- Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336054685
作品紹介・あらすじ
怪人・種村季弘が遺した翻訳迷宮の中から、単行本未収録を中心にした小説・戯曲・詩作品を一巻に集大成。ホフマン「ファルンの鉱山」、マイリンク「レオンハルト師」、ブニュエル「麒麟」他。吸血鬼物語・オカルト小説・ブラックユーモア文学・ナンセンス詩-綺想渦巻く33編。訳者自身による鋭利な作品解説も収載。
感想・レビュー・書評
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種村先生が翻訳したフィクションのうち、単行本未収録またはアンソロジーのみに収録のものを集めた本。メジャーどころは単行本で読めるわけで、B面集の趣。巻末に種村先生の翻訳書誌が収められているので、種村ファン向けかも。
ドイツ語の怪奇幻想ものに疎い者としては、次はホフマンとマイリンクを読もうという気になった。ホフマンは怪奇ものの王道という感じがしたし、マイリンクの不吉さは奇妙にリアルで目を離せない。「こおろぎ遊び」が特によかった。
知名度が低そうな作家の作品では、ドーデラーの「陶器でこしらえた女」が唐突で残酷で印象に残った。もっと読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
三十三篇収録。数ヶ月かけて、ゆっくりじっくり読んだ。どの作品も濃厚で深い味わい。鉱山で働く人々の気高さと山の残酷さを冷徹に描くE・Th・A・ホフマン『ファルンの鉱山』、第一次世界大戦が勃発する四週間前にブータンを旅していた昆虫学者の好奇心が招く恐怖がつづられるグスタフ・マイリンク『こおろぎ遊び』、貧困の果てに死を選ぼうとした作家の気の迷いが自らの存在を危うくしてしまうローベルト・ノイマン『文学史』、どこまでも走り続ける暴走機関車の煙が本から立ち上るようなフリートリヒ・デュレンマット『トンネル』、むちゃくちゃポップな吸血鬼もののH・C・アルトマン『ドラキュラ・ドラキュラ』、妻を失った男の家に迷い込んできた子犬についてのモノローグが次第に蛇行していくマヌエル・ヴァン・ロッゲム『ある犬の生涯』、未来派やシュルレアリスムを彷彿とさせる芸術家たちに囲まれたモデルが自身の華やかな性遍歴を語っているうち彼女自身の肉体と性行為も彼らの作品へと変質していくP・C・イエルシルド『モビール』。味の濃いどっしりした料理を、一皿ひとさら日を改めて味わうような読書体験だった。
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種村季弘さんの翻訳が、硬質で精緻で、端麗にして豪奢な、美しい日本語でした。
吸血鬼や異端の人間、幻想と狂気の狭間―――怪奇と綺想渦巻く短篇と詩。33篇600頁あります。中でもマイリンクは、静かにくる不気味さで良いです。ドーデラーの「陶器でこしらえた女」などもかなり不気味。ホフマンの「ファルンの鉱山」は特に幻想的で好きでした。挿絵などひとつも無いのに、頭の中に壮烈な映像が広がって、まるで映画を見終わったかのような、読後感。凄く良いです。狂気とも言える絢爛豪華な世界。 -
いかにもな怪奇小説は少なめな印象で、どちらかといえば奇妙な話、といった印象のものが多い感じでした。あまり読んだことのないタイプの作品が多いなあ。いろいろ変な作品だなあ、と思いつつ、幻想的な文章にも酔う心地でした。
お気に入りはフリートリヒ・デュレンマット「事故」。放送劇として書かれたバージョンのようで、小説版も違う結末のものがあるようなのでそちらも気になります。裁判官・検事・弁護士とそこに放り込まれた客人の間で始まったゲーム。だけれどこれは本当にただのゲームなのか。丁々発止のやり取りは読むごとにサスペンス感が募って、どきどきする一作でした。
マヌエル・ヴァン・ロッゲム「ある犬の生涯」は短いけれど切れ味の鋭い物語。ラスト一文であっと言わされました。 -
素直に面白いと思えるもの、少々難解なもの、ぞっとするもの、最後にほうとため息をつきながら涙しそうになるものと多彩だが、ページ数からしても内容からしても、図書館で借りて一気に読むよりは手元に置いてじっくり読み進めるほうがよい本だと思った。
<収録作家>
ヨーハン・ペーター・へーベル、E・Th・A・ホフマン、ボナヴェントゥラ、アヒム・フォン・アルニム、オスカル・パニッツァ、グスタフ・マイリンク、マックス・ブロード、ハンス・ヘニー・ヤーン、ハイミート・フォン・ドーデラー、ローベルト・ノイマン、ゲルト・ガイザー、ペーター・ウルリッヒ・ヴァイス、フリートリヒ・デュレンマット、H・C・アルトマン、ペーター・ローザイ、ルイージ・カプアーナ、アロイス・イラーセク、マルセル・シュオッブ、ハンス・アルプ/ビセンテ・ウイドブロ、ジャン・ミストレル、ルイス・ブニュエル、カルロ・マンツォーニ、マヌエル・ヴァン・ロッゲム、P・C・イエルシルド、スワヴォミル・ムロジェック、ハンス・アルプ