エヴァ・トラウト (ボウエン・コレクション)

制作 : Elizabeth Bowen  太田 良子 
  • 国書刊行会 (2008年2月発売)
3.67
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  • 6レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336049858

エヴァ・トラウト (ボウエン・コレクション)の感想・レビュー・書評

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  • ボウエン最後の長篇小説。ブッカー賞のリストに載るが受賞はしなかった。プロットや人物造型に対する不満が評価が分かれる理由らしい。人物造型についていえば、たしかに主人公であるエヴァはあまり人好きのするタイプではない。なにしろ億万長者の一人娘で、遺言により二十五歳の誕生日が来れば父の遺産はすべてエヴァのものとなる。遺産相続前の今もジャガーを乗り回す、そんな女性に共感できる読者はあまりいそうにない。それでは、人も羨む人生かといえばそれはちがう。幼い頃に母に死に別れ、国際的な企業家である父の仕事の関係で、寄宿学校か世界各地のホテルを転々とする生活のせいで母国語の習得もままならず、いまだに満足な物言いすらできない。

    それだけではない。父のウィリーは同性愛者で、父の死後エヴァの後見役をつとめるコンスタンティンがそのお相手。母の死は恋人のいるパリに逃げる途中の飛行機事故である。親の愛を知らずに育った子どもであるエヴァは、自分という存在に自信が持てず、言葉の問題もあって他者とのコミュニケーションがうまくとれない。行き場のないエヴァのため、父が金を出しコンスタンティンの所有する城を、金持ち連中がもてあました不良子女を集めて学校にしたのはいいが、不祥事が相つぎ廃校となった時、エヴァが唯一頼りにしたのが、女学校時代の教師イズーである。

    イズーは才気溢れる女性教師だったが、結婚後は教職を辞めていた。夫の果樹園経営はうまくいかず、エヴァを預かることで多額の金が入ることはありがたかった。ただ夫婦水入らずのところへ若い女性が同居することで、もともとひびが入りかけていた夫婦関係が危うくなり、イズーはエヴァをうとましく思っていた。そのエヴァが独り暮らしのために海辺の一軒家を購入することで、小説は動き出す。エヴァが世話になっていた牧師館の息子のヘンリー、イズーの夫であるエリック、それにコンスタンティンという男たちがエヴァに絡み、それに引きずられるようにイズーがあやしい動きを見せる。

    金はあるが、愛に恵まれない娘がいかにして自己実現を果たしていくか、結婚、子育て、社会への貢献と、本来自分に課せられているはずの行為を、やかん一つ満足にガスにかけられない世間知らずの女性が、どうやって自分のものにしてゆくのか。自分が果たせなかった愛に溢れた親子関係を実現するため、不正な取引で幼児を取得するも、そのジェレミーは聾唖者だった。言葉を介さない二人だけのコミュニケーションは成立するが、ジェレミーの成長に伴い事態は変わる。小説は二部に分かれ、一部ではエヴァの独立が捲き起こす騒動を、第二部は渡米し、子育てをしていたエヴァが帰国し、ヘンリーとの結婚のためローマに旅行するまでを描く。

    湖畔に建つ城砦、ディケンズの『荒涼館』のモデルとなった書斎、その近くに建つ海辺の邸宅、といった抜群のロケーション。「邪悪な後見人」コンスタンティンとイズーが囲むディナー。シャブリでは場違いと称される山盛りの牡蠣に山鴫料理、リド・ヴォー、と涎の出そうな献立である。人物造型に難があるという評だが、どの人物もただただ人に愛され好かれるような人物でないだけで、コンスタンティンやイズーをはじめ、ある意味、わずかばかりの登場に過ぎない傍役まで、魅力的な人物が揃っている。

    プロットという観点で言えば、E・M・フォースターの小説のように大団円に向けて整然と進むようにはなっていない。ただ、一見唐突なような結末も、早くから伏線を張り、サスペンスを盛り上げるなど、考え抜かれた構成であり、これはこれで成熟した小説世界である。七十歳で、これだけの長篇小説を仕上げる力に感銘さえ覚える。思い出の城砦が建つ湖にボートを浮かべ、ヘンリーとエヴァが遊ぶ夏の一日。ヘンリーが用意した苺とワイン(おそらく白)は『ブライヅヘッドふたたび』におけるセヴァスチャンとチャールズの栗の花の下での一時をいやでも想起させる。友人イーヴリン・ウォーに向けて片目をつむって見せたつもりだろうが、幸せの渦中にある二人を後から偲ぶにはこれを置いてない取り合わせといえよう。ヘンリーの父親が花粉症でクリネックスを手放せないところなど、英国小説らしいヒューモアもちゃんと用意されている。代表作とされる『パリの家』より面白く読んだ。もっと評価されていい小説だと思うが如何。

  • 2014年神保町ブックフェスティバルで購入。
    エリザベス・ボウエンが最後に発表した長編で、本国ではブッカー賞の候補にもなった(残念ながら受賞はしなかった)。
    英国伝統の心理小説だが、発表当時は余り評価が高くなかったようだ。確かにヒロインの造形が既存の作品とはかなり異なり、あまり一般ウケするタイプでもなさそう。しかし良くも悪くも人間味のあるヒロインではあり、独特の魅力を持っているように思われる……というのは、発表当時と現在との時代差だろうか。
    幻想小説やミステリに分類される小説もかなり書いているボウエンらしく、本作にもミステリ的な構成が一部用いられているが、英国伝統の心理小説として読むのが一番良さそう。
    訳文はやや凝った印象だった。

  • 文体がとても読みにくかった。

    最後の終わり方が好きだけど、最後は悲劇。

    登場人物に感情移入するというより、文章の流れをいかに捉えていくかが、本書を読む上での楽しみでもあり、苦痛でもあると思った。

  • ブッカー賞候補に残ったという1969年の作品。
    あちらでは有名作家らしいボウエンの最後の長編。
    24歳のエヴァが牧師館の子ども達と寒い中ドライブに出かけているという〜感覚的には面白いが設定のよくわからないシーンから始まり、感性豊かな登場人物たちの微妙な葛藤が描かれます。
    もうすぐ巨万の富を継ぐことになっているエヴァは、元教師のイズー夫婦の家に滞在中。
    幼いときに家出した母は飛行機事故で死に、父に連れられて世界各地を転々としたため、母国語をマスターしきれていないために無口。後に父も自殺。
    イズーはかって心から慕った恩師だが、今は緊張をはらんだ関係。
    管財人で後見人のコンスタンティンは、じつは亡き父の愛人だった男という。
    富と孤独がエヴァにある思い切った決断をさせ、数年後の再会にまた事件が…!
    牧師館の息子ヘンリーが魅力的。
    作者は1899年ダブリン生まれ、数年後父が発病。24歳で短編集を発行、同年結婚。後に恋愛相手が複数知られるが夫は最大の理解者であったらしい。
    作者自身の生い立ちが由緒ある家の跡継ぎで、母と二人でイギリスの親戚を転々としたり、学校へ通った時期が短かったり、と似た部分があり、大柄でハンサムウーマンといわれる容貌も近いらしい。
    誰にでもお勧めというわけにはいかないけど〜ふしぎな魅力のある作品。

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