奇跡なす者たち (未来の文学)

制作 : 浅倉久志 
  • 国書刊行会
3.95
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336053190

作品紹介・あらすじ

独特のユーモアで彩られた、魅力あふれる異郷描写で熱狂的なファンを持ち、ダン・シモンズやジョージ・R・R・マーティンらに多大な影響を与えてきた名匠ヴァンス、浅倉久志編による本邦初の短篇集が登場!代表作「月の蛾」からヒューゴー/ネビュラ両賞受賞作「最後の城」までヴァンスの魅力を凝縮したベスト・コレクション、全8篇。

感想・レビュー・書評

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  • ジャック・ヴァンスの作品。中でも「月の蛾」が特に名作です。

  • 一作目「フィルスクの陶匠」での陶器を表現する色彩の豊かさに、まず心を鷲摑みされる。
    「奇跡なす者たち」「最後の城」で描かれた世界はどこか既視感があるなと思ったら、そうかG・R・R・マーティンの氷と炎の歌シリーズか!
    なるほど、マーティンは“ヴァンスの子ら”と呼ばれる作家の一人なのか。
    あのシリーズ、異世界ファンタジーとして読んでいたけれど、もしかするともしかするのかしらん。ふ~む。

    流転の人生を送ってきた作家らしく、新しい未来を切り拓いていくのは変化を恐れない人々である、というふうに読めて清々しい。

    収められた8作はどれも面白かったけれど、どこか物悲しい「ミトル」と「月の蛾」が好き。

     The Miracle Workers by Jack Vance

  • 版元・国書刊行会のブックフェアで購入した本、その2。これを選ぶ気はまったくなかったのですが、原題“The Miracle Workers”をさほどいじらず、典雅に仕上げた邦題に、「ああ、やっぱり浅倉久志訳だなあ」と手に取りました。

    まとめられた短編はどれも、人間型生命体の存在する、惑星の日常と事件を描いた物語。少しクラシカルなスペースオペラに登場するような植民惑星や、『銀河鉄道999』の停車駅になる惑星がイメージできるように思う。どの惑星にも、支配する大星系が打ち立てた秩序が適用されており、そこに赴いた人物や原住の人類、双方の交流や軋轢が描かれている。いにしえの超テクノロジーの劣化あるいは腐敗のさまと、その上で生きる人類の世界には、『風の谷のナウシカ』を思い出したりもした。

    個人的な好みでピックアップすると、『音』の、そこにいない人物を外から描いていく手法と、渦中の人物が降り立った世界に惑わされていく様子の描写がもろ好み。『ミトル』は、ただ一人残された種族の少女を描くさまが寂しさと詩情にあふれ、ごくわずかなエロティックさも漂っていて、ちょっとどきっとする。『月の蛾』は、華麗で匿名性たっぷりのビジュアル要素にミステリも絡めて、収束までのプロセスも鮮やかだった。

    ヴァンスはずっとミュージシャン志望だったらしく、音を含めて、場の空気の揺れをエモーショナルに描くことに長けていると思う。こう書いてしまうと、どの短編も情緒的なように思われるかもしれないけれど、ストーリーは構築的で着実に進んでいくし、締めがアメリカンに鮮やかで、ふふっと笑ってすぱっと読み終えられる。そのあたりのブレンドが絶妙なのだと思う。翻訳も品よく自然で、そのままするするっと読んでしまうけど、造語の渦でものすごく大変だっただろうなあ…と拝察いたします。

    A.C.クラークやP.K.ディックのメカニカル感とちょっと違い、SFを読んでいるというより、C.A.スミスなんかの異界幻想小説を読んでいる感触に近い読後感。ちょっとゴツい装丁で、ともすると遠ざけそうだけど、落ち着いた面白みが味わえる本だと思うので、この☆の数。

  •  仮面と楽器を通した厳格な様式によって公的地位を表現する文化(「月の蛾」)だとか、人骨を用いて焼き物に魂を定着させるという民族(「フィルスクの陶匠」)だとか、技術と生産を異なる人種に行わせ、洗練された儀礼を競い合う貴族階級だとか(「最後の城」)。
     高度に洗練された異文化を描き出すときの繊細で華麗な筆致と、斬新で大胆なアイデアの組み合わせが、たまらなく魅力的な中・短編集だ。巻末の訳者解説で、これらの作品が1950~60年代に発表されたものだと知ってびっくり。文化人類学の学位をもつ現代のポストモダン作家の作品だと言われても信じてしまいそうだ。「ヴァンスが登場するまで、SFは異文明を描くもので、異文化を描くものではなかった」のだそうで、なるほどね。
    確立された呪術の技術で支配階級に使える術師たちが、科学技術をわがものとした奴隷種族の挑戦を受ける「奇跡なす者たち」に最もよく現れていると思うけれど、ヴァンスの作品がとても面白いのは、現在の地球上において最も優勢な地位にある近代的合理精神とは対極にある異文化を描きながら、それらを劣ったもの、非合理的なものとは少しも考えていないこと。それはそれ自身の内部においては完璧に意味が通っていることを理解しているのと同時に、そうした完璧に整合性のある論理の外部に出ることの意義を強調しているということだ。世界各地をボヘミアン的に旅してまわった自分自身の経験から、このような異文化への態度を培ったとは、真に驚きだ。ほんとうの意味でセンス・オブ・ワンダーをあたえてくれるSF。

  • 3.95/134
    内容(「BOOK」データベースより)
    『独特のユーモアで彩られた、魅力あふれる異郷描写で熱狂的なファンを持ち、ダン・シモンズやジョージ・R・R・マーティンらに多大な影響を与えてきた名匠ヴァンス、浅倉久志編による本邦初の短篇集が登場!代表作「月の蛾」からヒューゴー/ネビュラ両賞受賞作「最後の城」までヴァンスの魅力を凝縮したベスト・コレクション、全8篇。』

    目次
    「フィルスクの陶匠」(酒井昭伸訳) The Potters of Firsk
    「音」(浅倉久志訳) Noise
    「保護色」(酒井昭伸訳) The World Between
    「ミトル」(浅倉久志訳) The Mitr
    「無因果世界」(浅倉久志訳) The Men Return
    「奇跡なす者たち」(酒井昭伸訳) The Miracle Workers
    「月の蛾」(浅倉久志訳) The Moon Moth
    「最後の城」(浅倉久志訳) The Last Castle


    著者:ジャック・ヴァンス (Jack Vance)
    訳者:浅倉久志, 酒井昭伸
    出版社 ‏: ‎国書刊行会
    単行本 ‏: ‎448ページ

  • エキゾチックなSF的異郷に目を瞠る日本オリジナル傑作選。冒頭「フィルスクの陶匠」(1950)から鮮やかな世界に引き込まれる。中でもミステリ仕立ての「月の蛾」(1961)が好みだった。非常に複雑な文化コードが支配する惑星シレーヌ。人々は仮面で顔を隠し、会話をする時に立場や状況に応じた楽器演奏を怠ることは重大な侮辱とみなされる。そこへ派遣された領事シッセルは、外星からきた凶悪な暗殺者を追うが……。一刻を争う状況でも楽器をかき鳴らしながら美麗なアリアを歌うとか、気恥ずかしくて面倒な「お作法」を想像すると可笑しい

  • ジュブナイルなSFから離陸して興味をどんどん広げていった頃、指針になったのが浅倉久志。
    英語が苦手だと改めて思い知らされたのがジャック・ヴァンス…(-_-;)

  • SFの持つ面白さにもいろいろあるが、一つには時空間や次元を超えた世界や文明を持ち出すことによって、今ある世界や文明に対する批判が容易にできることがある。しかし、想像力にも限界があって、批評する側が当然視してしまっている文化のようなものは案外スルーされてしまうものだ。だから、太陽系を遠く離れた宇宙や何万年も先の未来を舞台にしてみても、そこに登場する人間や宇宙人は、我々とよく似た考えや行動をするし、世界の構造も今ある世界と極端に異なっていたりはしない。逆に、あまりにもかけ離れた世界を想定したとして、自分たちと似ても似つかぬ存在の引き起こすあれやこれやに興味を引かれることはないだろう。我々は、見慣れた世界の枠組みはそのままにしておき、一部が異なる設定の中に置かれて一喜一憂する人間の姿を面白がっているのだ。

    だから、すべての人が仮面を着けて暮らし、他者とのコミュニケーションの手段として幾つもの楽器を奏する者たちが暮らす星を舞台とする「月の蛾」のような小説を読んでも、別に面食らったりしない。たとえ、装着する仮面がその日の気分によってちがったり、相手との関係性によって的確な楽器を選ぶことができないと、気まずいどころではなく、身に危険が及ぶことになる惑星シレーヌのようなところであっても。ジャック・ヴァンスは、ジャズミュージシャンになろうと思ったことがあるらしいから、楽器の持ち替えというアイデアの出所も分かる。世界中を旅し、様々な職業に手を染めた経歴から、自分とは異なる文化慣習を持つ人々とコミュニケーションをとる難しさとともに、その面白さも充分すぎるほど理解していたにちがいない。

    典型的なアメリカ人にとっては、感情をあまり表面に出さず、相手との関係性のちがいによって言葉の使い方を常に変化させ、何よりも体面を非常に気にする文化を持った民族――たとえば日本人のような――と接するのは、ほとんど別の星の生物と話すようなものなのかもしれない。「月の蛾」を読んでそう思った。尊敬語に謙譲語、丁寧語、と同じ内容をいくつもの言い回しで異なる表現を使用する日本の「敬語」は、ある意味、相手によって別の楽器を使い分けているのかもしれない。顔に被る仮面も、自分が人からどのように思われ、どれくらいの物を身につければいいか、身分相応というか、相対的な価値観で選ぶ、この若干面倒臭い気遣いにも身に覚えがある。この短篇集を読んだ日本の読者の多くが「月の蛾」を激賞するのもそのせいではないだろうか。異なる文化が持っている差について敏感な作家である。

    千六百年前、宇宙に戦争があり、拠点を破壊された船団の船長たちが惑星に非難してきた。新来者である人類は先住者である<先人>を森へと追いやり、長い時間をかけて大城砦を築き上げ、そこに宇宙船から取り外した火砲を据え、惑星を支配する。表題作「奇跡なす者たち」は、呪師を擁する二つの陣営の闘い、とその後に起こる<先人>との戦いを描いた作品。人類同士の戦いは、一種の憑依体験を使って、バーサーカー状態にされた兵士同士の戦闘によって決着がつけられる。この場合重要なのは、人間が感情や心理、精神を持った存在であることで、呪師はそれを使って戦わせる。ところが、<先人>が使用するのは蜂やダニといった虫や落とし穴のような罠である。偉大な呪師も虫相手には力を発揮できず、人類は苦戦する。それを救ったのが、見習い呪師のサム・サラザールだった。科学が退潮し、魔法が台頭している未来において、初歩的科学が息を吹き返すというひとひねりが効いている。

    中篇「最後の城」も、舞台設定は表題作によく似ている。地球へ帰還した人類は他の星から連れてきた奴隷や農奴を駆使して巨大な城を築き、ようやく栄華を誇れるようになった。ところが、機械の扱いはじめ、生活手段のほとんどを頼っていた奴隷階級メックが反乱を起こしたことで、貴族的な階級である人類が追い詰められてゆく様子を描いている。日本の伝統社会の様式的主従関係をヒントにした社会制度である氏族の当主の性格や嗜好、能力等の特徴が的確に描き分けられ、会議の場における主張のちがいによって選択する進路に差ができる。迫りくる敵を前にして、城に残る者、城を去る者、それぞれの運命が分かれる。中篇らしく人物像を丁寧に描いているので、主要な人物に陰影が生まれ、読んでいて心躍るものがあった。『三国志』を読んでいるような感じといったら分かってもらえるかもしれない。

    表題作も、この中篇もそうだが、戦いは壮絶でありながら、憎悪や怨念というネガティブな感情が感じられない。ぶつぶつ言いながらも主人公を乗せて飛ぶ巨鳥もそうだが、どこかのどかなヒューモアが感じられる。戦いの終わり方も同じで、敵を殲滅して終わるという破壊的、終末論的な決着の仕方を選ばない。話し合いによる和解の道を探るという方法論を大切にする作家の考え方に強い共感を覚えた。古い物では50年代の作品も含まれているが、全然といっていいほど古びていない。むしろ、この殺伐とした時代にこそ読みたくなる先見性すら感じられる。コアなSFファンでなくとも充分楽しめる、読みどころの多い魅惑的な短篇集である。

  • 異星の話なのに結末は人間に沿っている

  • 初めてジャック・ヴァンスの作品を読んだけど、めちゃくちゃ面白かった。手に取りやすいお値段で出してくれればもっとよいのだが、国書刊行会にそれを期待するのは難しいか。

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著者プロフィール

1916年、サンフランシスコ生まれ。カルフォルニア大学バークレー校を卒業後、商船員の職につき航海中に小説を執筆、45年短篇「The World-Thinker」でデビュー。その後、世界中を旅しながら作品を発表、奇怪な世界と異様な文化を活写する唯一無比の作風で息の長い活動を続け、80冊以上の著作がある。主な作品に『終末期の赤い地球』(50)、『竜を駆る種族』(63、ヒューゴー賞受賞)など。ミステリ作家としても『檻の中の人間』(60)でエドガー賞処女長篇賞を受賞。84年には世界幻想文学大賞生涯功労賞、97年にはアメリカSF・ファンタジー協会が授与するグランド・マスター賞を受賞、殿堂入りを果たしている。

「2017年 『スペース・オペラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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