- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784339052794
作品紹介・あらすじ
【書籍の特徴】
本書は,道路網を走り回る多数の自動車の流れ,すなわち交通流を主題とし,その理論モデルとしての定式化とそのシミュレーション法を包括的かつ体系的にまとめたものである。また,その内容をPython製のオープンソース交通流シミュレータとして実装したものも付属している。
【各章について】
第1章「マクロ交通流シミュレーションとは何か」:交通流とは何か,そしてマクロ交通流シミュレーションとは何かを,交通渋滞など一般的な話題と関連付けて説明する。
第2章「交通流の基本要素」:交通流の基本的な要素の数学的定義を,実データの例やシミュレーション上の位置付けと合わせて述べる。例えば道路利用者,ネットワーク,車両軌跡,時空間図,交通状態を解説する。
第3章「マクロ交通流モデルの理論」:マクロ交通流の理論的モデルを述べる。一本のリンクを流れる交通流を一次元流体として記述するリンクモデル,リンク間の分岐・合流を記述するノードモデル,ネットワーク全体での旅行者の行動を記述する需要・経路選択のモデルを定式化し,その理論的解法を詳述する。さらに,マクロ交通流モデルと等価なミクロ交通流モデルを解説する。
第4章「マクロ交通流モデルのシミュレーション法」:第3章で述べた理論的モデルの数値解法であるシミュレーション法を複数述べる。例えば,差分法に基づくもの,変分法に基づくもの,等価なミクロモデルに基づくもの,セルオートマトンに基づくものを,その数式,アルゴリズム,計算例とともに解説する。
第5章「シミュレータの実装」:第4章で述べたシミュレーション法をプログラミング言語Pythonを用いて実装する。プログラムコードも記す。
第6章「シミュレーションの計算例」:第5章で述べたシミュレータの計算例を紹介する。グリッドロックなどの興味深い事例を対象とすることで,理論やシミュレーションの理解のみならず交通現象自体への理解を深めることを意図している。
【読者へのメッセージ】
マクロ交通流シミュレーションは主に交通工学分野での1935年から今日に至るまでの研究成果の集大成です。本書では,交通流の根本的な原理原則からマクロなシミュレーション法,さらには等価なセルオートマトンまでを一貫して論理的に(大げさに言えば公理主義的に)解説しました。シミュレーションは複雑ですが,結局のところ「旅行者は出来るだけ速く,かつ安全に移動したい」という単純な原則を論理的に具体化したものということが伝われば幸いです。抽象的な数学理論を現実の問題解決に役立てる面白さを感じていただき,このトピックに興味のあるあらゆる分野の方々の一助になることを願います。
感想・レビュー・書評
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コロナ社HPに読者モニターレビューあり
https://www.coronasha.co.jp/np/resrcs/review.html?goods_id=8062
【 もこ 様 (業界・専門分野:交通流シミュレーション(ミクロ))】
掲載日:2023/10/24
交通流の理論パートについては,基本事項が端的に解説され,主要な用語には英訳語も付記されており,交通工学・交通流シミュレーションの初学者が学びを進める際の一助となりうると感じた.一方,交通流シミュレーションに関する記述については,各論の理解・解釈がミクロシミュレーション屋のそれとは随分乖離があるように感じられた.とはいえ,どちらが正しい/正しくないというものでもないと考える.学習者には,本書だけを唯一の教科書とするのではなく,多数の文献に触れ,交通流シミュレーションを多角的に捉えながら探究していくことを勧めたい.
【 大魔神 様 (業務内容:道路交通関連のコンサルティ ングとシステム開発)】
掲載日:2023/10/11
交通工学という学問は、現代社会では日常生活と切り離せない道路交通を対象にしているにもかかわらず、我が国では欧米に比して、その現象や理論について深く理解している専門家が少ないと感じられる。いろいろな理由が考えられるが、その一つに大学をはじめとする教育機関で、交通工学を体系立てて教えているところが少ないことがあると思っている。
本書はマニアックなタイトルではあるものの、工学系の専門課程にいる大学生、大学院生が交通工学の、特に交通流の解析やモデリングに必要不可欠な理論を、初歩的な知識から理論の体系づけまで深く理解することができる良書である。これは、最後にシミュレーションプログラムを作るという、プラグマティックな目標を据え、そこに至るためのステップアップを解説していくという、著者の工夫によるものだろう。理論の解説に微分や積分を含む数式が多用されているが、受験問題のようにそれを解くことを求めているのではなく、「積分=ある量を足し合わせる」、「微分=ある量の変化を見る」といった解釈を充てて、本来の意味を理解することに努めれば、自ずとプログラムのコードが思い浮かぶようになるのではないかと思う。
冒頭の話に戻ると、道路交通の非効率化、すなわち渋滞に起因する社会問題は、時間損失のみならず、環境、エネルギーあるいは物流効率低下、ドライバー不足など多岐にわたり、その解決には専門知識を有したエンジニアの活躍が不可欠である。本書のような教科書を通して、交通工学に触れ、この分野にとどまる若者が増えることを願っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示