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Amazon.co.jp ・本 (112ページ) / ISBN・EAN: 9784336065438
作品紹介・あらすじ
1951年、ヴェネチア国際映画祭で『羅生門』が金獅子賞を受賞して以来、日本映画の高い芸術性を示すシンボルとして世界の映画界を席巻してきた《クロサワ》。
監督デビュー作『姿三四郎』から、遺作となった『まあだだよ』まで、欧米諸国からアジア各国など世界30か国のデザイナーや画家たちが独自の解釈で制作した、貴重な黒澤映画公開時の海外版ポスター82点をオールカラーで集大成。
各国のデザイナーや画家たちによる、作品に沿った筆致や大胆で前衛的なポスターデザインとともに、《世界言語》としての黒澤映画を大観できる映画ファン垂涎の1冊!
■収録ポスター制作国 30か国(*国名は制作当時)
〈ヨーロッパ〉20か国
イギリス、フランス、西ドイツ、東ドイツ、スペイン、イタリア、オランダ、ベルギー、スイス、オーストリア、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ポーランド、チェコスロヴァキア、ルーマニア、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ギリシャ、ソヴィエト
〈南北アメリカ〉5か国
アメリカ、メキシコ、キューバ、ブラジル、アルゼンチン
〈アジア・中近東〉4か国
韓国、タイ、イラン、トルコ
〈オセアニア〉1か国
オーストラリア
■本書は、平成30年(2018)4月17日~9月23日にわたって開催された展覧会「国立映画アーカイブ開館記念 没後20年 旅する黒澤明 槙田寿文ポスター・コレクションより」の会期終了後、その意義の高さに鑑みて制作した図録です。
感想・レビュー・書評
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文化は常に理解と誤解の狭間にあるし、芸術は商業的利益の土台なしには続かない。それでも優れたものに魅せられてそれを伝えようとする人々の意気込みや解釈はやはり素敵。
黒澤明研究家のコレクションから世界30か国にわたる黒澤明映画のポスター84点を中心に収録した図録なのだけど、そんなことを思った。
真っ先に興味深かったのは、 1950〜60年代を中心に、2022年の現在よくある「中身の場面を切り取った写真コラージュ」ではない、イラストや版画その他芸術的手法をとったポスターがかなりあったこと。
「羅生門」(日本公開1950年)のチェコスロヴァキア版ポスター(1970)なんて、写真どころか、人型イラスト一つ登場しない完全なる抽象画。なのにこれが、作品の中身をどの国のポスターよりも見事に象徴かつ凝縮しているようで、本当に感激してしまった。ほしい。
他にも、ポーランドのポスターは、「七人の侍」、「用心棒」、「椿三十郎」、「乱」といった有名作他、どれも写真ではなくイラストなどで、様々なデザイナーさんなのだけど。どれも抽象的なのに、映画の中身や世界観が見事に表現されていて、心惹かれる。
もう、ポーランド映画ポスターコレクションとかしてみたくなるハイレベルさ。
キューバのポスターなんかも素敵でした。
不思議だったのは、「七人の侍」のポスターで、洋の東西問わず多くの国で見られた共通点。
まるで、「ヤーッ!」と威勢のいい掛け声が聞こえてきそうな、槍(?)を持ち簡素な鎧を纏って飛び上がっている三船敏郎の姿が大きく使われているのだけど、本編にこんなシーンあったかしら?
写真・イラスト問わず、どれも全く同じポーズ&表情なので、きっとどこかのシーンであったのか思うのだけど。
作品によっては、「これ、絶対映画見て作ってないというか、安易な日本のイメージだけで作ったでしょ」みたいなものも何点か掲載されてます。でも、それはそれで、別の意味で、「当時は海外の思う日本ってこんな感じだったのか」と考えるのも楽しい。
当時、インターネットもなく、身近でもない日本の映画を見るときには、やはり、新聞の書評や、街で見かけたポスターをきっかけに見る人が多かったと思うのですが、きっと、宣伝部門も、ポスターの作り手も、ひとまず何とか目に留まらなければと、あれこれ悩んだに違いない。
本書では原則的に、ポスターに対する解説がない(一部の有名デザイナーの略歴紹介だけあり)のだけど、それこそが、「先入観ない視覚的情報」としての当時のポスターの性質をあらわしているのかもしれない。
そして、基本的に説明なくポスターを掲載し切った後の最後の「論考」ページ。
これがまた面白い。
黒沢映画の海外での受容の過程や、その影で努力した人々の姿などが丁寧に記されています。
黒澤明ファンは勿論のこと。
まだ黒沢作品を見たことない人が、どのポスターを見かけたら映画が見たくなるか考えてみるのも面白そうな作品集です。
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パラサイトがアカデミー賞を獲りポン・ジュノ監督が世界の映画人から圧倒的に愛されることになった2020年。そのずっと以前に日本にも世界中から愛された(いや、今でも愛されている)監督がいました。そう、本書は「世界のクロサワ」を体感する一冊。彼の映画がグローバルに公開された時のそれぞれの国のポスター集というマニアックなコレクションです。先ずは映画のポスターが写真製版で統一のビジュアルで展開されることが当たり前の現代、それぞれの国でそれぞれの国のアーティスト、あるいはポスター職人が自らの筆でそれぞれに表現していたことが新鮮です。その多彩な表現の中にも、クロサワ映画は「日本語で言い切る」という特色を持っていたことを巻末の論考で国立映画アーカイブ主任研究員の岡田秀則が指摘しています。なるほど、「羅生門」が「ラショウモン」という音で世界展開されたように、「用心棒」は“Yojimbo”、「椿三十郎」は“Sanjuro”、「どですかでん」は“Dodeskaden”、「影武者」は“Kagemusha”、「乱」は“Ran”と表記されていて、わかるわからないを超えての「言い切りの美学」を持っていたことが世界躍進に繋がっているという分析です。つまり「題名の強度」が「映画の強度」に繋がりクロサワ映画を世界商品たらしめているということだと思います。それぞれの国で全くバラバラのポスターをパラパラと見ていると、「題名の強度」だけではないもう一つの力強いアイコンを感じました。それは三船敏郎の顔、「顔面の強度」です。眉毛、眼力、鼻筋、口元まるでハンコのようです。写真ではないドローイング時代の日本人にはあるまじき(?)顔面存在感です。無茶苦茶言うとクロサワ映画のグローバル力は三船敏郎の顔のグローバル力によって成し遂げられたのではないか?と思ったり…そんな妄想も楽しめるありそうでなかったアートブックでした。
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