ミステリウム

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336053183

作品紹介・あらすじ

小さな炭坑町に水文学者を名乗る男がやってくる。だが、町の薬剤師の手記には、戦死者の記念碑や墓石がおぞましい形で破壊され、殺人事件が起こったと書かれていた。語り手である「私」は、行政官の命により、これらの事件を取材することを命ぜられるが、その頃、町は正体不明の奇病におかされ、全面的な報道管制が敷かれ、人々は次々に謎の死をとげていた。真実を突き止めようと様々な人物にインタビューをする「私」は、果たしてその真実を見つけることができるのか…。謎が謎を呼ぶ、不気味な奇想現代文学ミステリの傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 寒々とした雰囲気と閉鎖的な町と謎がぴったりマッチ。
    謎はあっと驚く解ではないが、無知であることが賢者云々、言葉をすごく大切にしている作品で独特の世界観が広がっている。

    この世界に人間の考えるような真理はなく、言葉によって縫い止めようとする人間の足掻きを感じる。
    羨ましいとか妬ましいとか、感情に名前をつけることで、確かにそれを明確に自認するようになり、人は幸せになったり不幸せになったりする。
    自分の人生価値あるものにできるのは自分なんだなと改めて別方向から考えさせられた。

  • かつて炭坑町だったキャリックは、戦争中に事故で炭坑が水没した。そこで作業をしていた捕虜は全員坑内で水死した。時がたちそ、その町に水文学者と名乗る男がやって来る。そして次々と事件が起こる。
    さらにその後、町に不思議な病気が流行り、町の人々は次々と不思議な死に方をしていく。ジャーナリストのマックスウェルは、行政官から死にゆく町の住人から真実を聞き取りまとめるように言われる。

    怪しく残酷な事件、二転三転するストーリー、炭坑町の歴史と登場人物たちの家族の歴史が絡まりあい、真実は何かを考えさせる。

  • 面白かった。
    今までにあまり読んだことのないような空気を感じた。

    スコットランドが舞台とされているようだが、実在しない架空の世界に紛れ込んだような違和感がつきまとう。なんというか、終始けむにまかれているような居心地の悪さを感じながらも次のページが気になって仕方がない。

    核心の謎解きも嫌いじゃない。ハッピーエンドでもなければバッドエンドでもないアンニュイさがあと引く。

    心地悪さと心地良さの間で揺れながら読む一冊。
    著者の他作品も読んでみよっと。

  • 何でこうもグロテスクで奇妙な断片を織り込めるんだろうなあ…
    富樫かよ…

  • グロテスクな描写が多くやたらと人が死ぬが、話は事件発生→探偵役の見習い記者がキャリックに行き捜査というか死にかけた住民へのインタビュー→犯人が自白→最後にどんでん返しとわかりやすく進んでいく。住民へのインタビューのところは一番の読みどころで作者も楽しんでいるのがわかります、礼儀正しい抑揚で罵倒語を発するランキン医師へのインタビューではやりすぎたと思ったのか『もはや彼のことをほんの少しでもおもしろいやつとは思わなかった』と自分を落ち着かせています。とにかく色々なおもしろエピソードが次から次と出てきて楽しい小説です。

  • 前に読んだ時も思ったけど、なんでこの人はこんなに南米っぽい雰囲気なんだろー。カサーレスの「モレルの発明」「パウリーナの思い出に」勿論この(本書を含めて)3つのストーリーは違うもんなんだけど、雰囲気がおんなじでさー。クナイプとかお高い入浴剤見つけて、贅沢と解っているから、ちょっとだけ罪悪感ありながら至福のお湯に浸かって頭の中を空にする、そういう読書感。
    内容というのは箸みたいなもんでさ、作品が持つパワー、エネルギーっていうのは、料理か味みたいなもんは、いい物は忘れずに何度も思い出すな。何かそういう作品だよ。

  • 何度読んでもわからない表現がありました。p.46とか、p.54とか、p.60とp115はタイポ…?
    ???と思いながら読み進めていったら面白くなってきて、細かいことは気にならなくなりました。この著者の他の作品も読んでみたいです。

  • 図書館でタイトルと装丁に惹かれて(あと著者がスコットランド生まれの人だったので)読んだ。何となく不思議なふわふわした細菌とかの話かと思い込んだけど、不思議なふわふわしたミステリ……のような不条理のような話だった。
    スコットランドを思わせる(でも固有名詞はほとんど使われない)「島」の小さな町を舞台に、謎めいた毒物流布事件が解明されるまで、あるいは解明されずに終わるまで、の話。言葉で煙に巻かれるという感じで、面白かったけど、わけがわからないまま終わった。

  •  翻訳にちょっと疑問を感じる箇所がいくつかあったのだが、それを書くのはやめにした。
     本当は20数行に渡って、翻訳に悪態をつくような文章を書いたのだけれども、すべて消してしまった。
     たまらなく面白い内容だったので、著者(エリック・マコーマック)の責任ではない要素にケチをつけるのが嫌だったからだ。
     それに、翻訳に疑問を感じてはいるけれど、この本を翻訳して、紹介してくれたという功績には感謝しているから、なんて上から目線だなぁ(汗)。
     マコーマックの作品を読むのはこれが3冊目。
     前の2冊「隠し部屋を査察して」と「パラダイス・モーテル」が切っても切れない緊密な関係を保っていたのに対し、この「ミステリウム」は単独の長編となる。
     長編、といっても、手記や新聞記事、数人の登場人物に対するインタビューや回顧録といった断片を積み重ねながら作品を構築しているので、やはり短編にその手腕を発揮する作者なのかもしれない。
     ミステリー的な要素があるが、すべての謎がスカっと解決されて、それによるカタルシスを味わいたい、といった読者には向かないと思う。
     いろんな謎が出てくるが、どれ一つとっても「100%解決」されてはいないからだ。
     解決されたように見えて「実はこうだった!」というどんでん返し的な展開もあるにはあるのだが、そのどんでん返された事実にしても、けっして解決されてはいないのだ(すごく回りくどい言い方になってしまった)。
     そういう意味では、「どんでん返し」とは言えないのかもしれない。
     作品中のセリフを引用すれば「まるで上に書かれているテキストをこすり落とすと、その下からべつのテキストが現れる」といったところだろうか。
     僕などは謎が謎のままに残ってしまっても、一向に平気な読者であるから(かえってその謎の余韻に浸れる、なんて思ったりもしている)非常に面白く読み進めることが出来た。
     もちろん、謎がきちんと解かれた作品で味わうことが出来る開放感だって好きではあるが。
     このどんでん返しされても、なお謎が謎として残ってしまうラストに「ポカン」とする読者もいるかも知れない。
     というか、このどんでんの返しかたに、クチをポカンと開けてしまう、といったところかな。
     僕自身も一瞬「はぁ?……」と思ってしまった。
     そして「ああ、こういうのもありだよな」とニヤっとしてしまった。
     柴田元幸氏(彼が翻訳をしているわけではないです)が本のオビで「個人的には、全作品の中で一番好きです」と書いているのも、わかる気がする。

  • 面白かった!マコーマックは3冊目だけれど、いちばん読みやすくゾクゾクワクワク感がハンパなかった。霧におおわれた炭鉱町の叙景にまずツインピークスを想起、どよーんと歪んだ空気に忽ち惹き込まれた。アンチミステリの類だけれど物語の結構がしっかりあるからぐいぐい読ませる。信頼できない語り手だらけの中、唯一実直な青年マックスウェルを支柱として主人公に仕立てたのがミソで、霧の町の霧のような人々の幻想性に現実としての意識が一本釘刺している。真相解明されなくともモヤモヤすることなく着地できた。久々に物語に熱中した、大満足。

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