- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784339011661
作品紹介・あらすじ
【読者対象】
・楽器製作者
・楽器の設計・評価に携わる技術者
・楽器の音響の研究者および学習者
・音楽の演奏の研究者および学習者
・音楽情報の研究者および学習者
【書籍の特徴】
本書は以下の6章で構成されており、各章において基礎的な内容から具体的な応用事例までを紹介しています。
第1章では弦、棒、気柱、膜そして板の振動といった楽器の発音に関わる物理現象について数式を用いて記述しています。応用事例として、数値計算手法によりシミュレーションを行った例を紹介しています。さらには、振動現象をさまざまなセンサにより計測した研究事例を紹介しています。
第2章では楽器から発生する音の物理的側面の理解に必要な演奏音の周波数分析法を説明しています。さらには、音を特徴づける物理量である音圧レベルや基本周波数の計測について説明しています。応用事例として、演奏音からヴィブラートを測定する事例について紹介しています。
第3章では演奏音から受ける心理的側面の解明に必要となる音の代表的な物理量と心理量との対応関係について説明しています。応用事例として演奏音とその熟達度に関する研究を紹介しています。
第4章では音楽の構造的側面の理解に必要となる和声理論の基礎について説明しています。応用事例として、音響学をはじめ音楽知覚認知や脳科学にいたる幅広い分野の研究を紹介しています。
第5章では演奏者の超絶技巧とも呼べる卓越した技術を研究する手法について説明しています。応用事例として、音響学と情報学を軸に広く音楽を調査研究する手法および応用システムについて紹介しています。
第6章ではこれまで音響学をはじめとする科学技術が音楽に果した役割について録音技術やホール音響、空間音響再生技術などを中心に概観し、今後の音楽音響学の課題について考察しています。
【著者からのメッセージ】
音楽の研究と聞くとみなさんは何を想像するでしょうか?音楽歴史に関する研究でしょうか?それとも、楽譜に並ぶ音符の構造に関する研究、様々な楽器の発音原理を解明する研究、楽器音の合成に関する研究もしくはホールにおける音楽の響きに関する研究でしょうか?音響や楽器、演奏音など、音楽に関係する研究は非常に多岐にわたり、これらの研究に関係する学問分野も音楽学、音響学、心理学、情報工学、脳科学など多岐にわたっています。そのため、同じように音楽の研究をしているにもかかわらず専門とする分野が違うことでお互いに話がすれ違うこともあります。また、音楽の研究を始めようとする初学者にとっては、何から手をつければよいのかわからず研究を始める一歩を踏み出せないこともあるかと思います。本書では多岐にわたる学問分野について、基礎理論とその応用例を横断的に解説することで、既に専門分野を一つ確立されている方が自分の専門分野以外の分野について概観できることや、これから音楽の研究を始めようという大学生が専門とする分野を見つけられることを期待して執筆しています。
感想・レビュー・書評
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請求記号 761.12/O 69
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コロナ社読者モニターレビュー転載
https://www.coronasha.co.jp/np/resrcs/review.html?goods_id=8114
【 wasp9277 様(業界・専門分野:音楽・ソフトウェア開発)】
掲載日:2024/01/30
まえがきに「読者が自分の専門分野以外の分野について概観できることを期待し, 執筆している」とあるように多角的な視点で音響と音楽を扱っています。私自身、DAWで作曲するDTMユーザーであり、弦などの物理モデルのシミュレーションを行う一人でもあります。
第一章の「楽器の物理」では弦や気柱、板などの振動の仕組みとシミュレーション例もしっかりと取り上げており、二章「演奏音の物理」ではAMDFなどの自己相関関数を使ったピッチ検出もわかりやすく解説しています。全体的に非常によくまとまっており、深く立ち入り過ぎていないのも好印象です。
研究者や開発者などは勿論、一般の音楽制作のユーザー、特にMaxやPure Dataなどのユーザーに手に取ってもらいたいと思います。古典的な技術や手法かもしれませんが、別の分野からみるととても新鮮です。参考文献の論文やその他の文献を読む必要はあるかと思いますが、弦のシミュレーションでピアノやギターを、板のシミュレーションでプレートリバーブなど、オリジナルの楽器やエフェクトを作るきっかけになると思います。
【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
掲載日:2024/01/25
本書は「音響テクノロジーシリーズ」の27巻目に位置する書籍である.本巻では「物理と心理から見る音楽の音響」というタイトルから,単に音楽・音響にまつわる学問分野に特化したものではなく,物理学や心理学,情報工学などの他分野と融合した形での記述がなされている.
私自身,情報科学分野が守備範囲であるので,簡単ではあるが5章及び6章を中心にレビューさせていただく.
5章の5.1節では,音というものをディジタル電気信号として扱う際に登場する「MIDI」という規格についての解説がなされている.まず個人的には,「M・I・D・I」とアルファベット読みしていたものが,実は「ミディ」と読むということレベルの理解であったため,MIDIについての概論が学べるであろう.
ただ,細かいことになり大変恐縮だが,『MIDI1.0規格書のPDF版がホームページで公開されており,ダウンロードして読める』という部分に「ホームページ」という記述がある.この「ホームページ」という用語について,世間一般では,「ホームページ」というと,Webブラウザで表示されているものすべてを指すが,情報系の専門分野では,「ホームページ」は「ホーム(Home)」とあるように,任意のWebサイトの最初(トップ,ホーム)のページを指す,という認識の違いがあるので,専門書としては「Webサイト」と記載する方がベストであるという部分には,気をつけていただきたかったのが正直なところではある.
5.4節では,音楽情報処理応用システムの例として,ギター演奏におけるタブ譜自動生成システムや,ギターコード演奏する際の弦を押さえる(押弦)際の手の位置の最適化システム,年代測定システム,サビメドレーシステムなど,音楽情報処理の応用システムの例が紹介されており,情報系の分野の方にも,音楽情報処理系のシステムを考える上でも参考になるのではないかと思われる.例えば.サビメドレーシステムは,聴取状況をユーザの内的要因(「良い気分」,「元気がない」など)や,外的要因(「朝起きてすぐ」,「寝る前」など)によって,分割したものをユーザの聴取状況を基に音楽推薦を行う推薦システム(レコメンドシステム)であるが,この推薦の過程において,何かと話題のAI(人工知能)や機械学習(深層学習[ディープラーニング])などの技術とも関連性があるので興味深いと思われる.
6章の6.1節では,音楽音響学から芸術へということで,音楽と科学との接点を,紀元前6世紀ギリシャの哲学者ピタゴラスのピタゴラス音律から,順を追って解説がなされている.個人的には,テープ録音機の完成の裏には,第二次世界大戦前後の軍事技術の開発が大きく関わっていたことには驚かされた(詳しくは,是非とも本書を読んでいただきたい〔他にも同じ箇所で,本書内に挙げられている暗号に関連して少し挙げると,ナチス・ドイツが用いた「エニグマ(Enigma)」という暗号機も同じ頃〕).
6.2節では,音というものを記録するための録音技術の発展として,蓄音機・テープ録音機などを取り上げた後,電気・電子楽器と続き,ディジタル信号処理という順に解説がなされている.6.2.2項では,情報理論の分野で有名な人物シャノン氏の名や標本化定理(サンプリング定理)などの,おなじみの用語も登場する.
6.3.3項では,先程述べた,深層学習や人工知能を音楽音響分野への可能性についても述べられている.