アサイラム・ピース

  • 国書刊行会
3.81
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本棚登録 : 371
レビュー : 55
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336056283

作品紹介・あらすじ

異国の地で城の地下牢に囚われた女。名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵。いつ終わるとも知れぬ長い裁判。頭の中の機械。精神病療養所のテラスで人形劇めいた場面を演じる人々-孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 持ってなきゃならない。なくしてはいけない。自分自身の逃避場所。もっとも信頼している人でさえ、逃げ場所には決してなれない。心地よく安らぎを感じる場所…いや違う。狂おしいほど、乱れることが許される場所こそ、逃げ場所には相応しい。心のそこに一本の線を引いたように、静かに続く文字の連なり。この作品の中に、止まれる場所はどこにもない。

  • 間違いなく病んでいるはずなのに、内なる自分に入り込んだ狂気の世界であるはずなのに、どこか冷静で客観的。恐ろしいほどの孤独感に苛まれる自分を見つめている自分、という感じ。
    不思議な世界観があり、つい引きこまれてしまう。
    翻訳も絶妙なのかもしれない。
    装丁も絶妙。

  • 人を選ぶ内容の本。

    他者と関わり合いたいのに、傷つくのが怖くて自ら独りでいることを選んでしまう、選ばざるを得ない、そんな弱さを抱えている人に読んで欲しい。

  • 静謐。静かな絶望。清潔すぎる部屋。私物のない館。見えない何かとの勝ち目のない戦い…
    研ぎ澄まされた何かが密やかに内側に入り込んでいたことに気づく。
    楽しい話とは決して言えないのに、読後感は悪くない。独特の世界観に惹かれる。
    ダヴィンチで知った本。

  • おっかなびっくり、おそるおそる読んでみた。なんでかっていうと、扉の紹介文なんかこうだよ。

    「…孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作集」

    うへぇ~という感じだが、「本の雑誌」でトヨザキ社長が絶賛してたのと、本のたたずまいがとても美しいのとで読む気になったのだった。

    で、結局とても良かった。意外なことに読みやすい。確かにここにあるのは息の詰まるような閉塞感や孤独感であり、不条理な世界への悲鳴である。それなのに、なんとも静謐で独特の美しさに満ちている。あとがきにあったように、まるでガラス細工のようだ。うーん、これは是非長編「氷」を読まなくちゃ。こっちはSF寄りらしい。楽しみだ。

    • bokemaruさん
      はじめてコメントさせていただきます。
      いつもたまもひさんの素敵なレビューを楽しみにさせていただいております。
      これ、私も図書館で見かけてその...
      はじめてコメントさせていただきます。
      いつもたまもひさんの素敵なレビューを楽しみにさせていただいております。
      これ、私も図書館で見かけてその装幀(”たたずまいが美しい”はそのものズバリですね!)に惹かれて借りたのですが、その紹介文にビビり、結局そのまま返却した小心者です。
      レビューを拝見して、やっぱりちゃんと読めばよかったと今更後悔しています。
      また借りて読んでみます!
      ありがとうございます。
      2013/05/13
    • たまもひさん
      bokemaruさん、コメントありがとうございます!感想を読んでいただいてとても嬉しいです。
      私も小心者ですが、そのくせ怖いものを見たがるタ...
      bokemaruさん、コメントありがとうございます!感想を読んでいただいてとても嬉しいです。
      私も小心者ですが、そのくせ怖いものを見たがるタチで、時々痛い目にあってます。
      これは思いの外、イヤーな気持ちにならずに読めました。本当にきれいな本ですよね。

      2013/05/14
  • 断章。至る所にある死と強制(あるいは矯正)の影。永遠に引き延ばされたかのような一瞬。そこに巣食う苦痛。絶望することも希望を持つことも儘ならない。そこに埋め込まれたメッセージを読み解く。十字架の上で何時までも呻き続ける救世主を想像せよ、凡庸な人々よ。そして、その意味するものを考えよ、と。

    たとえヨーロッパの地方の名前が書かれていても、ここに描かれる世界の周囲は白く濃い霧で囲まれ、現実の世界からは恐ろしい程の隔たりを持って隔離されている。そのイメージがどこまてもつきまとう。霧の中へ足を踏み出す勇気があったとしても、その先には底なしの淵が大きく口を開き、どこへも逃れることはできない。そのことは、何故か足を踏み出す前から自明のこと。どこまでも容赦のない仕打ち。仕打ち? 一体誰がそんな仕打ちをするというのだろう? 為政者? 独裁者? 救護者? あるいは、神?

    アンナ・カヴァンの人生に対する知識を持たぬまま読み進めても、彼女の抱いていた絶望の大きさは、容易に伝わってくる。だからといって、この断章群が自伝的だと言うのではもちろんない。逆に、これらの断章は、とても創造的であると言って構わない。そのアンビバレンツな事実の組み合わせが、読むものの心を締めつける。

  • ふとした拍子に頭の中に浮かんだ不安とか寂しさは、形になる前に消えていってしまうものを、その一瞬を逃さずに単語を捉え文章として目の前にさらしてくれているように思いました。だけどその気持ちにしばし浸ったものの再び端から忘れて行く私は、やっぱりかなり強い。

  •  アンナ・カヴァンの小説を読むのは独特な体験である。話の筋というより、小説から立ち上る空気・温度・色といったものが読後感として残るのだ。感じられるのは透明で張り詰めた寒々しい空気、零下に及ぶような強烈な寒さ、そしてそうした冷気から連想される雪や(名高い作品のタイトルと同じく)氷のような白や透明といった色。白を基調とし鋭利な刃物のような美しさを持つ本書の装丁はまさに作品そのものである。
     基本的には一篇一篇が大変短い短篇集で、どれもが同じ話といっても構わないだろう。何者かによって拘束あるいは自由を奪われ絶対的な孤独の中に幽閉された主人公。そしてそこから逃れることは絶望的に不可能なのだ。その絶望はその時のまま凍結され、無限の停止あるいはループのまま閉じ込められてしまっている。
     本書の最後の作品に書かれているように、カヴァンの小説では奪われた時間というものが描かれている。時間が凍結され奪われる、という観点からSFとして評価されたのは現在となってはよく分かるが、40年前に『十億年の宴』においてバラードの破滅小説と並べてSFの観点から『氷』を評価したオールディスの慧眼には改めて畏れ入る。

  • 絶えず自分を監視し傷つける敵は自分自身でありそこからは決して逃れることができない。究極の自己否定と絶望がどんな姿をしているのか、その片鱗を垣間見ることのできる作品。

  • 独り言のような短編集。

    表層的には気づかなくても深いところでは気づいていて、また気づいていることにも気づいている。そして本当は表層的にも気づかないふりをしている。そんな感覚。逃げ場がない。

    鳥の名前をよく知っている。生きるために逃げ続けなければならない人は、つかの間でも優しい避難所を持とうとするのだと思った。

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著者プロフィール

1901年フランス生まれ。不安と幻想に満ちた作品を数多く遺した英語作家。邦訳に、『氷』(ちくま文庫)、『アサイラム・ピース』(国書刊行会)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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