偏愛蔵書室

著者 :
  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336058287

作品紹介・あらすじ

芥川賞作家の諏訪哲史が、自らの偏愛する書物100冊について、広く熱く語った読書エッセー集。
「中日新聞」に2010年~14年にわたって連載され、大きな話題を呼んだ人気エッセーの待望の単行本化。
プルースト、ジョイス、漱石、賢治から、知られざるマイナー小説や漫画まで。
著者独自の文学論でもあり、文学的自伝ともいえる1冊。

感想・レビュー・書評

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  •  ……そこで読んだ本たちが僕に、読書とは実は後ろめたい行為なのだと教えた。そして大人が本気で書いた小説とはこれほどまで想像を絶して恐ろしいものかと圧倒された。(p228)

     必読書ベスト100ではなく著者の「偏愛」に基づいてセレクトされたブックガイド。『遠野物語』『檸檬』『失われた時を求めて』など誰もが認める名作だけでなく、『憂国』『ドグラ・マグラ』『家畜人ヤプー』など問題作や奇書を多く取り上げているのが特徴で、おおっぴらには薦めにくい禁断の書物案内といった趣きがある。紹介されている本が挑発的ということもあるが、芥川賞作家でもある著者が紡ぎだす文章は、それ自体がすでに官能的だ。身を焼きつくすような情熱、つめたく冴えた論理、評論そのものが言語芸術たりえることの、この本は証左となっている。

     ……文学とは、小説とは、そしてそれらを包括する広義の「言語芸術」とは、いったいなんなのか。表現への狂おしい衝動、それをなにゆえ人は持つのか。なにゆえ人は、小説を「書かねばならなくなる」のか。それについて考え、書き継いだものが本書であるともいえる。(p316)

     著者の言葉に照らして云うなら、なぜ人は小説を「読まねばならなくなる」のか。ただの読書で完結するならまだしも、自分が惚れこんだ本を人に薦めたいという衝動に駆られるのはなぜか。読書体験を人と共有したいという欲求、作品にたいする自分の解釈を人に認めさせたいという欲望は、なにに由来するのか。文学という学問分野を形成してしまうほどの情熱を、なぜ人類は連綿と抱きつづけてきたのか。

     ……僕が本書で読者に伝えたかったのは、本とは、手に取りやすい場所におかれているものだけが読むべき本なのではなく、それは氷山の一角にすぎず、実は、この世界のどこかには、こんなにも多様な、うつくしい本、うつくしい文章、描画が、まだまだある、ということである。(p316)

     本書は、まるで蝶マニアの少年が何年もかけて採集したうつくしい標本箱のようだ。誰もが欲しがる綺麗な蝶から、絶滅危惧種となっている蝶、人外の秘境にしかいない蝶、触れてはいけない有毒の蝶まで、一匹一匹、たんねんに、愛おしむように、ピンを刺して。

     ……なべて人の愛は「偏愛」である。それは純真であればあるほどむしろ背き、屈折し、狂気へと振れ、局所へ収斂される。人は愛ゆえ逸し、愛ゆえ違(たが)う。慎ましく花弁を閉じる倒錯の花々。それこそが、僕の狭い蔵書室から無限を夢みて開く、これら偏愛すべき本たちである。(p309)

  • 新聞連載の書評を一冊に纏めたもの。諏訪さんの著作は芥川賞受賞作しか読んだことがなかったけれど、書評が好きなのとカバーがあまりにも素敵だったので購入。「アサッテの人」を読んで、なんとなく生き方が気になる人だなとも思っていた。やはり文体フェチだったのかと納得、そして嬉しい。偏愛している書物のラインナップがわりとたくさん自分とかぶっていたのも嬉しい。(新聞連載という気遣いもあってかわりと有名な作品を多く取り上げているのです。)自分が良いと思った作品がベストセラーになると恥、とはっきり書いていて、そこもまた嬉しい。(私はミーハーだから売れている作品も結構読むけど)

  • 諏訪さん、ごめんなさい。
    今まで、あなたのことわかっていませんでした。

    これが本物の諏訪さんなんですか。あの天然ぶりは、計算されつくしたものだったんですね。

  • ・小説とは物語と詩と批評の合金である。

    この一文を筆頭に、

    ・リアルとは未知の他者と出逢ったときの驚愕。
    ・現代詩、視覚と聴覚の往還。
    ・マニエリスムとは様式の腐爛。

    などなど、「頼りがいのある」文学観が披歴される。
    素敵な本。

    1 不治の言語病患者 「チャンドス卿の手紙」 ホフマンスタール
    2 倦厭の闇、一瞬の光源 『檸檬』 梶井基次郎
    3 世界を造形するまなざし 『リルケ詩集』  リルケ
    4 「リアル」ということ 『遠野物語』  柳田国男
    5 漫画のなかの「詩性」 『赤色エレジー』  林静一
    6 「無限」に触れる筆力 『伝奇集』  ボルヘス
    7 「起承転転」の小説 「子之吉の舌」ほか  島尾敏雄
    8 「幼年」という名の庭 『トムは真夜中の庭で』  ピアス
    9 選ばれた「文体」と「生」 「青炎抄」ほか  内田百間
    10 小説──「過剰性」の言語 『泥棒日記』  ジュネ
    11 いかに詩を「観る」か 『静物』  吉岡実
    12 「少女」の発明 『少女コレクション序説』  澁澤龍彦
    13 「無実の日常」を生きる 『愛について語るときに我々の語ること』 カーヴァー
    14 いざ、「枝路」の方へ 「蔵の中」  宇野浩二
    15 詩の言葉で小説を 『肉桂色の店』  シュルツ
    16 漢詩──視と聴の悦楽 『李賀詩選』  李賀
    17 「独身者」の愛の機械 『モレルの発明』  ビオイ=カサーレス
    18 「人外」──反地上の夢 『幻想博物館』  中井英夫
    19 「幼稚さ」への意志 『バカカイ』  ゴンブローヴィチ
    20 存在の「外」を覗く 『闇のなかの黒い馬』  埴谷雄高
    21 小説とは、「反」小説である 『幻想都市のトポロジー』  ロブ=グリエ
    22 変節する複数の「僕」 『数』  ソレルス
    23 「低級感覚」の復権 『ナージャとミエーレ』  山口椿
    24 異界としての「家」 『赤い蛇』  日野日出志
    25 架空の時・架空の自己 『失われた時を求めて』  プルースト
    26 「食材」「調理」「吟味」 「春は馬車に乗って」ほか  横光利一
    27 他者──意想の「外」の住人 『優雅な獲物』  ボウルズ
    28 言葉の前に立ち尽くす 『ambarvalia』  西脇順三郎
    29 芸術──個の魂のための倫理 『短かい金曜日』  シンガー
    30 変態と震災 「瘋癲老人日記」  谷崎潤一郎
    31 「私」という独居房 『私生児』  ルデュック
    32 己を殺めることの悦楽 「憂国」ほか  三島由紀夫
    33 むっちゃくちゃ文学事件 『メルラーナ街の怖るべき混乱』  ガッダ
    34 内なる「外国語」との邂逅 『運命』  幸田露伴
    35 小説──「かたり」の芸術 「納屋は燃える」ほか  フォークナー
    36 「贋」の思想 『怪物の解剖学』  種村季弘
    37 読者を「再訪」させる力 『ブライヅヘッドふたたび』  ウォー
    38 呪詛する機械 『怪談 人間時計』  徳南晴一郎
    39 文体の実験工房 「ファイター」ほか  ヘミングウェイ
    40 明るい不気味な日常 『みちのくの人形たち』  深沢七郎
    41 未開の物語・未開の思考 『エレンディラ』  ガルシア=マルケス
    42 「物語化」にあらがう 『ポロポロ』  田中小実昌
    43 大地の突端・文体の突端 『岬』  中上健次
    44 「終わり」を終わらせる 『マーフィー』  ベケット
    45 究極の家畜──「日本人」 『家畜人ヤプー』  沼正三
    46 孤独の小説機械 『ロクス・ソルス』  ルーセル
    47 恐山少年地獄博覧会 『地獄篇』  寺山修司
    48 美しく、無遠慮な眼球 『薔薇色ノ怪物』  丸尾末広
    49 母と子の静かな崩壊 「かくれんぼ」ほか  ソログープ
    50 遠い浮世のキネオラマ 『風船紛失記』  正岡蓉
    51 怠惰の果ての猫 『猫城記』  老舎
    52 うつくしい「不可解」 『ユーゲント』  ケッペン
    53 天使たちの「遠い言語」 『路傍の神』  鷲巣繁男
    54 無垢──善悪なき獣 『薔薇日記』  デュヴェール
    55 混血の言語・流浪の文体 「眼中星」ほか  大泉黒石
    56 この路地、通るべからず 『幽霊の書』  レイ
    57 神経症と大正デカダンス 『怪異草紙』  畑耕一
    58 「完全なる敗戦」を夢みて 『パルチザン伝説』  桐山襲
    59 ソ連で「個人」を生きる 『星の切符』  アクショーノフ
    60 物質と記憶、そして「詩」 「鰓裂」  石上玄一郎
    61 「生きていない生」を選ぶ 『眠る男』  ペレック
    62 「人でなし」と人間 「鶏の脚」ほか  池田得太郎
    63 読者を愚弄する 『プロタゴニスタ奇想譚』  マレルバ
    64 溺死者の息継ぎ 『触手』  小田仁二郎
    65 「外」を閉じ込める 『内部』  シクスス
    66 様式美としての「少年」 『美童』  山崎俊夫
    67 「外国語」の密造 『夜ひらく・夜とざす』  モオラン
    68 各人による各人の統治 『アナキスト詩集』  萩原恭次郎 ほか
    69 戦争──無秩序の繁栄 『五十万人の兵士の墓』  ギュイヨタ
    70 植物姦──不可能なる愛 『妖花譚』  荒木良一
    71 ふたたび「物」のそばへ 『物の味方』  ポンジュ
    72 オナニズムと文学 『葬儀のあとの寝室』  秋山正美
    73 いつか、舶来の街へ 『ふたりだけのSeason』  わたせせいぞう
    74 触覚の天国・視覚の地獄 「人間椅子」  江戸川乱歩
    75 読者処刑機械 「流刑地にて」ほか  カフカ
    76 宗教絵本の「遠さ」 『石童丸』  (仏説「苅萱」)
    77 狂気と破滅の讃歌 『モナ・リーザ泥棒』  ハイム
    78 夏が来たら、死のう 『晩年』  太宰治
    79 「奴隷」を生きる 『O嬢の物語』  レアージュ
    80 色と音との発狂 「龍潭譚」ほか  泉鏡花
    81 人肉たちの夢 『ミッドナイト・ミートトレイン』  バーカー
    82 銀河を旅するための言葉 『春と修羅』  宮沢賢治
    83 悪の勝利、文学の勝利 『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』  サド
    84 小説──筆先の「分裂」 『普賢』  石川淳
    85 不在の神への薔薇 「フーエディブルー」ほか  ツェラン
    86 古典美=死体美 『眠れる美女』  川端康成
    87 通約不可能な生 「一九〇〇年頃のベルリンの幼年時代」ほか  ベンヤミン
    88 冬籠り文字の獄舎に季語の檻 『現代の俳句』  高浜虚子・永田耕衣ほか
    89 律を出ても一人 『尾崎放哉全句集』  尾崎放哉
    90 悪魔に捧げる花々 『悪の華』  ボードレール
    91 小説、その美しい「狂い」 『草枕』  夏目漱石
    92 「生」に意味はない 『嘔吐』  サルトル
    93 気のふれた天使の言語 「川」ほか  岡本かの子
    94 読者ども、俺の尻を舐めろ 『ユリシーズ』  ジョイス
    95 読者を作者に仕立て上げる 『ドグラ・マグラ』  夢野久作
    96 黒く塗れ 『夜の果ての旅』  セリーヌ
    97 少年の無言の世界 『生家へ』  色川武大
    98 その名はCTHULHU 「クトゥルフの呼び声」  ラヴクラフト
    99 スタイル、そして逸脱 『昆虫図』  久生十蘭
    100 芸術──純真なる倒錯 『ロリータ』  ナボコフ
    あとがき──わが「言語芸術論」のために

  • 「領土」が気になっていたものの、なかなか読破には気合がいりそうだなぁと手が伸びず、そんなところに同作者のこんな偏愛満載の言語芸術批評本が出た。なかなかコアなものまで手を出せないニワカひねくれ者な自分が、いろんな作家の好みのエッセンスをつまみ食いするには丁度良いと購入。

    1冊3ページ前後で紹介されて計100冊。ちまちま読み進めるには良いのだけど、3ページずつなのに何故こんなに体力と精神力を消耗するのかという「偏愛」に恥じぬ力強さよ。

    書評本を読む度に思うのは、誰しも好みというものがあって、選んだ上で本を読んでいるわけで、例え「偏っている」と自覚している人であってもその読書量と幅広さには感嘆するし、しかしそれでもなお世界中にある本のごくごくわずかな一部にも追いつかないという宇宙規模の広がりに打ちのめされる。

    この本は「書評本」というよりは「言語芸術批評本」というだけあって、独自の「言語芸術論」という視点で評しているので、あえてその切り口で切り、あえてその中の枠に嵌め込んでいる。なのである種断定的な物言いになっており、あまり型に嵌め込みたくないタイプの人間としては多少引っ掛かる部分もあるかもしれないが、「評論」とはそういうものであるし、そんな見方もあるのかーと発見したり納得したり反論があるから面白い。なので評論家と作家は常に相容れないものだと思う。個人的にも本来は型に嵌め込みたくないタイプなので、そんな見方もあるのかーと楽しんだ。

    とりあえず美味しいところだけつまみ食いという目的は十分果たされたし、目次を見てワクワクしたら読んでみると良いと思います。本の宇宙の広がりを少しでも体験するために、第二弾とか出してくれたらやっぱり精神削られながらも読んじゃうだろうなぁ。

  • の悪魔に魂を売った少年が夜な夜な書き継いだ文学の魔道書――プルーストに酔い痴れ、谷崎を跪拝し、ジャン・ジュネに惑溺する-------著者の文学人生を運命づけた偏愛の小説・詩・漫画100冊を語る文学的自叙伝。芥川賞作家諏訪哲史の、変異と屈折の《言語芸術入門》!

  • けっこうおすすめ。文学部の人にはすすめたい。

  • 種村季弘的怪書群。

  • パラパラめくっていたら、中上健次「岬」が読みたくなってきました。あと、ボウルズ、ナボコフ、草枕、カーヴァー、檸檬、あたりも。さすがに諏訪さんが偏愛する、プルースト「失われた時を求めて」を2種類の翻訳で、はハードル高すぎるなあと思いつつ。以下備忘録/カーンと冴え渡った檸檬。感覚以上に、漱石・志賀の精読により生み出された文体の強度/著者の妻が丸善の書店員でいまだに年に何個かは置いてある檸檬を拾うのだとか/カーヴァー「愛について我らが語るとき…」の短編「風呂」の凝縮された世界/ボールズ「優雅な獲物」の言葉を奪われた言語学者。/カーヴァーは生涯、短編と詩しか書かなかった。そのかわり駄作がない。/生野幸吉 闇の子午線 パウル・ツェラン/すべて小説とは、作中と作外、作品と作者との、非人情(メタフィクション)による決闘なのだ。その超越論的な小説観そのものを小説にしたのが「草枕」。/サルトル「嘔吐」 人の生には本当は意味も目的もない。何かのためにも誰かのためにも生きていない。「ただ在る」だけだ。/なべて人の愛は「偏愛」である。

  • 『偏愛蔵書室』刊行記念 諏訪哲史さんサイン会 開催
    会場:MARUZEN 名古屋栄店  
    開催日時:11月2日(日)14:00 ~15:00
    http://www.kokusho.co.jp/news/2014/10/201410031642.html

    『偏愛蔵書室』関連ブックフェア 開催
    期間:10月11日(土)~11月3日(月・祝)
    会場:ちくさ正文館書店 本店 文芸書売り場
    http://www.kokusho.co.jp/news/2014/10/201410031644.html

    『偏愛蔵書室』刊行記念 トークショー&サイン会 開催
    日程:11月3日(月・祝)
    時間:12:30開場/13:00開演
    会場:得三(ライヴハウス&バー)
    http://www.kokusho.co.jp/news/2014/10/201410031647.html

    国書刊行会のPR
    http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336058287/

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著者プロフィール

諏訪 哲史(すわ・てつし):1969年、愛知県生まれ。作家。國學院大學文学部で種村季弘に学ぶ。「アサッテの人」で群像新人文学賞・芥川賞を受賞。『種村季弘傑作撰Ⅰ・Ⅱ』(国書刊行会)を編む。

「2024年 『種村季弘コレクション 驚異の函』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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