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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784336056283
作品紹介・あらすじ
異国の地で城の地下牢に囚われた薔薇のあざをもつ女。名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵。いつ終わるとも知れぬ長い裁判。頭の中の機械。精神病療養所のテラスで人形劇めいた場面を演じる患者たち――孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作。
感想・レビュー・書評
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アンナ・カヴァンの作品集。短編と、連作短編「アサイラム・ピース」を収録。
著者本人の長らく精神的不調を抱え生きてきた人生も相まって、痛々しく苦しい物語である。調子が悪く自責の念、自己嫌悪が高まったまま眠った時に見る夢のような…痛みを抱えた自分を理解してほしいという感情と、客観的に見れば自分は人に対して充分に応えられない、悪であるという自己嫌悪を見せつけられているような。
アサイラム・ピースも「ここを出てしまえば普段通りに戻れる」「…本当に、前のように戻れるのか?」「家族がきっと迎えに来てくれる」「クリニック」で過ごす患者達の悲痛な思い、そして外に出て見える、同情だけでは退院させる事は出来ない状態。
患者達の苦痛も、その家族の苛立ちや苦悩も理解出来るだけにとても気が重くなる。
しかし、それだけの「痛み」を描き出した著者の筆力と内面に惹かれる詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本で出版されて未所有だったカヴァン作品を全部揃えることができたので、カヴァン名義全作品を1940年の本作から、最期の「氷」に至るまで順番に読んでやろうと壮大なプランの実行。
アサイラム・ピースはカヴァン名義としてのデビュー作で、掌編集なれど一つ読むのに精神的体力が要るので、時折り猫弁さんや石黒さんに逃れながら読み終えた次第。
当時ヘロインは合法で、医師によるコントロール処方での常用者だったカヴァンの幻想的妄想的な語り口は独特で、精神の狭間に追いやられるような閉塞感を感じる。気を衒う内容ではなく、淡々と浮遊するところもあって、読み解く必要はないとも思う。
次作品は、チェンジ・ザ・ネーム。 -
氷の感想を書いてこちらを忘れていたが、読んだのはアサイラム・ピースが先。これのほうがカヴァンの才能が純粋に表現されており、優れた本だと思う。
掌編というべき短い物語が積み重ねられる。奇妙な幻想世界だが、ファンタジー色はなく、強靭なリアリティと確かな筆力に支えられている。温度が低い異次元の世界に閉じ込められているのは「私」だ。銀髪の少女といった脚色を排したその「私」が陥っている閉塞感、不条理、悪夢は、作家が体験した精神の病とドラッグから生じた実感であろう。外界の抑圧者たちに恐怖と怒りを抱きつつ、逃れ救われることは諦め、無力に依存し続ける自分を客観的に受け入れている。 -
持ってなきゃならない。なくしてはいけない。自分自身の逃避場所。もっとも信頼している人でさえ、逃げ場所には決してなれない。心地よく安らぎを感じる場所…いや違う。狂おしいほど、乱れることが許される場所こそ、逃げ場所には相応しい。心のそこに一本の線を引いたように、静かに続く文字の連なり。この作品の中に、止まれる場所はどこにもない。
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間違いなく病んでいるはずなのに、内なる自分に入り込んだ狂気の世界であるはずなのに、どこか冷静で客観的。恐ろしいほどの孤独感に苛まれる自分を見つめている自分、という感じ。
不思議な世界観があり、つい引きこまれてしまう。
翻訳も絶妙なのかもしれない。
装丁も絶妙。 -
人を選ぶ内容の本。
他者と関わり合いたいのに、傷つくのが怖くて自ら独りでいることを選んでしまう、選ばざるを得ない、そんな弱さを抱えている人に読んで欲しい。 -
静謐。静かな絶望。清潔すぎる部屋。私物のない館。見えない何かとの勝ち目のない戦い…
研ぎ澄まされた何かが密やかに内側に入り込んでいたことに気づく。
楽しい話とは決して言えないのに、読後感は悪くない。独特の世界観に惹かれる。
ダヴィンチで知った本。 -
おっかなびっくり、おそるおそる読んでみた。なんでかっていうと、扉の紹介文なんかこうだよ。
「…孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作集」
うへぇ~という感じだが、「本の雑誌」でトヨザキ社長が絶賛してたのと、本のたたずまいがとても美しいのとで読む気になったのだった。
で、結局とても良かった。意外なことに読みやすい。確かにここにあるのは息の詰まるような閉塞感や孤独感であり、不条理な世界への悲鳴である。それなのに、なんとも静謐で独特の美しさに満ちている。あとがきにあったように、まるでガラス細工のようだ。うーん、これは是非長編「氷」を読まなくちゃ。こっちはSF寄りらしい。楽しみだ。-
はじめてコメントさせていただきます。
いつもたまもひさんの素敵なレビューを楽しみにさせていただいております。
これ、私も図書館で見かけてその...はじめてコメントさせていただきます。
いつもたまもひさんの素敵なレビューを楽しみにさせていただいております。
これ、私も図書館で見かけてその装幀(”たたずまいが美しい”はそのものズバリですね!)に惹かれて借りたのですが、その紹介文にビビり、結局そのまま返却した小心者です。
レビューを拝見して、やっぱりちゃんと読めばよかったと今更後悔しています。
また借りて読んでみます!
ありがとうございます。2013/05/13 -
bokemaruさん、コメントありがとうございます!感想を読んでいただいてとても嬉しいです。
私も小心者ですが、そのくせ怖いものを見たがるタ...bokemaruさん、コメントありがとうございます!感想を読んでいただいてとても嬉しいです。
私も小心者ですが、そのくせ怖いものを見たがるタチで、時々痛い目にあってます。
これは思いの外、イヤーな気持ちにならずに読めました。本当にきれいな本ですよね。
2013/05/14
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断章。至る所にある死と強制(あるいは矯正)の影。永遠に引き延ばされたかのような一瞬。そこに巣食う苦痛。絶望することも希望を持つことも儘ならない。そこに埋め込まれたメッセージを読み解く。十字架の上で何時までも呻き続ける救世主を想像せよ、凡庸な人々よ。そして、その意味するものを考えよ、と。
たとえヨーロッパの地方の名前が書かれていても、ここに描かれる世界の周囲は白く濃い霧で囲まれ、現実の世界からは恐ろしい程の隔たりを持って隔離されている。そのイメージがどこまてもつきまとう。霧の中へ足を踏み出す勇気があったとしても、その先には底なしの淵が大きく口を開き、どこへも逃れることはできない。そのことは、何故か足を踏み出す前から自明のこと。どこまでも容赦のない仕打ち。仕打ち? 一体誰がそんな仕打ちをするというのだろう? 為政者? 独裁者? 救護者? あるいは、神?
アンナ・カヴァンの人生に対する知識を持たぬまま読み進めても、彼女の抱いていた絶望の大きさは、容易に伝わってくる。だからといって、この断章群が自伝的だと言うのではもちろんない。逆に、これらの断章は、とても創造的であると言って構わない。そのアンビバレンツな事実の組み合わせが、読むものの心を締めつける。 -
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ふとした拍子に頭の中に浮かんだ不安とか寂しさは、形になる前に消えていってしまうものを、その一瞬を逃さずに単語を捉え文章として目の前にさらしてくれているように思いました。だけどその気持ちにしばし浸ったものの再び端から忘れて行く私は、やっぱりかなり強い。
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アンナ・カヴァンの小説を読むのは独特な体験である。話の筋というより、小説から立ち上る空気・温度・色といったものが読後感として残るのだ。感じられるのは透明で張り詰めた寒々しい空気、零下に及ぶような強烈な寒さ、そしてそうした冷気から連想される雪や(名高い作品のタイトルと同じく)氷のような白や透明といった色。白を基調とし鋭利な刃物のような美しさを持つ本書の装丁はまさに作品そのものである。
基本的には一篇一篇が大変短い短篇集で、どれもが同じ話といっても構わないだろう。何者かによって拘束あるいは自由を奪われ絶対的な孤独の中に幽閉された主人公。そしてそこから逃れることは絶望的に不可能なのだ。その絶望はその時のまま凍結され、無限の停止あるいはループのまま閉じ込められてしまっている。
本書の最後の作品に書かれているように、カヴァンの小説では奪われた時間というものが描かれている。時間が凍結され奪われる、という観点からSFとして評価されたのは現在となってはよく分かるが、40年前に『十億年の宴』においてバラードの破滅小説と並べてSFの観点から『氷』を評価したオールディスの慧眼には改めて畏れ入る。 -
人物たちが置かれている状況も
背景もよくわからず
これまで何があり
今、何が起こっているのか?
有り様の全てが曖昧で
その不安定感に引きずられてしまう。
被害妄想。強迫観念。
狂人の戯言のようなものが延々と続き
それなのに自分や
周りを見る目はとても冷静で鋭く
その苛立ちや不安、畏れが
わかるような気もだんだんしてくる。
この不思議と
ひきつけられてしまうものは何だろう? -
作者の不安定な精神状態を表すかのような幻想的で不穏な文章によって綴られる閉塞感に満ちた美しい世界。
現実世界での結婚生活の破綻から逃避する苦しい心象を元にした章もあれば、精神病院体験を元にした章もある。
不安定な精神を抱えた作者から見た世界を垣間見ることができる作品。 -
よく見るとなんだか不安になるカバー。ちょっと『言壺』っぽいけどあれは捻じれてるのであって断絶してるのではないからセーフ。
「母斑」「上の世界へ」「敵」「変容する家」「鳥」「不満の表明」「いまひとつの失敗」「召喚」「夜に」「不愉快な警告」「頭の中の機械」「アサイラム・ピース」「終わりはもうそこに」「終わりはない」を収録。
一歩でも動いたら何もかも終わってしまうかのような、逆に一瞬でも立ち止まったらすべてが崩壊してしまうかのような張り詰めた緊張感。繊細で鋭敏にすぎる精神が捉える見えない敵意の描写に身が削れ、掌編ひとつにも多大なダメージを負った。共感や感情移入なんて眼中にないとばかり、ただひた向きに悲痛な叫びがそんなものを超えたところで揺さぶってくる。圧倒的。
連作「アサイラム・ピース」が特によかった。精神を病んだ人々が暮らす隔離施設を舞台に、手の届かない希望(絶望)を澄明に描いて生々しい。高貴な虜囚の涙に寄り添う職員が印象的。きっとわかり合えるわけではないとも思いつつ。 -
『氷』を読んで他の作品も気になっていたアンナ・カヴァン。「母斑」のみ『居心地の悪い部屋』で既読。
閉塞感に満ちた不条理な現実への、憎しみにも似た執念のごとき絶望を感じます。
でも、決して感情的な文章ではなく、飽くまで理性の支配下にあるのが不思議でした。あるいは、それこそ狂気の証明なのかもしれません。奇妙に静謐な作品集でした。
カヴァン自身の現実をフィクショナライズし、小説世界で再構築しているのだと感じます。
彼女の小説に惹かれてしまうのは、彼女にとって"小説を書くこと"が自己を保つ救いとなっていた、そういう危うさから放たれる凄絶なエネルギーに圧倒されたいからかな、と思います。 -
『氷』が好きだったので本作も手に取ったが、こちらは私にはハマらなかった。リアルな心情を客観的に書いているカヴァンという構図は面白いと思いつつ、世界にはのめり込めなかった。残念。
特に好きなのは「上の世界へ」、「不愉快な警告」、「アサイラム・ピースVIII」あたり -
この作品について、幻想やSFといった言葉はふさわしくない。作中「見ててちょうだい。どのみち、私はもうすっかりよくなっているんだもの」という言葉の希求するもの、爪を立てて要求するもの、そしてそれを阻む透明な壁に見えざる「敵」、これらについてわかる人には、この一冊は友となり得ると感じた。閉鎖病棟に入院していた日々を、生なましく思い出させてくれた。
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独り言のような短編集。
表層的には気づかなくても深いところでは気づいていて、また気づいていることにも気づいている。そして本当は表層的にも気づかないふりをしている。そんな感覚。逃げ場がない。
鳥の名前をよく知っている。生きるために逃げ続けなければならない人は、つかの間でも優しい避難所を持とうとするのだと思った。 -
短編集。ショート・ショート。
初めて読む作家さん。『氷』だけは知ってた。
これはSFではなく、純文学風。
読んでいて不安になってくる、独特の雰囲気が漂う。
他の作品も読んでみたいと思う、不思議な魅力。
著者プロフィール
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