夢の扉 マルセル・シュオッブ名作名訳集

  • 国書刊行会 (2023年11月28日発売)
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  • 本 ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336075949

作品紹介・あらすじ

むかし澁澤龍彦と多田智満子を経由してシュオッブを識った。「睡れる市」「大地炎上」の眠りと滅び、ほの暗い架空世界の有り様はその後ながく私の創作の指標となった。シュオッブの名を密かに識る者は幸いである。その名は書物の森のもっとも秘密めく径の最奥手、ポオやボルヘスやコルタサルや――の隆々たる奥津城が火影を伸ばすあたりの行き止まりにある。(山尾悠子)

空前絶後の豪華翻訳陣による、マルセル・シュオッブの絢爛たる幻想短篇20数編。
初の単行本化となる渡辺一夫訳の『架空の伝記』をはじめ、上田敏、堀口大學、日夏耿之介、日影丈吉、澁澤龍彥、種村季弘ほか12人の訳者。
バルビエやジョルジュ・ド・フールのカラー装画ほか、挿絵も多数収録した豪華愛蔵版。

【目次】
絵師パオロ・ウッチェロ  渡辺一夫訳
犬儒哲人クラテース  渡辺一夫訳
神となつたエンペドクレス  渡辺一夫訳
小説家ペトロニウス  渡辺一夫訳
土占師スフラア  矢野目源一訳

大地炎上  矢野目源一訳
モッフレエヌの魔宴  矢野目源一訳
卵物語  矢野目源一訳
尊者  矢野目源一訳
081号列車  鈴木信太郎訳
黄金仮面の王  松室三郎訳
骸骨  青柳瑞穂訳
木乃伊つくる女  日影丈吉訳
ミレーの女達  日影丈吉訳
睡れる市  日影丈吉訳
吸血鳥  種村季弘訳

浮浪学生の話  上田敏訳
遊行僧の話  堀口大學訳
癩病やみの話  上田敏訳
法王の祈禱  上田敏訳
三人の子供の話  山内義雄訳
三人童子の話  日夏耿之介訳

エンペドクレス(抄)  澁澤龍彦訳
パオロ・ウッチェロ(抄)  澁澤龍彦訳

解題

感想・レビュー・書評

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  • タイトル通り、マルセル・シュオッブの名作名訳集。一種のアンソロジーで、ポイントはなんといっても「名訳」の部分。錚々たる翻訳者、詩人の研ぎ澄まされた名文で珠玉の短編を読める至福…!

    ボードレールやフローベールの翻訳者・渡辺一夫の序盤4作(絵師パオロ・ウッチェロ/犬儒哲人クラテース/神となつたエンペドクレス/小説家ペトロニウス)は『架空の伝記』からの翻訳。

    矢野目源一訳は、アラビアンナイトのアラジンに魔法のランプを奪われる占い師「土占師スフラア」、終末もの「大地炎上」、偶然にも魔女のサバトに同行してしまった男の話「モッフレエヌの魔宴」、童話風教訓話で稲垣足穂味もある「卵物語」など、ストーリーや題材的には一番好きな系列。

    作家としても大好きな日影丈吉訳の3作も良かった。既読だけど、エジプトの墳墓の地下でおこなわれる儀式「木乃伊つくる女」、古代イオニアのミレー市で乙女たちがどんどん自殺しはじめる「ミレーの女達」、海賊が上陸した町で人々の時間が止まっている睡れる市など、どれも全部好み。

    堀口大學訳「遊行僧の話」と上田敏訳「浮浪学生の話」は実は同じ話。どちらもフランス語翻訳詩人なので散文詩のよう。山内義雄訳「三人の子供の話」と日夏耿之介訳「三人童子の話」も同じ話(「少年十字軍」の一部)で、これらを読み比べられる贅沢。

    種村季弘はもちろん吸血鬼ものの「吸血鳥」、彼と最後に収録されてる澁澤龍彦だけは時代が少し新しいので読みやすい。澁澤が訳した「エンペドクレス」「パオロ・ウッチェロ」はどちらも抄訳ながら渡辺一夫訳の『架空の伝記』と同じもの。

    挿画もジョルジュ・バルビエが収録されていたりしてお耽美。やはり名作は名文で読んでこそ、と思わされる1冊でした。


    ※収録()内は翻訳者

    絵師パオロ・ウッチェロ/犬儒哲人クラテース/神となつたエンペドクレス/小説家ペトロニウス(渡辺一夫)
    土占師スフラア/大地炎上/モッフレエヌの魔宴/卵物語/尊者(矢野目源一)
    081号列車(鈴木信太郎)
    黄金仮面の王(松室三郎)
    骸骨(青柳瑞穂)
    木乃伊つくる女/ミレーの女達/睡れる市(日影丈吉)
    吸血鳥(種村季弘)
    遊行僧の話(堀口大學)
    浮浪学生の話/癩病やみの話/法王の祈禱(上田敏)
    三人の子供の話(山内義雄)
    三人童子の話(日夏耿之介)
    エンペドクレス(抄) /パオロ・ウッチェロ(抄) (澁澤龍彦)

  • 精緻な彫刻のような文章に、錚々たる訳者陣の旧仮名遣いがよく映える。それを真っ白な表紙に銀の表題というミニマルかつ品のある装丁で読む贅沢さ。この装丁の美しさはさすが国書刊行会。
    シュオッブは当時はマイナーな存在だったようなのだが、その文章の美しさ故に、これらの名訳が多数存在している理由はよく分かる。どれも短い作品だけれど、一文一文が鮮やかに世界を構成していく様は目をみはらんばかり。しかし文体だけが魅力というわけではなく、その完成された美しさの裏に垣間見える詩情やアイデンティティの揺らぎにも同様に惹きつけられる。


    「黄金仮面の王」
    仮面を捨て自ら盲た王が下界をさまよう中で、癩病の女の服についた鈴の音を羊の鈴と取り違え、羊の毛に触れようと手を伸ばすシーンが好き。ここで羊が出てくるのは羊飼い即ち救い主というキリスト教的象徴の意味もあるだろうが、まるで生気のない寒々とした王宮で生きてきた王が柔らかな羊の毛に触れたがるいじらしさ、人間味は、寓話の王としてのペルソナからの解放をもたらす描写でもある気がして。

    「木乃伊つくる女」
    私が最初にシュオッブを認識したのは白水uのフランス幻想小説傑作集におさめられていた本作(訳者は異なる)だったので懐かしい。やっぱり素晴らしいなあ。エチオピアの砂漠の九重の砂の環を超えた先、リビアの砂漠の只中で、「私」は環型に配置された円屋根の穴からそこに潜む女達の謎を覗き込むことになるが、幾重もの環のイメージが重なり、なんだか巨大な瞳孔の中を覗き込んでいるような錯視を起こす。また、冒頭のテッサリアの魔女の描写や、天の青い光・地の赤い光の対照を思い起こせば、円屋根は月のイメージでもあった。私と弟、木乃伊づくりの姉妹など、随所に鏡写しの幾何学的な美しさを感じる。とても短い作品なのに、驚く程鮮やかにその魔術的な妖しさ、美しさに捉えられてしまう。

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著者プロフィール

1867年~1905年。フランスの作家。

「2015年 『マルセル・シュオッブ全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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