- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336062284
作品紹介・あらすじ
各禅宗寺院の恒例行持や臨時行持の行法が記された清規には、死者供養に関わる行法も多数載録されており、禅僧による民衆教化の様態を示す重要な史料である。本書では、この清規を主な史料として、物故者の個別性を前提とする死者供養という観点から、日本禅宗における儀礼や実践の諸相を取り上げ、追善供養の役割や意味を浮き彫りにする。
第1章では、仏教伝来期の飛鳥・白鳳時代の銘文や寺院建立の目的などから、追善供養の淵源を辿る。奈良・平安朝については、六国史や空海撰『遍照発揮性霊集』、菅原道真撰『菅家文草』、『本朝文粋』所収の願文・表白文を用い、仏像・仏画の作製や写経といった作善の形態、および無遮大会・国忌・七僧法会・法華八講といった仏事の形態を意識しつつ、天皇家・貴族層の事例を論じる。
第2章では、中世前期を検討する。武家の事例を『吾妻鏡』から確認し、日本最古の清規とされる京都五山東福寺『慧日山東福禅寺行令規法』から禅宗の檀那忌や祠堂諷経といった供養儀礼について論じる。
第3章では、中世後期を検討する。禅語録所収の香語も史料とし、信濃大安寺蔵『回向并式法』、陸奥正法寺『正法清規』、駿河静居寺『年中行事清規』、遠江普済寺『広沢山普済寺日用清規』、天倫楓隠撰『諸回向清規』といった清規を中心に時系列で比較し、施餓鬼会や観音懺法といった禅宗の行法が導入されていく過程を明らかにする。
第4章では、まず檀家制度が確立され、幕藩体制の一翼を担った仏教教団における追善仏事の位置づけを、「宗門檀那請合之掟」などから検討する。次いで鈴木正三撰『因果物語』から具体相を捉え、『諸国年中行事』『東都歳事記』から関係する年中行事を取り上げる。
第5章では、近世の出版文化と供養儀礼との関連を、施餓鬼や観音懺法の行法書などを中心として全体的な状況を確認した上で、無著道忠撰『小叢林略清規』と面山瑞方撰『洞上僧堂清規行法鈔』という臨済・曹洞をそれぞれ代表する学匠が編纂した行法書を考察する。
第6章では、近世禅宗寺院における具体相を、加賀大乗寺の『椙樹林清規』『副寺寮日鑑』から検討する。
第7章では、彦根藩主井伊家の菩提寺・清涼寺の『海会堂日用毘奈耶』『寿山清規』と、信濃松本藩主戸田家の菩提寺・全久院の『仙寿山全久禅院内清規』、そして本山永平寺の『吉祥山永平寺年中定規』『永平小清規』から、近世藩主家の菩提寺における供養儀礼の状況について検討する。
第8章では、明治初期に構想された檀那札の制度、壬申戸籍、追善供養の啓蒙書から、死者供養を展開してきた「仏教」に対する国家による位置づけとともに、家族国家観の影響のなかで、僧侶や知識人が追善供養をどのように意味づけたかを論じる。次いで、仏教諸宗派によって展開された戦没者供養の式次第や行法を、曹洞宗の布達から考察する。
清規や日鑑を基礎史料として民俗宗教的立場で論じる本書から、状況に即して行法を再構築しながら法灯を発展させようとする、禅宗寺院のたくましい姿が見えてくる。