、邪神から賜ったアイテムで別世界へ逃げ出す。追う側のモルギも同じアイテムを使って彼に追いつくが、そのアイテムは移動はできるが元の場所には戻れない一方通行のものだった。行くあてもないまま歩を進めるエイボンとやむなく行動を共にすることになったモルギ。二人の道中の結末はいかに――?
    (スミス流のユーモアたっぷりの一作。異郷を旅する二人と現地の知的生命体とのやり取りのすれ違いがなんともおかしい。探索者を導く先導者NPCがエイボンのようなキャラクターのTRPGシナリオも面白いかも知れない。)

    『足のない男』(ワンドレイ/1932)
     狩りを目的にアフリカ大陸を訪れたわたしは、そこである理由で足を失った男と出会う。彼はアフリカ大陸の地質調査のため、大陸を横断する内に現地人が恐れて近づかない土地に足を踏み入れた。そこには奇妙な木立の列と赤っぽい金属建築物があった――。
    (まだ未知に満ちていたアフリカ大陸を舞台にしたSFホラー。状況から遥か古代に宇宙から飛来してきたようだが、作中では詳細は語られず。「赤い回転流の神」は後に神格としてTRPGに取り込まれるが、最新版では削られている。)

    『脳を喰う怪物』(ロング/1932)
     船上にいた学者のスティーヴンが海上で見つけた、複数の死体が横たわったボート。死体に遺されたメモ帳には、名状しがたい怪物の存在が。メモ帳には更に、怪物は次にスティーヴンを狙っていることも示唆されていた。はたしてその夜――。
    (「奴らがパワーアップして帰ってきた! 今度の舞台は海の上!」そんな煽り文句を付けたくなるような、『怪魔の森』の「喰らうもの」が再び登場するホラー。)

    『羅睺星魔洞』(スコラー&ダーレス/1932)
     ビルマ(ミャンマー)の探検隊の一人であるわたしは、たまたま単独行動をしていたために謎の現地人の捕虜にされる。連れて行かれた先にいたのは、同じく彼らに捕らえられていたフォ=ラン博士だった。博士の言によると、彼らは地下深くに封じられている邪神に仕えている種族で、彼はその復活に協力させられているらしい。しかし博士にはこの状況を打開する秘策を持っていて――。
    (初期の頃の作品だが神話における対立構図の説明や旧神による邪神の殲滅など、ダーレス流のクトゥルフ神話の要素が大きく表れている。)

    『奈落より吹く風』(ダーレス/1933)
     七ヶ月前に失踪した警官の遺体が発見される。その警官は一年前に、天から人が落ちてくるという不可思議な死亡事件の当事者だった――。
    (イタカ物語群の一。この作品ではその名は出てこないが、その特徴と恐ろしさが十二分に描写されており、読み応えのある一篇。)

    『屍衣の花嫁』(ワンドレイ/1933)
     私は幼い頃よりおどろおどろしい夢に魘されてきた。だが、それに疲れ果てて死に臨もうというのではない。もっと恐ろしいことが起きたからだ。それは最愛の妻が事故で亡くなったことから始まった――。
    (神話要素は薄いが、夢と現の境を曖昧にするような、E.A.ポウに準じた作風はラヴクラフトも好んで使っていた。)

    『暗恨』(シーライト/1935)
     亡き友人から古代の遺物を譲り受けたウェッソン。欲望の塊であるウェッソンは、遺言で禁じられている遺物の封を解いたが、その中は空だった。直後、部屋の中に何者かの気配が――。
    (神話要素は薄いが、冒頭に登場する『エルトダウン・シャーズ』は後に魔導書の一つとしてクトゥルフ神話に取り込まれることになる。)

    『彼方よりの挑戦』(ムーア他/1935)
     カナダの森でキャンプをしていたキャンベルは、中心部に楔形の記号が掘られた円盤がある、風変わりな水晶に似た立方体を拾う。眺めている内に円盤が光を発し始め――。
    (当時の人気作家5人によるリレー小説。ラヴクラフトも参加していて、いつもの遊び心で作中に神話要素を挿入したことで、結果として神話作品となった。)

    『妖蛆の秘密』(ブロック/1935)
     怪奇小説作家のわたしは、スランプから未知なるものを求めるようになる。そしてとある古書店である魔導書を手に入れるが、それはラテン語で記されていたために判読できず、わたしは友人に助けを求める。友人もまた稀覯書の魅力に惹かれて翻訳にのめり込み、そして記されている呪文を読み上げると――。
    (ブロックが創作した魔導書『妖蛆の秘密』が初登場する作品だが、呼び出されたクリーチャーの描写も素晴らしい。登場する異星より遣わされし従者は、後にTRPGにおいて「星の吸血鬼」と名付けられる。)

    『顔のない神』(ブロック/1936)
     冒涜的な未知の神像が発見されたという話を聞いて、一儲けを企むシュテュガッツェは、密かに関係者を拷問して詳細を聞き出す。迷信に怯える現地人を脅して神像の発掘にこぎつけたシュテュガッツェだったが――。
    (強欲者の典型的な因果応報譚だが、ナイアルラトホテップの邪神としての威光を絡めた自然の猛威にシュテュガッツェが甚振られる表現は必読。)

    『嘲嗤う屍食鬼』(ブロック/1936)
     精神科医のわたしの元を訪れたショパン教授。彼は自身を悩ましている奇妙な夢について、そして夢の内容がありのままの事実であることをわたしに訴える。わたしは教授の説得に応じ、彼が夢で見た場所に二人で赴くことに――。
    (現実に転換された悪夢が襲ってくる恐怖。精神科医というキャラクターはクトゥルフ神話によく合う。)

    『探綺書房』(ハッセ/1937)
     人知を超えるような稀覯書を求めて古書店を渉猟していたわたしは、ある古書店で出会った異様な男から、あの『ネクロノミコン』をも超越する凶々しい内容という本を、半ば無理矢理に受け取らされる。疑いながらも自室でその本を開くと、書かれている字が動き出して――。
    (本好き、古書好き、オカルト好きにとっては身につまされる内容。身の破滅を招くとわかっている本を読むという好奇心に抗えるかどうか。)

  • 秋の夜長に持って来いの作品群です。

  • 面白かったのは「足のない男」「羅?星魔洞」。羅?星魔洞は翻訳がなかなか面白かった。

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