新編 真ク・リトル・リトル神話大系〈5〉

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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336049674

作品紹介・あらすじ

ラヴクラフトの継承者たちから、新しい神話時代への誘い-海神から忍び寄る恐怖「盗まれた眼」"封印の守護者"の昔語り「妖蛆の館」、謎の古文書が見せる悪夢「墳墓の主」他、"ラヴクラフトの再来"B・ラムレイらが1960‐70年代に紡いだ、次世代神話の傑作選。

感想・レビュー・書評

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  •  ブライアン・ラムレイもまた、クトゥルフ神話の啓蒙に努めたダーレスに才能を見出された作家の一人です。彼は13歳の時にクトゥルフ神話の虜となり、従軍生活の傍らで創作活動に励みました。そして投稿を繰り返した末にダーレスに認められたラムレイは、ダーレスの出版社からクトゥルフ神話作家としてデビューしたのです。
     5集はラムレイのクトゥルフ神話デビュー作である『深海の罠』や、クトゥルフ神話にムー大陸の伝承を絡めた、後にゾス神話群と呼ばれることになるシリーズの先駆けであるカーターの『墳墓の主』など13編を収録。

     以下、ちょっとだけネタバレありの各話感想。
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    『深海の罠』(ラムレイ/1968)
     グリーの元に、晩餐の席で突然退出したハリーから謝罪の手紙が届く。彼が席を立った理由は、食事に出された牡蠣だった。かつては大好物だった魚介類を口にできなくなった原因である、ハリーの奇怪な体験とは――。
    (未知の変種の貝を捕らえた男に訪れた悍ましい顛末を描いたホラー。繊細な人なら、読後しばらくは貝類が口にできなくなるだろう。)

    『大いなる帰還』(ラムレイ/1969)
     第二次世界大戦の終盤、わたしは空襲で両親を喪い、その際に追った怪我で入院を余儀なくされた。戦後、親の遺産を相続したわたしは、何かに誘われるように旅から旅の生活を始める。途中、私が求めている地は実は故郷だったことに気付いた私は急ぎ戻ると、弁護士から父が作成した書類を渡される。そこに記されていたのは――。
    (ラヴクラフトの過去作品の要素をミックスしてオリジナルの味付けをした意欲作。読後、作中のどこがどの作品の要素か、再読してチェックするのも一興だろう。)

    『ク・リトル・リトルの恐怖』(ウォルハイム/1969)
     伯母を経由して、エリファスの母親から彼についての相談を受けたわたし。私がミスカトニック大学で研究をしていることを知ったエリファスは、大学の図書館に所蔵されている曰く付きの魔導書を借り出して自分に渡すよう迫るのだった――。
    (そのジョークのような結末も含めて、ラヴクラフトが多用した要素を詰め込んだ、確信犯的オマージュ作品。)

    『妖蛆の館』(マイヤース/1970)
     私が初めて<妖蛆の館>を見たのは、幻夢境――夢の世界でだった。訪れた時には既に廃墟であったそこには、かつて旧支配者の牢番を自称する老人が住んでいた。過去に彼と交流があった世捨て人が話した、老人が姿を消した一連の出来事とは――。
    (幻夢境を舞台に「旧支配者と旧神の対立」というテーマで書かれた凶兆の物語。変貌した幻夢境を舞台にした物語なりTRPGシナリオなりを創作するなら、本作は格好の材料となるだろう。)

    『闇に潜む顎』(ハワード/1970)
     ペット、野良を問わず動物が行方不明になる事件が続発する。恋人のペットまで行方不明になり、悲しみに暮れる彼女のためにわたしは新たなペットに勇猛なブルドッグをプレゼントする。事件の被害は幼児、そして成人にまで及ぶ中、彼女にプレゼントしたブルドッグが傷だらけの状態で現れる。彼女に起きたことを悟ったわたしがブルドッグに導かれた先は、最近になって越してきた住人が住んでいる家だった――。
    (スタンダードなクトゥルフ神話ものだが、クライマックスからの展開はヒロイックな作品を多く書いたハワードならではの仕上がり。)

    『窖』(ジョーンズ/1970)
     アメリカ南部にある片田舎に引っ越してきたぼくは、木立の奥で変わった形の井戸を見つける。その井戸水を口にした夜から、ぼくの奇怪な体験は始まった――。
    (ラヴクラフトの『宇宙からの色』と『未知なるカダスを夢に求めて』をミックスしたような作品。飲むたびに情報を得られる代わりに正気度を奪われる水がある井戸というのは、TRPGシナリオでの重要なアイテムとして活用できるかもしれない。)

    『墳墓の主』(カーター/1971)
     野心溢れるコープランド教授は自身が発見した古文書を元に中央アジア遠征を試みる。隊が遭難し、幾多の危難に見舞われ、孤立無援になっても歩を進め、ついに目的であるザントゥーの墓を見つけた教授が目の当たりにしたものとは――。
    (中央アジアが舞台だからか、ロングの『恐怖の山』からの情報を散りばめさせてクトゥルー神話との関連性を強調している。)

    『シャッガイ』(カーター/1971)
     魔道士エイボンはナコト写本の謎めいた章句の意味を解き明かそうと苦心していた。助言を求めた存在からの回答を受け、エイボンは宇宙の彼方に意識を飛ばして真相を探るのだが――。
    (スミスの「魔道士エイボン」ものをモチーフにした掌編。キャンベルの作品と併せると、それは星の消滅とともに滅んだようだが、はたして――。)

    『黒の詩人』(ハワード&ダーレス/1971)
     私は狂死した詩人ジェフリーを研究していたコンラッドと共に、彼が生前に訪れた、そこで詩の才能を開花させたと思われる廃屋を探訪する。後日に会ったコンラッドは別人にようにやつれており、私に託した書類には、彼が間を置かずに廃屋を再訪したこと、そこでジェフリーと同じと思われる体験をしたことが書かれていた――。
    (ハワードの遺稿にダーレスが補作した作品。己の探究心が己の身を滅ぼす話で、ホラーにおいてはありふれた展開と言えばそれまでだが、終盤に現れる異界の描写はなかなかのもの。)

    『インズマスの彫像』(ラヴクラフト&ダーレス/1974)
     インズマス近くの海岸で暮らす彫刻家のジェフリーは、海岸に打ち上げられた青色の粘土で新作の彫像を制作し始める。その日から彼は忌まわしい夢を見始め、彫像自体にも異常が生じ始める――。
    (ダーレスによるアフター・インスマスものの一編。ギリシャ神話のピグマリオンがモチーフなのは明らかで、メリーバッドエンド感のある結末はクトゥルフ神話ならではだろう。)

    『盗まれた眼』(ラムレイ/1971)
     神秘主義に傾倒していたジュリアンは、最近になって悍ましい悪夢に魘されていた。ある日、屋外で心神喪失状態で発見されたジュリアンは精神病院に措置入院されるが、1年を経過したあたりから急速に回復し、退院する。しかし、ジュリアンは入院する前とは別人のようで――。
    (ラムレイによるクトゥルフ物語群の一編。ラヴクラフトやダーレスの作品から情報を引用しており、これらと世界観を共有していることを明示している。)

    『続・深海の罠』(ラムレイ/1971)
     前作で手紙を送られたグリーから、ハリーに返答の手紙が送られてくる。そこには、グリーが知人から聞いた、これまた変種の貝類にまつわる奇妙な話が綴られていた――。
    (前作で届けられた手紙に応じた形で語られる、もう一つの"妖貝"ホラー。本作を完成させた後、ラムレイが貝アレルギーになってしまったのは、はたして旧支配者の呪いなのか――?)

    『呪術師の指環』(ウォルシュJr/1971)
     大学の民俗学教授であるカールトンは、ヴードゥー信仰調査のために6人の学生を引率してミシシッピのデルタ地帯に赴く。しかし礼拝所を調査すると、ヴードゥーではなく別の何かを信仰していることが推察された。調査を始めて一週間後の夜、どこかから太鼓の音が聞こえてきて――。
    (予期せず外なる神を崇拝するカルトに関わってしまったことから起きる悪夢を描いたホラー。外なる神を象った小像の描写は、TRPGシナリオにおいてその神を登場させたい時に参考になるだろう。)

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