後藤明生コレクション3 中期

著者 :
制作 : いとうせいこう  奥泉光  島田雅彦  渡部直己 
  • 国書刊行会
3.00
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 38
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336060532

作品紹介・あらすじ

笑坂、女街道、分去れ……信濃追分の地理と風物を背景に、かの地で遭遇した不可思議な体験を描く「煙霊」「石尊行」。団地のそばの川を遡ることは時間を遡ることに似て、わたしの記憶はいつしか少年期を過ごした生まれ故郷の朝鮮北部へと導かれていく。望郷と断念の交錯する「二色刷りの時間」のなかでとらえた人間存在の喜劇性と不思議を、安らぎに満ちた筆致で描いた「思い川」。かつて信濃追分宿に実在し、隠れキリシタンであったがゆえに処刑されたという遊女・吉野大夫。二百年前の伝説を探し求め、定かならぬ伝承のラビリンスに足を踏み入れたわたしだったが、その正体はようとしてつかめぬまま小説は次々と脱線と増殖を重ねていく……谷崎潤一郎賞受賞作「吉野大夫」ほか、全11作を収録。

月報=金井美恵子・佐伯一麦・朝吹真理子
装画=タダジュン
装訂=川名潤(prigraphics)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 傑作『挟み撃ち』以降、おもに1980年代の小説を収録している。
    どれもこれも後藤明生っぽい人が登場するが、いわゆる私小説とはぜんぜん違う。とても風通しが良い。

    それは彼自身の「楕円」の理論にもあるとおり、中心が2つあるからだ。つまり、語り手だけの視点が中心にならないように入念に回避される。
    その方法というのが、他者の声、他のテクストをどんどん取り入れていくという手法。そして語り手を相対化する笑いの手法。

    私がとくに好きだったのが「吉野大夫」という小説。
    後藤明生氏が山荘をもっていた追分にむかしいたという吉野大夫という、昔の言い方でいえば「飯盛女」、つまり下女という名目ではあるが事実上の遊女についての小説。
    彼女は隠れキリシタンかもしれず、追分で処刑されて、その墓が追分にあるという……
    いかにも物語になりそうな話だが、後藤明生にかかるとそうはいかない。物語化がたくみに回避される。

    これは後藤氏自身の興味の持ちかたにも表れていて、彼は吉野大夫に興味を持ちつつ、なかなか調査のために重い腰を上げない。この矛盾の力学の中で、話は「アミダクジ」式に脱線していくのだった。

    私はこの小説を、GoogleMapsで追分の地図を見ながら読んだ。全然知らない土地だから、ちょっとした旅行気分も味わえた。調べながら気がついたが、本作は地理の説明がやけに詳しい。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

●後藤明生(ゴトウ・メイセイ)1932年4月4日、朝鮮咸鏡南道永興郡永興邑生まれ。敗戦後、旧制福岡県立朝倉中学校に転入。早稲田大学第二文学部露文学科卒。博報堂を経て平凡出版(現マガジンハウス)に勤務。67年、「人間の病気」で芥川賞候補。翌年、専業作家に。「内向の世代」と呼ばれる作家として注目を集め、代表作に73年発表の『挾み撃ち』が高く評価される。77年に『夢かたり』で平林たい子文学賞、81年に『吉野大夫』で谷崎潤一郎賞、90年に『首塚の上のアドバルーン』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。89年、近畿大学文芸学部の設立にあたり教授に就任。93年より同学部長。99年8月2日、逝去。

「2020年 『四十歳のオブローモフ【イラストレイテッド版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

後藤明生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×